43.家臣の募集 1
本日も1話のみの投稿となります。
公都レイタルの観光を終えて王都プロイデンへ帰って来たのは、シーティカへの街道を整備してから1週間後の事だった。
もう少し観光していても良かったが、冬の真っただ中に街中を観光して回るのは、なかなか厳しいものがある。
転移門を使えばいつでも来られるという事で、観光を終えて家でゆっくりしようという事になった。
転移門で公都レイタルから帰宅した翌日、家臣の募集について考える事にした。
「ねえシェリス、そろそろ家臣の募集を始めたいけど、どんな人が良いと思う?」
「そうねぇ、アタシ達は貴族事情に疎いから、現役貴族の子息から1人は欲しいわね」
確かに、私やシェリスは元々この世界の住人ではないので、貴族の作法や事情を教えてくれる人が欲しい。
それに、貴族の3男以降は家を出ないといけないらしいので、生計を立てるために応募に来てくれそうだ。
「その他としては、護衛かな?」
「ドラゴンを一人で倒せるセトには、護衛が必要とは思えないわね。まあ、正式な行事に連れて行く、形だけの護衛は必要でしょうね」
レッドドラゴンについては、暗黒魔法との相性が良かったとしか言えない。
暗黒魔法は直接攻撃力に劣るので、いざという時のために魔法使いが居ると心強い。
とはいえ、シェリスは高Lvの空間魔法を使えるので、必須ではないと思う。
「それなら、事務仕事をしてくれる人を募集して、公的な場では形だけの護衛になってもらうのでどう? 今後は事務系の仕事が増えそうだしね」
「あ、それいいわね。アタシ事務系の仕事って苦手なのよね」
家臣を持つと、どうしても事務仕事が増えてしまう。
私とシェリスだけで事務仕事をこなしても良いけど、どうせなら事務系の家臣を雇いたい。
魔導ギルド内では何故か事務系職種の人気が高いので、魔法使いの中から事務系の募集に応えてくれると、護衛も兼ねられて嬉しい。
「あとは、その他に面白そうな人が来てくれたら採用するという事で良いかな」
「そうね。領地を持っている訳でもないし、報酬を払わなくちゃいけない事を考えると、3~4人位かしらね」
「それと、募集する人の種族も、問わなくていいよね?」
「それについては今さらなので、良いと思うわ」
この世界には、人族の他にエルフやドワーフといった亜人族が居る。
亜人族は、容姿を除けば人族と変わらないため、特にお断りする理由が無い。
とは言っても、このトライスター大陸に住んでいる種族は人族が中心のため、亜人族はあまり見かけない。
他大陸に行けば、亜人族やそのハーフも普通に見かけるらしい。
その他にも、魔物が人型に変化した魔族、死者の魂が生命体となった幽霊、そして神様である神族といった種族がある。
これらの種族は人族とは根本から異なるが、募集に応じてくれれば、採用するのも面白そうだ。
これで、家臣募集の要綱が出来上がった。
・貴族出身者 1名
・事務 1名
・護衛 最大1名
・その他 最大1名
※貴族出身者の募集を除き、出自や種族は問わない。
※選定に際して、試験と面接を行う。
あとは、王城に行って家臣募集の広報を出してもらおう。
ついでに、試験や面接するための場所として、王都内の施設をどこか借りよう。
◇◇◇
ここは、とある豪奢な屋敷の一室。
建物は大理石で出来ており、内装や調度品はどれも一級品だ。
ここが、一国の主の住まいだと言われても、誰もが納得するだろう。
そんな国中の贅を尽くした部屋の中で、我々4人の老人が会議を行っている。
この国の行く末を決める、重要な会議だ。
「戦争による侵略は失敗に終わったか」
まず初めに口を開いたのは、ジャノンという老爺だ。
ジャノンは瘴気を扱う研究を取り仕切っており、先日もプロイタール王国へ瘴気の沼を作り出したり、瘴気の石を使って人族を魔人化させたりした。
しかし、そのどちらも失敗に終わっている。
瘴気の沼はあっという間に浄化され、魔人は大した被害も出さずにその場で討伐されている。
「またも異世界人が邪魔しおったな」
次に言葉を発したのは、魔物を操る術の使い手である、老婆のハノイだ。
