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46.家臣の募集 4

 本日も1話のみの投稿となります。


 家臣の選定会場を手早く片付けた後、私とシェリスは宰相のローレン様との面会のために王城へ赴いた。

 突然の面会だったが、ローレン様は会って下さった。


「セトよ、緊急の面会と言うからには、それなりの理由があるのであろうな。申してみよ」


 ローレン様に促され、レニアさんから聞いた反乱の計画を話す。

 もちろん、工作員の名簿も提示する。


「なるほど、それは確かに緊急事態と言えるだろう。だがしかし、証拠が無い事には動けんな」


 確かに、レニアさんから聞いた話だけだと、何の証拠も無い。

 私やレニアさんが嘘をついていなくても、レニアさんに嘘の情報を仕込まれている可能性がある訳だ。


「ローレン様、それなら工作員の誰かに直接聞いて確かめるのが一番ではないでしょうか」

「セトよ、工作員が簡単に口を割ると思うか?」

「はい。簡単に話してくれると思いますよ。何せ、こちらには暗黒魔法があるのですから」


 ローレン様に、暗黒魔法で自白させる方法を話した。

 加えて、レニアさんから情報を聞き出した方法も同じだと伝える。


「それは凄まじいな。何でも正直に話した上に、話した時のことを忘れる魔法か……」

「この方法で工作員から話を聞いてみては如何でしょうか。もし私の情報が間違っていても、この方法であれば問題にならないと思います」

「そうだな。何人かがこの王城に入り込んでいる様だから、その者に聞いてみるか」


 適当な理由を付けて、工作員の1人をローレン様の執務室へ呼び出した。

 呼び出された工作員は20歳前半の青年で、最近採用された使用人との事だ。


「それじゃシェリス、お願い」

「分かったわ。……【精神異常】」


 シェリスが魔法を使うと、工作員の目がトロンとなる。

 レニアさんの時と同じだ。


「ローレン様、魔法が掛かりましたので、質問をしてみてください」

「うむ」


 尋問された工作員は、レニアさんより詳しく計画の内容を自白し始める。

 どうやら、この工作員は城内に居る工作員の司令塔らしく、この計画に参加している工作員の名前や役割も、事細かく知っていた。


「ううむ、これは一大事だ。すぐに工作員の連中を捕縛する事にしよう。セトとシェリスよ、貴重な情報を知らせてくれて助かった。後は任せてくれ」

「はい、後の事はよろしくお願いします。私はスパイからもう少し情報を引き出してみますので、新事実が判明すれば報告に参ります」


 後はローレン様に任せて、私たちは城を後にする事にした。

 尋問した工作員の人は、訳も分からないまま投獄される事になるけど、まあ仕方ないよね。

 その他の工作員も、素直に投獄されて欲しい。


◇◇◇


 ローレン様へ反乱の報告を行った翌日、選ばれたばかりの家臣達が私の家に集合した。

 敏腕スパイのレニアさんも、しばらくは家臣オパールとして働いてもらう事にしている。


 彼らの仕事は、さしあたり家臣としての作法を覚えてもらう事だ。

 貴族出身のアルフさんから、レニアさんとシュリさんを教育してもらう。

 もちろん、私やシェリスも、アルフさんから貴族としての作法を教えてもらう。

 いくら成り上がり者とはいえ、こういった作法や風習を覚えるのは大切だ。


 適当な頃合いを見計らって、レニアさんに話がしたいので執務室へ来て欲しいと伝える。

 念のため、盗聴されない様に執務室全体を【暗闇】で覆うのも忘れない。

 壁や扉の中に、染み込ませるように【暗闇】を展開してあるので、外から見ても気づかれないはずだ。


「セト様とシェリス様、私をお呼びとの事ですが、どの様な御用でしょうか」

「まあ座って下さい。レニアさんの体験談を聞いて、今後の参考にしようと思いましてね」


 それからしばらくは、レニアさんの体験談を聞いた。

 作り話にしてはなかなかよく出来ていて、聞いていて楽しい。

 しかし、いつまでも茶番を演じている訳にはいかないので、そろそろ目的を遂行しよう。


『シェリス、そろそろお願い』

『分かったわ。【精神異常】』


 シェリスが魔法を掛けると、面接をした時と同じようにレニアさんの目がトロンとしてきた。

 どうやら、【自白】の状態異常に掛かった様だ。

 今日は時間に余裕があるので、聞きたいことは全て聞き出してしまおう。


 まずは、ハゼルという人の正体から聞く。


「レニアさん、ハゼルさんとは一体どのような方なのですか?」

「ハゼル様は、真の評議会のメンバーです」

「真の評議会とは?」

「真の評議会は、シャピナ共和国の真の支配者です。シャピナ共和国の指導者達は、真の評議会の操り人形です」


 なるほど、シャピナ共和国の指導者達に警告しても効果が無かったのは、そういう事か。

 私が警告した指導者たちは、既に全員入れ替わっているのだろう。


「真の評議会のメンバーを教えてください」

「私の主である密偵使いのハゼル様、瘴気の技術者ジャノン様、魔物使いのハノイ様、軍の支配者シノ様の4名です」


 どうやら、今回の反乱の首謀者はこの4人らしい。

 それにしても、ここまで裏の事情を知っているとは、かなり上位のスパイだと考えられる。

 そんなスパイが、何故私を監視するのだろう。


「真の評議会が私を監視する理由を話してください」

「それは、セトが真の評議会の計画をことごとく失敗に追い込んだからです」


 はて?

