45.家臣の募集 3
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貴族出身者の選定が終わり、一般募集者との面接を始めようと思った所、カルナさんからトラブルの連絡があった。
「セトさん、筆記試験で落ちた方が納得いかないと言い張って、面接を始められません。どうにかならないでしょうか」
試験を始める前に、筆記試験で全問正解した者のみ面接を受けられると通達してあったはずだ。
それにも関わらず試験の妨害をするとは、一体どのような了見なのだろうか。
「わかりました。私が筆記試験の会場へ行きます」
試験会場に行くと、アクアリーナさんが多数の人に囲まれていた。
「ああ、セトさん! お願いです、助けてください」
アクアリーナさんから悲痛な声が上がる。
魔導ギルドの受付をしているカルナさんはともかく、アクアリーナさんではこの様な場面を乗り切るのは難しいだろう。
少し可哀想な事をしてしまった。
「アクアリーナさん、お待たせしました。ここは私が引き受けましょう」
私がそう言うと、アクアリーナさんに詰め寄っていた人達が、こちらへ押し寄せて来た。
「私が満点ではないと言うのは、何かの間違いでしょう。もう一度採点のし直しをして下さい」
「こんな紙切じゃあ俺の事は分からない。面接をして俺の事を知ってくれ」
「読み書きや計算は勉強中なのです。すぐに出来るようになるから、どうか面接してください」
詰めかけて来た人の言い分は、およそこういった内容だった。
ちなみに、採点はカルナさんとアクアリーナさんの2人で二重チェックしているので、間違いは無いはずだ。
そもそも、2人とも事務のプロなので、この程度の採点で誤りはしないだろう。
「ここで騒がれても収拾がつかないので、みなさん席について下さい」
そう言って、全員席に戻ってもらう。
ちなみに、まだ帰宅した人は居ないらしく、応募者全員が揃っていた。
「みなさんのおっしゃりたい事は、筆記試験の結果に関わらず、面接で合否を決めて欲しいという事でしょうか」
私がそう問うと、多くの人がうなずく。
「わかりました。それでは不合格者全員を面接する事にします。まず、筆記試験に不合格だった方で、面接を希望される方は手を上げてください」
すると、不合格だった人のほぼ全員が手を上げた。
不合格者で手を上げなかったのは一人だけだ。
「今手を上げなかった72番の……シュリさんは、なぜ面接を希望されないのですか?」
「それがルールだからです」
なかなか愚直な返答だ。
しかし、それだけではシュリさんの人柄が分からないので、もう少し話を聞いてみることにしよう。
「面接を受けないと、その時点で不採用と決まってしまうのですよ? そこまでしてルールを守る理由は何でしょうか」
「それは、筆記試験で満点を取れる程度の教養が無いと、セト様にご迷惑をお掛けする事になると考えたからです。そうでなければ、わざわざ筆記試験なんて実施されないでしょう?」
どうやら、シュリさんは筆記試験の意図をしっかり理解できていた様だ。
シュリさんは相手の意図を汲み取り、例え自分に不利な事であろうとも、受け入れる事が出来る人の様だ。
これは、なかなかの逸材だと言えるだろう。
「それでは、筆記試験不合格者の面接を終了します。シュリさん以外の方は不合格となりますので、お引き取り願います」
私がそう伝えると、不合格者達から「どういう事だ、説明しろ」や「まだ面接していないじゃないか」といった不満の声が上がる。
その中でシュリさんだけは、呆けた顔でこちらを見ている。
なかなか聡いシュリさんも、この一幕は理解できていない様だ。
このままだと騒動が収まりそうにないので、不合格者達に説明する事にしよう。
「だまりなさい!」
私の一喝で、場が静まる。
「貴族の間では、細かいマナーや風変わりな習慣が多くあります。そういうルールを気に入らないからと言って破るような人は、私の家臣に必要ないのですよ」
私はうんざりしながら、不合格者達に説明をした。
すると、不合格者は「それがどうしたって言うんだ」や「俺はまだ何も言っていないじゃないか」等と言って騒ぎ始めた。
何人かは、私の言いたいことに気づいて気まずそうな顔をしているが、多くの人は気づいていない。
「あなた方には、本当に失望させられますね。筆記試験で不合格者だったにも関わらず、面接をさせろと言ってくるルール破りをした方は、私の家臣にふさわしくないと言っているのです。先ほど私は『不合格者全員を面接する』と言いましたよね? その時からもう面接は始まっていたのですよ」
さすがにそこまで言うと、全員に私の言いたい事が伝わった様だ。
◇◇◇
貴族出身者達とは違う疲労感を味わった後、ようやく一般募集者との面接を始めた。
今日中にシュリさんも合わせて12人の面接をしなくてはいけないので、なかなか大変だ。
ちなみに、シュリさんは【風魔法】Lv7の使い手で、私と同じく魔導ギルドに所属しているそうだ。
それ以外の人も、ほとんどが真面目で人当たりの良い人だった。
しかし、残り2人になった所で興味深い人が来た。
その人は、オパールという名の女性冒険者なのだが、【ステータス】の情報が凄い事になっている。
【オパールのステータス】
【名前】 レニア
