54.進化する魔王
本日投稿2/2です。
魔王クリムアイズ様をプロイタール王国の王城まで送った後、歓迎パーティーが行われた。
魔族だからと言って嫌われている訳でもなく、貴族の面々も友好的だった。
そして翌日、何故かクリムアイズ様が私の自宅を訪ねて来た。
「クリムアイズ様、如何されましたか?」
「突然訪ねて来てすまんな。一つ願い事があってな」
ひとまず、クリムアイズ様を応接間へ案内してから話を続ける。
クリムアイズ様の要望で、話に参加するのは私とシェリスだけだ。
「聞くところによると、セト殿は神の御業を使うらしいな。その御業でワシの願いを叶えてはくれんか」
どうやら、昨日の歓迎パーティーで、例の噂話がクリムアイズ様の耳に入ってしまった様だ。
自重しなかった私も悪かったが、噂のおかげで私への依頼のハードルが爆上げされてしまっている。
そのハードルを何とか超えると、さらに噂がエスカレートするという悪循環だ。
「私にも出来る事と出来ない事がありますが、それでよろしければお話しください」
とはいえ何も聞かず断る訳にはいかないので、話だけでも聞く事にした。
『セトよ、魔王の願いを聞き届けて欲しい』
気分を少し前向きに切り替えた時、創造神エリクト様から念話が届いてきた。
『創造神エリクト様、何か依頼があったのですか?』
『ああ。慈愛神のサラシャから、何とかしてくれと俺の所に連絡が来たのだ。出来ればでいい、何とかしてやってくれ』
そういう事であれば、無下にはできない。
願いの内容は聞いていないが、創造神エリクト様からの依頼であれば出来る限り対応したい。
『承知しました。可能な限り対応します』
『頼んだぞ』
創造神としての初仕事なので、少し気合を入れよう。
そう思っていると、クリムアイズ様が話を続けて来る。
「セト殿、無理な願いとは思うが、ワシをエンシェントドラゴンに進化させてくれんか」
これはまた、難題が出されたものだ。
そもそも、エンシェントドラゴンがどういった物かすら知らない。
その前に、進化したい理由を聞いておこう。
「理由をお聞きしても良いでしょうか」
「そ、それはな」
「それは?」
「それは、妃に迎えたいエンシェントドラゴンが居てな……」
つまり、惚れた竜と結婚したいから、エンシェントドラゴンに進化したいという事らしい。
これなら、慈愛神サラシャ様から依頼されるのも納得だ。
思ったよりも平和な理由で、何となく心温まる。
「なるほど、理由はよく分かりました。それで、通常はどういった条件で進化するのでしょうか?」
「通常ならば、エルダードラゴンが1000年の時を生きると、エンシェントドラゴンに進化するのだ。しかし、ワシは敵の多い魔王と言う身だから、そんなに気長に待っている訳にはいかんのだ」
エルダードラゴンには寿命が無いので、安全に暮らしていればエンシェントドラゴンに進化できるのだろう。
しかし、クリムアイズ様は魔王の身なので、政敵や変なカルト教団から襲われる事も多く、エンシェントドラゴンへ進化できるかどうか分からないといった所か。
問題は、どうやってクリムアイズ様を進化させるかだ。
創造魔法で進化の秘宝でも創れば解決できそうだが、私の魔力ではおそらく無理だろう。
確か、生命体に関する物は、消費魔力が多いはずだ。
ここは、いつもの様に暗黒魔法で何とかしてしまおう。
「上手く行くかどうかは分かりませんが、可能性としては高い方法があります」
ガタッ!
