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続・竜とお姫様  作者: 大玉 由美
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復活!

「ハナ。俺」

ハナの自室をノックしてセイは待つ。程なくハナは顔を出した。メグから分けてもらったの香のおかげか以前より幾分顔色が良くなっているがまだ表情は冴えない。いつもの元気が感じられない。

「まだ調子悪い?」

「うー…調子は悪くないと思うけどまだ魔法使えないんだ…ゴメン」

セイを部屋に招き入れてベッドに腰を降ろしたハナがペコリと頭を下げる。

「何謝ってんだよ」

「ゴメン…」

俯いたまま顔を上げないハナにセイは首を振る。

「ばーか。困ってる時は助け合うの当然じゃん。謝る必要なんてないって、な?」

ハナの隣に腰を下ろしたセイの装備にハナは気付く。何か印象が違うと思ったら所持している武器が違うのだ。

普段セイが使う2本差しの小太刀ではない、肩に背負うのは大振りの大剣。

「…剣、変えたんだ?」

「ん?あーこれはオヤジの私物。やっぱ小太刀の方が使い勝手が良いけど今は砂漠の大型モンスター退治が多いじゃん?シズさんみたいに普段の長剣一本でぶった切れる実力はまだ俺には無いからさ…。モンスター退治の時はこの剣を使う事にしたんだ。これでもオヤジの私物ん中じゃ一番軽いやつなんだけど重くてさあ。情けねえけど手はまめだらけだし腕は筋肉痛だし。それでも小太刀じゃ太刀打ち出来なかった大型モンスターとも最近は充分渡り合える様になったん…」

