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56.魔王様の結婚

 本日も1話のみの投稿となります。

 魔王クリムアイズ様から結婚式の招待状が届いた。

 エンシェントドラゴンに進化できたことで、無事に婚約できたらしい。

 その立役者でもあるセトには、ぜひ参加して欲しいと書かれていた。

 もちろん、喜んで参加する事にした。


 そして、結婚式の当日。


「新郎クリムアイズ、あなたはスノーティナを妻とし、一生愛する事を慈愛神サラシャ様に誓いますか」

「ああ、誓う」

「新婦スノーティナ、あなたはクリムアイズを夫とし、一生愛する事を慈愛神サラシャ様に誓いますか」

「はい、誓います」


 新郎のクリムアイズ様は、燃えるような赤い髪と大柄な体格で、少しばかり荒々しい印象を受ける。

 それに比べ、新婦のスノーティナさんは、純白の長い髪に華奢な体つきで、さながら美女と野獣といった様相だ。

 しかし、そこには隠し切れない気品が漂っているので、とてもいい絵になっている。


「クリムアイズ様、カッコイイですね」

「スノーティナさんも綺麗です。ミルスは、あこがれてしまいます」


 トーヤとミルスが、新郎新婦に見惚れている。

 そんなにあこがれているなら、ミルスとトーヤで結婚式をすればいいと思う。

 トーヤも最近になって実体化できるようになったので、二人とも普通に結婚式を挙げられる筈だ。

 私とシェリスの結婚式も、準備は少し大変だったけど、とてもいい思い出になった。


「セト、何を考えているの?」

「シェリスとの結婚式を思い出していたよ」

「ふふ、アタシもよ」


 そういうと、シェリスは顔を俯けてしまった。


「……ねえ、セト?」

「どうしたんだい?」

「セトは……、アタシと結婚して良かった?」


 シェリスは、いつもの朗らかな笑顔ではなく、少し不安の混じった顔をして聞いてきた。

 私と会う前の寂しい時代を思い出してしまったのだろうか。


「うん、シェリスと結婚できて、とても幸せだし、良かったと思っているよ。急にどうしたのさ」

「人族だったセトが神族になって、創造神だなんて存在になってしまって、もしかしてアタシは要らなくなるんじゃないかって、最近不安になるの……」


 やっぱり、ちょっと昔を思い出して、不安になってしまったみたいだ。

 シェリスが要らなくなるだなんて、思い過ごしにも程がある。

 今は人目があるので自重するけど、思わず抱きしめたくなってしまう。


「大丈夫、居なくなったりしないよ。シェリスの方こそ、居なくならないでね」

「うん! セト大好き!」


 シェリスはそう言うと、腕に抱きついてきた。

 やっぱり、好きな人と一緒に居られるのが一番幸せだね。


◇◇◇


 クリムアイズ様の結婚式と披露宴が終わった夜、私とシェリスはクリムアイズ様の私室にやって来た。

 披露宴ではゆっくりと話す事が出来ないので、全てが終わった後に一席設けてもらったのだ。


「今日はよく来て下さいました……よく来てくれたな」


 クリムアイズ様とスノーティナ様は私服に着替え、くつろいでいた。


「本日はお招き頂き、ありがとうございます」

「い、いや、世話になったセト様……セト殿のためだ、気にするな」


 私とシェリスが挨拶すると、クリムアイズ様は緊張しながら話を続けてくる。

 スノーティナさんは、そんな様子を不思議がりながら見ている。

 マルセン陛下やローレン様は、私達を前にしても普段通りの態度なので、こういった対応は少し困ってしまう。


「クリムアイズ様、以前もお話しましたが、私とシェリスは人族として暮らしていますので、普段通りに接して頂けると有難いです」

「う、うむ、そうであったな……」

「あなた、どういう事ですの?」


 クリムアイズ様は、私やシェリスの事について、スノーティナさんには伝えていない様だ。

 私やシェリスの正体については、プロイタール王家や家臣の人達には知れているし、そこまで秘密にしている訳でもないので、伝えてもらっても構わないだろう。


「私とシェリスの事について、スノーティナさんに伝えて頂いても構いませんよ?」

「そ、そうか。実はだな、セト殿は創造神様で、シェリス夫人は暗黒神様なのだ……。その御業のおかげで、ワシはエンシェントドラゴンに進化する事ができたのだ」

「やはり、そうだったのですね。クリムアイズが急にエンシェントドラゴンに進化したので、神様の仕業に違いないと思っていた所でしたわ」


 スノーティナさんは、特に驚いた様子もなく自然に受け入れている。

 どうも、私達が普通の人族ではないと予想できていた様だ。


「あなた、そろそろしっかりして下さいな」

「……そうだな。いつまでも無様な格好をしていると、国民に示しがつかんな」


 スノーティナさんに言われ、クリムアイズ様はようやく気を取り直した。

 結婚初日にして、クリムアイズ様とスノーティナさんは息ぴったりな夫婦だ。

 創造神としての初仕事だったけど、うまくいって本当に良かった。


 それからは、クリムアイズ様の緊張も解けて、和気あいあいとした夕食となった。

 私が異世界からやって来た時のエピソードや、私とシェリスの馴れ初めを話した。

 特に、私の一言でシェリスが追いかけて来た話がスノーティナさんに大受けだったらしく、シェリスはスノーティナさんから質問攻めにされてしまった


「セト殿とシェリス夫人よ、少し真面目な話になるが、よいか?」


 話が一段落した頃、クリムアイズ様が急に真面目な顔をして聞いてきた。

 何かやって欲しい事でもあるのだろうか。


「はい、何でしょうか」

「ここ最近、シェリスという名の少女が相次いで失踪しているのだ。どうやら、裏には新しき神が関係しているらしい。セト殿とシェリス夫人は大丈夫だと思うが、念のため気を付けてくれ」


