41.漁村シーティカ 4
仕事が忙しくなってきたので、投稿ペースが落ちてしまいます。
今週からは、週に1話のペースで投稿する事になりそうです。
私とシェリス、ミルスは、エヴィル・トレントの姿が見える場所で馬車を降りた。
「ミリオさんとサーシャさんは、一度街道まで避難していてください。ここに居ると巻き込んでしまうかもしれません」
シェリスと念話で相談して、冒険者の2人には、エヴィル・トレントの見えない所まで避難してもらう事にした。
エヴィル・トレントや私達の攻撃に巻き込まれない様にする為だ。
それに、今回はミルスも一緒に戦ってもらう事にしたので、その正体に驚かれない様にする為でもある。
「私が1体を受け持つので、シェリスとミルスは残り1体をお願いするね」
そう言いながら、私はミルスに久遠のショートソードを渡す。
「任せて! アタシの魔法で倒してあげるわ」
「任せてください、シェリス様は私がお守りします」
2人から、頼もしい返事が返って来る。
そして、私たちは二手に分かれて走り出した。
私たちが二手に分かれると、エヴィル・トレントも二手に分かれて近づいてきた。
エヴィル・トレントは思ったよりも早く移動してくる。
しかし、全力で走れば何とか追いつかれずに距離を保てる。
シェリス達から数百メートル離れた所で、私はエヴィル・トレントへ攻撃を仕掛ける事にした。
まずは、足止めをするために【激痛付与】から使ってみよう。
――【激痛付与】
いつもの様に、地面に【激痛付与】を使ったが、エヴィル・トレントには効いた様子が無い。
さすがに、元植物なだけあって、痛みは感じない様だ。
それならば、エヴィル・トレントの平衡感覚を奪って足止めしよう。
――【五感消失】
これもエヴィル・トレントには効いた様子が無く、相変わらず私を追いかけて来る。
どうやら、植物系の魔物には、精神に作用する魔法が効かない様だ。
それならば、精神に作用しない系統の魔法で足止めすれば良いだけだ。
――【暗闇】
真っ黒な靄がエヴィル・トレントへ張り付くように包み込む。
【暗闇】に包み込まれたエヴィル・トレントは、誰も居ない方向へ進み、枝を振り回し始めた。
やはり、精神に作用しない【暗闇】であれば、エヴィル・トレントに効くらしい。
この事をシェリス達にも伝えれば、向こうも少しは楽になるかもしれない。
『シェリス、エヴィル・トレントには【激痛付与】や【五感消失】が効かないので、気を付けて。足止めするなら【暗闇】が効くよ』
『うん、分かったわ。でも、こっちは空間魔法で足止めしているから大丈夫よ』
どうやら、シェリス達のエヴィル・トレントは空間魔法で足止めしているらしい。
やっぱり、空間魔法は便利だな。
そろそろ私も、他の魔法を覚えたいな。
さて、足止めに成功したのは良いが、問題はどうやって倒すかだ。
このまま近づいて剣で攻撃しても良いが、エヴィル・トレントの振り回している枝に当たると、怪我では済まないだろう。
かといって、暗黒魔法は直接攻撃の手段に乏しい。
一応、【呪殺】で倒すことは出来るだろうが、効果が発揮されるまでに時間が掛かってしまう。
ここは、以前から考えていた攻撃方法を試してみよう。
まず、適当な大きさの石を選び出す。
