酷い言葉は倒れるほど刺さる
僕は見たくないものも見えるけど君の心は見えない
見たいものは見えないのにこの目は必要なんだろうか
今日も君の歌を聴いて眠ろう
─────────────────────────────────────
南58コンタディーノ地区
MINORANZAとのいざこざのせいで見張り台が大破した為、グラベオンからの指示で街の中でガタイのいい男達が集められていた
「ん?おい、あれ先生じゃねえか?」
「本当だ!挨拶行こうぜ!」
壊れた瓦礫を片付けていた鍛冶屋の親父は街中をキョロキョロしながら歩く1人の青年に気がついた
ゴーグルを着けたその男はどうやら探し物があるようで、瓦礫をめくったり柱に手を当てて考え込んでいる
「…おかしいな
『視』ようとしても見れないなんて…」
「おーい!!スアル様ー!そんなとこで何ブツブツ言ってんだ?」
ゴーグルを着けた男はスアルという名前らしい
「ああ、ミドルさん
作業大変そうですね、お疲れ様です」
柱から手を離したスアルはこの街ではかなり知られた人物だった
この男は素性が分からないがかなりの物知りで、街の人間の要望を偉い人に伝えてくれる変わった人だった
理解力が凄まじいのか嘆願書に書かれる内容は代筆されたと思わないくらい、一言一句間違った事を書かない
最初は不審がっていた街の人も今では『先生』と呼ぶ人がいるほど慕われている
「変な連中が暴れてたんだよ!」
「でもグラベオン様が追っ払ってくれたんだ
兵2人軽く吹っ飛ばすやつだって勝てるんだからこの国はもう安泰だよな!」
ガハハと笑い合う男達とは裏腹に、スアルの顔は少し曇っていた
「そういや先生はなんでここにいるんだ?
先生が片付けに呼ばれるとは思えねえけど」
そろそろ俺達も仕事戻らねえとな…と本来の仕事を思い出した男達はスアルに訊ねた
「何か騒ぎが起きてるって噂を聞いてね
ひょっとして前に来た役人かと思ったけど、違ったみたいだ」
以前嘆願書を出して役職を落とされた役人が暴れ回った事例があったので、男達はすぐに納得した
「なるほどな!でも安心していいぜ」
「そうだな、ここはグラベオン様が来てくれた土地なんだ!ご利益があるってもんよ!」
気をつけて帰れよー…と男達は去って行った
「グラベオン様…か」
スアルは調べる事はもうないとばかりに手に付いた土を払い除けてその場に立った
「その『グラベオン様』を知りたくて来たのに分からないんじゃ意味ないな」
---------------------------------------------------------------------------------
MINORANZA中央基地
「だーかーらー!!!!勝手に出てったのは悪かったって言ってるじゃん!!!!ごめんなさいもしたのになんで怒ってるのさー!!!!」
「お前は何回謝るような事すれば気が済むんだァ!!?ちったぁ静かに出来ねえのか!!」
基地内でゲールとリュゼが依然として喧嘩をしていた
リュゼが全力で頭を掴んでもゲールは大人しくならない
「ただいまー…まだやってるの、それ」
ホコリを払いながら現れたのは先程スアルと呼ばれていた男だった
出ていく時となんら変わらない光景に呆れが出る
「てめえがちゃんと繋いでないからこんな事になんだろうが!!
『トゥース』!!!!」
「…僕はゲールの手綱掴んだ覚えはないよ、リュゼ」
青年【アルジル・G・トゥース】は呆れながらもしっかりとした足取りでMINORANZA基地の中に入って行った
「さて、あの子は何を隠しているんだろうね」
まだ素直になってないんだね
嫌いなものは嫌いって言えない性格、好きじゃない