47.地震発生
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本日も1話のみの投稿になります。
◇◇◇
家臣の募集から2ヶ月が経ち、春が近づいてきた。
アルフさんから教えてもらっている貴族の作法も、恥をかかない程度には覚える事が出来た。
ただ、シュリさんとレニアさんは覚える事が多いらしく、まだ特訓中だ。
ちなみに、レニアさんは正式に私達の家臣として働くことになり、呼び名も本名で呼ぶことにした。
貴族としての勉強が一段落したので、私とシェリスは魔導ギルドで仕事をする事にした。
貴族年金をもらっているが、貴族のつきあいにはお金が掛かるので、ある程度豊かな生活を送るには貴族であっても働く必要がある。
貴族の勉強を優先したので、魔導ギルドで仕事をするのは数か月ぶりだ。
緊急事態の時には呼び出してもらうよう伝えてあったが、魔導ギルドは平和だった様で呼び出される事はなかった。
「お久しぶりです、カルナさん。何か私達にできそうな仕事はありませんか」
魔導ギルドの受付でカルナさんに話しかける。
シェリスはちょくちょくカルナさんと会っていたが、私は家臣募集の時以来だ。
あの時は、本当にお世話になった。
「あらセトさん、お久しぶりです。色々と難しい仕事が溜まっていますよ!」
カルナさんは、そう言いながらファイルを開いてページをめくり始めた。
ファイルの表紙には「未解決物件」と書かれている。
仕事を紹介してもらえるのは有難いのだが、嫌な予感しかしない。
「ええと、これなんてどうでしょうか……キャッ」
グラグラッ!
カルナさんがファイルをこちらに差し出したとき、地面が激しく揺れ始めた。
「シェリス、しゃがんで!」
私はシェリスをしゃがませて、シェリスをかばう様に抱きしめる。
ガタンガタン! バキッ! ドサドサ!
ギルド内からは、色々と倒れたり落ちたりする音が聞こえて来る。
そんな中、私は揺れが収まるまでシェリスを抱きしめ続けた。
1分程経つと、揺れが収まって来た。
幸いなことに、私の居る所には物が落ちてきたり飛んできたりはしなかった。
「シェリス、大丈夫?」
「あ……、うん。アタシは大丈夫……よ?」
シェリスの様子が少しおかしい。
怯えている様子はないが、何かよそよそしいような、照れたような、そういった感じだ。
「シェリス、どうしたの? どこか痛い?」
「あは、あはは。セトに守られちゃった。本当は、アタシが守る所だったのにね」
そう言われて思い出したが、シェリスは神族だ。
ほとんど不老不死なので、地震で建物の下敷きになった程度では命に別状は無いだろう。
そういう意味では、私がシェリスに守ってもらった方が安全と言える。
でも……ねぇ。
「そうは言っても、私がシェリスに守られるのは、男としての矜持が許さないというか何というか」
「そうね、アタシもちょっと嬉しかったし、セトも無事だから良かったという事にしましょう!」
シェリスと話した事で、私は少し落ち着きを取り戻してきた。
周囲を見渡すと、ギルド内は大変な事になっていた。
書架は倒れ、机はひっくり返っており、床には書類や事務用品が散乱している。
ただ、幸いなことに周囲に大けがをした人は居ない様だった。
「カルナさんも、大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
大丈夫とは言っているが、カルナさんの顔は真っ青だ。
日本に住んでいた私や、脅威を感じないシェリスはともかく、地震に慣れていないカルナさんには衝撃が大きかった様だ。
「シェリス、この地震で津波が来ると思う?」
「津波は大丈夫だと思うわ。過去に何度か津波が来ているけど、どれも堤防で防げる程度だったはずよ」
さすが物知りシェリスだ。
王都プロイデンの前にある海は大きな湾になっているので、津波が発生してもプロイデンに届くまでに減衰されるのだろう。
