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56.邪教

 本日も1話のみの投稿です。

 シェリスが行方不明になった翌日、私は豊穣神ドリート様に連絡を取った。


『豊穣神ドリート様、シェリスが行方不明なのですが、心当たりは無いでしょうか』


 すると、すぐに豊穣神ドリート様から返事が返って来た。


『おお、この声はセトじゃの。久しぶりじゃぞい。シェリスと喧嘩でもしたのかのう?』

『いいえ、昨日まではいつも通りでした。急に居なくなって、念話も通じないのです』


 シェリスが帰ってこないので、昨日のうちから念話で連絡を取ろうとしたが、全く音沙汰無しだった。

 何か、とても嫌な予感がしてならない。


『ワシも嫌な予感がするぞい。他の神々にはワシから連絡するので、セトも心当たりを探して欲しいぞい』


 心当たりと言われても、特に思い当たる節は無い。

 いや、そういえば、魔王クリムアイズ様から忠告があった。

 新しき神々が、シェリスと言う名の少女を襲っているのだったな。

 ただの人族がシェリスをどうにかできるとは思わないが、当たってみる価値はあるだろう。


『わかりました。私の方でも探してみます。そちらの方は、よろしくお願いします』


 すぐにでも取り掛かりたいが、問題はどうやって新しき神のメンバーを探し出すかだ。

 新しき神は秘密結社の様に、メンバーはその素性を隠して生活しているらしい。

 これが犯罪集団だったら、【ステータス】で見分けられるので、少しは探しやすいのだが。


 ここはやはり、セオリー通りにシェリスの足取りを追っていく所から始める事にしよう。

 途中で怪しい人を見かけたら、【ステータス】で鑑定して行けば、何か見つけられるかもしれない。


◇◇◇


 シェリスの足取りを追っていくと、まず魔導ギルドへ行った後、生産ギルドへ向かった事が分かった。

 その時、生産ギルド員を名乗る男が、シェリスへ何かを伝えていたらしい。


 生産ギルドへ行く途中、何者かの視線を感じた。

 監視でもされているのだろうか。

 今は少しでも情報が欲しいので、監視員から情報を頂く事にしよう。


 私は人気のない裏路地に入り、監視員を誘い込む。

 すると、私を監視していたのであろう謎の男が、目の前に現れた。


「私に何か用でしょうか?」


 私がそう尋ねると、謎の男は少し緊張した面持ちで、答えて来る。


「暗黒神よ、お前の妻は預かった。返して欲しくば……」


 謎の男は、言葉を全て言い切る前に、表情を失って立ち尽くしてしまう。

 これは、私が【精神異常】の魔法で【自白】の状態異常を付与したからだ。

 シェリスの事を知って居そうな相手が、自分の方から出向いてくれたのだ。

 この機会に、知っている事を洗いざらい話してもらおう。


「何の目的でシェリスを連れ去ったのですか?」

「それは、お前を我々の総本山へ誘い込むためだ」


 なるほど、シェリスを連れ去ったのは私を誘い出す罠だった訳か。

 それにしては、シェリスが簡単に連れ去られるとは思えない。


「どうやってシェリスを連れ去ったのですか?」

「魂封じの水晶を使った」


 名前からすると、対象の魂を閉じ込める魔導具なのだろう。

 シェリスは油断していたのだろうが、恐ろしい魔導具だ。


「それは、たくさんあるのでしょうか?」

「いや、神授の秘宝で、一つしかないと聞いている」


 さすがに、神族の魂ですら閉じ込められる魔導具だけあって、量産はできないか。

 一つしか無くて助かった。

 それに、シェリスが死んだりしている訳では無くて、一安心だ。


「それで、私を総本山へ誘い込んで、どうするつもりなのですか?」

「お前を殺して、その功績で我々が神族になるためだ」


 さすが新しき神といった所か。

 魔王クリムアイズ様だけでなく、私もターゲットにするとは、迷惑な話だ。

 シェリスを取り戻したら、シェリスと二人で新しき神を徹底的に潰そうと心に誓う。


 その後、新しき神の総本山の場所や、仕掛けられている罠等を聞き出した。

 ただ、私を殺す方法については知らされていないらしく、答えは得られなかった。


 謎の男には、ミッションが成功したという偽の記憶を植え付けてから解放した。


