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37.戦争 3

 本日投稿全3話のうち3話目です。

◇◇◇


 トリス市との転移門を維持するためにも、お仕置きは手早く終わらせよう。

 そこで、ローレン様の執務室から出た後、私とシェリスは自宅へ戻った。

 自宅なら、思う存分魔法を使えるからね。


「シェリス、シャピナ共和国の指導者達がどこに居るか、【マジックサイト】で確認してもらえる?」


 シェリスは、目を閉じて集中し始めた。

 【マジックサイト】で、シャピナ共和国の指導者達を探しているのだろう。


「見つけたわ。全員、会議室に居るみたいね。全部で12人よ」


 シェリスは、シャピナ共和国の指導者達の顔を知っていた様で、すぐに見つかった。


「少し準備をしたいので、物陰があればそこに転移門を開いてもらえる?」

「うん。丁度大きな机の下が死角になっているわ。そこに転移門を開くわね」


 シェリスが転移門を開いたので、私はそこに入った。

 すると、指導者達の話し声が聞こえて来る。


「プロイタール王国の方は、どうなっておる?」

「首相、順調に攻略が続いております。途中の町や村は、全員処刑しながら略奪を進めております」

「はっはっは。計画通りだな。王国の人間なんぞ、いくら殺しても構わん。奪った土地には、職にあぶれた国民を送り込めばよいからな」

「しかし、一般市民を害するのは戦争協定に反するのでは……」

「お前はそんな小さい事を気にするからNo.2なのだよ。異世界人さえ手に入れてしまえば、プロイタール王国だろうとメンティス帝国だろうと、1年もしない内に攻略できるわ。そうすれば協定なんて関係ないだろう」