 思い当たるのは戦争だけだが、他に何かしただろうか。


「私が失敗に追い込んだ計画とは、どのような計画ですか?」

「ハノイ様によるペストの流行、ジャノン様による瘴気の沼と魔人化、シノ様による戦争、いずれもセトの介入によって失敗しました」


 どれも記憶に新しい事件だった。

 こう何度も王国の危機が訪れるなんて、いくら異世界とはいえ少しおかしいと思っていたら、全部シャピナ共和国の陰謀だった。

 ローレン様なんて、天変地異の前触れかもしれないと本気で悩んでいらっしゃったのに。


『ねえシェリス、この4人が居る限り、私達に平穏は訪れてこない気がしてきたよ』

『アタシもそう思うわ。戦争以上に酷い事をしているし、暗黒神としてはお仕置きするしかないわね』


 お仕置きして黙らせるのもアリだが、すぐに第二、第三の真の評議会が生まれる気がする。

 寒冷で穀物の育ちにくい国なので、どうしても豊かな他国に目が行くだろう。


 それにしても、4回もプロイタール王国を危機に晒す暇があるなら、その能力と情熱を別の事に注いで欲しかった。


 ……ああ、そうか。

 それもありかもしれない。

 どちらにしても、ハゼルさんに会って話をしてみるべきだろう。


『ねえシェリス、そのお仕置きだけど、ちょっと考えがあるんだ。任せてもらえない?』

『また何か面白そうな事を考えているのね。わかった、セトに任せるわ!』


 4人の居場所を聞きだした後、レニアさんの【自白】は解除し、何事も無かったかのように仕事に戻ってもらった。


◇◇◇


 黒幕の正体が分かった夜、シェリスの転移門でハゼルさんの寝室にやってきた。

 もちろん、これから行う事は宰相のローレン様に報告済みだ。


「初めまして、ハゼルさん」


 私が声を掛けると、ハゼルさんは体をビクッと振るわせてこちらを向く。

 足元のフカフカな絨毯のおかげで、部屋に入った事に気づかなかった様だ。


「な、何者だ! どうやってここへ入って来た!」

「私は異世界人のセトですよ。そして、こちらが妻のシェリスです」


 私が名を告げると、ハゼルさんは目を大きく開き、驚きの表情を浮かべた。

 動揺を隠しきれていないので、私がここへ来た事は完全に想定外の様だ。

 どうやら、私の使う能力までは知られていないと思って良さそうだ。


「異世界人が私に一体何の用なのだ」


 ハゼルさんはすぐに落ち着きを取り戻し、話を続けて来る。

 さすがにシャピナ共和国を裏から操っているだけあって、肝が据わっている。


「それはもちろん、レニアさんから王国反乱の計画と首謀者を聞いたからですよ」

「……レニアを、拷問したのか」


 私がレニアさんについて話すと、ハゼルさんは顔を歪めて絞り出す様に答えた。

 そこまで心を痛めるなら、危険な任務に出さなければ良いのに。

 しかし、この答えが返って来るという事は、レニアさんから聞いた話は全て真実なのだろう。

 そうでなければ、拷問した等という発想が出てこないはずだ。


 もちろん、レニアさんを拷問なんてしていない。

 ここは、私の名誉のためにも誤解を解いておこう。


「いいえ、拷問なんてしていませんよ。ただ、聞かれた事を素直に話してしまう魔法があるのです。レニアさんは今頃元気に諜報活動をしている筈です」


 今さら無駄な事ですけどね、と心の中で付け加える。


「むぅ、こちらの動きは全部筒抜けになっていたという訳か。しかし、ペストや瘴気の沼の事はどうやって知ったのだ。あれだけ早く解決したのだから、我々の計画を事前に知り、準備していたのだろう?」


