34.戦争前夜 3
本日投稿3話目。
翌朝、兵站の士官から指定された場所へ集合した。
集合したのは、王城内にある、兵士訓練場だ。
本当に、こんな狭い場所で大丈夫なのだろうか。
そう思っていると、設営隊のみなさんが設営資材を持って集まり始めた。
「セト様とシェリス様、おはようございます。今日はよろしくお願いします」
昨日ローレン様の部屋に居合わせた、兵站の士官が声を掛けて来る。
名前は、ミラリスさんだ。
ミラリスさんは30歳半ばの男性で、平民の士官だ。
しかし、やや痩せ気味の体つきに加え、片眼鏡を掛けているので、見た目は学者だ。
兵站の担当ということで、デスクワーク中心なのだろう。
「おはようございます、ミラリスさん。こんな狭い場所で大丈夫ですか?」
「ええ、荷物の確認をした後は素通りするだけなので、狭くて構いません。それに、設営道具が王城内にあるので、ここで転移門を開いて頂ける方が助かります」
なるほど、さすが兵站の専門家だけあって、無駄がない。
そうであれば、早速仕事に取り掛かろう。
「それでは、私がトリス市への転移門を担当し、シェリスが公都レイタルへの転移門を担当します。転移門は2時間ほど持続し、私とシェリスは1日に4回ずつ転移門を開けます。その間に、物資の輸送をお願いします」
転移門が2時間しか持続しないことや、1日に4回までしか使えない事は、事前に宰相のローレン様や魔導ギルド長のテリオル様と決めた内容だ。
もちろん、本当は転移門に制限時間なんて無いし、魔力が続く限り何度でも転移門を開く事ができる。
「はい。その辺りは、昨日聞いた通りですね。それでは、早速お願いします」
ミラリスさんの合図と共に、私とシェリスは【消滅】の転移門を作り出す。
今回は、馬車が2台通れるほどの、大きめの転移門を作る事にした。
「ミラリスさん、トリス市への転移門を開き終わりました。確認をお願いします」
「アタシの方も終わったわ。確認してね」
転移門を開いた後、私とシェリスはミラリスさんに声を掛ける。
すると、ミラリスさんは転移門の行先を確認し始めた。
「話には聞いていましたが、これは本当に凄いですね。これなら、どんな大量の物資も一日で運べそうです」
ミラリスさんは、そう言いながら設営隊や馬車の御者に指示を出し始める。
さすがに士官だけあって、学者風な見た目とは裏腹に、テキパキと指示を飛ばしている。
それからは、定期的に転移門を開き直すだけのため、暇を持て余し気味になった。
『ねえセト、アタシ暇になっちゃった』
さっきからシェリスと念話で話をしていたが、それにも飽きて来た様だ。
正直、私も暇なので、何か気晴らしをしたい。
『トリスの駐屯地がどうなっているか見に行ってみる?』
『そうね。随分と大人数の設営隊がトリス市へ行ったのを見て、気になっていたのよね』
そういえば、そろそろ転移門を開き直す時間だ。
これを忘れると、常設転移門という事が分かってしまうので、気を付けよう。
『それじゃ、転移門を開き直した後はトリス市へ行ってみようか』
『うん、そうしましょう』
転移門を開き直す時に気付いたが、私も公都レイタルへの転移門を開くことが出来た。
どうやら、【消滅】の転移門は、開くための条件がかなり緩い様だ。
やはりというか何というか、完全に想定外の使い方なのだろうと思う。
まあ、便利だから使うけどさ。
◇◇◇
王都で転移門を開き直した後、トリス市の駐屯地へ来てみた。
「うわぁ、セト見て凄いよ」
シェリスが驚くのも無理はない。
転移門から出ると、トリス市街方面に多数の大型テントが張られていた。
100を超えるだろう大型テントが整然と並んでいるのは壮観だ。
しかも、まだテントは増え続けている。
ここで言う大型テントは、キャンプで使う様な三角形のテントではなく、モンゴルの放牧民が使うような円形で巨大な物だ。
それが、大人数で作業しているとはいえ、こんなに早くテントを設営できるとは本当に驚きだ。
張り終えたテントには、公都レイタルから来た馬車から、産地直送で物資が運び込まれている。
しかも、手間取っている様子は見えず、実にスムーズに進んでいる。
「シェリス、テントの中も見てみようよ」
物資の運び込まれたテントに入ってみると、大量の木箱が積み上げられている。
「このテントは、もう物資で一杯だね」
「セト見て、物資の箱に紙が貼ってあるわ」
運び込まれた木箱には指示書が貼られており、どのテントへ運び込むのか、どの位置に置くのかといった事が書かれている。
この指示書のおかげで、迷うことなく運び込まれているのだろう。
本当によく考えられている。
テント設営と物資搬入を同時並行で実施し、しかも一切の淀みが無いというのは、言うほど簡単ではない。
