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51.新たな能力

 いつもご愛読ありがとうございます。

 ハノイさんを屋敷に連れ帰った後、私とシェリスはハノイさんの屋敷で泊まる事になった。

 ハノイさんは気が動転していたので、一晩休んでから話を聞くことにしたのだ。

 そして翌朝、ハノイさんは少し落ち着きを取り戻したので、話をする事にした。


「ホント、恥ずかしいったらありゃしないよ。死地に向かったつもりが若造に助けられるとは、アタシも焼きが回ったね」

「生きて帰れたし、アースドラゴンも死んだから良しとはいきませんか」


 しかし、ハノイさんの顔色はあまり良くない。

 このままでは、また玉砕特攻しそうだ。


「セトは分かっているんだろう? こんな何もできない老いぼれには、魔物と戦って華々しく散るしか道は無いんだよ」


 やはり、自分の非力さを嘆いての凶行だったか。

 もう少し話をして、何とか生きる希望を見出してもらわなければいけない。


「やはり、魔物を操る術が引き継げない事は、辛いですか」

「当たり前さね。生涯を掛けて編み出したこの術が、誰にも扱えない欠陥品だったなんて、この気持ちはセトには分からんだろう」


 私も暗黒魔法のラインナップを見た時は軽く絶望しかけたが、これは神様からの頂き物だからまだ諦めがついた。

 まあ、使ってみるとなかなか便利な魔法だった訳だが。


 うーん、この世界の【能力】にするとまでは言わなくても、何とか他人に引き継げるようには出来ないだろうか。


「他人に術を引き継げない原因に、心当たりはありますか?」

「無いね。若い頃から散々研究してきたが、術を引き継げない欠点だけは消せなかったよ」


 ふむ、術を引き継げない欠点か。

 その欠点さえ無くす事ができれば、ハノイさんの悩みも消えそうだ。


「一つだけ、何とかなる可能性のある方法があります。しかし、失敗するとハノイさんの中から術そのものが消えてしまうかもしれません」

「なに? それは本当か?」


 ハノイさんは、勢いよく身を乗り出してきた。

 やっぱり、まだ未練がある様だ。


「ただ、先ほども言った通り、失敗すればすべてを失うかもしれないですよ?」

「それは構わん。どうせ残りの人生は短いんだ、可能性があるならそれに掛けるさ!」


 承諾が得られたみたいなので、やってみることにしよう。


「分かりました、やってみます」


 ハノイさんの中の魔物を操る術から、他人に引き継げないという欠点を消滅させよう。


――【消滅】


 すると、急にめまいがして来た。

 これは魔力を使い過ぎた時の感覚だ。

 しかし、それだけの魔力を使ったのだから、魔法は発動できたのだろう。


 すると、目の前に【ステータス】と似た感じの画面が出て来た。

 そこには、こう書いてある。


 ―― 新たな能力が創造されました。 ――

 ―― 名称を決定してください。 ――


 どうやら、魔物を操る術がこの世界の【能力】として認められたみたいだ。

 どうやって名前を決めるか分からないが、とりあえず『魔物使い』と強く念じてみる。


 ―― 新たな能力は【魔物使い】と名付けられました。 ――

 ―― 【魔物使い】の管理権限を獲得しました。 ――


 無事に能力の名付けが終わった様だ。

 そして、【魔物使い】の管理権限なるものを入手したらしい。

 管理権限の事は後にして、まずはハノイさんにこの事を伝えよう。


「ハノイさん、【ステータス】を確認してみて下さい」

「なに? もう終わったのか。どれどれ……」


 そう言い終えたハノイさんは、目を大きく見開き、驚愕の表情を浮かべた。


「おお、おおお……」


 そして、ついにハノイさんは泣き始めてしまった。


『ねえセト、ハノイさんは一体どうしたの?』

『ハノイさんの術の欠点を【消滅】で消したら、新たな【能力】になってしまったんだ。それを見たハノイさんが感動で泣いているんだと思う』

『そっか……、能力を創っちゃったんだ』


 シェリスを見ると、神妙な顔をしている。

 そういえば、能力を創る方法は、創造神エリクト様だけがご存じという話だった気がする。


『もしかして、拙い?』

『ううん、拙くは無いわ。ただ、神族でも難しい事をアッサリやってのけるのを見ると、驚きを通り越して諦めの境地に達しそうね』