セイの両手をそっとハナが取る。沢山のまめ。まめが潰れて巻いた包帯に血の滲んでいる箇所も有る。

慣れない力仕事に文句も言わず疲労困憊で働く波留国の皆。

真っ先に飛び出さないと行けない大事な時に自分は一体こんな所で何をやってるんだろう。

心配と迷惑ばかり掛けて。

情けない。

セイの手を取るハナの手が震える。自分の無力さに腹が立って来る。

「お前さ…あんまり色々背負い過ぎなんじゃねえ?」

「…え」

セイの手がハナの手を包む。骨張った大きな男の手だ。

「お前のスランプはさ、俺もちょっと責任感じてるっつーか…ほら、充分フォロー出来なかったじゃん?ちゃんとあの時付いててやってたらって…ずっと後悔しててさ…」

ハナは首を横に振る。

セイは来てくれた。助けてくれた。ちゃんと…見ててくれてた。

「守って…くれたじゃん。ちゃんと、間に合ったじゃん。これからも…ハナを守ってくれるんでしょ?」

「…おう」

照れながらもしっかり頷くセイにハナははにかむ。

自分にも…支えになってくれる人が居る。

まだ自分は…頑張れる。

体の奥から何かが沸き上がって来る。それはしばらく忘れていた懐かしい感覚。

暖かな光がセイの両手を包み込む。体から溢れんばかりの魔法の光。

「ハナ…お前、魔法…」

ハナ自身も信じられない表情でセイの両手を見つめる。

光が収まった後、見事な治癒を見せたセイの手。

「戻った…戻った!魔法!!」

ハナは思わずセイに抱き付いた。






ハナの特殊部隊復帰の吉報は波留国を湧かせた。

「一般兵士や国民には病気による静養と伝えていた。魔法が使えないなどと言う事が知れればパニックを起こりかねないからな。何にせよ…本当に良かった」

約半月ぶりに城内に姿を見せたハナに王は嬉しそうに何度も頷く。

「お帰りなさい、ハナ…心配したんだから…」

「うん…ただいま」

メグがハナを抱きしめる。くすぐったそうにハナは微笑む。

城下の自宅に静養中のアリスからもおめでとうの電話をもらったばかりだ。

「レイ殿。魔法力が戻ったとはいえハナはまだ病み上がりの状態です。暫くは誰かと行動を共にさせた方が…」

即戦力ではあるが無理は禁物だ。慎重なシズの意見に兵士長は頷く。

「勿論だシズ。ハナの護衛には是非ともと立候補者が居たのでな。彼に任せる事にした」

「彼…?」

「おーう今帰った」

そこに扉が開いてサンドワーム討伐から引き上げて来たクラッドが現れる。

「ん、何だ皆集まって?お、嬢ちゃんその顔、やっと復帰したか!」

ハナはガッツポーズで応じる。

「クラッドには沢山迷惑掛けちゃったからね。これからは頑張るよ~!」

「おいおいおい~何だよ元気じゃねえか。えー?何がきっかけで元に戻ったんだ?教えろよ!」

状況を把握してない様子のクラッド。シズは首を振る。

「クラッドじゃない。って事は…」

「おいオヤジ!荷物運ぶの手伝えよ!」

クラッドに続いてわらわらと城内に入って来る兵士達の中から砂だらけのセイが声を張り上げる。

「セイ殿、こちらは大丈夫です。後は我ら兵士に任せて下さい」

「え?マジ?悪いねー」

小隊長ロウの言葉に素直に甘えてセイは皆の輪の中に小走りで駆けて来て兵士長に敬礼する。

「お疲れっす。無事討伐任務と那津国からの支援物資受け取り完了しました」

兵士長は大きく頷く。

「お疲れ様。丁度今ハナの復帰を皆で祝っていた所だ」

「ハナ?あー居たんだ。復帰おめでと!」

セイはクルリと周囲を見渡してやっとハナに気付いてニヤリと微笑む。

「これから毎日俺の怪我の手当、宜しく頼むなー」

「はあ?何で私があんたの怪我の手当て役な訳?冗談じゃないわよ」

「慣れない大剣を扱って毎日ヘトヘトなの!労ってよ」

「あっそーじゃあ絆創膏でも貼ってなさい」

「…ハナの護衛役って…セイで間違いないんですよね?レイ殿」

すっかり普段のノリに戻っているセイとハナの掛け合いにレイは苦笑する。

「ああ。ハナの魔法はセイの両手のまめを治療した事で戻ったそうだ。愛の力だな」

「そうなんですか…」

シズはちらりとクラッドを見遣る。ハナとセイの絆がより深くなったのだ。

メグと他愛ない話に花を咲かせているクラッドの内心を思えばシズはやり切れない気持ちになる。セイと同様、いやそれ以上にハナを支えて来たクラッドだがその想いを伝える事は無いのだろう。