◇◇◇


 新しき神の総本山は、王都プロイデンから南に船で6日ほどの場所にある。

 私とトーヤ、ミルス、シュリさんの4人で乗り込むことにした。

 もちろん、船ではなく飛行船のルナを利用して、空から乗り込む事になっている。

 トーヤとミルスは小型のナイフ、私は久遠のショートソードを装備した。


 私への罠として、魔法が使えなくなる結界が張られているらしいので、トーヤとミルスに付いて来てもらった。

 トーヤは姿を隠せるので、奇襲する事もできるだろう。


「大きな建物ですね。僕達がお邪魔していた王城くらいの大きさはありますね」

「あの中にシェリス様が居るのですね。ミルス頑張ります!」


 トーヤとミルスは、シェリスの事を姉の様に慕っているので、行方不明になった時はお通夜の様に沈んでいた。

 そのシェリスを助けに行くのだから、二人とも気合十分だ。

 運転手役で付いてきたシュリさんだけは、ルナで留守番だ。


 ルナで建物の屋上に降り立った。

 魔法は使えないが、魔導具には影響が無い様で、ルナの運航には支障が出ていない。

 私達が降りた後、ルナには空中で待機していてもらう。


「さあ、シェリスを取り戻しに行こうか!」


 さすがに屋上から攻めて来るとは予想していなかったらしく、警備は手薄だ。

 屋上には3人の警備兵が居たが、神族になってステータスの上昇した私の敵では無かった。

 3人とも、久遠のショートソードで切って捨てる。

 私を殺そうと襲ってくるのだから、殺されても文句は言わせない。


 まずはトーヤに館内を探索してもらい、シェリスの居所を突き止める。

 その間、私とミルスは下の階を目指して降りて行く。

 内側からカギがかけられている場所もあったが、ミルスに壁抜けしてもらい、中から鍵を開けてもらう。


 そうして進んでいると、体育館程ある大きなホールに出た。

 壇上には黒いローブを来た白髪の男が立っており、その目の前のテーブルにはシェリスが横たわっている。

 その周りには、精緻な魔方陣が描かれており、青白く光っている。


◇◇◇


 私とミルスがホールに出ると、男が大きな声で話しかけて来た。


「俺は新しき神の教主、カトルだ。よく来たなセトよ! いや、暗黒神シェリスと呼んだ方が良いか?」


 私がシェリス?

 そういえば、王都プロイデンで出会った謎の男も、私の事を暗黒神と呼んでいた。

 色々と問いただしたいが、相手にはシェリスを人質に取られているので、下手な事はできない。

 ひとまず、話を合わせながら隙を窺おう。


「私が暗黒神? 何の事ですか」

「隠しても無駄だよ、お前の秘密は全て知っている。自分と同じ名前の妻を娶った事で、隠しきれたとでも思っているのか?」


 何をどう勘違いしたのか知らないが、どうやらカトルは私の事を暗黒神シェリスだと信じ切っている様だ。

 色々とツッコミたいが、このまま勘違いしていてもらおう。

 カトルの前に横たわっているのが暗黒神シェリスだと知れると、シェリスが殺されかねない。


「くっ、なぜ私の正体が分かったのですか」

「ふっふっ、サトシの能力をはく奪したのはマズかったな! 暗黒魔法で能力をはく奪なんてできるのは、暗黒神しかおるまい!」


 その話を聞いた瞬間、吹き出しそうになった。

 たったそれだけの事で、私を暗黒神と勘違いしたのか。

 そこでふと思い至る事があった。


 私には【ステータス】Lv10の能力があるので、人や物の情報を簡単に知る事ができる。

 しかし、他の人々はそうはいかない。

 偽名を使われれば騙されるし、偽物を売りつけられてもなかなか気づけない。


 同じように、魔法を無効化する魔導具があっても、何も言わなければそうと気づかれる事はない。

 つまり、情報網の発達していないこの世界では、重要な装置や道具を隠す必要性は低いのだ。


 辺りを見回すと、それはカトルの背後にあった。

 一見すると、ただの緑色な燭台に見えるが、【ステータス】では次のようになっている。


【燭台の鑑定結果】

  【名称】 魔法食いの燭台

  【等級】 神授級

  【特殊能力】

    ・ロウソクに火を灯している間、半径300mで魔法を使えなくなる。


 やっと見つけた!

