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58/58

58.邪神ウランカーク

本日で最後の投稿となります。


 邪神ウランカークは長いストレートの金髪をなびかせながら、ホールに入って来た。

 青い瞳と赤く豪奢なドレスに身を包んだ邪神ウランカークは、どこか男を誘うような色気を漂わせた、妙齢の女性だ。

 その邪神ウランカークが、カトルの事を気にも留めずに、こちらへ話しかけて来る。


「あなたがセトねぇ。随分とワタシの楽しみを邪魔してくれたみたいねぇ。ちょぉっとばかり、怒りが湧いてきた所なのよぉ」


 随分と蠱惑的な話し方だが、何故か私の心には全く響かない。

 たぶん、私にはシェリスが居るからかな。

 それにしても、私が邪神ウランカークの邪魔をしたというのは、一体何のことだろうか。

 勇者サトシとヒカリの件は、確かに邪魔だったかもしれないが、その他は身に覚えがない。


「うふふっ、分かってないみたいねぇ。オーガキングへ転生者の魂を植え付けたのも、シャピナ共和国のじじばば達を洗脳したのも、新しき神を作ったのも、みーんなワタシの遊びだったのにぃ」


 この世界に来てから遭遇した事件の大部分は、邪神ウランカークの仕業だったのか!

 普通に人々が暮らしているのに、妙に大事件が多いと思ったら、そういう裏があったとは。

 本当は、もっと平和な世界だったみたいだ。


「なるほど、あなたは本当の意味で邪神だった訳ですか」

「いやん、その呼び方はやめてよぉ。ワタシはそんなに悪い子じゃないわよぉ」


 わざとらしいしゃべり方といい、媚びた仕草といい、分かってやっているとしか思えない。


「そんな事を言いながら、私達を逃がすつもりは無いのでしょう?」


 先ほどから逃げる隙を窺っているが、まったく隙が無い。

 百戦錬磨の武闘家を相手にしている様なプレッシャーを感じる。

 何とかシェリスだけでも逃がしてあげたいが、それすらも許してもらえない感じだ。


「当たり前よぉ、ワタシの邪魔をしたイケナイ子には、お仕置きをしないとねぇ。セトとシェリスには、この世界から消えてもらう事にしたわぁ」


 神族になったというのに、この世界は平和な生活を許してくれないみたいだ。


◇◇◇


 邪神ウランカークとの戦闘は避けられそうにないため、まずは助けを呼ぼう。


『豊穣神ドリート様、逃げるのは一歩遅かったようで、邪神ウランカークと遭遇してしまいました』

『何という事じゃ……。すぐに仲間を集めて助けに行くので、出来るだけ時間を稼ぐんじゃぞい』


 残念ながら、すぐには来てもらえそうにない。

 どこまで対抗できるか分からないが、出来るだけ時間を稼ぐしかないか。


「さぁて、どこまでワタシを楽しませてくれるかしらぁ?」


 その言葉と共に、邪神ウランカークの頭上に大きな火球が出現して、こちらへ襲って来た。


 ゴウッ!


――【消滅】


 襲って来た火球を【消滅】で打ち消した。

 最悪の邪神相手とはいえ、【暗黒魔法】はしっかり効果を発揮してくれる様で助かった。


「うふふ、それが暗黒魔法の【消滅】ねぇ。しっかり覚えたわぁ」


 覚えた?


 とても嫌な予感がするので、すぐさま邪神ウランカークの【ステータス】を確認する。


【ウランカークのステータス】

  【名前】 ウランカーク

  【性別】 女(神族)

  【年齢】 1872

  【職業】 無職

  【体力】 5821/5821

  【魔力】 ∞/∞

  【腕力】 511

  【俊敏】 102

  【知力】 723

  【器用】 118

  【状態異常】 なし

  【能力】 【ステータス】Lv5、【ダメージ無効】、【状態異常無効】、【魔力無限大】、【能力模倣】、【全てを破壊する力】、【完全記憶】

  【賞罰】 堕落の邪神


【能力模倣】

  【消費魔力】 10~

  ・これまでに知覚した能力を模倣し、使用する事が出来る。

  ・知覚することの出来ない効果は、模倣できない。


 これは非常にまずい!

 ステータス値が高いだけでなく、とんでもない能力持ちだ。

 無限の魔力で【消滅】を使われると、どんな物でも消してしまえる事になる。

 何とか【消滅】を使われないように対策しないと、この世界が危ない。


「それじゃ、そこのシェリスには消えてもらいましょうかぁ。【消滅】!」


 邪神ウランカークは、シェリスに対して魔法を放った。


 させるか!