よほど入念な計画と、普段から厳しい訓練を積んでいる証拠だろう。
そんな事を考えながら歩いていると、テント設営中の場所でミラリスさんを見つけた。
「ミラリスさん、お疲れ様です」
「これはセト様とシェリス様。どうされましたか?」
「見事な輸送作戦ですね。これはミラリスさんが立案計画されたのですか?」
「ええ。私と部下で計画しました。セト様とシェリス様のお二方が転移門を開けると聞いて、昨晩から計画を見直したのですが、間に合って良かったです」
どうやら、一晩でこの計画を仕上げたらしい。
ローレン様には、なかなか優秀な部下がいらっしゃる様だ。
イツクシマ男爵家にも、こんな優秀な家臣が欲しい。
……戦争が終わったら、家臣の募集でもしてみようかな。
何か、戦争が終わった後にやりたい事が沢山ありすぎて、しばらく忙しくなりそうだね。
『セト、何を考えているの?』
急に黙ったので、シェリスが念話で様子を窺ってきた。
『イツクシマ男爵家にも、ミラリスさんみたいな優秀な家臣が欲しいなと考えていた所だよ』
『そうね。アタシ達、貴族と言っても家臣はいないし、家も普通の住宅なのよね』
『うん、着ている服も平民と変わらないし、準貴族よりも平民っぽいよ』
「あ、あのセト様?」
急に黙ってしまったので、ミラリスさんが焦り始めた。
シェリスとのおしゃべりも良いけど、それは後にしよう。
「ああ、いえ何でもありません。ミラリスさんが優秀なので感心していた所です」
「それは大変恐縮です」
「それでは、ミラリスさんのお邪魔になりそうなので、私達は退散する事にしましょう」
「とんでも御座いません。お二人のおかげで、私たちはとても楽が出来ているのです。お邪魔になど思いませんとも」
そう言われたが、このまま話をすると、やはり作業に差し支えるだろう。
「まあ、そこはしっかりと任務を果たして頂きたいという事です。それでは、頑張ってください」
それだけ言って、王都に戻ることにした。
◇◇◇
物資輸送の2日目も、昨日と同様に王城へ集合する。
「セト様、シェリス様、おはようございます。本日はクルテン市とトリス市への転移門をお願いいたします」
集合した後、ミラリスさんが声を掛けてきた。
クルテン市と言えば、鍛冶で有名な都市だ。
私とシェリスの武器も、クルテン市で作ってもらった。
しかし、食料の調達は昨日の分だけで足りるとは思えない。
「おはようございます、ミラリスさん。食料は昨日の分だけで足りるのですか? 軍隊は4~5万人の規模になると聞いています。そうすると、昨日輸送した量だと2~3日しか持たない気がします」
「セト様のおっしゃる通りです。しかし、安全かつ確実に輸送できる手段があるので、駐屯地にあまり多く備蓄する必要はありません」
どうやら、戦争が始まっても、私達の仕事は変わらない様だ。
不慮の事態を考えても、数日分の食料を備蓄しておけば十分という事か。
不作とはいえ、トリス市にもある程度の備蓄はあるだろうしね。
逆に、備蓄食料が少なければ、集積所を狙われても被害が少なくて済むという事にもなる。
なるほど、納得の理由だ。
納得できたところで、シェリスと二手に分かれて、クルテン市とトリス市の駐屯地へ転移門を開く。
この日は、駐屯地に軍司令部と武器庫が出来上がった。
3日目は、レニス市、マリトール市、クルテン市、トリス市の駐屯地への転移門を開くことになった。
レニス市やマリトール市は、魔物の森から近いため、武具やポーションの材料が豊富に産出される。
それらを一旦王都の郊外に集積し、クルテン市へ輸送するのだ。
クルテン市は鍛冶の街だが、その材料は各地の都市から輸入している。
特に、魔物の森から生産される生体素材や魔石は、クルテン市にあまり在庫が無いため、今回を機に輸送しておくこととなったらしい。
トリス市の駐屯地には、給水場やトイレといった、兵士の生活に必要な施設が出来上がった。
4日目は、いよいよ兵士の輸送だ。
とは言っても、今までとやることに変わりはなく、王都からトリスの駐屯地へ転移門を開くだけだ。
それと同時に、サルーデン市やマーニア市といった穀倉地帯の都市へ、食料輸送のための転移門を開く。
それらの都市に行った事は無いので、シェリスに開いてもらった。
5日目と6日目も、兵士の輸送だ。
4日目と違い、王都以外から兵士を輸送する必要がある。
王都を経由すると転移門を開く回数が多くなるため、トリスの駐屯地から各都市へ転移門を開く方式となった。
そして、戦争の準備を始めて7日目、シャピナ共和国から宣戦布告が発せられた。
描写は少なくても良いから、サクサク話を進めてくれ! という意見が多い様でしたら、再来週以降は元に戻します。
次話は11/27に投稿する予定です。