「それにしても、今年の不作は良いタイミングでしたな。おかげでプロイタール王国へ攻め入る、良い口実になりましたな」

「おお、No.3よ、お前は物事を良く分かっておるな」


 話を聞く限り、この国の指導者達は心の底から腐っている様だ。

 これは、徹底的な再教育が必要だな。

 準備も終えた事だし、そろそろ出るとしよう。


『シェリス、準備を終えたのでそろそろ行くよ』

『分かったわ』


 念話でシェリスに声を掛けて、机の下から出る。

 そこは豪奢な装飾がなされた会議室で、12名ほどの人が席に座って居る。

 この人たちが、指導者達なのだろう。


「盛り上がっている所、大変恐縮ではありますが、兵を引き上げて頂きましょうか」


 私が声を掛けると、面白いように全員が動揺している。


「キ、キサマ、何者だ」


 これは、声からするとNo.3だろうか。

 まあ、そんな事はどうでも良い。

 ここは正直に話しておこう。


「私ですか? あなた方も良く知っている、異世界人のセトですよ。本日は、プロイタール王国へ攻め入った事を後悔して頂きに参りました」

「アタシはシェリス。天罰の執行者よ」


「ふんっ。どうやって忍び込んだのかは知らんが、ガキが2人で何が出来ると言うのだ。衛兵! 集まれ!」


 首相と呼ばれていた指導者が衛兵を呼ぶ。

 しかし、しばらく経っても誰も来ない。


「いくら応援を呼んでも無駄ですよ。この部屋の中の音は、外部には一切伝わらない様にしてあります」


 そう、この部屋は【暗闇】で覆っているので、中でどんなに騒ごうとも、外には一切音が漏れない。

 それを聞いた指導者の一人が、ドアを開こうとする。


「ウギャーーー!」


 ドアを触った指導者は、激痛に苦しみ悶えている。


「おっと、ドアには触らない方が良いですよ。触ると激痛に襲われますからね」


 ドアには、触った者に激痛を与えるよう、【激痛付与】を掛けてある。

 少し遠かったので、上手く行くか不安だったが、成功してくれた様だ。


 事態を傍観していた指導者の一人が、懐に手を入れて小型の銃を取り出す。


「ギャァーーー!」


 銃を取り出した指導者は、銃を構える前に激痛で苦しみ始める。


「そうそう、私達に害意を持っても、激痛に襲われるのでお気を付け下さいね」


 床には、私達に害意を持つと発動するように、【激痛付与】が付与されている。


「くっ、お前たちの望みは何だ」


 手詰まりになったのだろう、首相と呼ばれている指導者が、問いかけて来る。

 おそらく、交渉しつつ時間稼ぎをするつもりだろう。

 しかし、こちらにはそんな事に乗る気は無い。


「私達はお仕置きに来たのですよ。交渉の余地なんてありません」


◇◇◇


 そろそろ、お仕置きに入ろう。


――【暗黒空間】


 私は、指導者の全員を【暗黒空間】へ格納し始める。


「ひっ、何だ、これは! た、助けてくれ!」


 12人全員を一度に【暗黒空間】へ入れようとすると、少し時間が掛かるらしい。

 指導者たちは、足元からじわじわと闇に飲まれていく。

 なかなか恐怖を煽る演出だ。


 全員を暗黒空間内に格納した頃、シェリスが声を掛けて来た。


「ねぇ、セト?」

「シェリス、どうした?」

「アタシの出番、無かった……。それに、アタシよりセトの方が天罰の執行者に向いていると思う」


 そう言われてみれば、シェリスの暗黒神としての仕事は、天罰の執行だった。


「う……、ごめん。何かシェリスの仕事を取ってしまったね」

「ううん、いいのよ。むしろ、代わりにやってくれて感謝しているわ」


 よかった。

 シェリスからお許しが出たので、このままお仕置きに入ろう。


 とはいえ、【暗黒空間】に入った指導者達は、今頃精神を苛まれているだろう。

 【暗黒空間】に入った生物は、体を動かせなくなり、五感も全て失う。

 そんな状態になると、人間は数時間で発狂してしまうそうだ。


 数時間も待っていられないので、ここは【風化】の魔法で、精神に流れる時間を1時間ほど加速してあげよう。


――【風化】


 さて、これで指導者達は、光も音もない空間に1時間ほど放り込まれた事になる。

 それでは、指導者達を【暗黒空間】から出してみよう。


――【暗黒空間】


「タスケテ、タスケテ、タスケテ……」

「ダシテクレ、ダシテクレ、ダシテクレ……」

「もういっそ殺してくれ、お願いだ、もう嫌だ、お願いだ、もういっそ殺してくれ……」


 全員、うつろな目をしながら、ブツブツと何かをつぶやいている。

 どうやら、少しばかり効果がありすぎた様だ。

 ここは正気に戻ってもらわないと困るので、首相と呼ばれていた指導者の肩をつかむ。


「ひっ」


 首相は、こちらを見ると、腰を抜かしたまま後ずさる。


「た、助けてくれ、何でも言う事を聞くから、助けてくれ」