――【消滅】


 シェリスへと向かった魔法は、途中で私の【消滅】により消え去った。

 【消滅】の魔法は使い慣れていて、すぐ発動できたので、何とか間に合った。


「シェリス、大丈夫?」

「だめ、もうダメよ……。邪神に狙われたら、もう助からないの!」


 シェリスは、焦点の合わない目で涙を流しながら、へたりこんでしまった。

 邪神ウランカークの恐ろしさを思い知ったのか、シェリスは絶望してしまったみたいだ。

 ここは、何とかシェリスを守りながら時間を稼ぐしかない。


「うふふ、シェリスの方はいい顔をするわねぇ。それに比べて、セトは生意気なのよぉ!」


 邪神ウランカークは、今度は私の方に向けて魔法を飛ばしてくる。


 バシュッ!


――【消滅】


 何の魔法か分からないが、すぐさま打ち消す。

 このままではジリ貧だ。

 こちらからも仕掛けさせてもらおう。


――【精神異常】


 私達に対しての攻撃を思い留まるよう、邪神ウランカークに精神異常を掛ける。

 永続効果での付与なので、【状態異常無効】では防げないはずだ。


「えいっ、【消滅】っ!」


 私の使った【精神異常】は、邪神ウランカークの【消滅】で打ち消されてしまった!


「んもぅ、危ないんだからぁ。お痛はいけませんよぉ!」


 カウンターとばかりに、邪神ウランカークは巨大な火球を私めがけて飛ばして来る。


 ゴウッ!


――【消滅】


 何とか邪神ウランカークの攻撃を打ち消したが、全く反撃の隙が無い。

 それに、今はまだ油断している様だが、一度こちらの攻撃が当たると本気で攻撃してくるだろう。

 そうなれば、攻撃を防ぐ事すら不可能になってしまう。


「火球が効かないなら、電撃よぉ!」


 火球は効かないと悟ったのか、今度は電撃を放って来た。


 バリバリバリ!


――【消滅】


「ぐっ」


 少し電撃を喰らってしまった。

 火球と違い、電撃は発動速度が速いので、【消滅】での打消しが間に合わない。

 威力の大部分は削げたが、完全に打ち消す事は出来ないみたいだ。


「うふふ、電撃は完全には打ち消せないみたいねぇ」


 私の運命もここまでなのか!

 いや、何としてでも運命を切り開いて見せる!


 ん?

 運命を切り開く?

 私の頭の中に、何かがひらめいた。

 早速試してみる事にする。


――【創造】


 確かな手ごたえと共に、魔法が発動した。

 どうやら、創造神エリクト様からは拒否されなかったみたいだ。


「あらぁ、何をしたのかしらぁ? 何をしたのかちょっと分からなかったけどぉ、もう少し遊んであげるわぁ」


 邪神ウランカークは、そう言いながら火球を私へ向けて放って来た。


 ゴウッ!


――【消滅】


 先ほどまでとは違い、邪神ウランカークから少し隙があるように見える。

 やはり、これなら行ける!


「それじゃぁ、お次はまた電撃ねぇ」


 次は先ほどよりも少し弱めの電撃を放ってくる。


 バリバリバリ!


