55.間違いだらけの勇者様
本日は1話のみの投稿となります。
クリムアイズ様を進化させた後、自宅に戻って一息つく事にした。
クリムアイズ様と側近の方には何とか落ち着いてもらい、今は一緒に紅茶を飲んでいる。
そんな時、来客を知らせるベルが鳴った。
「はい、どなたですか?」
そう言いながら玄関の扉を開けると、そこには2人の少年少女が立っていた。
少年の方はツンツン黒髪で、目つきがやや鋭い。
少女の方は淡い緑色をした髪をポニーテールにしており、活発そうな雰囲気をしている。
どちらも17~18歳ほどで、見た目は私と同年代だ。
「アンタがセトか? 俺はサトシ、異世界人だ。」
「アタイはヒカリっていうんだ。よろしくね!」
この世界に来て初めて同郷の人に会ったが、何となく面倒事になりそうな気がする。
「はあ。それで、どういった御用でしょうか」
「噂で聞いたんだけど、アンタは飛行船を開発したそうじゃないか。俺達にも作ってくれよ。金ならあるからさ」
「そうそう、サトシはお金持ちなんだよ!」
気軽に行ってくれるが、飛行船はそう簡単には作れない。
ここは、王家との取り決め通り、まずは許可を取ってもらおう。
「それならば、まず王家から許可を貰って来てください。話は、それからですね」
「ハァ? 断られたから、わざわざここへ来たに決まってんだろ。アンタは、黙って俺に飛行船を作ればいいんだよ! 作るのが駄目なら、アンタの飛行船を貸せや」
思った通り、面倒な事になって来た。
それにしても、人にものを頼む態度とは思えないな。
まあ、引き受ける義理は無いので断ってしまおう。
「規則を破ってまであなたに手を貸す理由はありませんね。そもそも、一体何のために使うと言うのですか」
「何のためだって? 俺は魔王を倒して神になってやるんだ。つべこべ言わずに、さっさと飛行船を出せよ!」
しつこいと思ったら、どうやらサトシは『勇者』だった様だ。
もちろん、こっちの世界に来た時に聞いた、悪い意味での『勇者』だ。
それにしても、魔王を倒して神になるなんて、新しき神の関係者か?
「セト、騒がしいけど大丈夫?」
騒がしくしたからか、家の中からシェリスやクリムアイズ様が出て来た。
それを見たサトシが、シェリスやクリムアイズ様に向かって無理な事を言い始める。
「アンタ達もセトに何か言ってくれよ。俺が魔王を倒すために飛行船を貸してくれと頼んでるのに、コイツは規則だからダメと言って、聞いてくれないんだ」
「そうよ! アタイ達は正義の勇者なんだから、言う事聞いてくれるように言ってよ」
いくら何でも、魔王のクリムアイズ様を前にしてそんなお願いをするのは、駄目だと思う。
クリムアイズ様も目が点になっている。
シェリスなんて、哀れな小動物を見るような目でサトシを見ている。
「セト、なにこれ?」
「新しき神の関係者みたいなんだけど、飛行船を貸せとしつこくてね」
「アンタ、新しき神を知ってんのか。なら話は早い、俺に逆らわない方が良いぜ。俺は魔王を倒して神になるんだからな」
やはり、新しき神の一員だったみたいだ。
こうなると、異世界人が『勇者』になるのは、新しき神が裏で手を引いている可能性がありそうだ。
後で宰相のローレン様に報告しておこう。
「魔王様を倒したら神になれるなんて世迷言を信じるとでも思っているのですか? それに、もしあなたが神になっても、私には怖がる必要なんて皆無ですけどね」
こちらには、神族ですら恐れる暗黒魔法使いが2人も居るからね。
もし何かの間違いでサトシが神族になったとしても、返り討ちだろう。
「くっそ、下手に出たらいい気になりやがって!」
そろそろ相手をするのが面倒になって来たと考えていると、サトシがこちらに向けて剣を抜いてきた。
「現地人風情が、異世界人の俺に逆らって生きて行けるとでも思ってんのか? もう泣いても許さんぞ、アンタらを殺して飛行船を奪い取ってやる!」
何故そうなった。
◇◇◇
異世界人のサトシから魔王を倒すから飛行船を貸せと言われて、断ったら剣を向けてきた。
もう本当に意味が分からない。
「私はこれでもこの国の貴族なんですよ。そんな事をしてタダで済むと思っているのですか?」
「フン! 俺は異世界人だ。何をやっても許されるんだよ!」
いくら異世界人とはいえ、罪を犯せば罰せられる事に変わりは無い。
そんな事も分からないほど、頭のネジが緩んでいるのだろうか。
とりあえず適当に戦って、目撃者が揃ったら眠ってもらう事にしよう。
『シェリス、悪いけどトーヤとミルスに衛兵を連れ来るように頼んできてくれる?』
『分かったわ。大丈夫だと思うけど、気を付けてね』
【暗黒空間】から久遠のショートソードを取り出し、構える。
ボゥ!