平原とはいえ、大きめの石がそこら中に沢山転がっているので、直径50cm程の石を選んだ。
そして、その石の下に転移門を作り出す。
転移門の出口は、転移門の入口より2mほど上空に設定だ。
すると、石が転移門の中に落ち、転移門に落ちた石はそこから2m上空に現れる。
上空に現れた石は、そのまま落下してまた転移門の中に落ちる。
これが繰り返えされ、徐々に石の落ちる速度が増していく。
そのまま少し待っていると、石が落ちるときの風切り音が凄い音になり始めた。
あまり速度を上げると、衝突した時の衝撃でこちらまでダメージを受けそうなので、そろそろエヴィル・トレントに当てる事にしよう。
エヴィル・トレントから十分に離れた後、石が落ち続けている転移門の出口を、エヴィル・トレントの頭上50m程に変更する。
ドッゴォォォォォン
派手な衝突音と共に、エヴィル・トレントの居た場所が爆発した。
エヴィル・トレントから100m以上離れているけど、小石や砂が当たってきて痛い。
どうやら、思った以上に威力が大きかった様だ。
『セト、凄い音がしたけど、大丈夫なの?』
シェリスが心配して念話を送って来た。
あまり心配させるのも良くないので、無事を伝える事にしよう。
『うん、大丈夫。さっきの音は、私の魔法でエヴィル・トレントを攻撃した音だよ。詳しくは後で話すね』
『セトが無事なら、それでいいわ』
シェリスと話している間に舞い上がった砂煙が晴れてきたので、エヴィル・トレントの居た場所へ移動した。
そこには、直径3mほどのクレーターが出来ており、付近には黒い木の枝や木片が散乱している。
エヴィル・トレントは粉々に砕け散ったと見て間違いないだろう。
それにしても、Aランクモンスターが粉々になるとは、凄い威力だ。
落とした石も粉々になっている。
落とす石を鉄塊のような物に変えると、さらに威力が大きくなりそうだ。
魔石でも落ちていないかと思い付近を捜索すると、紫水晶に似た色の結晶が落ちていた。
こんな所に水晶が落ちているとは思えないので、エヴィル・トレントの部位だろうか。
落ちていた結晶を【ステータス】で鑑定してみる。
【結晶の鑑定結果】
【名称】 エヴィル・トレントの魔結晶
【等級】 希少品
【特殊能力】
・魔結晶から魔力を引き出す事が出来る。
・魔結晶へ魔力を蓄える事が出来る。
・魔石よりも多くの魔力を蓄えておく事が出来る。
どうやら、充電式の魔石の様だ。
しかも、通常の魔石よりも多くの魔力を蓄えておけるらしい。
戦利品も手に入れた事だし、シェリス達の方を手伝いに行こう。
◇◇◇
シェリス達の居る所へ駆けつけると、エヴィル・トレントは足元を固定された状態で、枝をほとんど刈り取られていた。
エヴィル・トレントの足元には、刈り取られた枝が大量に落ちている。
「シェリス、おまたせ」
「セト、無事だったのね! さっきの音はちょっと心配だったわ」
そう言いながら、シェリスが抱きついてきた。
敵を前にしてなんとも緊張感の無い事だが、エヴィル・トレントは足止めしているので、危険は無いだろう。
「それでシェリス、戦局の方はどう?」
「うん、今はエヴィル・トレントの枝が生えて来るのを待っているの」
枝が生えるのを待つ?
