39.漁村シーティカ 2
本日投稿2/3です。
◇◇◇
公都レイタルには、日が大きく傾いた頃に到着した。
公都レイタルは、雪が降っておらず、池も凍っていないので、王都よりもだいぶ暖かい事が分かる。
肌に感じる寒さも、いくぶん柔らかい。
「ねえセト、今日はもう遅いから、フリード様への挨拶は明日にして、宿屋に行かない?」
シェリスの言う通り、今から領主のフリード・レイタル公爵へ面会するとなると、日が暮れてしまう。
今から行くのは、先方に迷惑をかけてしまうだろう。
「そうしようか。フリード様への挨拶は、明日の朝にしよう」
その日は、アマツ屋レイタル支店へ泊まる事にした。
久しぶりのアマツ屋だ。
ミルスも実体化すれば食事できるらしいので、食事と銭湯を楽しんでもらうことにした。
そして翌朝、レイタル城へ来た。
さすが国内最大手の貴族だけあって、住んでいる所も屋敷ではなく城だ。
さすがに王城ほどではないが、兵舎も備わる立派な城だ。
都市の名前も、『公都レイタル』とあるように、国内で2番目の都だ。
そんな大貴族の所へ遊びに来たと挨拶するなんて気が引けるが、これも貴族の礼儀だから仕方ない。
手土産としては、王都産の蒸留酒と、絵画1枚を持参した。
フリード様は酒を飲みながら絵画を楽しむのが趣味との事なので、大和絵風の迫力ある絵画を進呈してみる事にした。
「初めまして、フリード・レイタル公爵様。異世界人のセト・イツクシマ子爵と申します」
「妻のシェリスと申します」
フリード様の執務室に通されたので、まずは挨拶する。
ミルスは、使用人用の控室で待ってもらっている。
「うむ、よく来てくれたな。俺はレイタルの領主フリード・レイタル公爵だ」
「セトか。こんな所で会うとはまた奇遇だな」
フリード様は、柔和な顔つきの初老の男性だ。
そして、フリード様の執務室には、何故か宰相のローレン様がいらっしゃる。
「おいおい、ローレンよ、こんな所とは何だ、こんな所とは」
「ははっ、悪い。許せ、フリード」
ローレン様は、いつになく気さくな雰囲気だ。
きっと、フリード様とローレン様は親友なのだろう。
「所で、本日は何用かな?」
フリード様から、本題を聞かれる。
大した事ではないのが心苦しいが、正直に答える。
「はい。妻の慰安にと思い、しばし公都レイタルに滞在させて頂く事にしました。本日は、そのご挨拶に参りました」
「なるほど、観光旅行ということか。ゆっくりして行くと良い」
ローレン様との話を邪魔するのも悪いし、これで退室しようと思っていると、私の前でフリード様とローレン様が相談を始めた。
「なあ、ローレン。あの事をセトに相談してみたらどうだ」
何やら、厄介事になりそうな予感がする。
「シーティカの事か? さすがに異世界人のセトであっても、無理があると思うがな」
「あの馬鹿げた戦争を一人で終わらせたセトだ、良い知恵を持っているかもしれんぞ」
「そうだな、そうするか。フリードよ、明日部屋を借りるぞ」
「ああ、城の応接室を使ってくれ」
「ということだ。セトよ、明日の朝もう一度城へ来てくれ」
やっぱり厄介事になったよ。
ただ、そこまで切羽詰まった話ではない様なので、今日はしっかり観光しよう。
「分かりました。明日の朝、参ります」
その後、私とシェリスはフリード様の執務室を後にした。
◇◇◇
フリード様と面会した後、公都レイタルを観光することにした。
前に来た時にも感じたが、公都レイタルは王都プロイデンに比べて少し雑多な街並みだ。
レイタル城を出て少し歩くと、住宅と商店と飲食店の入り混じった街並みが続いている。
しかし、区画ごとに特色が違うらしいので、見て回るのが楽しみだ。
今日はもう午後なので、手近なアマツ屋付近の区画を散策する事にした。
アマツ屋近辺は和風建築が多く、落ち着いた雰囲気の街並みだ。
「セト、この辺りの教会って、どういう作りなのかな。王都にあるような教会だと、景観を壊しそうよね」
そう言われて地図を開いてみると、この区画にも多くの教会がある。
すると、ミルスが横から地図をのぞき込んで来る。
「シェリス様、この先にも協会があるみたいです。豊穣神ドリート様の教会と書いてあります」
さすが穀倉地帯の大都市だけあって、豊穣神ドリート様の教会が多いみたいだ。
よし、ここは豊穣神ドリート様へ来年の豊作を願いに行こう。
「来年の豊作を願いに、豊穣神ドリート様の教会に行ってみようか」
「そうしよっか」
「はい、セト様」
豊穣神ドリート様の教会に来ると、そこには立派な神社があった。
入り口には鳥居があり、境内には参道や手水舎もある。
異世界人が伝えた文化だとは思うけど、周囲の景観に合っている。
しかし、神社の本殿に入ると、そこは王都の教会と同じ、洋風の礼拝堂になっていた。
外と中のギャップが激しい。
まあ、日本の神社を知っているからギャップに感じるだけだろう。
他の参拝者は、特に気にする風もなくお参りをしている。
私たちの番になったので、豊穣神ドリート様にお祈りする。
――豊穣神ドリート様、来年はどの国も豊作になりますよう、ご助力をお願い致します。
『うむ。今年は腰痛が酷くて働けず、迷惑を掛けたの。来年は頑張って働くぞい』
……おや?