『何か、その、ゴメン』


 少しだけ気まずい雰囲気を味わいながら、ハノイさんが落ち着くのを待つ。

 10分程経った頃、ようやくハノイさんが落ち着きを取り戻した。


「みっともない所を見せたね。それにしても、アタシの術を【能力】に変えちまうとは、噂は本当だったという事だね」

「噂……ですか」

「ああ。プロイタール王国には、神の御業を使う異世界人が居るという噂さ」


 恐らく、尾ひれがついて誇張された噂だろう。

 本人からすると、恥ずかしくて聞いていられないので、やめて欲しい。


「ま、セトには感謝しているよ。いくら感謝しても足りない位だね。礼に何かいるかい?」

「そういう事でしたら、お礼として、シャピナ共和国の手綱をしっかり握っておいてください。間違ってもプロイタール王国へ攻め込まない様に」

「この老体に、まだ働けと言うか。ま、アタシが生きている間は、変な事しない様に目を光らせておいてやるよ」

「よろしくお願いします」


 それからしばらくハノイさんや屋敷の人達と話をして、プロイタール王国へ戻る事にした。

 屋敷を出る時、ハノイさんを迎えに行く時と同じ様に、一同が揃って見送ってくれた。

 ハノイさんを迎えに行く時と違い、皆表情が明るく嬉しそうな表情だ。


 プロイタール王国へ戻る途中、ハゼルさんの屋敷でレニアさんを迎え、そこから王都まではシェリスの転移門で帰った。


◇◇◇


 プロイタール王国へ戻り、顛末を宰相のローレン様に報告して、王城内の自室に戻って来た。


「はぁ、短い旅だったけど疲れた」

「そうね。アースドラゴンを倒したり、新しい能力を創ったりで、アタシは驚きっぱなしだったわ」

「そのお話、ミルスにも聞かせて欲しいです」


 ミルスにねだられて、シェリスが旅の土産話を始めた。

 私は魔力の使い過ぎでとても眠いので、今日はもう休もう。


 そう思ってベッドで横になると、念話が届いてきた。


『なかなか面白そうな能力を創造した様だな』


 はて?

 今まで聞いたことの無い、少しやんちゃな中年男性といった感じの声だ。

 ただ、私に念話で話しかけられるのは神様だけなので、少し緊張してしまう。


『あの、失礼ですがどなた様でしょうか』

『おっと、これは失礼。俺は創造神のエリクトだ』


 ここ数日で話題になっていた、創造神エリクト様だった。

 その創造神エリクト様が、私に一体何の用なのだろう。

 もしかすると、勝手に能力を創り出した事を咎められるのだろうか。


『創造神エリクト様、私に一体どの様な御用なのでしょうか』

『まあ、そう緊張するな。ただ、ちょっとしたお願いがあるだけだ』

『お願い……ですか?』


 創造神ともあろう方が、ただの人族でしかない私にお願いとは、一体何だろう。


『そうだ。セトの創った【魔物使い】の管理権限を俺に譲ってくれないか。もちろん、相応の礼はするぞ』


 そういえば、管理権限を獲得したというメッセージが出ていたのを忘れていた。

 具体的に何が出来るのかは確認していないけど、私が持っているよりも創造神エリクト様に渡した方が良いだろう。

 管理能力が無いのに管理者になると、皆が不幸になるからね。


『分かりました。【魔物使い】の管理権限を創造神エリクト様にお譲りします』


 念話でそう答えると、目の前に画面が出て来た。


 ―― 【魔物使い】の管理権限を創造神エリクトに譲渡しました。 ――


 無事に管理権限を譲渡できた様だ。

 何となくだけど、肩の荷が下りた気がする。


『確かに譲り受けた。それで、セトは何を望むのだ?』


 突然そんな事を言われても困ってしまう。

 今の生活には、割と満足している。

 ただ、もう少し平和的で長生きできる人生だと嬉しいかな。


『私が望むのは、シェリスと共に末永く平和に暮らして行きたい事でしょうか』

『ドリート爺さんの孫娘と一緒に居たいと言うのか。セトは変わり者だな』


 変わり者と言われてしまった。

 美人で可愛くて優しいシェリスと一緒に居たいと思うのは、男として当然だろう!

 それにしても、シェリスは豊穣神ドリート様の孫だったのか。

 言われてみれば、シェリスは豊穣神ドリート様の事をお爺様と呼んでいた気がする。


『ふむ、いいだろう。とはいえ、セトは既にその資格を持っているので、俺の部下という事にして便宜を図ってやろう』


 え?

 創造神エリクト様の部下ってどういう事?


