久しぶりの初めまして
「僕の大事な『天使』を怯えさせたんだから当然だからね」
「君達は地獄より怖い所に連れて行ってほしいって僕から神様に頼んでおくよ」
─────────────────────────────────────
東57ハガントスミガリ地区_森林区間
「フリーデーン!もう追手いないから出てきてよぉー!」
大きめのフードを被り、アザレアピンクの髪を振り乱しながら生い茂る木の間を走り抜ける人物が一人
「もー!今日はここを抜けて王都に行くって決めたんだから早く行こうよぉー!」
走るのを止めて道の傍の切り株に腰かけた人物…『マジョール・O・イドル』は、はぐれてしまった同行者を探していた
「ここから近いのはフガンサ地区かカントナータ地区…王都に近いのはカントナータだけどフリーデンがいる確率は同じくらいだしな…
あーもー!!何で逃げ足だけは早いかなー!!」
怒っていると言う割には口角を上げて笑うイドルは、切り株から腰を上げて体を伸ばした
「ま、フリーデンを追い回すなんて馬鹿な事をしたクソ野郎はちゃんとお仕置きしたし…この僕がフリーデンを見つけられない訳ないから別にいいんだけどね」
─────────────────────────────────────
南24カントナータ地区
危険だからと離れていた住民が襲撃にあったADULTOの兵士を病院に運ぼうと力を合わせていた
「怪我人を運ぶぞ!誰か手伝ってくれ!」
この地区は別名【静かな小道】と呼ばれ、平均的な年齢層が高い地区だった
その地区の中でも若い方である宝石屋台の親父が怪我人を介抱していたのだが、いかんせん人手が足りていない
「くそっ…そこの兄ちゃん、手を貸してくれ!」
「…え!?僕!?」
「当たり前だろ!?他に誰がいるってんだよ!」
屋台の親父に指名された男はフードを被っており、かなり動揺しながら返事をした
フードの下からライトブルーの髪とサファイアブルーの瞳が覗くが、かなり動揺しているのか激しく揺れ動いていた
「ご、ごめんなさいぃ…僕、急いでるから協力出来ないんです…」
「ア˝!?命助けるより重要な事って何だよ?オラァ!手伝え!!」
「は、はいぃ!!!」
少し強引に凄まれた男…『アドヴェント・D・フリーデン』は情けなく涙目になりながら慌てて担架を握った
「あー…イドルごめん…」
森林区間ではぐれたイドルを探そうと賑やかな場所に来てみるとコレだ
昔から面倒な事に巻き込まれやすいフリーデンは自分の不幸体質を恨みながらイドルに謝る
よいしょ、と担架を持ち上げた所で兵士の制服に見覚えがある事に気が付いた
「因みに何があったんですか?僕さっきここに着いたばかりで状況が全く分からないんですけど…」
「ADULTOが襲撃されたんだよ、変な二人組に対して大将その他が収めてくれたみたいだけどよ…」
「っ大将!!?グランツが?無事なんですか!?」
「今運んでる下っ端兵士以外は無事みたいだぜ!グラべオン様も落ち着いて対処してくれたしよ!」
笑って話す親父はフリーデンが次の言葉で固まった事に気が付かなかった
「襲撃した奴らは…ああ、そうそう
『MINORANZA』とか言ってたな」
─────────────────────────────────────
ミハランガ病院にて
「…にしても、あのパワー少年は強かったね」
運ばれる兵士に事情を聞く為に一足先に病院で待機していたアウラは、隣で報告書を書くリーベに話しかける
「パワー少年って…アウラ、アンタのすぐ褒める癖は好ましいけど程々にしなさいよ
アイツのせいで怪我人が大勢出てるんだから」
キラキラした瞳で話し出すアウラに溜息交じりに注意するリーベだったが、興奮したアウラには伝わらない
「しかも多分アタイより年下だよねっ!10歳前後と見ました!」
「アウラ…」
久しぶりに見る強敵にワクワクが止まらない様子のアウラだったが、この状態をグランツに見られると長い長い説教が始まる事を理解しているリーベは、何とかアウラの意識を別の所に持っていきたかった
「ホラ、今回負傷した兵士にはアンタの部下もいるんでしょ?今回の件を反省して鍛えなおすプランとか考えたらどうなの?」
「それは大丈夫!ちゃんと退院したらみっちり再教育するって班長に伝えてるから!」
「あっそ…」
良い事だがアウラのしごきはADULTO一辛いと評判で、その事を知っているリーベはせめて兵士の傷が悪化しない事を祈った
「ラヴェンデル中将!!怪我人が到着するという知らせが!!」
「分かった、すぐに行こう」
部下の報告を受け、すぐにリーベとアウラは入り口に向かった
「怪我人はこっちです!怪我の具合としては…」
入り口に行くと慌ただしく住民が医師に状況を知らせていた
「重症ではなさそうだし、一先ず安心かな…ん?」
その状況を見て治療後にまた訪れようと決め、運んでくれた住人にお礼を言おうと歩を進めた所で見知った顔がある事に気が付いた
「…フリーデン?フリーデンじゃない!!久しぶりね!」
「…久しぶり、リーベさん」
そこにはADULTOに出入りする不定期郵便屋として働いているフリーデンが少し疲れた顔で立っていた
不定期郵便とは別名【重要機密郵便】と呼ばれる密書などの郵便の事で、信用する身元が保証された国専属の郵便屋が承る事になっている
複数人が数か月ごとのスパンで入れ替わるので一年ぶりの再会である
「え?何でフリーデンがここにいるんだ?交代はまだ2ヶ月程先だろ?」
「旅行でたまたま通りかかって…まさかリーベさんと会えるとは思っていませんでしたよ」
微笑むように笑うフリーデンだったが、その笑顔には少し影があった
「フリーデン…」
「あれー?フリじゃん!!久しぶり!!」
兵士の所から戻ってきたアウラがフリーデンの姿を見つけ、ダッシュで走り寄ってきた
「お久しぶりです、アウラの姉貴」
「その言い方嫌いだって言ってんだろフリの馬鹿!!」
すぐさまじゃれ合う二人だったが、リーベは先程見せたフリーデンの笑顔に引っ掛かっていた
「何か隠してるのか…気のせいか…?」
─────────────────────────────────────
「…リュゼ
お前はまた僕に『選択』を迫るのかい?」
✖✖✖はいつもそうだ
いつだって僕の味方でいてくれる
家を捨て
名前を捨て
身分や財産を失った僕に手を差し伸べてくれる人なんていなかった
そんな中、✖✖✖は
✖✖✖だけは僕の味方でいてくれた
何も持たない僕でもいいと言ってくれた
✖✖✖だけは、僕を裏切らない
絶対に裏切らない