戻れるならあの放課後へ
その日も仲の良いふたりと教室で当たり触りない会話をしていた。
「なぁ菅野。今日は一緒にゲーセン来るか?今日は杉田も来るってさ」
話しかけてきたのは水戸。水戸と杉田とは中学が同じで、高校に上がってからもよく一緒にいる。高二になってから三人とも同じクラスになったので、最近は特によく一緒にいることが多い。
「悪いけど、僕は金欠だからゲーセンは今日もパスだ。今月の小遣いは全部本に使っちゃったから、しばらくはゲーセンは無理だね」
「まじかよ?じゃぁ今日も公園で読書か?ついてくるだけでもいいから一緒に行こうぜ」
そうは言われても、人がしているゲームを横から見ていることほどつまらないこともなかなかないだろう。 それならば、一人で公園に行って本を読んでいる方がよっぽど楽しい。
「今日は本を読みたい気分なんだよ。小遣いが入ったら俺から誘うよ」
そう言うと、まぁ納得してくれたようだ。
「そうか。次の小遣いはちゃんと貯めとけよ」
それだけ僕に言って、既に入口近くで待っていた杉田のところへ行って一度こちらに振り向き、適当な挨拶をして教室から出ていった。そこそこの長い付き合いなので、この程度で関係が悪くなるといったこともない。まぁ流石に何度も断るのは悪いと思うので、次の小遣いはあいつらと遊ぶ分も取っておくつもりだ。
僕も荷物をまとめて教室を後にする。
階段を下っていると、前から顔が隠れるほどのノートの山を抱えた女生徒が上がって来た。少し避けてすれ違うと、
「あっ」
という声とともに、後ろからノートが降って来た。
「あぁ、ゴメン菅野くん。大丈夫?怪我とかない?」
降って来たノートを拾いながら後ろを振り返ると、見覚えのある顔だった。えっと確か同じクラスの・・・誰だっけ?
幸い相手は名札をつけていたので、少し目を凝らしてそれを見る。そうだ、岸上さんだ。
「いや、僕は大丈夫。岸上さんこそ、怪我とかしてない?」
「うん、大丈夫。本当にゴメンね」
大丈夫だと言ったのに心配そうな顔のままだ。話すのは初めてだが、悪い人ではなさそうだ。
「このノート、教室まで運ぶの?手伝うよ」
そう言って、僕は散乱したノートを集め始める。
「本当?一気に行けると思ったんだけど、意外に重くて・・・そうしてもらえると助かるよ」
そうしてノートの山を半分持って、僕は岸上さんと教室まで戻った。
「菅野くんはこれから部活?」
誰もいない教室に着き、ノートを置くと岸上さんがそう話しかけて来た。
「いや、僕は帰宅部だから。岸上さんは?」
「私はバスケ部。うちの部、結構強いんだよ。だからレギュラーになるのも大変なんだよね」
そう言う岸上さんは、なんとなく楽しそうだ。
「そうなんだ。練習、頑張ってね」
「うん、頑張る。菅野くん、運ぶの手伝ってくれてありがとね。また明日」
そう言って手を振り、教室から駆け出していく岸上さんの後ろ姿はとてもキラキラしていた。