津波の心配が無いので、私とシェリスはギルド内を軽く見回って来た。
ギルド内の部屋はどこも受付と同じような惨状だったが、幸いな事に重傷者は出ていない様だ。
火事も発生していないので、ひとまず安全は確保されたと思って良いだろう。
受付に戻った所、カルナさんの顔色は相変わらず悪いままなので、暗黒空間の中から温かいスープを出し、カルナさんに飲んでもらった。
野営する時に美味しいスープを飲むため、普段から余ったスープを暗黒空間に備蓄しておいたのだ。
量は多くないが、温かい飲み物は心を落ち着かせる。
「セトさん、シェリスさん、ありがとうございました。おかげで、だいぶ落ち着いて来ました」
スープを飲んだ後、カルナさんの顔色はだいぶ良くなって来た。
他の職員も落ち着きを取り戻しつつあるので、ギルドの方は職員に任せれば大丈夫だろう。
◇◇◇
魔導ギルド内が落ち着いてきたので、私とシェリスは自宅へ戻る事にした。
ミルスとトーヤは大丈夫だろうが、家臣の3人が少し心配だ。
魔導ギルドから出ると、周囲には建物から落下した看板や瓦、崩れた塀等が散乱していた。
また、助けを呼ぶ叫び声や怒号が飛び交っている。
助けに行きたい気持ちもあるが、今は自宅の状態を確認するのが優先だ。
普段であれば5分程で自宅に帰れるが、道が通行できなかったり歩きにくかったりしたため、なかなか自宅に辿り着けない。
そして15分後、ようやく自宅に辿り着いた。
そこには傾いた自宅と、倒壊したお隣の家があった。
お隣の家は私の自宅に寄り掛かる様に倒壊しており、その衝撃で私の自宅は柱が何本か折れたのだろう。
お隣さんは、無事だろうか……。
「セト様、ご無事でしたか!」
アルフさんが私を見つけて声を掛けて来る。
レニアさんとシュリさんは家の外で座って休んでおり、ミルスとトーヤは家の傍で佇んでいる。
家は傾いたけど、みんな無事で何よりだ。
「みんな無事で一安心です。ただ、お隣は家が倒壊しているので大丈夫でしょうか」
私がそう問いかけると、背後から悲鳴が聞こえて来た。
「キャー! あ、あなたー!」
振り向くとお隣の奥さんが倒壊した家に向かって走り出していた。
どうやら、奥さんは家から出ていたため、無事だった様だ。
「奥さん落ち着いて。ご主人は家の中にいるの?」
シェリスが奥さんを落ち着かせながら、事情を聞いている。
どうやら、お隣のご主人は家の中に居たらしく、家の下敷きになってしまった様だ。
ここは手を貸すべきだろう。
「ミルスとトーヤ、お隣のご主人の居場所を探してもらえる?」
「はい。頑張って探してきます」
「わかりました。ここは僕にお任せ下さい」
こういう時は、ミルスとトーヤが居てくれると心強い。
幽霊なら崩れた家をすり抜けて中を見る事ができるので、お隣のご主人の安否確認がスムーズに行える。
「セト様、見つけました! お隣のおじさまは生きています!」
しばらくすると、ミルスがお隣のご主人を見つけた。
お隣のご主人は、壁と天井の間にできた隙間に挟まっており、何とか生きているとの事だ。
しかし、柱が邪魔をして外に出られないらしい。
「ミルスとトーヤはそのままお隣のご主人を元気づけてあげて」
お隣のご主人が生きていたのは幸いだが、どうやって助け出そうか。
家全体を【暗黒空間】へ格納し、お隣のご主人だけを外に出すという手もある。
しかし、【暗黒空間】に生物を格納すると精神が激しく苛まれるので、お隣のご主人にトラウマが出来てしまいそうだ。
「ねえセト、どうやってお隣のご主人を助け出すの?」
「どうにかして屋根を持ち上げたいけど、何か良い方法は無いか考えている所だよ」
崩れた家の屋根を持ち上げる事が出来れば、隙間からお隣のご主人を助けられそうだ。
しかし、この重量を持ち上げるのは並大抵の事ではない。
「アタシ、屋根が宙に浮く所を見てみたいわ。セトならきっと出来るはずよ!」
