31.武器の新調 3
本日投稿の最終話です。
転移門でクルテン市の宿屋へ戻り、そこからトウシュさんの工房へやって来た。
「すみません、トウシュさんはいらっしゃいますか?」
「これはセト様とシェリス様、ようこそお越し下さいました」
工房の入り口で声をかけると、トウシュさんが出迎えてくれた。
「トウシュさん、ご所望の魔粉と龍鱗粉を持ってきましたよ」
「も、もう持ってきたのか! いくら何でも早すぎだろ……早すぎではないでしょうか」
トウシュさんは興奮すると言葉が乱れる様だ。
もしかすると、丁寧な言葉遣いが苦手なのかもしれないね。
「トウシュさん、他人の目の無い所では、普段の口調で構いませんよ」
「おお、それはありがてぇ。どうにも敬語は苦手なんでな、助かるよ。とりあえず、中に入ってくれ」
トウシュさんに案内され、工房の中へ入った。
鍛冶屋というだけあって、工房の中は少し鉄臭い。
炉に火を入れていないのだろう、熱くないのは救いだ。
それは良いとして、魔粉と龍鱗粉をトウシュさんに渡そう。
「トウシュさん、魔粉と龍鱗粉ですが、これで足りるでしょうか?」
王都の生産ギルドで入手した資材全てをトウシュさんに見せる。
魔粉が10kgと、龍鱗粉が小瓶に3本だ。
「これはまた多いな。魔粉は1kg、龍鱗粉も小瓶1本あれば十分だ」
言われた分量だけ取り分けて、トウシュさんに渡す。
「ありがてぇ、これで仕事ができる。なあセトさん、残りの魔粉も譲ってはくれないか。こいつが無いせいで、鍛冶できないヤツが沢山居るんだよ」
「そう言う事なら、残りは生産ギルドのクルテン支部へ売却しましょうか。そちらの方が、トウシュさんの手を煩わせずに済むかと思います」
「おお、ありがとよ。これで、俺の鍛冶仲間も喜ぶぜ」
どうやら、多めに持ってきたのは正解だった様だ。
話がまとまったので、残りの材料と代金をトウシュさんに渡した。
「すまねぇが、剣の仕上がりまで1週間は掛かるんだ。それまで待っていてくれ」
「はい、それでは1週間後にまた来ます」
トウシュさんの工房を出た後、生産ギルドのクルテン支部へ行き、魔粉を売却した。
その時、つい龍鱗粉も持っていると口を滑らしたら、凄い剣幕で売ってくれと懇願された。
やっぱり、レッドドラゴンの素材は人気だね。
◇◇◇
アタシは暗黒神のシェリス。
世間では、天罰を司る神だとか、邪神も恐怖させる神だとか、散々な言われようだわ。
確かに、迷惑を撒き散らす邪神に対して、暗黒魔法でお仕置きした事もあったわね。
それ故か、神界でも腫れものを触るような扱いを受けて来たの。
だからという訳でもないけど、親しい友人もできず、暗黒神としての仕事が無い時は家に引き籠っていたわ。
そんなアタシなので、転生して来たセトの魂が、アタシと一緒に引きこもりたいと言ってくれた時は、本当に嬉しかったわ。
セト本人は喋ったつもりが無いのでしょうけど、神界だと魂の叫びも聞こえて来るのよ。
もちろん、本気で言ったのではなく、ただ休みが欲しかっただけ、というのは分かっているわ。
それでも、万にひとつ、億にひとつの可能性として、アタシと一緒に居てくれるかもしれないと思い、セトの居る世界に行くことにしたの。
「うるせぇ、女は引っ込んでろ!」
パールナイトの世界へ来て、職探しのために魔導ギルドへ訪れたら、何故か冒険者の人に突き飛ばされたわ。
あまりに突然の事だったので、そのまま後ろへ飛ばされたわ。
「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
そこで助けてくれたのが、セトだったの。
アタシを優しく抱き止めてくれたセトを見た時、もう後戻りできないほどセトを好きになってしまったみたい。
その時、アタシは無理やりでもセトに付いて行く事に決めたわ。
それからのセトと一緒の生活は、何もかもが新鮮だったわ。
人々の活気も、神界から見て知っていたつもりだったけど、実際はあんなに輝いているとは思わなかった。