すると、目の前に火球が飛んでくる。
なっ!
急いで消さなければ!
――【消滅】
火球に気を引かれている間に、サトシが剣を振り下ろしてきた。
ギィン!
剣をはね上げ、サトシの剣を何とか止める事に成功した。
神族になって身体能力が上がっていて助かった。
ボゥ!
サトシの剣を捌いたかと思ったら、また目の前に火球が飛んでくる。
――【消滅】
火球を掻き消すと、またサトシの剣が襲ってくる。
ギィン!
この二人の同時攻撃は、かなり厳しい。
サトシの剣は、身体能力の差で何とかなるものの、ヒカリの無詠唱魔法が厄介だ。
そう思っていると、サトシは攻撃の手を止めて、こちらに話しかけて来た。
「さすがのセトも、この二人が相手じゃ太刀打ちできないだろう! 特にヒカリは4属性魔法の全てをLv6まで使えるからな。セトの暗黒魔法なんて足元にも及んでないんじゃないか?」
くっ、ヒカリの魔法は火魔法だけじゃないのか。
それにしても、攻撃の手を止めてまで安っぽい挑発をして来るとは、何のつもりだろう。
余裕のあるうちに、サトシの【ステータス】を確認だ。
【サトシのステータス】
【名前】 サトシ
【性別】 男(人族)
【年齢】 18
【職業】 剣士
【体力】 130/130
【魔力】 114/114
【腕力】 52
【俊敏】 31
【知力】 24
【器用】 41
【状態異常】 異常なし
【能力】 【ステータス】Lv2、【能力強奪】、【剣術】Lv7、【体術】Lv6、【光魔法】Lv3、【神聖魔法】Lv4、【風魔法】Lv3、【火魔法】Lv4、【水魔法】Lv3
【賞罰】 貴族に対する殺人未遂
おっと危ない。
【能力強奪】は、能力名と能力Lvを指定することで、相手の能力を強奪できるらしい。
しかし、能力名と能力Lvのどちらかを誤ると、能力の強奪は行えず24時間は【能力強奪】できないペナルティ付きだ。
これを使うために、安っぽい挑発で私の能力Lvを暴こうとしたのか。
――【精神異常】
サトシに『【能力強奪】の使用をためらう』という状態異常を付与しておいた。
これで一安心だ。
「そんな安っぽい挑発に乗って能力Lvを喋ると思いますか?」
「くっ! 知っていたか!」
ブンッ!
ピキィン!
今度は、サトシの剣とヒカリの氷槍が同時に襲ってくる。
――【消滅】
ギィン!