いやいや、いくら何でもそれは無理があるだろう。
屋根の重量を念動力で支えるにしても、この中で唯一念動力が使えるミルスでも数kgしか持ち上げられない。
気球か何かでつりさげるにしても、一体どれだけの気球が必要になるのか。
いっそ、屋根の重量を0にして屋根自身に浮力を発生させる方法はどうだろうか。
……それならば、いけるかもしれない。
試しに、足元に落ちている小石を拾って、魔法を掛ける。
小石の質量を消滅させてみる。
――【消滅】
魔力を10消費したので、魔法は成功だ。
小石を手から離すと、フワフワと浮かび始めた。
実験は成功だ。
しかし、このまま屋根に使うと、屋根はどこまでも高く飛んで行ってしまう。
どうにかして飛んでいかない様に調節するか、重量を元に戻す方法を考えなければ、実用的とは言えない。
転移門を消す時の様に、【消滅】の効果を【消滅】打ち消せないか試してみよう。
フワフワと浮かぶ小石に対して、『重量消失の効果』を【消滅】させる。
――【消滅】
すると、小石は普通に重みを感じるようになった。
やはり、【消滅】の効果は再度【消滅】を使う事で打ち消せる様だ。
【消滅】の魔法は【精神異常】等と同じく、状態変化魔法の一種と思えば良さそうだ。
さすが極大暗黒魔法だけあって、使い勝手がとても良い。
思い通りの結果が得られたので、お隣のご主人を救出しよう。
「みんな、お隣のご主人を助けるから手伝って下さい」
家臣3人の力を借りて屋根の4隅にロープを繋ぐ。
ロープの反対側は大きな石や私の家の柱に繋ぐ。
お隣の家は瓦葺きではないので、これだけで大丈夫だろう。
――【消滅】
屋根の重量を消失させると、屋根がゆっくりと浮かび始める。
少し経つとロープが伸び切り、屋根が空中に固定される。
柱が無いのに宙に浮かぶ屋根……なかなか幻想的だ。
「さあ、今のうちにお隣のご主人を救出しましょう」
そう言って振り返ると、みんな口を開けて呆けていた。
やっぱり、こちらの世界でも珍しい光景という事らしい。
シェリスとミルスだけは、笑顔で目をキラキラと輝かせている。
「シェリス、手伝ってくれる?」
「あ、うん。セト、さすがだわ」
お隣のご主人はすぐに見つかった。
どうやら足を骨折していた様なので、シェリスの神聖魔法で治療してもらう。
念のため、他にも下敷きになっている人が居ないか確認し、屋根を元に戻す。
そのまま屋根を落とすと危ないので、地面付近まで屋根を引き寄せておいてから、屋根の重量を元に戻した。
これで人命救助も一段落だ。
お隣の奥さんも、ご主人が無事で嬉しそうだ。
「アルフさん、シュリさん、レニアさん、みなさんは自宅が心配でしょうから、今日はもう帰ってください」
そう言って、家臣の3人には自宅に戻ってもらう事にした。
「シェリス、今日からどこに泊まろうか」
家臣の3人に帰ってもらった後、私は少し困っていた。
みんな無事なのは良かったが、今晩から泊まる所が無い。
シェリスの【マイルーム】に泊まるという手もあるが、台所やトイレ、お風呂といった設備が無いので、最後の手段だ。
宿に泊まると言う手もあるが、王都の宿には同じように困った人が詰めかけているだろう。
貴族の権威を振りかざせば宿に泊まれるだろうが、そんな事をする位なら他の町の宿に泊まる方が良い。
「王城に泊めてもらう事はできないの? セトなら泊めてもらえると思うわ」
「うーん、泊めてもらえるとは思うけど、色々と仕事をさせられそうな気がするよ」
「それは今さらだわ。家が無事でも、すぐに呼び出されるだけね」
確かにその通りか。
それに、これでも私は王国貴族の一員なので、国難には手を貸すべきだろう。
「それじゃあ、傾いた家を片付けたら王城に行こうか」
傾いた家を丸ごと【暗黒空間】へ格納し、私達は王城へ行くことにした。
次話は1/29に投稿する予定です。