 少しやりすぎたのか、首相は股間を濡らしながら嘆願してくる。


「今すぐ無条件降伏し、プロイタール王国の被害を賠償すると約束するのであれば、あなた方を開放しましょう」

「分かった、今すぐ降伏する。だから助けてくれ」


 よし、これで戦争は終わりになるな。

 それと、最後に釘を刺しておこう。


「言わなくても分かると思いますが、約束を破ると、先ほどの所へ永久に閉じ込めますので、お忘れなきよう」


 そう言い残して、私とシェリスは王都の自宅へ帰った。


◇◇◇


 お仕置きから帰った後、兵站用の転移門を出し直すために王城へ出向いた。

 すると、王城の入口で兵士に呼び止められる。


「セト様とシェリス様、宰相ローレン様がお呼びですので、ローレン様の執務室までお越し下さい」


 宰相様の所を出て、まだ1時間ほどしか経っていないが、何かあったのだろうか。

 まさか、もうシャピナ共和国から降伏の連絡が来たのだろうか。

 とにかく、ローレン様の執務室へ行こう。


「わかりました。今から向かいます」


 私とシェリスは、王城の中庭に寄って転移門を出し直した後、ローレン様の執務室へ向かった。


「セトです。お呼びでしょうか」


 執務室へ入ると、ローレン様は大きくため息を吐いた。


「セトとシェリスよ、お主ら何をやった?」


 これは、先ほど行ったお仕置きの事を聞かれているのだろう。

 そう思い、やった事をローレン様に報告した。


「ふぅ。まったく、お主たちは貴族なのだから、もう少し慎重に行動して欲しいものだ。少なくとも、次からは事前に私へ報告するように」


 確かに、今思うと少し危ない橋を渡ったと思う。

 これは反省が必要だな。


「はい、申し訳ありませんでした」

「まっ、結果は上々だったと言えるがな。先ほど、シャピナ共和国から全面降伏すると連絡があった」


 よかった。

 これで、ロクでもない戦争は終わりの様だ。


「ときにシェリスよ、先ほど『暗黒神として天罰を下す必要がある』と言っておったが、どういう事だ?」


 そういえば、そんな事を口走っていた。

 ここは、念話で相談しよう。


『ねえシェリス、ここはいっそ、ローレン様には正体を伝えてしまう?』

『そうね。嘘をついてまで隠そうとは思わないわ。それで追い出される様なら、この国に未練は無いもの』

『そうだね。その時は一緒に遠い所で暮らそうか』

『それも良いわね』


「ローレン様、アタシは暗黒神シェリス本人よ。セトとはこの地に来る前から縁があって、セトを追って来たの」

「やはりそうでしたか。異世界人でも無いのに、高Lvの暗黒魔法が使えるのを不思議に思っておりました。これからは、シェリス様とお呼び致します」


 ローレン様が急に敬語を喋りはじめた。

 シェリスもこれには困惑気味だ。


「ロ、ローレン様。アタシの事はこれまでと同じように接して下さい。今はシェリス・イツクシマ男爵夫人として生きているの」

「む、むぅ。シェリス様がそうおっしゃるなら、これまでと同じように対応致しましょう。そうなると、この事は秘密にしておいた方がよろしいでしょうか」

「ええ、出来る範囲で秘密にして欲しいわ」


 どうやら、国を追い出される事にはならなかったらしい。

 まあ、神様を追い出すなんて、どの国でも無理だと思うけどね。


◇◇◇


 戦後処理はメンティス帝国に仲裁してもらい、賠償について取り決めを行った。

 結果として、シャピナ共和国はプロイタール王国へ多額の賠償金を支払う事になった。


 しかし、そのままではシャピナ共和国が食糧難になってしまうので、プロイタール王国とメンティス帝国の余剰食糧をシャピナ共和国へ売却する事になった。

 最初から、余剰食糧を売ってくれと言っておけば良かったのにと思う。


 そして、プロイタール王国の王城では、功労者への褒賞授与が行われている。



「セト・イツクシマ男爵、前へ」

「はっ」


 ローレン様に呼ばれ、私は国王陛下のマルセン様の前へ出る。


「セト・イツクシマ男爵、シャピナ共和国指導者と直接交渉し、戦争を早期終結させた功績を持って、子爵に叙する」

「はっ、有難き幸せに存じます」


 事前にローレン様から連絡を受けていたが、爵位が子爵に上がってしまった。

 敵の中心部まで単身で乗り込み、そこを叩いて戦争を終わらせたので、功績も大きいと言う事らしい。

 爵位が上がり、もらえる年金が少し増えるので、そこは嬉しい所だ。


 それと、ローレン様の話では、領地経営に興味があるなら、領地をもらえるとの事だ。

 何でも、王家直轄領地の中には、領地経営を太守に丸投げしている土地が多いらしい。

 とはいえ、領地経営なんて、経験も無ければ人脈も無いので、当分は手を出さないでおこうと思う。


 次回は12/4に投稿する予定です。

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