53.ルナの初出動
少し長くなったので、今週は2話に分けて投稿します。
本日投稿分1/2です。
自宅の庭で飛行船ルナの内装を整えていると、国王のマルセン陛下から呼び出しがあった。
シェリスと共に王城へ行くと、マルセン陛下の執務室へ通され、そこにはマルセン陛下と宰相ローレン様が待ち構えていた。
「セトよ、ちょっと魔王の所まで行って来てくれんか」
そして開口一番、マルセン陛下からとんでもない事を言われた。
なかなか軽い感じに言われてしまったが、近所へお使いに行って来るのとは訳が違う。
どう答えようかと困っていると、宰相のローレン様から助け船が入る。
「マルセン陛下、最初から説明して頂かなければ、セト殿も答えに窮するかと」
「おお、そうだったな。魔王とは、隣の大陸にある魔族の国の王なのだが、知っておるか?」
確か、魔王と言うのは知性ある魔物の王だったはずだ。
知性ある魔物を魔族と呼んでいるのだろうか。
「知性のある魔物が魔族と呼ばれており、その王が魔王と言う事でしょうか」
「そうだ。まあ知性ある魔物といっても、魔族も普通に魔物に襲われるし、暮らしぶりも人族と大して変わらんよ。人型に変化できる者も多いし、およそ人族とは友好的だな」
マルセン陛下の話では、魔物が数十年から数百年生きるうちに進化して魔族になるらしい。
その他に、魔族の夫婦が子供を産むと、その子も魔族として生まれるそうだ。
どちらにしても稀な出来事のため個体数は少ない。
ただ、長生きしている個体が多いため、能力は総じて高いそうだ。
魔族は高い知性を持っており、比較的穏やかな気性である事から、一つの人種として扱われているという話だった。
どうやら、私の思っていたイメージとは違い、随分と平和的な種族みたいだ。
「魔族については分かりましたが、魔王様の所まで行くのは、どういった理由なのでしょうか」
「うむ、その魔王クリムアイズ殿だが、我がプロイタール王国へ表敬訪問することになったのだ。そこで、セトの持つ飛行船ルナで送迎して欲しいという訳だ」
そういう事であれば、ルナでの送迎も悪くない。
早いし乗り心地が良いので、クリムアイズ様にもリラックスしてもらえるだろう。
ただ、定員が少ない事だけが気がかりだ。
「ルナは定員が少ないので、クリムアイズ様と側近1名程度しか運べませんが、よろしいのでしょうか」
「ふむ、それもそうか。まあ、セトとシェリスが付いているならこの世のどこよりも安全なのだから、問題無いだろう」
確かに、私やシェリスが居れば、危機に瀕しても転移門で脱出すればいい。
そもそもルナに攻撃を加えられる存在がほとんど居ないので、危機に瀕する事なんてほとんど無いだろう。
ルナは故障してもゆっくり下降するだけなので、そうなれば転移門を使って安全な所へ着地すればいい。
「承知致しました。クリムアイズ様の送迎、お任せください」
それで終わりかと思ったら、マルセン陛下が話を続けて来た。
「それでセトよ、その、浮遊金属とやらはどの程度作れそうなのだ?」
なるほど、謁見の間ではなくマルセン陛下の執務室に呼ばれたのは、この話があったからなのか。
マルセン陛下とローレン様は私やシェリスの正体を知っているので、ここで秘密の話をしようという事だろう。
「お望みとあらば、毎日1隻分の浮遊金属を提供できます。しかし、その用途にはお気を付け下さい」
「どういう事だ?」
マルセン陛下の言葉に、シェリスへ目線を送る。
「それは、使い方を間違えるとアタシが飛んでくる、という事よ。天罰を司る暗黒神シェリスとしてね」
そういうシェリスから、背筋が震え上がるような威圧感が放たれる。
夏だと言うのに、肌寒さを感じる程だ。
マルセン陛下とローレン様を見ると、二人とも真っ青な顔をしながら壊れたおもちゃの様に首を縦に振り続けている。
こういう所は、やっぱりシェリスには敵わないな。
「という訳ですので、王家の管理できる範囲でご依頼ください。戦争に使うなんて厳禁ですよ?」