「ほ、本当か!」
クリムアイズ様は勢いよく立ち上がり、こちらへ顔を寄せてくる。
「お、落ち着いて下さい。絶対の保証はできませんが、それでもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ! 今すぐ頼む」
クリムアイズ様の気迫に押されて、すぐに試してみる事になった。
◇◇◇
クリムアイズ様や側近の方と共に、王都から少し離れた草原に来た。
シェリス、トーヤ、ミルスの3人も、興味津々で付いて来ている。
「それではクリムアイズ様、人化を解いて元の姿に戻って頂けますか」
「うむ」
そう言うと、クリムアイズ様は少し離れた後、変化し始めた。
変化が終わると、そこには体長15m以上ある巨大なドラゴンが現れた。
体色はオレンジ掛かった赤色で、燃えるような真紅の双眸を持っている。
なるほど、真紅の双眸クリムゾンアイズが短くなって、クリムアイズという名になったのか。
それにしても、こうやってしっかり見るとドラゴンと言うのは美しい生き物だな。
まるで物語の中から出て来た幻獣の様だ。
他の人達を見渡すと、私と同様にクリムアイズ様の雄姿に見惚れていた。
「そうやって見つめられると恥ずかしいな。そろそろ始めてもらえんか」
「申し訳ありませんでした。それでは始めます」
クリムアイズ様は、先ほどこうおっしゃった。
エルダードラゴンが1000年の時を生きると、エンシェントドラゴンに進化すると。
それならば、クリムアイズ様の時を1000年進めれば、すぐに進化できるのではないかと思う。
クリムアイズ様が無事に進化できることを祈って魔法を使う。
――【風化】
【風化】は時を進める魔法だ。
これで1000年だけ時を進めれば、クリムアイズ様は進化できるかもしれない。
1000年もの時を進めるにはかなり時間が掛かる様で、私は魔力を奪われ続ける。
私の体から半分ほどの魔力が奪われた頃、ようやく【風化】の魔法が完了した。
【風化】の魔法が掛かり終えると、クリムアイズ様の体に変化が起こり始める。
クリムアイズ様の体が徐々に小さくなり、2m程の卵になってしまう。
しばらく待っていると卵は孵化し、そのまま20m程の巨大なドラゴンへ成長した。
【エンシェントドラゴンのステータス】
【名前】 クリムアイズ
【性別】 男 (エンシェントドラゴン)
【年齢】 1533
【職業】 ローデリア魔王国 国王
【体力】 1521/1521
【魔力】 1245/1245
【腕力】 85
【俊敏】 73
【知力】 102
【器用】 81
【状態異常】 異常なし
【能力】 【飛行】、【ファイアブレス】、【精霊魔法】Lv6、【火魔法】Lv6、【風魔法】Lv7、【暗黒魔法】Lv8、【神聖魔法】Lv4、【空間魔法】Lv6、【状態異常無効】、【危機感知】Lv5
【賞罰】 紅の魔王
クリムアイズ様は無事にエンシェントドラゴンへ進化できた様だ。
それにしても、凄い魔法能力のラインナップだ。
さすが魔王と呼ばれるだけある。
「クリムアイズ様、無事に進化できた様ですが、ご気分は如何でしょうか?」
「ふふ、なかなか良い気分だ。それに、暗黒魔法のLvが上がっているな。これはセト殿に感謝だな」
クリムアイズ様は人型に戻り、体の具合を確かめている。
それより、暗黒魔法のLvが上がったと言うのはどういう事だろうか。
シェリスの方を見ると首を横に振っているので、シェリスは何もしていない様だ。
「クリムアイズ様、暗黒魔法のLvが上がったのですか?」
「そうだ。ワシら魔族は、進化する時に能力Lvが上がる事があるのだ。これでセト殿に少し近づけたな! 先代魔王から受け継いだ能力だが、能力Lvが上がると言うのは嬉しいものだな」
なかなか羨ましい種族特性だ。
それにしても、クリムアイズ様の暗黒魔法は先代魔王から受け継いだ能力らしい。
この紳士的な魔王様が、暗黒魔法に手を出すイメージが付かなかったが、それなら納得だ。
「それはおめでとうございます。それにしても、高Lvの暗黒魔法使いが3人も揃うとは、なかなか珍しいですね」
「3人? ワシとセト殿だけじゃないのか」
「ええ。妻のシェリスも暗黒魔法Lv10の使い手です」
私がそう答えると、クリムアイズ様は動きをピタッと止めた。
そして、顔面を蒼白にしながら、シェリスの方を見て言葉を絞り出す。
「シェリスという名で……暗黒魔法Lv10を使う……。あ、暗黒神シェリス様」
そう言うと、クリムアイズ様はシェリスに向かって土下座を始めた。
それを聞いたクリムアイズ様の側近も、土下座をし始める。
「暗黒神シェリス様とは知らず、今まで無礼を働いたこと、なにとぞお許しください」
私とシェリスは顔を見合わせて、共にため息を吐いた。
『シェリス、ゴメン。口を滑らせてしまったみたい』
『ううん、今さらこの程度の事は気にしないわ』
それにしても、他国の国王から土下座されると言うこの状況、どうしたものか。
そう思っていると、シェリスがクリムアイズ様に声を掛けた。
「今のアタシ達は人族として暮らしているから、気にしないでいいわ。今まで通り、普通に接してね」
「シェリス様……達?」
クリムアイズ様は、土下座したまま恐る恐る疑問を口にする。
どうやら、シェリスも口を滑らせてしまったみたいだ。
「……うん。セトはエリクト様の部下で創造神よ」
シェリスの言葉を聞いたクリムアイズ様は、体から滝の様な汗を流し始めた。
クリムアイズ様の側近は、もはや意識が無い。
少し、悪い事をしてしまったみたいだ。
その後、クリムアイズ様と側近の方には、何とか落ち着きを取り戻して頂いた。
そして、今の私達は人族として暮らしていると説明し、せめて人前ではこれまで通りに接してもらう様に約束を取り付けた。
次話は3/12に投降する予定です。
3/7 誤字を修正しました。