 何とかしてあの燭台を壊せば、魔法が使える。

 そう思っていると、カトルがまた話を始めた。


「くっくっく、お前はここで何もできずに殺されるのだ」


 神族は、死んでも数日で生き返ると言うのを知らないのだろうか。

 それとも、何か方法があるのか?


「何をするつもりですか」

「お前の魂を、この娘に強制降臨させるのだよ。その後で、この娘ごとお前を殺してやろう」


 よりにもよって、シェリスを殺すだって?

 そんな事は絶対に許さない!

 しかし、強制降臨は使えるかもしれない。


 私は、焦った様子を演技しつつ、カトルに向かって走り始める。


「俺に向かって来るか。しかし、もう遅い! 【強制降臨】」


 カトルが叫ぶと、テーブルとシェリスが光りはじめる。


「さあ、暗黒神シェリスよ、この娘に降臨するがよい。ただの町娘に成り下がった暗黒神なんぞ、俺の敵ではない!」


 光が収まると、シェリスは体を起こし、少し眠そうな顔をこちらへ向けてくる。

 よし!

 私の思惑通り、カトルはシェリスの体へ暗黒神シェリスの魂を降臨させた。

 つまり、シェリスが元に戻ったのだ!

 ここからは時間の勝負だ。


「トーヤ、カトルの後ろにある緑色の燭台です!」


 私がそう叫ぶと、隠れていたトーヤが姿を現し、魔法食いの燭台を叩き切る。


「なにっ!」


 突然の事に、カトルは反応できない。

 その間に、私はカトルへと迫る。


「クソッ、なぜ失敗した! こうなればお前の魂を封じるまでよ!」


 カトルはそう言いながら、懐から水晶球を取り出す。


【水晶球の鑑定結果】

  【名称】 魂封じの水晶

  【等級】 神授級

  【特殊能力】

    ・対象の魂を封じる事ができる。

    ・対象に制限は無い。


 これがシェリスを封じていた水晶か。

 こんな危険な魔導具は、すぐ壊すに限る。


――【消滅】


「さあ、この者の魂を封じろ!」


 カトルが叫んでも、何も起きない。


「なんだ、何故何も起きない!」


 さっきの魔法で、水晶球から魂を封じる効果を消滅させたのだ。

 もう、ただの水晶球だ。


◇◇◇


「さて、あなたの後ろ盾について、話してもらいましょうか」


 無事にシェリスを取り戻した後、私とシェリスはカトルへの尋問を始めた。


「う、後ろ盾……何のことかな?」


 とぼけても無駄な事は知っているだろうに。


「魂を封じる魔導具や、神族を強制降臨させる魔導具なんて、あなた方が入手できるとは思えません。だれか神族が後ろ盾になっているんでしょう?」

「う、う……」


 何も言い返してこないという事は、図星という事だろう。

 【精神異常】で無理やり聞き出そうと思っていた時、豊穣神ドリート様から念話が届いた。


『セトよ、今すぐ逃げるんじゃぞい!』


 逃げる?

 もうシェリスは取り戻したし、カトルも捕らえたので、逃げる必要は無いだろう。


『豊穣神ドリート様、シェリスは無事に取り戻しましたので、ご安心下さい』


 すると、豊穣神ドリート様は焦った様子で話を続けて来る。


『今回の事件の背後には、邪神ウランカークが居るのじゃぞい! セト達では敵わんから、今すぐ逃げるんじゃぞい』


 邪神ウランカークというと、シェリスでも勝てないというあの邪神か。

 確か、重度の引きこもりだった筈だ。


「あらぁ? カトル、失敗したみたいねぇ」


 逃げようかと考えていたところ、ホールの中に女性の声が響いてきた。


「ウランカーク様!」


 カトルが声を出した先を見ると、豪奢なドレスに身を包んだ妙齢の女性が立っていた。


 邪神から逃げるには、一足遅かったみたいだ。


 次話は4月2日に投稿する予定です。

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