 なし崩し的に解決する事になったが、どちらも魔導ギルドで依頼を受けただけだ。

 特別な情報網なんて持っていないし、事前に知っていた訳でも無い。


「どちらの事件も魔導ギルドで聞いただけですよ。魔法ですぐに解決できたので、準備は何もしていません」

「たかが一人二人の魔法で解決できる訳がなかろう。まさか、噂通り神の御業を使えるとでもいうのか」


 神の御業というのは、あながち間違いではないかもしれない。

 私は暗黒神であるシェリスと同じ暗黒魔法Lv10が使えるし、ペストの解決にはシェリス本人も魔法を使ったからね。

 それは良いとして、そろそろ本題に入ろう。


「それについては、ご想像にお任せします。それよりも、プロイタール王国への侵攻を諦めてもらえませんかね」

「ふん、無理に決まっておろう。小麦が手に入らず、毎日堅くて不味いパンで過ごすシャピナ共和国民の気持ちは、お前たちには分かるまい」


 硬くて不味いパンというと、ライ麦パンの事だろうか。

 ライ麦は小麦と違って寒い地方でもよく育つが、焼いても硬くて酸っぱくてボソボソの黒パンになってしまう。

 しかし、だからといって他国を侵攻しても良いという理由にはならない。


 小麦が育たなくても、工業や魔導具といった技術で国を支えれば良いし、魔物の素材を特産にする手もある。

 そういった、国内開発に力を注いで欲しい。


「予想通りの答えとはいえ、このままではプロイタール王国も困るので、力づくでもその信念を曲げて頂きますよ」

「力づくと言うが、どうするつもりだ。この老骨を痛めつけるか? それとも人質でも取るのか? どれも無駄だと言っておくよ」


 どうもこのハゼルさんは、発想が過激だ。

 いや、暗黒魔法を駆使する私が人道的かと言われると、そうとも言い切れないが……


「いいえ、もっと効果的に、こうするのですよ」


――【精神異常】


 私はハゼルさんから『他人を犠牲にしても、仕方ない』という感情を消し、『他人を犠牲にする事は悪』という感情を植え付けた。


「……」


 ハゼルさんは沈黙してしまった。

 しばらく待つと、ハゼルさんは椅子から立った。


 そして、そのまま土下座を始めた。


「本当に申し訳ない!」


 どうやら、ハゼルさんは改心してくれた様だ。


◇◇◇


 ハゼルさんが土下座したままだと話が進まないので、まずは椅子に座ってもらった。


「本当に、申し訳ない事をした……」


 椅子に座っても、ハゼルさんは謝り続けている。

 ハゼルさんは改心したので、もうプロイタール王国の害にはならないだろう。

 しかし、これまで行ってきた事のけじめは必要だ。


「ハゼルさん、謝罪するならプロイタール王国の国民にお願いします。それが、けじめだと思います」

「ああ、それは分かっておる。私は正式な国の代表ではないから非公式にはなるが、王国へ行って謝罪しようと思う」


 どうやら、話は通じた様だ。

 プロイタール王国への侵攻も、国を憂いての行動だったみたいだし、話の分かる人で良かった。


「しかし、我が国の食料事情は悪く、プロイタール王国を狙う輩が現れるのも時間の問題か……」


 確かに、この国の事情を改善しない限り、根本的な問題は解決されない。

 しかし、解決策はいくつもある。


「食糧事情については、ハゼルさんの力が役に立つではありませんか」

「それはどういう事だ?」


