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36.戦争 2

 本日投稿全3話のうち2話目です。


 開戦初日の夜、王城内に貴族の面々が招集され、会議が始まった。


「諸君、本日の防衛線、ご苦労であった。本日の所は、まず互角に戦ったと言えるだろう。そこで、明日以降はどう攻めるか決めたい」


 宰相のローレン様から、会議の趣旨が言い渡される。

 軍司令部は別に居るので、ここでは大まかな方針を決めるだけだろう。


「シャピナ共和国軍の士気が異常に高いので、まずはそこから対処するのが良いかと」


 貴族の一人が意見を述べる。

 確かに、敵の士気を下げるのは有効だろう。

 負傷兵から聞いた話だと、目を血走らせた兵が執念深く襲ってくるそうだ。

 シャピナ共和国は食糧難に陥りつつあるので、戦果を残せなければ、餓死が待っているのだろう。

 そんな死兵ともいえる者を相手に戦うのは、少々分が悪いと思う


「問題は、どうやって士気を下げるかだな」

「兵をトリス市へ引き上げて籠城し、その裏でシャピナ共和国軍の補給物資を焼いて回るのはどうだろう」

「どうやって補給物資を焼くつもりだ? シャピナ共和国軍の補給物資は最奥にあるのだぞ?」


 貴族達が、それぞれ意見を出し合っている。

 最後尾は簡単に攻められないからこそ、重要施設を置くのだ。


「そこは、イツクシマ卿の転移門で移動すれば良いではないか」

「それには、イツクシマ卿を敵の集積所まで連れて行かねばならんのだぞ? そんな事ができるなら、最初から集積所を叩いておるわ」


 言いたい事は分かるけど、私を危険にさらすのは、やめて欲しい。

 本当は、集積所まで行かずとも転移門を作れるが、ローレン様は首を横に振っているので、言ってはいけないのだろう。


「ふむ。無理に集積所を狙わずとも、籠城するだけでも効果がありそうだな」

「ローレン、どういう事だ?」


 ローレン様の意見に、国王陛下が質問される。


「はい、陛下。シャピナ共和国は、早期に決着しなければ、自国が食料危機に襲われる立場にあります。しかし、こちらはセトのおかげで、何か月でも無理なく籠城できるのです。そうなれば、相手は不利を承知で攻城戦に出て来るでしょう」


 確かに、王都とトリス市内の間で転移門を開き続ければ、何か月だって籠城できる。

 それも、食料の供給だけでなく、兵士の一時帰宅だってできてしまう。


「なるほどな。儂はローレンの意見に賛成だ。他に意見は無いか?」


 国王陛下の問いかけに、答える者は居なかった。


「よし。では、明日からはトリス市へ撤退しつつ、被害を抑える事に重点を置いて防衛戦を展開せよ!」


 どうやら、明日からも私の役割に変わりは無い様だ。


◇◇◇


 翌日も、転移門の維持と負傷兵の搬送から始まった。

 しかし、昨日よりも負傷兵の数がやけに多い。


「ミラリスさん、今日は負傷兵の数がやたら多いのですが、何があったのかご存じですか?」

「セト様は昨日の軍議に出席されたのでしょう? 撤退戦をしているのだから、負傷者は増えますよ」


 どうやら、私の経験が足りていないだけの様だ。

 とはいえ、やることが変わる訳でもなく、搬入の手伝いを続ける。


「シェリス様、またも重症者が出まして、治療をお願いできないでしょうか」

「えぇ、またなの?」


 シェリスへの治療要請は、今日でもう5回目だ。

 さすがにこれ以上は、シェリスの異常な魔力に気付かれてしまう。


『シェリス、そろそろ断ろう』

『でも、アタシなら助けられるのに……』

『でもそろそろ止めておかないと、シェリスの異常に多い魔力が知れてしまうよ?』

『あ、それは困るわ。でも、どうしよう』

『ここは任せて』


「申し訳ありません。妻のシェリスはそろそろ魔力が限界なのです。このままだと、転移門の維持にも影響が出てしまいます」

「そうでした。シェリス様は兵站部隊が主任務でしたね。失礼致しました」


 断るだけだとシェリスの思いに反するので、私に何かできないか聞いておこう。


「ところで、その重傷者はどのような状態で?」

「はい。手足の骨折が酷く、ずっと苦悶の表情で苦しんでいらっしゃる貴族の方です」


 なるほど、貴族というのも優先して治療する理由らしい。

 それに、苦悶の表情で苦しんでいるという事は、意識があるという事だ。

 それなら、少しは手助け出来そうだ。


「わかりました。私には治療する力はありませんが、苦しみを和らげることはできます。案内して下さい」


 そう言って、看護兵に負傷兵の所へ案内してもらう。


「はぁはぁ、医者はまだか……」


 案内してもらった所に居たのは、30台半ばのゴツい体をした、貴族の男性だ。

 昨日の会議にも出席していた軍閥貴族の一員で、名前は確かトール・ミュンセン子爵だ。

 よほど痛いのだろう、トール様は脂汗で服がびっしょり濡れている。


「おお、セト殿とシェリス夫人ではないか。どうした、私の失態を笑いに来たのか?」


 トール様は、私たちを見つけるなり、皮肉を言ってきた。

 しかし、痛さを我慢しながら笑ってくる所といい、どこか憎めない人だ。


「とんでもありません。トール様の痛みを少しでも和らげるために参りました」

「なに、この痛みから解放してくれると言うのか」

「はい。しばらく、そのままにしていて下さい」


 そして、私は暗黒魔法を使用する。


――【五感消失】


 しばらくの間、トール様の痛覚を、通常の1割程度まで消失させる。

 効果があったようで、苦しそうだったトール様の顔が和らぐ。


「おお、痛みが取れた。セト殿、ありがたい」

「それは良かったです。でも、痛みを抑えただけで傷は治ってないので、軍医に治療してもらって下さい。それと、6時間ほどでまた痛みが戻りますので、痛み止めも処方してもらうと良いです」

