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9.王都プロイデン

 王都プロイデンは、1方を海に面し、背後には大きな山を頂く海洋都市だ。

 中心部だけでも直径10キロメートル以上あり、王都の名にふさわしい大都市だと思う。

 左右には大平原が広がり、各都市への街道が伸びている。


 王都は城壁に囲まれているが、平原に面する地域については、城壁と言うより塀だ。

 城壁の主目的は魔物から王都を守る事だけど、平原に面する地域はめったに魔物が現れないため、頑丈な城壁は不要との事だ。

 それに対し、レニス市の城壁が立派なのは、すぐ近くに魔物の森が広がっているため、頑丈であることが必要なのだ。

 また、王都は年々広がっているため、比較的簡単に建築できるという理由もありそうだ。

 安全である限り、壁は低い方が解放感もあって良いね。


 その後、何事も無く通行門を通り、検閲事務所本部へ案内される。


「ここが検閲事務所の本部だよ。異世界人や移住者は、ここで市民証を発行してもらうんだよ」

「市民証を発行してもらった後は、この転生神ネフリィ様の身分証はどうなるのでしょうか?」

「さすがに取り上げたりはしないよ。ただ、通行門では市民証やギルド会員証を使わないと、また騒動が起きることになるよ」


 確かに、あんな騒動はもう御免だ。

 そんな説明を受けた後、移住の受付へ行く。

 移住の受付に着くと、カウンターに座っている金髪美女の受付嬢へ話しかける。


「すみません、話は伝わっていると思いますが、異世界人のセトです。市民証の発行はこちらで良かったでしょうか」

「ああ、アンタがセトか。アタイはヒスカリア。話は聞いているよ、ネフリィ様の身分証を見せてみな」


 金髪美女な第一印象と乱暴な口調のギャップが凄い。

 転生神ネフリィ様から頂いた身分証を呈示すると、その内容を紙に写し取った後、市民証を差し出してくる。

 口調は乱暴だが、仕事は丁寧なようだ。


「はいよ、これでアンタも王都の市民だ。注意事項は旦那から聞いてるだろうけど、もう一回言うからしっかり聞いておけよ」

「だ、旦那?」

「ああ、そこのレオナルフがアタイの旦那だ。まったく、結婚してすぐ旦那がレニスへ異動とか、勘弁しろってんだ。ま、アンタのおかげで久しぶりに旦那に会えたんだ、感謝するよ」


 レオナルフさんの方を見ると、気まずそうに目線を逸らされる。

 まあ、これは隊長のマキシスさんが気を利かせたのだろう。


「それで、注意事項だったな。まずは生産ギルドと商業ギルドに行って話を聞いてくれ。ギルドには連絡してあるんで、いつ行ってもいい。それと、今日から1週間以内にギルド会員証をここへ持ってきてくれ。コイツだけは守ってくれよ」


 今日から宿屋は自腹になるので、そういう事はさっさと済ませておくことにしよう。


「わかりました。どちらのギルドも明日には伺うことにします」

「ああ、そうしてくれ。それじゃ、何か困ったことがあれば相談に来てくれよ」

「はい、これからもよろしくお願いします」


 レオナルフさんが妙にソワソワしているので、ここは気を利かせて早めに退散しよう。


「レオナルフさん、今日までお世話になりました。またお会いできる日を楽しみにしています」

「うん、セトさんも元気で。数か月したら王都へ戻って来るんで、それまで達者にするんだよ」


 移住の受付を去った後、ギルドの所在地やお勧めの宿屋を聞き忘れた事に気づく。

 今から戻るのも気が引けるので、入口にある総合案内所で聞くことにしよう。


◇◇◇


 検閲事務所を出て、まずは、お勧めされた宿屋ハッケイで宿泊の手続きをする。

 宿代を節約するために4人の相部屋にしたところ、2泊夕食付きで銀貨6枚だった。

 随分と安く感じるが、王都では宿屋住まいの人が多く薄利多売で稼げるので、標準的な金額らしい。


 宿泊の手続きを終えた後、まだ日が高いので少し王都を散策する。


 王都プロイデンは、思っていたよりも近代的な都市だった。

 店舗にはガラス製のショーウィンドウやショーケースが当たり前のように使われ、眺めて歩くだけで暇つぶしが出来る。

 建築物についても、多くは木造建築だが、コンクリート製や鉄骨と思われる建物も散見される。


 このままウィンドウショッピングを楽しんでも良いが、買っておきたい道具があるので、『ミリタ』と書かれた魔導具屋の中へ入る。

 簡素でやや古びた内装と、店員が老夫婦だけという事から、老舗の魔導具屋だろうと思う。


「お邪魔します」

「いらっしゃい。お客さんは初めてじゃな。ワシは店主のグランコス、こっちは妻のディアスリアじゃ」

「初めまして、セトと言います」

「ま、座りなされ。お茶でも飲みながら話を聞こうかの」


 グランコスさんに勧められ椅子に座ると、ディアスリアさんがお茶を入れてくれる。

 丁寧な接客と言うより、どちらかというと茶飲み話を楽しむ感じだ。

 今日は急ぎの用事もないし、有難くお茶を頂戴する。


「それで、今日はどういった魔導具をお探しかの?」

「携帯できる魔道照明を探しています。機能は簡素でも良いので、できるだけ丈夫な物が欲しいのです」

「ほう、すると懐中魔導照明じゃな」


 そう言いながら、グランコスさんは、20センチメートルほど長さの棒を持ってくる。

 『携帯』ではなく『懐中』と言う辺りに日本の文化を感じるので、これも異世界人の発明品かもしれない。


「この棒の端を回せば反対側から光がでて、さらに回すことで光量の調節ができるんじゃ。機能が少ない代わりに、頑丈で魔石も長持ちじゃ。魔石を取り換えながら使えば、一生使えるぞ」