 また新しき神が暗躍しているのか。

 そろそろ何か対策を考えないと、私達の平和な暮らしが脅かされそうだ。


「普通の人族がアタシに何かできるとは思えないわ。アタシを何とかできるのは、一部の上位神や邪神だけね」

「シェリス夫人よ、邪神と言うのは?」

「邪神と言うのは、神族の中でも人族に害をなす犯罪者の事よ。ただ、その力は強大なので、アタシでもちょっと勝てないわね」


 さすがのシェリスでも、勝てない神族は居るか。

 もし邪神に襲われたら、真っ先に逃げて創造神エリクト様や転生神ネフリィ様に相談しよう。


「そんなのに襲われたら、ワシらは一瞬であの世行きだな」

「大丈夫よ、邪神はアタシよりも引きこもりなの。まず会うことは無いから安心していいわ」

「そうか、それなら一安心だな」


 話の区切りも良い事なので、この辺りで退室する事にした。

 あまり遅くまで居るのも、迷惑になるからね。


◇◇◇


 魔王様の結婚式と披露宴も無事終わり、私達は飛行船ルナに乗ってプロイタール王国へ戻って来た。

 翌日、私は王城、シェリスは魔導ギルドへ行く事になった。


 私の方は、飛行船による旅客運行の商売をしようと思ったので、その事について王家と相談するためだ。

 シェリスの方は、魔導ギルドから呼び出しがあったので、そちらへ行くことになった。

 王城へ一人で行くのは、久しぶりだ。


「今日はセト一人か。シェリスはどうした?」


 王城へ行くと、ローレン様は開口一番にシェリスの事を聞いてきた。


「シェリスは魔導ギルドから呼び出しがあったので、そちらへ行っています」

「そうか、仲違いしたのでなければいい。お前達が夫婦喧嘩を始めると、王都が消え去ってしまうからな」


 ローレン様も、たまには冗談を言う様だ。

 いくら何でも、私とシェリスが喧嘩したからと言って、王都が消え去ったりはしない……はず。


「それで、今日は飛行船を使った商売の話という事だが、わざわざ私に相談しに来るとは、どういう事なのだ?」

「王都内を巡回する定期便については、都市内への直接乗り入れを許可頂きたいと思い、お願いに来ました」


 利便性を考えると、直接乗り入れは必須だ。

 しかし、防犯上等の理由から、無断でやる訳にはいかない。


「ふむ、都市内同士で行き来するなら、問題無いだろう。都市外で人を乗せての都市内乗り入れは禁止だ」

「わかりました。やむを得ない理由で都市外の人を乗せた場合、旅客は通行門前で降ろす事にします」

「うむ、そうしてくれ」


 王家から許可を貰えたので、明日から本格的に動き出そうと思う。

 飛行船の建造はもとより、発着場の土地買い取りや整備、人員の確保とやる事は盛り沢山だ。

 それでも、人が空を飛ぶという夢が実現できるなら、やる価値は大きい。

 創業資金はアースドラゴンの死骸を売れば、十分賄える。

 事業が軌道に乗れば雇用の創出になるし、私やシェリスが居なくてもイツクシマ家を維持できるようになるだろう。


「セトよ、一つ相談があるのだが……」


 話が終わったので退室しようと考えていると、ローレン様から相談話を切り出される。

 厄介な話でなければ嬉しいのだが。


「はい、どのようなご相談でしょうか」

「王家の飛行船に使う浮遊金属なのだが、あと3倍ほど調達できないだろうか」


 王家の飛行船を量産でもするのだろうか。

 それにしては、計4台分というのは多すぎる。

 ここは理由を確認しておこう。


「できない事はありませんが、理由を聞かせて頂いて構わないでしょうか?」

「うむ。快適な空の旅を実現しようとしたあまり、船体を大きくしすぎて速度が出ないのだ」


 なるほど。

 機能を詰め込み過ぎたか、搭乗人員を多くし過ぎたといった所か。

 まあ、王族が乗るのだから、威風堂々とした船体も悪くない。

 それよりも、魔力の供給は大丈夫なのだろうか。


「そういう事であれば構いませんが、浮遊金属を増やすと消費魔力が多くなりますよ?」

「それについては問題ない。大型の魔結晶があるし、複数の魔法使いが乗り込む事になっている」


 そういう事なら大丈夫だろう。

 追加した浮遊金属の代金は、飛行船発着場の整備にでも使うとしよう。


「わかりました。追加の浮遊金属は生産ギルドへ届けておきます」

「助かる」


 飛行船事業の目途が立ったので、意気揚々と自宅へ戻った。

 新事業の立ち上げに浮かれていたという事もあり、少し油断していたのかもしれない。


 その日、シェリスは家に帰って来なかった。


 次話は3月26日に投稿する予定です。

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