セトや友人のアクアリーナと一緒に食べる食事が、あんなに美味しいとは思わなかった。
そして、暗黒魔法が、あんなに人の役に立つ魔法だとは思わなかった。
もう、何もかも、アタシの知っている世界とは違っていたわ。
しかも、忌み子の様な扱いを受けて来たアタシに、セトは結婚したいと言ってくれたの。
その時、アタシはあまりの嬉しさに泣いてしまったわ。
うれし涙なんて、初めてよ。
セトには、本当に感謝しているわ。
だから、少しでも恩返しするために、アクアリーナ経由で生産ギルドの依頼をこなして、こっそりお金を稼いでいたの。
そしてついに、そのお金を使う時がやってきたわ。
「すまねぇが、剣の仕上がりまで1週間は掛かるんだ。それまで待っていてくれ」
「はい、それでは1週間後にまた来ます」
セトとトウシュさんの話が終わった後、トウシュさんにこっそり話しかけることにしたわ。
「トウシュさん、ちょっとお願いがあるの」
「シェリスさん、あらたまってどうした?」
「実は、剣の他に作って欲しい物があるのよ。実は……ごにょごにょ……という訳で、このお金で作ってもらえないかな」
「そういう事なら、受けてやらぁ。そういうのは俺の嫁が得意だから、期待して待ってなよ」
うん、これで後は待つだけね。
◇◇◇
トウシュさんに剣の作成を依頼して1週間後、そろそろ出来上がった頃だと思うので、剣を取りに行くことにした。
「すみません、セトですがトウシュさんいらっしゃいますか」
「おおセトさん、剣は出来とるぞ」
ちょっと早いかと思ったけど、出来ていて良かった。
出来た剣を見せてもらう事にしよう。
「いやぁ、今回は素材がえれぇ良かったんで、つい張り切っちまった」
そう言って出された剣は、とてもレッドドラゴンの牙から作られたとは思えないほど、綺麗な銀色の剣だ。
どうやったら生体素材を金属の様に加工出来るのだろうか。
さすがはトウシュさんといった所だ。
それでは、【ステータス】で剣の出来栄えを確認する事にしよう。
【ロングソードの鑑定結果】
【名称】 悠久の龍牙剣
【等級】 伝説級
【特殊能力】
・ドラゴンの牙から作られており、硬く強靭な武器であると共に、優れた魔法発動体でもある。
・手入れをしなくとも武器としての能力が低下せず、永久に使い続けることができる。
・自己再生能力があり、少しの破損であれば自動的に修復される。
【ショートソードの鑑定結果】
【名称】 悠久の龍牙短剣
【等級】 伝説級
【特殊能力】
・ドラゴンの牙から作られており、硬く強靭な武器であると共に、優れた魔法発動体でもある。
・手入れをしなくとも武器としての能力が低下せず、永久に使い続けることができる。
・自己再生能力があり、少しの破損であれば自動的に修復される。
……トウシュさんが伝説に名を残しそうなほど、会心の出来栄えだった。
久遠のショートソードと同様、魔法の発動体になるのはとても助かる。
私もシェリスも、本職は魔法使いだからね。
「トウシュさん、さすがです。とても見事な出来栄えですね」
出来上がった剣を眺めていると、シェリスが恥ずかしそうに声を掛けて来る。
「ねぇ、セト。あの、実はアタシからプレゼントがあるの」
「プレゼント?」
そう言いながら、シェリスが小さな箱を出してくる。
箱を受け取って中を見ると、同じデザインの指輪が2つ入っている。
「ねぇ、セトの居た世界では、夫婦が同じデザインの指輪をするのでしょう? この世界にはそういう風習は無いけど、アタシ達は結婚指輪しようよ」
これはとても嬉しいサプライズだ。
嬉しすぎて、ちょっと涙が出て来た。
「うんシェリス、ありがとう。とても嬉しいよ」
そう言いながら、シェリスの左薬指に指輪を付ける。
シェリスも、私の左薬指に指輪を付けてくれる。
指輪を見ていると、シェリスの思いが伝わって来て、なんだか温かい気持ちになって来るな。
トウシュさんに作ってもらった剣も大事だけど、この指輪はもっと大事にしようと心に誓った。
次回は11月22日に投稿予定です。




