44.家臣の募集 2
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
家臣募集の公表から2週間後、家臣採用の朝がやって来た。
会場は、想像以上の人で賑わっている。
会場として、軍の会議に使う施設を借りる事にしたのだが、そこへ100人以上の希望者が詰めかけて来ている。
しかも、貴族出身の人を除いて、この人数なのだ。
「カルナとアクアリーナに手伝いをお願いしておいて良かったわ」
シェリスの言う通り、魔導ギルドのカルナさんと生産ギルドのアクアリーナさんが手伝いに来てくれた。
シェリスの友人である2人は、話を聞くと快く引き受けてくれた。
今日は大変だろうから、あとでしっかりお礼をしておこう。
「それにしても、領地も持たない弱小貴族なのに、何故こんなに応募者が多いのだろうね」
「セトさん、それ本気で言っています? 一流の魔法使いで救国英雄の貴族様なんて、こんな優良物件はなかなか見ないわよ。これで領地持ちだったら、この10倍は来ているわね」
私のぼやきに、アクアリーナさんが答えてくれる。
本当は、望めばいつでも領主になれるのだが、言わない方が良さそうだ。
それはさておき、集まってくれた人たちに挨拶をしよう。
「はじめまして、私がセト・イツクシマ子爵です。本日は多数の方にご応募頂き、有難く思っています。私の家臣の募集という事で、皆様には不正なきようお願いします」
挨拶はこの辺にして、家臣の選定を始めよう。
まずは、筆記試験で読み書きと簡単な計算ができるかの確認だ。
ただし、貴族出身の人達は相応の教育を受けているはずなので、筆記試験は免除だ。
筆記試験が始まると、みな真剣に試験を受けるのだが、一人だけ何もせず用紙を見つめる少年が居た。
文字の読み書きが出来ないのだろうか?
いや、ここに居るという事は、募集の要綱を読んでいるだろうから、ある程度の読み書きは出来るはずだ。
気になって少年の【ステータス】を見て驚いた。
【トーヤのステータス】
【名前】 トーヤ
【性別】 男(精神生命体)
【年齢】 13
【職業】 浮遊霊
【体力】 23/23
【魔力】 130/130
【腕力】 25
【俊敏】 18
【知力】 41
【器用】 15
【状態異常】 異常なし
【能力】 【飛行】、【透明化】
どうやら、幽霊が家臣の募集に応じてくれた様だ。
しかし、【実体化】や【念動力】の能力を持たないので、ペンを動かせないらしい。
いくら何でも、これで落ちては可哀想なので、後で特別の追試をしよう。
その前に、この幽霊はミルスの知り合いの様な気がするので、別室に居るミルスに聞いてみる。
「ミルス、家臣の募集試験にトーヤさんという幽霊が来ていたけど、知っている?」
ミルスの待機している部屋へ行き、トーヤさんの事を聞いてみた。
「はい、知っていますがトーヤが何かしましたか?」
やはり、ミルスの知り合いだった。
何の伝手もなく来られると呪われたりしないか心配になるが、ミルスの知り合いなら安心しても良いだろう。
「どうもペンを動かせないみたいでね。試験用紙を見たまま固まっていたよ。後で特別に追試するので、手伝ってくれるかい?」
「はい、わかりました!」
大丈夫だとは思うが、一応シェリスにもこの事を伝えておいた。
突然幽霊だと知って、トラウマが復活しても困るからね。
◇◇◇
筆記試験は何事も無く終わり、カルナさんとアクアリーナさんに採点してもらっている。
その間に、私達はトーヤさんを別室へ招いて追試することにした。
「さて、トーヤさん。あなたはペンを動かすことができないのですよね? そこで、特別な試験を受けてもらおうと思います」
「え? このまま試験を続けてもらえるのですか? 僕はてっきり落とされたのだと思っていました……」
これが大学の入試だったら落とされていたと思う。
しかし、これは家臣の募集なので、柔軟に対応する事にした。
何より、幽霊が家臣の応募に応じてくれるなんてファンタジーな展開を、このまま見過ごすなんて勿体ない。
「せっかく来てもらったのだから、そんな事はしませんよ。トーヤさんは、試験の答えをミルスに伝えてください。ミルスは、言われた内容を試験用紙に書いてね」
「分かりました。ご期待に応えられるように頑張ります!」
「ミルスも頑張ります」
こうして、トーヤさんの試験を行った。
結果は満点で、どうやら生前はなかなかの教育を受けていた様だ。
筆記試験の方は問題ないので、このまま面接をしよう。
面接はシェリス、ミルスと3人で実施する事にした。
現状では、身内はこの3名しか居ないので、全員で面接だ。
「さてトーヤさん、あなたが私の家臣になろうと思った理由を教えてください」
まずは、お決まりの質問からだ。
「私がセト様の家臣になりたい理由は、……ミルスの傍に居るためです」
ええと……。
少し予想外の答えが返って来た。
しかし、こういった事を素直に答えるのは、とても好感が持てる。
「それは、ミルスが好きだと言う事でしょうか」
「はい、僕はミルスの事が好きです。ミルスと一緒に居るために、セト様の家臣になりたいのです!」
ミルスの方を見ると、俯いている。
気のせいか、ミルスの顔が少し赤い。
「ミルス、一応聞いておくけど、トーヤさんと付き合っているの?」
