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続・竜とお姫様  作者: 大玉 由美
2/4

ひとりぼっちの戦い

数日後、臨時の対モンスター部隊の募集に国内外から魔法使いが集まった。受付を行っている中庭は大にぎわいである。フードを被っているいかにも魔法使いの者もいれば普通の格好の者もいる。年齢、性別も様々だ。

「すごいねー☆」

特殊部隊控え室の窓から中庭の様子を覗き見てハナが歓声を上げる。

中庭は本日は広く解放されており、魔法使いの華麗な魔法を人目見ようと多くの一般人も押し寄せている。

「ねえねえ、あの人ちょっとイケメンじゃない?」

「えー…そうかなあ…」

「どこどこー?」

キャピキャピはしゃぐハナとアリスにメグもにこやかに参加する。

「ちーっす」

ノックと共に対人部隊の3人が入ってくる。

「あ?何品定めしてんだお前等」

相変わらず制服を着崩しているクラッドが窓に近寄る。

「お、あのスタイルの良いねーちゃんが良いな。対モンスター部隊の色気も少しは上がるってもんだ」

「はあ?冗談じゃ無いわよこのスケベオヤジ!」

ハナが顔をしかめる。

「すでにお祭り状態ですね」

「うん…すごいね」

入り口近くにシズとセイも腰を降ろす。本日は臨時とは言え特殊部隊選出なので全員参加が義務付けられていた。

「セイ殿、お久しぶりです」

窓の集団から離れてアリスがシズ達の方に向かう。セイが会釈する。

「噂でこの人の仕事を肩代わりしてるって聞きました。そんな気を使わなくて良いのに」

セイはブンブン首を横に振る。

「いいえ、そんな言う程仕事請け負ってないっスから。シズさんの仕事が速いだけですよ」

「そうなら良いけど…体に気をつけて無理なさらないで下さいね」

微笑むアリスにセイは大きく頷く。

「はい…それにしてもアリスさん綺麗になりましたよね。やっぱりシズさんの影響ですか?」

「は?」

真顔でセイに褒められてアリスは目を丸くする。

「今のアリスさんなら俺も全然オーケー……やだなシズさん。冗談ですって…何睨んでるんですか」

「…別に?」

「そう言いながら腰の剣に手を遣るのは止めて下さいよ。心臓に悪い」

波留国に来てからなかなかシズの気の休まる暇は無いらしい。

「シズさんは過保護過ぎですよー」

アリスはすとんとシズの隣のソファに腰を降ろす。

「私はちゃんとシズさんの横に居ますから。心配しないで下さい」

シズはこっくり頷く。見つめ合う2人の熱さにやられてセイは席を立つ。

「あのバカップルを誰か追放してくれ…」

窓にぐったりもたれ掛かってセイは外を見遣る。横ではハナがじっと窓の外を見ていた。

「…誰かめぼしい奴居そう?」

ハナは首を横に振る。

「分からない。でもこの中の誰かと今後一緒に仕事していくんだよね」

「多分そうなるだとうな」

緊張気味のハナにセイは小さく頷いた。

「俺はこんな大層な祭りは必要ねえと思うぜ」

クラッドが吐き捨てて部屋の中に歩き出す。

「どうせアリスとメグが復帰するまでの間のバイト君だろ?何でこんな大事にしてるんだか」

「お祭り好きな王のやりそうな事だ…付き合うしか無いだろう」

シズが気怠そうに頬杖をつく。

「魔法は専門外だから多少興味はあるけど…。精霊の血を引いてないと魔法は使えないんだっけ」

アリスは首を横に振る。

「そうでも無いみたいですよ。精霊以外にも魔法を扱う種族は多いんです。エルフや竜…自分が知らなくても魔法の資質がある事がありますから」

「ふうん…じゃあ僕でも魔法を使える様になる可能性もある?」

「うーん…魔法は子供の時の開花を逃すと基本難しいみたいですね」

「何だ、残念」

クラッドが目をしばたかせて唸る。

「おいおいシズ、これ以上力付けてどうすんだよ。お前は剣だけで充分だろ?」

「魔法が使えるに越した事はないさ……やっぱり憧れる」

シズは高い天井を仰いで呟いた。






中庭での受付が一区切り付いた所で王が姿を現した。皆の歓声が上がる。

「臨時とは言え我が波留国の特殊部隊の一角、対モンスター部隊の隊員選出である。力のある者は今後も贔屓し取り立てて行く事も視野に入れているので力を尽くしてほしい。選出は現役特殊部隊隊員4人が行う」