【性別】 女(人族)
【年齢】 22
【職業】 シャピナ共和国のスパイ
【体力】 131/131
【魔力】 115/115
【腕力】 31
【俊敏】 51
【知力】 27
【器用】 45
【状態異常】 異常なし
【能力】 【隠密行動】Lv5、【盗聴】Lv6、【尋問】Lv4、【剣術】Lv5、【暗黒魔法】Lv2
【賞罰】 殺人、誘拐、盗難、盗聴、不法侵入
どう見ても、シャピナ共和国からの敏腕スパイだ。
能力も凄いが、賞罰欄が犯罪のオンパレードだ。
加えてステータス上の名前はレニアになっているので、オパールというのは偽名だろう。
『シェリス、この人凄いよ! 本名はレニアと言って、シャピナ共和国のスパイらしいよ』
『へぇ、そうなのね。でも、シャピナ共和国のスパイがアタシ達に何の用かしら』
レニアさんと面接をしつつ、念話でシェリスと相談を進める。
驚きを顔に出さないようにするのが、地味に大変だ。
『面接が終わった後、レニアさんの本音を聞いてみようか』
『暗黒魔法で聞き出すのね。アタシに任せて!』
さすが暗黒神様だけあって、暗黒魔法の出番が来るとシェリスが生き生きとし始める。
こういった暗黒魔法らしい使い方はシェリスの方が経験豊富なので、任せる事にしよう。
面接が終わった後、レニアさんの目がトロンとして来た。
「シェリス、何をやったの?」
「【精神異常】で【自白】の状態異常を付与したのよ。これで、聞かれた事には全て正直に答えるわ。【精神異常】で記憶も消せるので、ここで話したことも覚えていないから安心してね」
何でも正直に話して、しかも正直に話した事を記憶から消されるのか。
これではレニアさんが完全に逆スパイになってしまう。
さすが暗黒魔法、えげつない。
それでは、色々と聞いてみましょうかね。
「レニアさんは、何の目的で私の家臣になろうとしたのですか?」
「ハゼル様の目的の邪魔にならない様にあなた達を監視し、邪魔になりそうなら始末するためです」
始末するとは穏やかじゃあないな。
まあ、私以外の3人は殺そうと思っても殺せないのだけどね。
それよりも、ハゼルという人の目的が気になる。
どうせロクでも無い事だろうが、事前に回避できるなら回避しておきたい。
「ハゼルさんの目的とは、何ですか?」
「プロイタール王国の軍部を腐敗させて民衆の反感を煽り、裏から反乱を手引きする事です」
どうやら、思ったよりも大きな事を企てている様だ。
シャピナ共和国の首脳陣には戦争の時に警告したのだが、ハゼルという人からは無視されたみたいだ。
それから、レニアさんから計画の内容と、潜り込んでいる工作員の名前を知る限り話してもらった。
それらをメモし、面接が終わった後に宰相のローレン様へ報告する事にしよう。
あまり長く面接していると他の人に怪しまれるので、レニアさんの面接はここまでだ。
◇◇◇
最後の1人の面接は問題なく終わり、家臣の選出に入った。
とは言っても、私の思いをシェリスに伝えて意見を聞くだけだ。
「一般応募者からの家臣選出だけど、シュリさんとレニアさんにしようと思う」
「え、レニアさんを家臣にするの?」
シェリスが驚くのも無理はない。
わざわざ敵のスパイを雇おうというのだから。
しかし、暗黒魔法があればレニアさんは美味しい情報源だ。
「レニアさんには、もう少し今回の件の情報源になってもらおうと思ってね。正式な家臣はアルフさんとシュリさんだけだよ」
「なるほど、そういう事ね。でも、アタシはともかくセトの命を狙っているのは心配だわ」
シェリスが心底から私の身を案じてくれるのが、少し嬉しい。
しかし、そこは安全策を講じているから大丈夫だ。
「実は面接が終わった時に、【精神異常】で『セトやその家族の殺害をためらう』という状態異常を付けておいたから大丈夫だよ」
「でもそれって、レニアさんが自分の【ステータス】を見たら怪しまれると思うわ」
それについては、問題無い事を確認済みだ。
「どうも、【精神異常】で永続的な状態異常にすると、【ステータス】には出てこなくなるみたいだね。状態異常を付けた後、レニアさんの【ステータス】を確認したから間違いないよ」
「そうだったのね。アタシは【ステータス】の能力が無いから、知らなかったわ」
そうでなければ、ミルスに『感情欠落』の状態異常が付いているはずだからね。
おそらく、精神異常ではなく精神変化という扱いなのだろう。
大丈夫だという事が確認できたからか、家臣の選出にシェリスも納得してくれた。
家臣の選出が終わったので、シュリさんとレニアさんを呼んで来てもらう。
それ以外の人は、残念ながら不採用を言い渡して解散してもらった。
その後は、私の家族4人と家臣3人で顔合わせを行った。
その時、ミルスとトーヤが守護霊だと伝える事にした。
2人の事を家臣に隠すのは無理があるし、最近ではミルスが幽霊だとご近所様に感づかれ始めている。
さすがに、殺されたはずの少女が普通に生活していたら、おかしいと思うよね。
ただ、悪霊の時のミルスを知らないからか、特に問題なく受け入れられている様だ。
色々と疲れる事が多かったが、これでようやく家臣の募集が終わりだ。
カルナさんとアクアリーナさんには、後でしっかりお礼をしてあげないといけないね。
次話は1月15日に投稿する予定です。