「さすがセト殿、噂通りの人物だな。感謝するよ」

「いえいえ、それではトール様、どうぞご自愛なさって下さい」


 そう言って私達は退室した。

 王城の中庭に戻る途中、シェリスがさっきの事について聞いて来る。


「ねえセト、あの人に何をしたの?」

「うん? トール様なら、【五感消失】の魔法で痛覚を消失させただけだよ」

「あ、そっか。痛覚が無ければ、痛みは感じないものね」

「うん。まあ、完全に消失させると色々と不都合があるので、少しは痛みが残るように調整したけどね」

「相変わらず、セトの使う暗黒魔法って、何でもアリね」


 私の使える暗黒魔法は、シェリスと同じだよ。


◇◇◇


 撤退戦を始めてから3日目、ようやく負傷兵が運び込まれなくなって来た。

 昨日から転移門の出現ポイントをトリス市内に変更しているので、撤退戦が完了したのだろう。


「ふぅ、これで一息つけるね」

「ええ。セト、お茶にしましょう」


 医療班の手伝いも無くなり、兵站部隊の事務所でお茶を飲むことにした。

 といっても、英国貴族の様な優雅なティータイムではなく、日本で言うおやつの時間だ。


 私がお菓子を広げている間、シェリスがお茶を用意してくれる。

 すると、ちょうど良いタイミングで宰相のローレン様がやって来た。


「セトとシェリスは居るか」

「はい、こちらへおります。ローレン様もお茶を飲まれますか?」


 私達だけがお茶するのも気が引けるので、ローレン様も誘ってみる。


「む、それは有難いが、急ぎの用件なのだ。すぐ執務室へ来てくれ」


 どうやら、相当お急ぎの様だ。

 嫌な予感がするが、上司からの指令であれば仕方がない。

 ローレン様と共に、執務室へ行くことにする。


 執務室へ入るなり、ローレン様はすぐに本題を切り出される。


「非常に良くない事態が発生した。打開する案を考えてくれ」

「良くない事態とは、どういった事態になっているのでしょう」


 トリス市がシャピナ共和国軍に包囲されたのだろうか。

 しかし、籠城したのだから、それくらいは想定範囲内だろう。

 それとも、新型の攻城兵器でも登場したのだろうか。


「トリス市周辺の町村が、シャピナ共和国軍に襲われているのだ」

「無防備な町村で略奪をしているのですか!」


 今の時点でトリス市付近の町村が襲われているという事は、こちらがトリス市へ撤退する前から兵を動かしていた事になる。

 という事は、最初から略奪目的に戦争を仕掛けてきたという事なのか。


「いや、略奪だけでは無いのだ。襲われた町村に住む国民は、皆無残に殺されているのだ」

「な、なんだって!」


 にわかには信じられない。

 一体、シャピナ共和国は何を考えているのだ。


「シェリス、確認できる?」

「うん、見て見るわ」


 シェリスの【マジックサイト】で、トリス市周辺の町村の様子を見てもらう。


「な、なんて事なの!」


 シェリスが口に手を当てて、戦慄している。


「シェリス、すまないけど、そこの上空にここから転移門を開いてもらえるかい?」

「うん……」


 開かれた転移門を見て、私も戦慄した。


 そこには、人口数百人程の、美しい農村があったのだろう。

 しかし、家の大多数は無残に焼かれている。

 逃げ惑う農夫を、いたぶりながら追い回す、シャピナ共和国兵が見える。

 遠くの方では、年端も行かない少女が、シャピナ共和国兵に暴漢されている。

 手前の方では、裕福そうな老夫婦が無残にも殺され、シャピナ共和国兵に装飾品を奪われている。

 そこは、まさに地獄絵巻だった。


 こんな事をしでかしているのは、誰だ?

 もちろん、兵士だ。

 その兵士を動かしているのは?

 それは、シャピナ共和国の指導者達だろう。

 襲われた時期からして、最初からこうするつもりで兵を差し向けたのが分かる。


 とても許される事ではない。


――ぷつん


 私の中で、何かが切れた。


「うふふふふ」


 隣でシェリスが怪しい笑顔で笑っている。


「ふふふ、シェリス、笑いがこぼれているよ」

「あら、セトだって笑っているじゃない」


 どうやら、私も気づかない内に笑っていたらしい。


「セトにシェリス、ショックなのはわかるが落ち着け」


 ローレン様が、私達を落ち着けようとしている。

 しかし、私もシェリスも至って落ち着いている。

 この笑いは、覚悟を決めた笑いだ。


「ローレン様、私は至って落ち着いておりますよ」

「ええ、アタシも落ち着いているわ」


 そして、シェリスの方に向いて思っている事を伝える。


「ところでシェリス、こんな事をしでかしたシャピナ共和国の指導者達に、お仕置きをするべきだと思うんだ。丁度良い魔法もあるしね」

「奇遇ね。アタシも、暗黒神として天罰を下す必要があると思うの」


 お互い、思っている事は一緒だった様だ。

 それでは、ローレン様に一言声を掛けてから行くとしようか。


「ローレン様、私とシェリスで、この馬鹿げた戦争を終わらせて来ます」

「ま、まて、一体どうやって戦争を終わらせるつもりだ」

「暗黒魔法という、丁度良い魔法があるではありませんか。シャピナ共和国の指導者達には、この世の地獄を味わってもらいますよ。それでは、失礼致します」


 そう告げて、私とシェリスは退室した。


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