「…そんなの聞いてないし…」

控え室のシズが暗い顔で呟く。いつも王は勝手に物事を進めるのである。4人とは休職中のアリスとメグ以外の4人だろう。王は続ける。

「候補者は4つのグループに別れて特殊部隊隊員の診査を受ける。その中で一番秀でたと思われる4名が対戦し、最終的に2名が決定する」

候補者達が期待と不安でざわめく。特殊部隊に個人的に接触する機会など滅多に出来ない経験だ。

「…魔法で焼かれる役っスか?俺等」

セイが頭を掻く。クラッドは神妙に頷く。

「まあ上手く逃げなきゃ丸焼きだろうな。それか薄切りスライスか瞬間凍結か」

「……対モンスター部隊候補なんだからモンスター連れて来いよなー…」

候補者はぞろぞろと対戦グループのエリアに移動して行く。そしておもむろに控え室のドアを兵士長がノックする。

「おーい、出番だー…って!?」

突き刺す様な皆の視線にレイは後ずさった。厄日再来である。






広い中庭に歓声が上がる。波留国のアイドル、対モンスター部隊のアリスとメグが出てきたのだ。

「周囲への被害を防止する結界を4カ所に張らせて頂きますね」

颯爽と歩く2人に皆うっとり見とれる。

「アリス」

メグの声掛けにアリスは頷く。端と端に別れた2人が杖を掲げる。

空間が捩れて2人の間に透明な結界が完成した。拍手が湧き起こる。

「魔法だけを通さない特殊結界…。こんな短時間で作るなんてさすが特殊部隊隊員だ…」

候補者も顔を見合わせて唸る。

2人が結界を作っている間に厄日な兵士長が4人にルールを説明する。

「君達は候補者を傷付けてはいけない。開始、終了の合図は私と3人の小隊長が行う。大体1審査3分程度を予定している。候補者は攻撃してくるかもしれないし何か別のパフォーマンスを披露してくるかもしれん。その中で一番優れている者を君らの判断で決めてほしい」

「…たりー…何でこんな見せ物みたいな事するんスか?」

セイがうんざりしたように言う。兵士長は申し訳無さそうに頷く。

「…国民へのサービスとでも思ってくれ。君らの勇姿を皆が楽しみにしてる」

そこに小隊長の1人が声を掛ける。

「準備が出来た様です。宜しくお願いします」

シズは立ち上がって兵士長に声を掛ける。

「ルールは審査する僕らが決めても良いんですよね」

レイは頷く。

「無論だ。私と小隊長はあくまで合図を送るだけだからな」

シズは皆に振り返る。

「この中に自分が標的になろうなんて思ってる馬鹿は居ないだろうな」

クラッドとセイが思わず顔を見合わせる。シズは冷たい視線を2人に向けた。

「…自分が逃げ回っていて審査が出来る訳ないだろ…。別に標的を用意すれば良い話だ」

「あ、なーるほど」

クラッドとセイが同時にポンと手を打つ。

「標的をできるだけ小さなものにして正確性を見たり人型での命中率やモンスター型での破壊力を見たり…自分が見たい所を重点的に押さえれば良いだけの話ですよね」

ハナの答えにシズは大きく頷く。

「シズさんってたまに冷たいよな…」

「アリスの前で格好つけすぎだっつーの…」

セイとクラッドはこそこそ話し合う。

「何密談してんの!行くよー☆」

ハナの大声で皆会場に押される様に連れ出された。






会場が割れんばかりの歓声に包まれた。芙由国に次いで名実共に有名な特殊部隊の4人が中庭に出てきたからである。対人部隊には個々に根強いファンが居るしハナの人気も不動だ。