自分が気を揉んでも仕方の無い話だ。こういう愛の形も有るのだ。少し寂しい事だが。

「クラッド。大丈夫か?」

「あ?怪我なんかしてねえぜ?」

「そうじゃなくて」

むくれるシズにクラッドは豪快に笑う。

「お前、人の心配ばっかしてるとそのうち禿げっぞ?」

「……!」

サーッと青ざめて思わず癖の無い自分の黒髪を抑えるシズの背をクラッドはバンバン叩く。

「良いんだよ。嬢ちゃんが幸せなら…良いんだ、俺は」

「欲のない奴だな、本当に」

外に出て行ったクラッドの広い背中をシズは暫く見つめていた。






「…良し」

鏡の前でマコトは頷く。服装の乱れも無く、化粧も目立たない程度にバッチリだ。

密かに憧れていた対人部隊のセイとここ数日始終ベッタリと行動を共にしている。少しは親密度が増しただろうか。

先日セイが対モンスター部隊のハナに告白していた事実を知ってしまったが、ハナは病気療養中。セイもハナに対して素っ気ない様子だったし今がチャンスだ。

「告白…とか急かなあ…。でもそうしたらちょっと意識してくれるかなあ…」

いつものセイとの待ち合わせ場所でマコトはモジモジと杖をいじる。

其処に兵士達の賑やかな声が聞こえて来た。

「あっお早うございます!」

「お早う。今日も早いね~」

小隊長の一人、穏和な性格の青年が挨拶を返す。

「…何か僕大事な用を忘れてる様な…」

首を傾げる小隊長をそのままにマコトはセイの姿を探す。

「ちょ、今日の任務内容半端ねえ!人使い荒過ぎるのにも程が有るっつーの!」

声と共に書類片手に階下から駆け下りてきたセイにマコトは胸を高鳴らせる。

浅黒い肌に青い瞳、サラサラの短い金髪。細身のスマートな体躯は未だ成長途中の17歳。

今日もモンスター退治用に大剣を背負っている。

「お、お早うございますセイ様!!」

セイはマコトに気付き小さく会釈するも首を傾げる。

「あーオハヨ。え?こいつここ集合のままでで良いの?」

「え?」

「オヤジの隊は噴水前集合じゃなかったっけ」

「は?」

「あ!思い出しました!!」

疑問符を呈するマコト。ハッと我に返った小隊長がポンと手を打つ。

「兵士長殿からの言伝で今日からマコト殿はクラッド殿の隊に加わる事になったんですよ」

「…え?」

小隊長はクリップボードを捲って大きく頷く。

「そうでしたそうでした。すいません。昨日言っておくべきだったのに…もう向こうの隊、出発したかなあ…」

兵士達でごった返す中あたふたと首を巡らせている小隊長にマコトは愕然とする。

「えっな、何で急に…?」

「オヤジには昨日俺から伝えてあるけど。つか絶対向こうの方が出るの遅いっしょ」

「せ、セイ様?何で私、その、今日から向こうの部隊に変わるんですか?」

焦るマコトにセイは目を瞬く。

「何でって…うちにはあいつが加わるから」

「あい…つ?」

わっと兵士達の間から歓声が上がる。

オレンジのフワフワした髪が砂漠の乾いた風に舞う。丈の短いマントからすらりと伸びた白い足、全身から滲み出る魔法の力。神秘的とも言える神々しい雰囲気を纏った女性。対モンスター部隊の正式な隊員であるハナだ。

「…ハナ、様…」

「うわ暑…鈍った体には辛いなあもう…」

携える杖はS級レベル。加えて魔力の込められたアクセサリーを多数身に付けており、その姿だけでも並の魔法使いではない事が容易に伺える。

ハナの意志の強い瞳がマコトに気付いて瞬く。

「あ、セイと一緒にいた臨時隊員の子!そうだ、この子此処に居るなら私、シズ様と一緒に行っても良い?」

階段を駆け下りてマコトの手を取りはしゃぐハナにセイは溜息を吐く。

「駄目。お前が入ってるからうちの隊の任務内容、もの凄い事になってんの知ってんだろ」

「えーハナ病み上がりなのに酷ー」

「シズさんのとこには行かせない。お前は俺が守るって決めてんだから此処に居るの。分かった?」

「はいはい分かりましたー」

マコトの手を離して軽快にセイの所に駆けて行くハナ。

魔法使いとしても、女性としても完璧に敗北を自覚したマコトは気が遠くなりかける。

「すいません。マコト殿はいらっしゃいますか?クラッド隊の者ですが」

「あ、はーい…」

「頑張ってね!」

迎えの兵士に引きずられる様に連れ去られて行ったマコトをハナは見送る。

セイと仲良く毎日一緒に居た臨時隊員の女の子。もしかしたらセイに淡い感情を抱いていたのかもしれない。

だからわざとセイに絡んで仲の良い所を見せつけた。少し意地悪してしまった。

「…微妙なヤキモチ意識ってやつかな」

セイの事は好きか嫌いかと言えば…まあ好きなのだろう。多分。

しかしシズがアリスを想う様な一途な気持ちがセイには足りないとハナは思う。自分が出られない時、近くに居た女の子に気を許していた様に、気持ちに誠実さが欠けている。

今は気力充分になったハナに愛想良く近付いて来ているがまたハナの体調次第ではフラフラしかねない。

「だからすんなりオーケーしにくいんだよね…」

シズや兵士長の様に、自分だけを見てくれる一途な男など周りにはなかなか居ない気がする。

だから告白の返事はもう少し先送りだ。

「じゃあ行くよー!」

「って隊長は俺!」

準備の整った隊を見渡してハナは勢い良く飛び出した。






終わり

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