 ハゼルさんは、自分の持つ力を理解しきれていない様だ。

 情報網というのは、何も敵国の情報収集だけではなく、色々と役に立つものだ。

 食糧事情の改善にも役に立ってくれるだろう。


「各国の高地や寒冷地には、寒さに強い作物が沢山あると思いませんか? それらを持ち帰って研究し、食料となりそうであれば広めていけば良いのです」

「はたして、そう上手く行くか……」


 まだ信じ切れていない様だ。

 ここは、異世界転生ファンタジー小説で定番の、あの作物を引き合いに出してみよう。


「例えば、ジャガイモなんてどうでしょうか。寒冷地でもよく育ち、食用部分は地中にあるので鳥獣の被害もすくなく、収穫量も多いですよ。何より、美味しいです」


 この世界に来たばかりの頃、アマツ屋で肉じゃがを食べたので、この世界にもジャガイモがあるはずだ。

 ただ、主食にしているという話は聞かないので、一部の料理に使う特殊な作物という扱いかもしれない。


「なるほどな。私は力の使い方を間違っていたと言う事か。私の目を覚まさせてくれたこと、感謝する。できれば、他の3人も同じように道を正してはくれんか」


 もちろん、真の評議会メンバーの残り3人についても、ハゼルさんと同様に改心してもらう予定だ。

 3人ともなかなかの力を持っている様なので、シャピナ共和国を富ませるために役立つだろう。


「ところでレニアの処遇だが、迷惑でなければセト達が貰ってはくれんか」


 レニアさんは、そのままスパイ続行という事だろうか。

 しかし、私やシェリスの魔法があれば、スパイとしては役に立たないのは、ハゼルさんも分かっている筈だ。

 完全に私たちの部下になるのであれば貴重な諜報要員になれるが、何か裏があるのではと疑ってしまう。


「どういう魂胆でしょうか?」

「レニアは孤児で、私が拾って育てたのだ。いわば孫娘の様な物なのだ。レニアには裏家業から足を洗って、普通の生活を送って欲しいのだ。まあ、私自身がその気持ちに気づいたのは、つい先ほどだがな」


 手駒のスパイとして育てたつもりが、情が移ってしまったのだろう。

 こうしてみると、ハゼルさんもただのお爺さんだな。


「ああ、それとレニアはこの国でいくつか犯罪を冒しているが、恩赦を出しておくので安心して欲しい


 あの犯罪のオンパレードは、どれもシャピナ共和国内の事らしい。

 さすがに犯罪者を匿うのは気が引けるので助かる。


 そういう事なら、レニアさんを引き受けるのもありだろう。

 私達を裏切らない様に、もう少し魔法を掛けておけば安心だ。

 ただ、レニアさんがハゼルさんから捨てられたと勘違いしない様に、2人でしっかり話し合ってもらう必要がありそうだ。


「わかりました、レニアさんはお預かりしましょう。ただ、レニアさんにはハゼルさんから直接伝えてくださいよ。それと、年に何度か里帰りをさせますので、その時は受け入れてください」

「セト達の配慮、感謝する」


 この後、他の3人についても、ハゼルさんと同様に改心してもらった。

 ハゼルさんの助けもあり、思ったよりも楽に進める事が出来た。


 これで、私達が平和でのんびり暮らすための障害は無くなった。

 今日は家に帰ってゆっくり休む事にしよう。


 次話は1月22日に投稿する予定です。

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