「シズ様ー!!こっち向いて-!!格好良いー!!」

シズファンの一団がシズ担当の円の近くに陣取って居る。シズはちょっと引きながらも中に入る。

「クラッド!お前の魂をぶつけてやれ!!」

クラッドの馴染みの酒場の飲み友達やら知り合いの冒険者やらむさ苦しい連中がクラッド担当の円の近くに居る。

「おー!黙って見てろや!」

クラッドは勢い良く叫んで腕まくりをして中に入る。

「セイーvv応援してるわよー!!」

どう見ても年上の大人のお姉さん達の一団がセイ担当の円の近くに居る。セイは苦笑いを浮かべながら中に入る。

「ハナちゃーん!!」

野太い声援がこだまするのはハナの担当近くの円だ。ハナはヒラヒラと手を振りながら中に入る。

「ハナ様。今日は頑張って下さいね」

知った声に顔を向けると小隊長のロウだった。ハナの円の合図係のようだ。

ハナは頷く。

「…何で兵士長様がここの円に居るんスかね…?」

「お前の所が一番手が掛かりそうだからな…それにしても華の無いギャラリーだな」

「へーへー。すんませんねー」

円の中で偉そうに椅子に腰を降ろして優雅に足を組んでいるレイにクラッドは嫌そうな顔で呟いた。






候補者は事前に絞られて全部で約20名程。4人で割って1人当たり5人の換算だ。

セイは風船を一つ据える。風船は風にそよいで予測不可能な動きを始めた。

「良し。じゃあ順番にこの風船を狙って。時間とアプローチの仕方を見るから」

セイの円の一番の魔法使いは炎を飛ばす。炎は風船のヒモだけを焼いてしまい風船は空高く舞い上がって行く。

「あちゃー…審査方法いまいちだったかなあ」

次の魔法使いは風の魔法を起こす。これもまた風船のヒモだけを切ってしまう。

「……審査員の才能無いわ俺……。やっぱ蛇の道は蛇!メグ姉さんお願いします!」

「え…私が審査?別に構わないけど良いのかしら?」

セイを見学していたメグはいきなり振られて驚く。セイは頭を掻いて頷く。

「俺は魔法に関しては素人同然ですから…ちょっと兵士長に許可もらってきますね」

セイがクラッドの円に近づくと案の定クラッドを見学していたアリスが彼に変わって審査していた。

「…まーた旦那を怒らせますよ…」

セイの声掛けに兵士長が神妙に頷く。

「案ずるな。シズの許可は既に取ってある。お前達対人部隊の不甲斐なさに呆れていたぞ」

「はは……俺もメグさんに頼んで良いっスよね?」

「仕方なかろう。無理しないよう伝えておいてくれ」

レイが頷きセイが小走りに帰る。チラリとシズの円に目を向けると彼はクリップボード片手に熱心に審査中だった。

「やっぱシズさんはすごいや…。まだまだ俺も勉強しなきゃ」

未だにセイにとってシズの壁は果てしなく高く厚かった。






審査が終わり発表までの間時間があったのでハナは控え室で一息ついていた。

特に突出した力のある魔法使いはおらず、安定した力の無難な人材が選ばれた。

ノックの音と共にセイが顔を出す。

「よ。良い?」

ハナは頷きセイは部屋に入ると椅子にすとんと腰を降ろした。

「ほれ」

持っていたペットボトルを一つハナに放りセイは自分の飲み物を口に含む。

「暑いなー…」

ハナが気怠い表情をしていたのに気を利かせたのかセイは窓に目を遣る。

「…どした?元気無くない?」

「別に…」

自分でも驚くくらいのローテーションぶりにハナは眉をしかめる。