――【消滅】


「うがぁっ」


 私は、邪神ウランカークの放った電撃の直撃を受けた。



 ……。


 ……。


「……めんね」


 ……。


「ごめんね。セト、ごめんね」


 シェリスの声が聞こえて来る。

 どうやら、少し気を失っていたみたいだ。

 意識が戻ったとはいえ、かなり朦朧としていて、気を抜くとまた気を失いそうだ。


「シェ……リス」


 朦朧とした意識の中で、何とか声を絞り出す。


「セト! 気づいたのね! アタシがもっとしっかりしていれば……アタシにもっと力があれば、こんな事にならなかったのに、ごめんね」


 シェリスは泣いているのか、頬に温かいものを感じる。


「あらぁ、シェリスってばもっと力が欲しいのねぇ。それじゃぁ、ワタシの【能力模倣】をあげるわぁ」


「えっ?」

「えっ?」


 シェリスと邪神ウランカークは、二人そろって疑問の声を上げた。

 それはそうだろう。

 邪神ウランカークの強さの根源ともいえる、【能力模倣】をシェリスに譲ったのだから。


「ちょっと、セトぉ! 何をしたのよ、言いなさいよぉ!」


 ここで初めて、邪神ウランカークは余裕の態度を崩して、叫んできた。

 しかし、今は魔力枯渇で意識が朦朧としているので、叫ばないで欲しい。


「大きい声を……出さないで下さい。魔力の使い過ぎで……また気を失いそうです」

「それなら、ワタシの【魔力無限大】をあげるから、何をしたのか言いなさい!」


 その瞬間、魔力枯渇の苦しみが一気に消え失せた。


「なっ! またっ?」


 ようやく体を動かせるようになったので、邪神ウランカークの方を見る。

 すると、邪神ウランカークは呆然自失の表情で立ち尽くしていた。

 そして、目の前に【ステータス】と似た感じの画面が出ており、そこには見覚えのあるメッセージが表示されている。


 ―― 新たな能力が創造されました。 ――

 ―― 名称を決定してください。 ――


 私は新しい能力に名前を付けた。

 運命魔法、と。


◇◇◇


 気を失っていた間、私はシェリスに膝枕をされていた様だ。

 今さらだけど、人目のある所では少し恥ずかしいので、すぐに起き上がった。


「ねえセト、一体何が起こっているの? アタシ達は生き残れたという事でいいの?」

「うん。もう大丈夫だよ」


 私とシェリスが話していると、邪神ウランカークが気を取り戻した。


「セト、あなたはワタシに何をしたのよぉ!」

「そうですね、順を追って説明しましょう。まず、私は生き残るために2つの魔法を使いました」


 あのとき、1回の魔法が成功しただけでは状況を好転できないと、私は考えた。

 しかし、邪神ウランカークへ2回も魔法を当てる事は不可能だったので、1回は自分に、残り1回は邪神ウランカークへ使う事にした。


「1回目の電撃を防ぎ切れなかった後、私は自分自身に【下級創造魔法】を使いました。その魔法で、私の中に『シェリスを守りながら生き残る』という運命を創り出したのです」


 そう、この魔法が成功したから、邪神ウランカークは遊び心を発揮してしまい、私に生き残る可能性を与えてしまった。

 おかげで、2回目の電撃は私が気絶する程度の弱い電撃になったのだ。


「そして、2回目の電撃を打ち消すと見せかけて、あなたに【消滅】を使いました。あなたの中から『己を犠牲にして、他者を助け続ける』以外の運命を消滅させました」


 ……。

 ……。


 邪神ウランカークとシェリスは、共に絶句している。

 それはそうだろう。

 魔法で運命を変えるなんて、普通は考えないからね。


「結果として私はシェリスを守りながら生き延びる事ができ、あなたは自分の能力を犠牲に私達を助けたという事です」

「そ、そんなぁ……」


 邪神ウランカークは絶望した表情をしながら、その場で崩れ落ちてしまった。


 その時、目の前の空間が歪み、転移門が開いた。

 その中から、2人の男性が出てくる。


「セトよ、助けに来たぞい!」

「セト、俺が来たからにはもう安心しろ!」


 転移門から出て来たのは、豊穣神ドリート様と、創造神エリクト様だった。

 どちらも初めて会ったけど、話し声からして間違いない。


「……なあセト、この状況を俺に分かる様に説明してくれないか?」


 そして、状況を確認した創造神エリクト様は、困惑した様子で説明を求めて来た。

 その気持ちはよく分かる。

 私達が危機だと知って駆けつけたら2人とも無事で、逆に邪神ウランカークの方が絶望に浸っていたのだから。


 私は事の成り行きを2人に詳しく説明した。

 それと、助けを求めておいて、自分達で何とかなりましたという事になるので、そのお詫びも併せてしておいた。


「なるほどな。それはウランカークも絶望するな。俺だって同じ事をされたら絶望する」

「ワシはシェリスとセトが無事なら、それだけで嬉しいぞい!」


 二人とも納得してもらえた様で、良かった。


「それにしても、ウランカークを1人で倒すとは、セトはもう俺の手助けなんて不要だな。今後は運命神を名乗ると良い。セトに与えた創造魔法も、俺の承認が不要な【上級創造魔法】に変えておいてやる」


 どうやら、能力だけでなく神族としての職業も創造してしまったみたいだ。

 そして、今回は能力の管理権限を引き取ってもらえなかった。

 責任をもって管理しろという事らしい。


「豊穣神ドリート様、創造神エリクト様、邪神ウランカークはどうしましょうか」

「そうだな。俺はしばらくこのままで良いと思うぞ。放っておくだけで人助けになるからな。そのうち反省したらセトの所に連れて行くから、その時はもう少しマシな運命を与えてやってくれ」

「ワシもそれで良いぞい」

「分かりました。邪神ウランカークについては、お任せします」


 話が一区切りついたので、豊穣神ドリート様と創造神エリクト様は、邪神ウランカークを連れて去って行った。

 邪神ウランカークは、心ここにあらずといった感じで連行されている。

 


「さて、シェリス、トーヤ、ミルス、みんな家に帰ろうか!」


◇◇◇


 王都プロイデンにある運命神の神殿には、今でも運命神が住みついているという。

 しかし、その神殿があるとされる場所へ行っても、少し豪華な民家が建っているだけで、神殿らしきものはどこにも見当たらず、落胆する者が後を絶たないらしい。


「セト様、今日も怪しい人たちが家の周りを探索しています。ミルスが追い払ってきましょうか!」

「いや、放っておいてもいいよ。しばらくしたら、いつもの様にあきらめて帰るだろうからね」


 どうやら、今日も平和な1日になりそうだ。


 これまで、『暗黒魔法使いは平和を望む』を読んで頂き、ありがとうございました。

 58話にて、本作は完結となります。

 ストーリーも文章力もダメダメな本作でありますが、最後まで読んで頂きとても感謝です。

 次回作は考えていませんが、もし書くとすればもう少しストーリーを練って面白い作品にしたいなと思っています。


 それでは、皆様お元気で!

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