公園の精霊
その日、僕は公園の一角にある大きなドカンのような遊具の中で本を読んでいた。すると突然、入口の方からひとりの少年が姿を見せた。
「おまえ、友達いないのか?」
そいつは開口一番そんな失礼なことを僕に向かって言い放ってきた。
「失礼なやつだな。別に僕は友達がいないから公園で本を読んでいるわけじゃない。ただ本が好きなだけだ。それより君、家に帰らなくていいのか?そろそろ7時にになるぞ」
突然話しかけてきたそいつは、見た感じ小学5・6年といったところの男の子だ。小学生なら、今の時期遅くても6時には帰宅するように学校で指示されているはずだ。もうすぐ5月といったところだが、この時間はだいぶ日も沈みかけている。小学生が公園にいるには少し違和感があった。いくら田舎とは言え、この辺に不審者がいないとは断言できない。
「俺に家なんかない。強いて言えば、この公園こそ俺の家だ。なんたって、俺はこの公園の精霊だからな」
なんだこいつは。家出か?それともただのイタイ子なのか?まぁなんにしてもさっさと家に帰らせるべきだろう。
「バカみたいなこと言ってないで、さっさと家に帰りなよ。きっと君の親も心配してるよ。それに学校で6時までには帰りなさいとか言われてないのか?決まりは守らなきゃダメだぞ」
年上のお兄さんとしてここは大人の対応的な事を言ってみる。しかし公園の精霊とやらは、僕の話を無視してドカンの中に入ってきて僕の隣に座り、喋り始めた。
「そんなことはどうでもいいんだ。とにかくおまえ、友達いるんだな?なら、そのお前の言う友達が本当に友達なのか、俺と勝負しようぜ。今からおまえが携帯で、友達だと思うやつにこうメッセージを送るんだ。
『桜西公園で閉じ込められた。助けてくれ』
ってね。それで助けに来てくれたらおまえの勝ち。来なかったら俺の勝ち。チャンスは3回までだ」
何を言っているんだこいつは。流石に付き合いきれないと思い、立ち上がってドカンの入口から出ようとしたとき、なぜか頭が壁に当たったような感覚があった。
「いてっ」
つい声に出してしまったあと、僕はそっと入口に手を伸ばしてみる。すると、やはり何か壁のようなものに触れる感触があった。確かに入口の向こう側には、いつもと同じように公園の風景が広がっているのに、透明な壁のようなもので阻まれて外に出ることはできそうにない。
「これは一体・・・」
僕がそういうと、公園の精霊とやらはニカッと笑って、
「ちなみに、この勝負に勝たなきゃお前はここから出られないぜ」
なんてことだ。なぜ僕がこんなことに・・・。
「さぁ、さっさと勝負を始めようぜ。」
張り切っている公園の精霊とやらとは反対に、僕はまだパニック状態だった。しかし、もう一度入口の方に手を伸ばしてみて、同じように透明の壁に阻まれ覚悟を決めた。そういえば、チャンスは3回までだと言っていた。
「ちょっと待ってくれ、もし僕が負けたらどうなるんだ?」
僕は率直な疑問を口にした。すると、さぞ当たり前のような顔と口ぶりでこう答えたのだ。
「そりゃあもう、ここからは出られねーよ」