 お試しに、少し使わせてもらえることになった。

 まず、棒の端を時計回りに回転すると『カチッ』と音がし、反対側の端が光りはじめる。

 懐中電灯と違って全方向を照らすので、ランタンに近いかもしれない。

 そのまま回し続けると光が強くなる。

 逆に回すと光が弱くなり、最後に『カチッ』と音がして消灯する。

 なかなか使いやすい懐中魔導照明だと思う。


「この魔導具では、魔石はどの程度持つのでしょうか?」

「今入っとる魔石は大豆ほどの大きさじゃから、最大光量でも1週間は光り続けるじゃろう」


 魔石、凄い燃費だ。

 もし乾電池を使った懐中電灯なら、数時間しか光らないだろ。


「なるほど、気に入りました。魔石付きで頂きたいのですが、代金はいくらになるでしょうか」

「それは重畳じゃ。代金は懐中魔導照明が銀貨4枚、魔石が銀貨6枚で合わせて大銀貨1枚じゃ」


 魔石が思った以上に高い!

 まあ、思ったよりも懐中魔導照明が低燃費なので、良しとしよう。


 そのまま代金を支払い、しばらく老夫婦と会話を楽しんでから店を後にした。

 とても居心地が良かったので、魔導具を買う時には、またこの店に来よう。


◇◇◇


 懐中魔導照明を買った後、宿屋ハッケイに戻り夕食を摂る。


 今日の夕食は、パンにブラウンワイルドボアーのステーキとサラダだ。

 ステーキについては、ほのかに獣臭が漂うものの、ハーブやソースのおかげで美味しく食べられる。


 女将さんに聞いてみると、猪型魔物のブラウンワイルドボアーは毎日大量に狩られ、その肉は大変安く入荷できるそうだ。

 ブラウンワイルドボアーの肉は、そのままでは獣臭が酷いのだが、半日ほどハーブに漬けると美味しく食べられるとの事だ。

 限られた予算で出来る限り美味しい食事を提供しよう、という心意気が伝わって来る。


 寝室についても、内装は簡素ながら清潔さが保たれていて、毎日きれいに掃除している事が分かる。

 さすが検閲事務所がお勧めするだけあって、質実剛健な宿屋だ。


「グゴォォォ」


 寝室に入ると、大きないびきが聞こえて来る。

 レオナルフさんの例もあり、4人の相部屋なので覚悟はしていた。


「おや、君もこの部屋に泊まるのか。今日は不運だったな」


 部屋に入るなり、冒険者らしき2人組の先客に話しかけられる。


「はじめまして、セトです。確かにこのいびきは酷いですね」

「俺はリッツオ、こいつはカリナードだ」

「……よろしく」

「グゴォォォ」


 カリナードさんは無口な人の様だ。


 それにしても、いびきが酷い。

 いつもの様に【暗闇】の耳栓を使えば良いが、耳から黒い煙が出ているように見えるため、呪いか何かと勘違いされそうだ。

 それに、全く音が聞こえないのも、いざという時に危ないと思う。

 ここは、違う暗黒魔法で耳栓を作ろう。


【五感消失】

  【消費魔力】 20

  ・対象の感覚の1つを消失または減衰させる。

  ・【五感消失】を重ねて使用することで、複数の感覚を消失・減衰させることができる。

  ・効果時間は永久だが、任意の条件で解除することも可能。


 悪の魔法使いが一国の姫様に呪いを掛けて目を見えなくさせ、解除して欲しければ王家の秘宝をよこせと脅迫する。

 そういった一幕が頭に浮かぶ。

 これまた、人の尊厳を踏みにじる非人道的な魔法だ。


 しかし、これまでの暗黒魔法と同様の柔軟な運用ができるなら、結構便利に使えると思う。

 まずは、自分の聴覚を10秒間ほど減衰させてみる。


 ――【五感消失】


 思った通り、いびきはほとんど聞こえない。

 そして10秒後、聴覚が元に戻る。

 成功だ。

 冒険者の2人にも掛けてみようかと思う。


「リッツオさんとカリナードさん、お話があります」

「何だ?」

「……?」


 リッツオさんとカリナードさんが、少し怪訝な顔をしながら答える。


「私は一時的に聴力を低下させる魔法を使って寝ようかと思いますが、リッツオさんとカリナードさんも如何でしょうか?」

「君は魔法使いだったのか。ここなら襲われる心配も無いし、魔法を掛けてもらおうか」

「……頼む」


 【五感消失】を掛ける前に、使う魔法の説明をしておく。


「この魔法は【五感消失】と言います。魔法を掛けて6時間ほどで解除されますが、自分の手を耳に当てると、すぐに解除できます。まずはお試し下さい」


 そう言って、2人に【五感消失】を掛ける。

 もちろん、効果時間や解除条件の指定も忘れない。


「おお、これはいいな。これでぐっすり眠れるぞ」

「……これはいい」


 効果を実感した2人は、手を耳に当てて魔法の即時解除も確認している。


「眠る前になったら言って下さい。すぐに掛けますので」

「ああ、今日はもう寝るから、今頼む」

「……同じく」


 2人に【五感消失】を掛けたあと、自身にも魔法を掛けて就寝した。


次話は10/2 18時頃に投稿予定です。

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