何でこんなに気落ちしているんだろう。

分からない。

審査会議の部屋でアリスの身を案じるシズやメグに声を掛けるレイ。ぽつんと残された自分には誰も声を掛けてくれる者は居ない

それが何だか無性に哀しかった。

「ちょっと充電切れた…かも…」

机に伏すハナの頭をセイはポンポン叩く。

「お前、頑張り過ぎ」

「……むー…」

恨めし気に横を向いてセイを見ると、セイは穏やかに微笑んでいた。

「…何笑ってんのよ…」

「俺の前で素なハナが可愛いなーって思って」

「……」

ハナはぼんやり考える。確かに今入って来たのがシズだったら萎縮してシャキっと姿勢を整えて居ただろう。その

点ではセイは気の許せる存在だ。最近落ち気味なハナをセイは良く見てくれていた。

「全然可愛く無いよ…外面ばかり良くって…」

昔から我が儘で自分勝手で、女友達は1人も居なかった。

アリスとメグだけなのだ。親友と言える存在は。

だからその大切な友人を失わない様に嫌な顔一つせず今も必死で頑張ってるのだ。

セイは伏しているハナの横に座り、休憩が終わるまで黙って一緒に居てくれた。

何だか、救われた気がした。






対人部隊臨時隊員に選ばれたのはハナと同年代の女性2人だった。

「えー?あの隊服着れないのー?超最悪ー!」

謁見の間で王に対面した2人は既に文句だらけだった。

臨時隊員なので特殊部隊隊員の制服支給や部屋の手配は無く、任務連絡の携帯だての至急に納得が行かないらしい。

「私この制服に憧れて来たのにぃ!」

ミキと名乗る魔法使いは腰までの長い金髪を掻き上げた。すらりと背が高く、派手な化粧は実年齢より彼女を老けて見せていた。体にぴったりしたローブには深いスリットが入っており長い足が覗いている。

「思ってたより地味な仕事だし汗臭そう…やだな…」

マコトと名乗る魔法使いは小柄で栗色の短髪である。もじもじと手に持った杖を弄んでいる。人見知りをするのか、キョロキョロと落ち着かない様子で周りを見渡している。

「……ハナ、取りあえず慣れるまで一緒に仕事を教えてやってくれ。何かあれば連絡して構わないから…」

そそくさと退室していった王にハナはうなだれる。何でこんなに我が儘なお嬢さん達を相手しなきゃならないのか。

「ねーハナ?対人部隊のメアド教えてよ。たまに合同任務もあるんでしょ?」

「あ、私も聞きたい…かも」

この2人に対人部隊のメアドなんか教えた日には彼らからの苦情が殺到する可能性大であろう。

「必要がある時に教えるから。聞きたかったら個人的に聞いて下さい」

不満そうな2人にハナは溜息を吐く。そこに兵士が駆けつけた。

「ハナ様。砂漠東10キロにサンドワームが5体出没しました。準備をお願いします」

ハナは頷く。

「行きます。あなた達も来て」

ミキとマコトは顔を見合わせた。






「嫌ぁー!!キモイー!!」

現場にたどり着いたマコトは半泣きで後ろに下がった。灼熱の砂漠にたちこめる砂埃。蠢いているのは小柄ながらも凶暴なサンドワーム。無数の触手を動かし大きく開いた口からは異臭を放つ緑色の粘液が滴り落ちている。

ハナも眉根を寄せる。一体ならまだしも5体はちと辛いものがある。魔法はある程度近づかなければ効果が無いのだ。しかしあまり近づくと逃げ遅れる可能性が高い。襲ってくるサンドワームだけでも動きが封じられれば一番良いのだが…。