『なに、無理な仕事を押し付けたりはしないから安心しろ。はっはっは!』


 いやいや、それは安心できない。

 抗議しようと思ったが、だんだんと睡魔が酷くなって来た。


 ああ、創造神エリクト様からの依頼……易しいと嬉しいな……。


 そう思いながら、私は意識を手放した。


◇◇◇


 翌朝、いつもより少し早く目が覚めた。

 心なしか気分が重たい。

 【魔物使い】の管理権限を創造神エリクト様に譲渡したまでは良かったが、そのお礼として何故か創造神エリクト様の部下になってしまった。

 もう訳が分からないよ。

 【ステータス】に何か変化があるかもしれないので、確認しておこう。


【セトのステータス】

  【名前】 セト

  【性別】 男(真祖神族)

  【年齢】 17

  【職業】 魔法使い、イツクシマ子爵家当主、創造神

  【体力】 1253/1253

  【魔力】 2413/2413

  【腕力】 115

  【俊敏】 87

  【知力】 171

  【器用】 102

  【状態異常】 なし

  【能力】 【ステータス】Lv10、【暗黒魔法】Lv10、【剣技】Lv2、【転生神の祝福】、【危機感知】Lv1、【下級創造魔法】

  【賞罰】 救国英雄、プロイタール王国貴族、創造神エリクトの部下


 どうやら、人間を辞めてしまったらしい。

 ステータスの値も軒並み上がっている。

 ちなみに【下級創造魔法】は様々な物を創り出せるが、その行使には上司の承認が必要だ。

 上司の承認が必要とか見ると、サラリーマンに戻ったような気がして来る。

 そして、その上司とは創造神エリクト様だ。


 あまりの出来事に呆けていると、シェリスが起きて来た。


「セト、おはよう。そんな呆けた顔してどうしたの?」

「うん、昨晩色々あってね。創造神エリクト様から【魔物使い】の管理権限を譲って欲しいと言われたから譲渡したんだ」

「それは正しいと思うわ。能力の管理なんて面倒なだけだし」


 やっぱり、管理権限は面倒事だったのか。

 私はのんびり暮らしたいので、そんな面倒事は譲渡して正解だ。


「そうしたら、お礼という事で何故か創造神エリクト様の部下になってしまったんだ。しかも、朝起きたら私の種族が真祖神族になっていたよ」

「やっぱり神族になれたのね! これでアタシと同じだわ!」


 そう言って、シェリスは私に抱きついてきた。

 まあ、これでシェリスを残したまま寿命で死ぬ心配が無くなったので、良かったと言う事にしておこう。


「でも、私の種族は真祖神族だけど、同じなの?」

「うん。セトは自力で神族になったから、真祖なのよ。アタシは元々神族として生まれたから、真祖では無いわ。他にも、上位神の眷属として神族になる場合もあるけど、そっちは眷属神族と呼ばれているわ」


 自力で神族になった?

 確かに、シェリスとずっと一緒に居たいと思っているけど、神族になろうとは考えたことも無い。

 そもそも、人族から神族に変われるものなのだろうか。


「自力で神族になったって、どういう事?」

「滅多に無い事だけど、人の身でありながら人には不可能な事を為すと、神族になれる事があるの。セトの場合は、アースドラゴンを魔法で倒した事と、【魔物使い】の能力を創造した事があって神族になれたのだと思うわ」


 種族が変わったのは、創造神エリクト様とは関係なかったみたいだ。

 そう言えば、創造神エリクト様から『既に資格を持っている』と言われたが、この事だったのか。


「それにしても、創造神エリクト様の部下だなんて羨ましいわ」

「え、そうなの?」


 無理な仕事は押し付けないと言われたので困りはしないが、喜ばしいかと言われるとそれも違うと思う。

 創造神エリクト様の手伝いをするのは構わないが、仕事が増える事に変わりは無いからね。


「だって、創造神エリクト様の部下という事は、創造神になれたという事でしょ? 転生神と並んで人気の職業よ。それに比べてアタシは暗黒神……」


 シェリスが少し落ち込んだので、頭を撫でて落ち着かせる。

 それにしても、神様にも人気職があったりするのか。


 確かに、創造神と聞くと何でも出来てかっこいいイメージがある。

 でも、中二病の患者からは、暗黒神の方が人気な気もするね。


「私は暗黒神も良い職業だと思うよ。暗黒魔法も、思いのほか役に立つしね」

「ふふっ、そう言ってくれると嬉しいわ」


 その日はシェリスから神族について色々と聞いていたら、日が暮れてしまった。


 次話は2/26に投稿予定です。

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