一体何をしようとしているのだろうか。
「それって、どういう事?」
「あのね、エヴィル・トレントの枝って、魔法の杖の材料になるのよ。それも、かなり上等のね」
これは、オンラインゲーム等でよく聞く、牧場という物だろう。
魔物の習性を利用して、レアなアイテムを大量入手する遊び方の事だ。
シェリスにとって、エヴィル・トレントは危険な魔物ではなく、金の成る木だった様だ。
「シェリスごめん、私の方のエヴィル・トレントは粉々に吹っ飛ばしてしまったよ」
「ううん、いいのよ。これは、ちょっとしたお小遣い稼ぎみたいな物だから。冒険者の2人を待たせるのも悪いし、アタシ達の方もそろそろ倒しちゃうね」
シェリスが合図すると、久遠のショートソードを持ったミルスが、エヴィル・トレントの根元を切り付け始めた。
エヴィル・トレントは枝を生やしてミルスを攻撃するも、ミルスは幽霊なので攻撃は全て通り抜けてしまう。
ミルスの方が一方的に攻撃している状況だ。
家を買った後、ミルスに攻撃された時に感じたけど、幽霊って理不尽だね。
ズーン
そう考えている内に、エヴィル・トレントは倒れてしまった。
「ミルス、お疲れ様」
「ミルス、ありがとね」
「セト様、シェリス様、ありがとうございます。ミルスやりました!」
私とシェリスがミルスにねぎらいの言葉を掛けると、ミルスは仕事をやり終えた水夫の様な、いい笑顔で返事をしてきた。
エヴィル・トレントの枝や残骸を拾いながら、先ほどの話をする事になった。
「ねえ、セトがエヴィル・トレントを攻撃した時の大きな音って、何だったの?」
「あれはね、魔法で加速させた石を空から降らせたんだ」
「えっと……流星召喚?」
そんな大それた名前の魔法を使った覚えはない。
何か誤解がありそうなので、どうやったかを詳しくシェリスに伝えた。
「ああ、よかった。セトが禁呪に手を出したのかと思ったわ」
「さっきの流星召喚という魔法は禁呪なの?」
「そうよ。流星を召喚して隕石を降らせる魔法なの。最大威力なら、大都市も一瞬で焼け野原になる酷い魔法よ。もし、セトがそれを使っていたら、アタシはセトにお仕置きしないといけなかったわ」
この世界では、禁呪を使うと神様からお仕置きされるらしい。
確かに、そんな魔法を多用されると、この世界の文明は滅びてしまいそうだ。
私がエヴィル・トレントを倒した魔法も、威力を上げれば同じことが出来てしまいそうだが、それは秘密にしておこう。
「そうそう、私の方のエヴィル・トレントからこんな物が出たけど、何か良い使い方を知っている?」
そう言いながら、シェリスへ魔結晶を見せる。
「えぇぇぇ! これって魔結晶じゃない。それも、エヴィル・トレントの魔結晶?」
「そ、そうだけど」
シェリスが勢いよく食いついてきた。
そんなに凄い物なのだろうか。
「それがあれば、風に頼らない船を作れるわ。売れば一生遊んで暮らせるし、国に献上すれば貴族の地位だって貰えると思うわ」
シェリスが凄い勢いでまくし立てて来る。
少し落ち着いて欲しい。
一生遊んで暮らせるだけのお金はあるし、貴族の地位だってもう子爵だ。
あとは、シェリスと一緒に平和でのんびり暮らせられれば、それ以上は望まないよ。
「シェリス、少し落ち着いて。お金も地位も、もう十分だから」
それにしても、風に頼らない船か。
それよりも、空飛ぶ船が欲しいな。
飛行機は無理でも、飛行船位ならこの世界でも作れそうな気がする。
魔結晶の使い方は、王都へ帰ってからゆっくり考える事にしよう。
◇◇◇
エヴィル・トレントを倒して後片付けを終えた後、転移門で街道まで戻って来た。
ミリオさんとサーシャさんは、事前に打ち合わせていた通り、街道で馬車を待機させていた。
「ミリオさんとサーシャさん、お待たせしました」
声を掛けると、2人は馬車から降りて出迎えてくれる。
「皆様、ご無事でしたか。大きな音がしたので、心配していました。たった3人でエヴィル・トレント2体を倒せるとは、さすがです」
冒険者の2人は、私たちの事を尊敬の眼差しで見ている。
私は新しい魔法の実験をしただけだし、シェリス達に至ってはエヴィル・トレントの枝を牧場していたよ。
真実は、黙っていた方が良さそうだ。
その後、馬車に乗って街道作りの旅を再開した。
ようやく落ち着けたので、豊穣神ドリート様に顛末を報告しよう。
――豊穣神ドリート様、ご依頼の魔物討伐は完遂致しました。
『ほっほっほ、セト殿の活躍は見ておったぞい。これで、その平原も平和になるの。お礼に、その平原を開墾した時は、豊作になるよう力を貸すぞい』
この平原を開墾する予定なんて無いが、ひとまず豊穣神ドリート様からの任務は、これにて終了だ。
今週はここまでです。
次話は12/18に投稿する予定です。