すると、ミルスは小さく頷いた。
どうやら、私とシェリスだけでなく、ミルスも春を謳歌していた様だ。
しかし、そうなるとトーヤさんが家臣と言う立場は、あまり良くないと思う。
ミルスは私やシェリスの事を様付けで呼んでくれるが、本来は私やシェリスと上下関係にはない。
トーヤさんが私達の家臣になると、私達とトーヤさんの間に上下関係が生まれるので、少なからず軋轢が生まれるだろう。
「うーん。シェリス、どうしようか。トーヤさんを家臣にすると、ミルスとトーヤさんの間に色々と軋轢が生まれそうだよ」
「そうねぇ。確かに、トーヤさんが家臣だと、ミルスとトーヤさんの間に壁ができてしまうわね」
「あの……、やっぱり僕が居るとご迷惑でしょうか」
私とシェリスが深刻に悩んでいると、トーヤさんが心配そうに聞いてきた。
ここまで来て追い返そうなんて思っていないので、誤解は解いておこう。
「いえ、我が家に住んでもらうのは、問題ありませんよ。ただトーヤさんが家臣になると、トーヤさんとミルスの関係が少し困る事になりそうだと、心配していた所です」
「それなら、僕もミルスと同じ守護霊になります。家事はあまりできませんが、不審者を追い払う位なら僕だって出来ます!」
何とも心強い事だ。
幽霊に襲われる怖さは身をもって知っているので、侵入者には同情するね。
ミルスから念動力を習えば、鬼に金棒だろう。
「それはとても嬉しい申し出ですね。ただ、私やシェリスと一緒に出掛ける時は、場所によっては使用人として扱われる事がありますが、それでも良いでしょうか?」
「はい、もちろんです! それと、僕の事はトーヤとお呼びください」
どうやら、我が家に家族が一人増えた様だ。
これでまた少し、にぎやかになるな。
◇◇◇
トーヤとの話が終わった頃、貴族出身の家臣希望者が集まり始めた。
まだ筆記試験の採点は終わっていないが、貴族出身の方々を待たせる訳にはいかないので、面接を始める事にした。
そして、面接が始まって10分もしない間に、私は後悔し始めた。
貴族出身の方々に家臣になろうと思った理由を聞いた所、とんでもない答えばかりが返って来たのだ。
「イツクシマ子爵殿、貴殿は実に運がいい。歴史に名高いフロウシュタッツ男爵家から家臣が得られる機会は、そうそう無い事ですぞ。さあ、私を採用するのです」
フロウシュタッツ男爵って誰だよ。
初耳だよ!
「私は趣味で歴史書の編纂を行っている。ここは私を家臣に加え、イツクシマ家を歴史に残しては如何かな」
趣味で書かれた歴史書に名が載っても、全く嬉しくない!
「私を家臣に加えてくれるのであれば、セト様は近い将来に伯爵へ叙せられる事を保証しよう。なに、私の手に掛かれば造作もない事です」
何の根拠もなくそんな事を言われても、全く信用できない!
といった感じだった。
みんな、とても必死に自己アピールをして来た。
しかし、私が知りたいのは、家臣になりたい理由なのだ。
数人を除き、ほとんどがお話にならない方々だった。
どう考えても、自力で職にありつけない三男坊以下の方々が、藁にも縋る思いで来たとしか考えられない。
そして、まともに受け答え出来た方は、全員紹介状を持って来ていた。
最初から、貴族出身者の採用には紹介状が必要だと、条件を付けておけばよかった。
そして、最後の一人は聞き覚えのある家名の人だった。
「セト様、面接を始める前に、まずこれをご覧頂きたくお願いします」
そう言ってきたのは、トール・ミュンセン子爵の三男で、アルフ・ミュンセンという青年だ。
トール・ミュンセン子爵は先の戦争で大けがをして、その治療の際に私と知り合った。
渡された書状を見ると、トール様からの紹介状だった。
その紹介状によると、アルフさんは荒事には向かないながらも、貴族としての礼儀やしきたり、人付き合いの方法を叩きこんであるとの事だ。
まさに、私達が欲している人材を紹介してくれた訳だ。
「なるほど、トール様からの紹介状ですね。ところでアルフ様は、何故私の家臣になりたいと思われたのでしょうか?」
これまで何度も聞いてきた質問だが、アルフさんにも聞いてみる。
「はい、噂話を聞いてセト様に興味を持ったというのが正直な理由です。広大な瘴気の沼を一瞬で浄化したり、一夜で街道を作り上げたりと、おとぎ話のような噂の正体を知りたいと思いました」
どうやら、アルフさんはかなりの正直者な様だ。
普通であれば、こういった質問には綺麗事を並べたくなる物だ。
それにしても、私の噂はかなり誇張されている気がする。
確かに、暗黒魔法には対象範囲の広い魔法が多いので、うまく使えば大きな効果が得られる。
そういった結果に尾ひれがついて、おとぎ話の様な噂話になったのだろうか。
その後、アルフさんにいくつか質問をして、貴族出身者との面接を終えた。
「ねえシェリス、私は最後のアルフさんに家臣になってもらいたいと思うけど、どう?」
最後の確認として、シェリスの思いを聞いてみる。
「アタシも良いと思うわ。堅苦しくなさそうだし」
シェリスの了解が得られたので、アルフさんを採用する事にした。
アルフさん以外の貴族出身者は、これにて解散だ。
加えて、紹介状を持参してくれた方々には、お詫びの手紙を渡しておいた。
紹介状のありがたみが身に染みて分かったからね。
次話は1月8日に投稿する予定です。