今、念話が聞こえて来たぞ。
どう考えても、豊穣神ドリート様からの念話だ。
少し気になったので、神社の外へ出た後、シェリスに聞いてみる。
「ねえシェリス、豊穣神ドリート様にお祈りしたら、念話が届いて来たけれど、そう言う事ってあるの?」
「神族同士なら普通に会話ができるみたいね、セトと結婚してから、ネフリィ様からよく念話が届くようになったわ。ただ、神族と人族が念話で話をするなんて、聞いた事が無いわね」
どうやら、めったに無い経験を出来たらしい。
それにしても、普段からシェリスと念話で会話しているからか、豊穣神ドリート様の念話に違和感は全く無かった。
「それで、ドリートお爺様から、なんて言われたの?」
ドリートお爺様ときたか。
シェリスと豊穣神ドリート様は、知り合いらしい。
「それが、今年は腰痛が酷かったらしいよ。来年は頑張って働くと仰っていたので、腰痛は良くなっている様だけどね」
「あはっ、ドリートお爺様らしいわね。ドリートお爺様は優しいので、いつも頑張りすぎてしまうのよね。また腰を痛めないか少し心配だわ」
「うー、ミルスには何も聞こえなかったです」
どうやら、私の声だけが豊穣神ドリート様へ届いたようだ。
それにしても、豊穣神ドリート様は働き過ぎの様だ。
これは、豊穣神ドリート様の健康を願わずには居られないな。
――豊穣神ドリート様、どうかご自愛なさって下さい。暗黒神シェリス様も心配なさっております。
『ほっほっほ、心配無用じゃぞい。お主らも風邪をひかんようにの』
逆に、豊穣神ドリート様から心配されてしまった。
シェリスの言う通り、心優しい神様だった。
今後は、豊穣神ドリート様に負担が掛からない様にしようと心に決める。
それにしても、強く念じると神様に声が届く様だ。
他の神様にも声が届くのだろうか?