慌てず落ち着いて、サトシの剣を受けつつ魔法を掻き消す。
ヒカリの魔法発動タイミングも掴めてきて、安定して攻撃を捌けるようになってきた。
そして数分経った頃、トーヤの叫びが聞こえて来た。
「セト様、大丈夫ですか!」
ようやく、トーヤとミルスが衛兵を連れて来てくれた様だ。
これで証人ができた事だし、そろそろこの戦闘を終わらせよう。
――【精神異常】
ドサリ。
まずは、ヒカリに昏睡の精神異常を与え、昏倒させる。
「ヒカリ! ヒカリ! てめぇ、ヒカリに何をした!」
――【精神異常】
ドサリ。
サトシも、同様に昏倒させる。
二人とも、しばらく眠ってもらおう。
その後、到着した衛兵に2人を引き渡し、事件の報告をするために王城へ向かった。
◇◇◇
王城へ行き、国王のマルセン陛下と宰相のローレン様に事の顛末を報告すると、2人とも大激怒してしまった。
異世界人と言う事で今までは大目に見ていたが、さすがに限度を超えたみたいだ。
そして、サトシとヒカリの判決は国外追放に決まった。
さらに、今回の特例として、国外追放の前に2人の能力をはく奪する事になった。
念のため、転生神ネフリィ様に転生特典をはく奪しても良いかと確認したところ、『命を助けるだけでも温情、好きにせい』とのお言葉を頂いた。
さすがの転生神ネフリィ様も、頭に来ていたみたいだ。
あの異世界人2人の処遇が決まったので、私とシェリスは能力をはく奪するために地下牢獄へやってきた。
本当は刑の執行なんてやりたくないが、能力をはく奪出来るのは私とシェリスだけなので、仕方ない。
「何の用だ? 俺を笑いにでも来たのか? まったく暇なもんだな」
国外追放の判決は既に伝えられている筈だが、サトシは、意外にも余裕のある態度だ。
「いえ、あなた達への刑を執行しに来たのですよ」
「俺達への刑は国外追放だろ? アンタの出る幕じゃねえよ。それより、覚えてろよ、次は絶対に後悔させてやるからな」
サトシは不敵な笑みを浮かべながら、言い返してきた。
やはり、【能力強奪】なんてチートな能力を持っていると、いくらでもやり直しが出来ると思っているのだろう。
しかし、もう『次』なんて無い。
「次なんてありませんよ。今回の特例として、あなた達2の能力をはく奪します。私には、それを出来る能力があります」
そう伝えると、サトシはピクリと眉を動かした。
「一体何の権限があって、俺の能力をはく奪するんだ? 俺の能力は転生神様からの授かりものだぞ、転生神様を敵に回すつもりか?」
虚勢を張ってはいるが、サトシの声には多分の焦りが含まれている。
「もちろん、転生神ネフリィ様から許可を頂いていますよ。それに、神族を敵に回しているのは、あなた達の方ではありませんか」
「俺達が神を敵に回しているだって? 寝言もたいがいにしろや!」
ここまで言っても気づいていないとは、本当に愚かな事だ。
そろそろ、サトシ達には状況を分かってもらおう。
「まだ気づいていないんですか。あなた達2人は、神族である私に刃を向け、敵に回したではありませんか」
私の言葉に、思い当たる節があったのだろう。
サトシとヒカリは、徐々に顔を青ざめさせていった。
「し……知らなかったんだ。そうだ、知らなかったんだ。だから、能力はく奪だけはお許しください」
サトシは顔を青ざめさせながらも、見苦しい言い訳を続ける。
「もう決まった事です。素直に受け入れてもらいましょう」
「この能力が無くなったら、俺……いや私はどうやって生きていけばいいのですか!」
本当に見苦しい。
そして自分勝手な言い分だ。
「その言葉、あなたが能力を奪ってきた人達に言うと、何と答えてくれますかね?」
サトシは顔に絶望を浮かべ、黙ってしまった。
思った通り、サトシは罪のない人達から能力を強奪してきた様だ。
これからは、その罪を償いながら生きて欲しい。
――【消滅】
サトシの中から、【ステータス】以外の能力を全て消し去った。
ヒカリの方はシェリスに任せていたが、あちらも終わった様だ。
「ハハハ、終わりだ。アンタらはもう終わりだ! ここで話した事は全部教主様へ届けた! これでアンタらの秘密は全部筒抜けだ! アハハハ」
能力の消去を終えた後、サトシは感情の籠っていないかすれた声で笑い始めた。
よく見ると、サトシは青白く光る小石を手に持っている。
恐らく、それが教主様とやらとの通信に使う魔導具なのだろう。
まあ、ここで話した事は大した秘密でもないので、困りはしないだろう。
本当の秘密は、こんなところで話す訳が無いからね。
壊れたように笑い続けるサトシを置いて、私とシェリスは地下牢獄から出て行った。
後味は悪かったが、これで一件落着だ。
次話は来週の3/19に投稿予定です。
3/18タイトルに番号を付けました。