ハナはミキとマコトを見遣る。マコトは駄目だ。免疫が無い様で、兵士の後ろに隠れてしまっている。

ミキは青ざめながらも杖を持って立っている。ハナはミキに足止め役を頼む事にした。

「…私が攻撃を仕掛けるからあいつらが襲ってこない様に援護してもらえる?」

頷くミキにハナは頷いた。岩陰から様子を覗いていたハナはミキと示し合わせて飛び出した。

杖からほとばしる炎にサンドワームが気付いた。走り出したハナが掲げた杖から勢い良く炎が飛び出す。

一体のサンドワームの顔面に炎が直撃し、地響きを立てて倒れる。

「よし…」

岩陰にはマコトや付き添いの兵士達が居るので戻れない。砂漠には遮蔽物が少なくハナは兎に角逃げる。

ふと、ミキの姿を見失った。

「…!?あの子は…?」

怒り狂うサンドワームの群の遙か後方で必死に杖を振るミキの姿を見付け、ハナは唖然となった。

ミキの魔法は既にサンドワームの射程外である。

「…もしかして私、ピンチってやつ…?」

隠れる所も無い砂漠の真ん中でハナは立ち止まり、サンドワーム達に対峙する。逃げても体力の無駄なのだ。

振り返ったハナに迫るサンドワームが思った以上に近く、ハナは背筋が凍りついた。

「殺される…」

一瞬頭が真っ白になって呆けた様にハナは立ち尽くす。

威嚇でも何でも良いから何かしなければならないのに手が動かない。

「……」

瞬きもせず、迫るサンドワームをじっと見上げる。

その首が二つに切り裂かれた。

ハナの前にに2体のサンドワームの首が転がった。

「ハナ!!」

大声と共にハナの体を抱き上げ横に押し出す影。ハナが今まで立っていた場所にサンドワームが噛みつく。

「馬鹿!ぼーっとすんな!!」

蒼い目でハナを見つめる意志の強い瞳。短い金髪が汗で顔に貼り付いている。

「……セイ…」

「心配で追いかけてきたらこの様だ!お前は此処に居ろ!動くなよ?」

ハナを置いて立ち上がったセイは長剣を握り締める。いつもは小太刀の両刀使いだが、長剣も任務に応じて使い分けている。

向こうでまた一体のサンドワームの首が落ちた。もう1人援護者が居るらしい。

「…大剣も今度使ってみよっかな」

セイは残り一体に向かって走り出した。






見事5体のサンドワームが倒され、辺りに静けさが戻った。

「嬢ちゃん、大丈夫か?」

もう1人の援護者であったクラッドが陽気に声を掛けてくる。ハナは青ざめながらも頷く。

「虫の知らせってやつだな。いきなりあいつに付いて来いって言われたんだ」

サンドワームの絶命を確認に行っているセイをクラッドは顎でしゃくる。

兵士達と2人の新人魔法使いもおそるおそる出てくる。

「ご、ゴメンなさい…役に立てなくって…」

ミキが謝る。マコトは無言でサンドワームの死体の山を見つめ、眉をひそめている。

「…いいえ、今回は私の作戦ミス…。初めから対人部隊に援護を要請すべきだった…」

ハナは虚ろに呟く。そこにセイが戻ってくる。

「サンドワーム5体死亡確認済んだよ」

兵士達は深々と頭を下げる。

「対人部隊のお2方、本当にありがとうございました」

「いやいや」

セイとクラッドは首を横に振る。そこにセイの携帯が鳴った。

「げ。任務かよ…じゃあ先に帰ります」

セイは馬にまたがると走り去っていった。






臨時隊員2名の辞表が提出されたのは数日後だった。

「…実践経験に乏しかったのだろうな。ハナ、これからどうする?また募集をかけても構わないが」

謁見の間に立ち尽くすハナは首を横に振る。

「王。お忙しいとは思いますが私もしばらく休暇を頂きたく存じます」

ハナの言葉に王は眉をひそめた。



「ハナ」

声に振り返ったハナはシズの姿を認め、会釈をした。

「今王から話を聞いたんだけど休みを取るなんて…どうしたの?」

掛け寄るシズにハナは微笑む。

「すみません。実は…スランプなんです」

手にした杖をハナは掲げる。

「精神的なものなんでしょうけど…魔法が使えなくなって」

シズはハナを静かに見つめる。

「それは先日の任務が関係するのかな」

「…そうですね、多分。対人部隊にはご迷惑をおかけします」

「いやそれは構わないんだけど…。君が心配だ」

「心配無用ですよ。シズ様はアリスに付いていて下さい。もうすぐでしょ?」

アリスは産み月が近く、最近城では見かけない。

「うん。そうらしいけど…」

「じゃあ家に早く帰ってあげて下さいよ。それでハナからアリスにゴメンって言ってた事、伝えて下さい」

ハナは勢い良くシズを送り出すと、自室に戻った。

静かな空間。ハナはその場にしゃがみ込んだ。

先日のサンドワームの夢を見てはうなされる毎日。

死を覚悟した瞬間。

思い出すだけで嗚咽がする。

手が震えて何も出来ない。

魔法が使えなくなったのも事実だ。

一緒なのだ。

震えていた臨時隊員と私は。

何も、出来なかったのだ。

「……お腹、イタイ……」

腹部を押さえて呻く。

恐怖と絶望。

苦しいのに自分はたった一人。

一人ぽっち。

「苦しいよ…」

ハナはぽつりと呟いた。

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