ハノイは魔物を使ってプロイタール王国へ疫病を流行らせたが、これも失敗に終わっている。
1つの都市にペストを蔓延させる事に成功したが、あっという間に撲滅された。
我々の計画は、ことごとく異世界人のセトに介入され、失敗に終わっている。
今回の戦争についても、途中までは我々の思惑通りに進んでいたが、結局はセトの介入により敗戦となった。
「脅しに屈する様な、役立たずの指導者共は首を切ったが……。本当に厄介な異世界人だ」
そう話すのは、この4人のリーダーである、老婆のシノだ。
シノは軍事に長けており、この国の軍備の基礎を作り上げた。
今回の戦争もシノの計画で行われたので、セトに対する恨みも大きいだろう。
ジャノン、ハノイ、シノ、そして私ハゼルの4人は、このシャピナ共和国の真の所有者だ。
我々4人は真の評議会と名乗っており、シャピナ共和国を裏から操っている。
この国の指導者の面々は、我々の手足となって働いているに過ぎない。
我々の意に沿わないのであれば、例えこの国の最高権力者であっても、確実な死が待っている。
しかし、我々真の評議会でも、思い通りにならない事がある。
その最たるものが、異世界人のセトだ。
プロイタール王国の肥沃な大地を奪おうと画策した計画は、いずれもセトの介入によって失敗している。
「しかし、このまま手をこまねいている訳には行くまい。何か次の手を打つべきだ」
「ジャノンよ、次の手と言うがどの様な手があるのだ」
シノの詰問する様な口調に、ジャノンは押し黙ってしまう。
「ハノイよ、お主の研究しておる魔物を操る術で、プロイタール王国を攻めてはどうだ」
「バカを言うんじゃないよ。あの術は、せいぜい5~6体の魔物しか操れないんだ。シノも知っているだろう?」
ハノイの術は、魔物で攻めるには数が少なすぎる。
どちらかと言えば、魔物を操る事で、証拠を残さず目的を遂行する使い方に向いている。
しかし、国を傾かせるとなると少数の魔物で出来る事は少ない。
「それなら、ジャノンの作る瘴気の石で魔人を量産して、王国内で暴れさせるのはどうだ?」
「あの石は年に数個作るので精一杯だ。それに、魔人は制御なんて出来ないのだから、分の悪い博打になるな」
ジャノンの作る瘴気の石は、瘴気の沼を作るために使い切っている。
プロイタール王国を混乱させる程の瘴気の石を作るには、何十年もの準備期間が必要になるだろう。
4人の間で、重苦しい沈黙が漂う。
「こうなれば、王国を内部から切り崩すしかないな」
「ハゼル、それはどういう事だ?」
私の言葉に、3人の目が集まる。
私は、事前に考えていた案を3人に話した。
その内容は、王国へ工作員を放ち、王国内部を腐敗させるという物だ。
王国が腐敗した所で内部対立を煽り、内乱を起こさせ、混乱している隙をついて王国を侵略しようという内容だ。
「ふむ、なかなか良い案だな。我々の工作に気づいた頃には、もう手遅れと言う訳か」
「さすがハゼルだな。スパイを使わせれば、我々の中で右に出る物は居ないな」
そう、私の得意とする事は、スパイや工作員を使った情報戦だ。
ことシャピナ共和国の中に限って言えば、私に隠し事をすることは不可能に近く、また私の手に掛かれば黒も白になる。
「問題は、異世界人セトの介入を如何に防ぐかだな」
シノの懸念は正しい。
これまで我々の計画を邪魔してきた、セトの介入を防ぐのが、今一番の懸念事項だろう。
しかし、私には考えがある。
「私の子飼いに、最高の技術と、どのような拷問にも耐える精神力を併せ持ったスパイが居る。丁度良い事に、セトは家臣を募集中だそうなので、そいつをセトの近辺に潜り込ませることにしよう」
「なるほど。そのスパイにセトを監視させ、我々の計画に気付きそうであればミスリードさせる訳か」
「隙を見て、セトを亡き者にするのも良いな」
「可能であれば、弱みでも握って我々の手駒にしたいものだ」
どうやら、3人には納得してもらえた様だ。
「ふふ、プロイタール王国の肥沃な大地が我らの物になる日も近いな」
いずれ手に入る肥沃な大地を胸に、計画の詳細を詰めて行った。
次話は1/1に投稿予定です。
みなさん、良いお年を!