――暗黒神シェリス様、愛しています。
「なっ、ア、アタシも愛しているわ。いきなりどうしたの?」
シェリスが、顔を赤らめながら話しかけて来る。
恥じらうシェリスも可愛いな。
「豊穣神ドリート様に祈ると声が届いたので、同じようにシェリスにも声が届くかなと思って、念じてみたんだ」
「もう、驚かさないでよ」
「どうやら、強く念じると神様に声が届くみたいだね。新しい能力を覚えた訳じゃないので、私の祈りは力が強いのかな」
「セトは異世界人だし、普通の人族と少し違うのかもしれないわね」
とにかく、来年は食糧危機にならずに済みそうで、一安心だ。
◇◇◇
翌朝、ローレン様に呼ばれているので、レイタル城へ登城した。
レイタル城へ入ると、応接室へ案内された。
今日はミルスも同席して良いと言われたので、3人で応接室へ入った。
しばらく応接室で待っていると、ローレン様が入って来る。
「セトとシェリス、待たせたな。まあ、座ってくれ」
ローレン様に促され、私とシェリスは椅子に座る。
ミルスは、私とシェリスの後ろに控えている。
侍女としての教育でも受けていたのだろうか、こういう時のミルスはしっかりしているな。
「さて、ここへ来てもらった用件なのだが、相談に乗って欲しい事がある」
ローレン様ほどの人が困っている事とは、よほどの難題なのだろう。
「公都レイタルから徒歩で7日ほどの場所に、シーティカという漁村があるのだが、知っておるか?」
以前にローレン様から頂いた地図を思い浮かべる。
確か、公都レイタルより西に行った、半島の先端にある漁村だ。
内海と外海の境にあり、地図を見る限りでは海上交通の要所に見える。
しかし、港町として使っていると言う話は聞かない。
「はい、以前頂いた地図に載っておりました。地理を見る限りでは、海上の要所と言えるでしょうか」
「うむ、そう思って開拓したのだが、思った通りには行かなかったのだ」
やはり、港町として使われないのは、何か理由があるらしい。
「シーティカは港町としては不便な点が多くてな、今は漁村として細々と存続しているのだ。領地経営としては赤字なのだが、王家主導で開拓した手前、見捨てる訳にもいかず困っているのだ」
相談と言うのは、シーティカの経営安定化だろうか。
さすがに、私は領地経営については素人なので、意見を求められても困る。
「それでは、ご相談と言うのは?」
「ここ公都レイタルからシーティカまで細い道が通っている。しかし、この道は細く荒れた道で、あまり金を掛けずに整備できないか考えているのだ。この道が整備できれば、シーティカへの支援もだいぶ楽になる」
細く荒れた道というからには、舗装なんてされていないだろうし、ぬかるみや障害物も多そうだ。
しかも、徒歩という事から、下手をすると獣道の様な、道なき道という可能性もある。
そんな道なら、途中に宿場町なんて無いだろうから、支援物資を届けるのにも一苦労だろう。
しかし、新たに道を整備すると言うのは、かなり大変だと思う。
「それならば、船で支援物資を運んでは如何でしょうか」
「それはできんのだ。シーティカは断崖絶壁に囲まれた小さな漁村だから、大きな船が停泊出来ないのだ。利用できるのは、小さな漁船が精一杯だな」
どうやら、港を設置するほど開けた土地が無いらしい。
それにしても、よくそんな所を開拓しようと思ったものだ。
「言いたいことは分かるが、我々の祖先を悪く言うのは止めてくれ」
苦言を呈する前に、ローレン様から止められてしまった。
どうやら、顔に出ていたらしい。
陸、海がだめなら空を考えたが、この世界は航空技術が未発達なので、空輸は無理そうだ。
「海路が駄目なら陸路しかありませんが、街道の整備となると相当な費用が掛かりそうですね」
「うむ、だから困っておるのだ」
うーん、私の力で何とか出来ないだろうか。
少し考えて、あるアイデアが頭に浮かぶ。
これなら、陸路どころか海路の方も何とかなるかもしれない。
しかし、大きく森を切り開く事になるので、豊穣神ドリート様のご迷惑にならないと良いのだが。
ここは確認をしておくべきだろう。
――豊穣神ドリート様、森を切り開いて街道を作りたいのですが、ご迷惑にならないでしょうか。
『道を作る位なら構わんぞい。間違って魔物の森を切り開かん様に、気を付けるんじゃぞい』
どうやら大丈夫らしい。
相変わらず、こちらの事を心配されている様だ。
「ローレン様、シーティカまでの街道は、石で舗装された道で構わないでしょうか」
「そこまでは望んでいないが、石で舗装されておれば尚良いな。何か案があるのか?」
「はい。街道の整備は、何とか出来そうです。それに、海路の方も整備できるかもしれません」
ローレン様と相談した結果、まずは街道を整備することになった。
今回は魔導ギルドを通さず、貴族として国の事業に従事する体裁で、依頼を受ける事にした。
街道の整備なんて依頼されると、魔導ギルドも困ってしまうからね。
レイタル城から出た後、シェリスとミルスに謝っておく。
「シェリスとミルス、観光する予定が仕事になってしまって、ごめんね」
「セトのしたい様にすればいいわ。それに、どうやって街道を作るのか、アタシ早く見たいわ」
「ミルスは、公都レイタルにご一緒できただけで幸せです」
二人とも快く受け入れてくれた。
仕事が終わったら公都レイタルでゆっくり過ごして、埋め合わせする事にしよう。