「わ、分かった。この事は様に子孫代々まで厳守する事を約束する」
この一幕は、以前からシェリスと決めていた事だ。
せっかく創った人族の夢を戦争には使わせたくないので、釘を刺しておく事になったのだ。
そのうちこの世界の技術でも空を飛べる様になると思うけど、そちらには関与しないつもりだ。
◇◇◇
飛行船ルナに乗り、魔王クリムアイズ様の君臨するローデリア魔王国へ旅する事になった。
旅と言っても、王都プロイデンからローデリア魔王国まではルナで8時間程度なので、朝出発すれば夕方には到着できる。
シェリスであれば直接ローデリア魔王国へ転移門を開けるが、緊急時ならまだしも平時に国をまたいだ転移門なんて作ると、大問題になってしまう。
そこで、転移門の次に早く移動できるルナでクリムアイズ様を送迎する事になったのだ。
「ふむ、これは快適だな。馬車と違って揺れないのがいい」
そして今は、クリムアイズ様を迎えて王都プロイデンへ帰る途中だ。
現在、ルナの中には私とシェリスに加えて、クリムアイズ様と側近1名、操縦者のシュリさんとアルフさんの計6名が搭乗している。
船内には簡易キッチン、トイレ、シャワールーム、2段式ベッドといった設備を取り付けたため、大きさの割に定員が少なく、6名が限界だ。
その代わりに、船内は快適に過ごせるようになっている。
「気に入って頂けて何よりです」
「うむ、ワシも空を飛ぶことは出来るが、アレはなかなか疲れるからな。こうやって、温かい紅茶を飲みながら空からの景色を楽しめるのは、最高だな!」
どうやら、クリムアイズ様は空を飛べるらしい。
今は人型なので分からないが、クリムアイズ様の種族は一体何なのだろうか。
「む? セトはワシの種族を聞いておらんのか。ワシの種族はエルダードラゴンだ」
おっと、考えていたことが顔に出てしまった様だ。
「クリムアイズ様は、エルダードラゴンだったのですね。どうやら、今世の私はドラゴン種に縁がある様です」
「という事は、これまでに何度かドラゴン共に襲われたという事か。野生のドラゴン共は気性が荒く、すぐ襲ってくるので大変だっただろう」
私の事を気遣ってもらえるとは、クリムアイズ様はなかなかの紳士だ。
問答無用で襲って来たドラゴン達の近縁種とは思えない。
これが魔物と魔族の違いと言う事なのだろう。
「お気遣いありがとうございます。口ぶりからすると、クリムアイズ様もドラゴンに襲われた事が?」
「うむ、しょっちゅう襲われるぞ。ま、しょせんは魔物、例外なく返り討ちだがな。それよりも、新しき神の方がよほど厄介だな」
新しき神?
名前からすると、生まれたばかりの神族に聞こえる。
シェリスの方を見ると、首を横に振っている。
シェリスも知らないみたいだ。
「新しき神、というのは生まれたばかりの神族でしょうか?」
「いや、神族なら何の問題もない。新しき神というのは過激派のカルト集団でな、神になるだ何だと言いながらワシを襲ってくるのだ」
何それ怖い。
そういえば、以前に似たような話を聞いたことがある。
「以前戦ったオーガキングが、似たような事を叫んでいましたね。何かそういった言い伝えでもあるのでしょうか」
「いや、そんな言い伝えなんぞある訳ないだろう。そもそも、ワシを倒した程度で神になれるなら、この世にはもっと多くの神が居るはずだな」
それもそうか。
シェリスの話では、人の身でありながら人には不可能な事をしないと神族になれない筈だ。
こういっては悪いが、クリムアイズ様を倒そうと思えば、方法なんていくらでもある。
「ともかく、新しき神には気を付ける様にします。何か分かりましたら、クリムアイズ様にもお伝えしましょう」
「うむ、そうしてくれると助かる」
なかなか危険そうなカルト集団なので、レニアさんに頼んで情報収集を進める事にしよう。
その後は、王都プロイデンに到着するまで、クリムアイズ様と歓談しながら過ごした。
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