表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/58

3.異世界人の事情

本日3話目の投稿です。

 検閲所で一悶着あった後、詰所でこの世界の事を説明してもらうことになった。

 どちらかというと丁重な扱いを受けたので、異世界人には好意的の様だ。


「セト、といったか。俺はレニス市の防衛隊隊長マキシスだ。この世界では、神の詐称は重犯罪なので、あのような対応になった事、申し訳ない」


 テーブルの正面に座る、筋骨隆々な壮年騎士が謝罪をしてくる。

 誤解も解けたし、関係を悪化させない程度に抗議しておこう。


「転生神ネフリィ様より本日この世界へお招き頂きました、異世界人のセトです。先ほどの騒動につきましては、そちらの職責を考えると仕方ないと思います。ただし、検閲官の方にはもう少し冷静に対応頂ければ幸いでした」

「検閲官には後で指導しておこう。ところで、転生した直後に正体を明かすとは、また珍しい異世界人だな」


 多くの場合、急に頭角を現した者を貴族やギルド長が調査し、異世界人だと判明するとの事だ。


「珍しいと言われましても、いずれは判明することですから。それに、正体を隠すということは身分や信用が無い状態で生活することになりますよね? さすがに、そんな生活は御免です」

「それがな、地方の冒険者ギルドでは、身元の確認も碌に行われず会員になれる支部も多いのだ。冒険者需要が大きいのは分かっているが、我々としては困ったものだ……」


 渋面を浮かべながら、マキシスさんが答える。

 レニス市の安全を守るマキシスさんからすると、そういった冒険者は悩みの種なのだろう。


「なるほど、そういった事情があったのですか。ところで、私は今後どういった扱いを受けるのでしょうか?」

「おっと、その話をするためにここへ来たのだったな。まずこの街はプロイタール王国レニス伯爵領のレニス市という」


 王国や伯爵領というと、中世ヨーロッパのような世界感かな。

 不便だったり不衛生だったりすると少し困るが、そこは現代知識でカバーしよう。


「セトはプロイタール王国の国民になる権利がある。その場合、数年間は王都にある主要ギルドのいずれかに所属する義務がある」


 身分を保証する代わりに、所在を明確にして働けということらしい。

 しかし、プロイタール国民にならない場合はどうなるのだろうか?


「もし、その権利を行使しない場合は、どうなるのでしょうか?」

「その場合は、メンティス帝国かシャピナ共和国へ行ってもらう事になるな」


 そう言って、とある書類を渡される。


【異世界人に関する三国協定】

  ・異世界人が発見された場合、基本的には発見された国に所属することとする。

  ・ただし、発見された国への所属を望まない場合、この書類を呈示する。

  ・異世界人は、以下の三国のうち所属する国をその場で決めてサインする。


  【プロイタール王国】

    ・平和を旨とする王政の国家で、農業と畜産が主産業。

    ・異世界人は、王都にある主要ギルドのいずれかへ数年間の所属義務がある。


  【メンティス帝国】

    ・公正を旨とし女帝を君主とする帝政国家で、工芸や工業に優れている。

    ・異世界人に特別な義務は発生しないが、数年間の監視が伴う。


  【シャピナ共和国】

    ・強固な結束を旨とする国家で、民主共和制という政治形態をとる。

    ・異世界人は、数年間は国に雇用される。


  【補足事項:貨幣について】

    ・転生時に所持していた貨幣は三国共通で使用できる。

    ・各貨幣の価値は金貨1枚=大銀貨10枚=銀貨100枚=銅貨1000枚。

    ・貨幣価値の基準として、一般的な食堂での昼食が銅貨5枚程度。


 これは、プロイタール王国所属で決まりだね。

 メンティス帝国も良さそうだけど、のんびりしたいなら、農業や畜産がいいよね。

 それに、シャピナ共和国の『強固な結束の民主共和制』は一党独裁政権なイメージが浮かぶので、平和でのんびりするには向いてないと思う。


「なるほど、こんな協定があったのですね。私は平和でのんびりした生活が望みなので、プロイタール王国を希望します」


 『プロイタール王国への所属を希望 セト』と書類にサインする。


「そう言ってもらえると嬉しい。正式な手続きは王都プロイデンまで行く必要があるので、そこまでの旅と宿泊の費用はこちらで出そう。部下のレオナルフを案内付けるので、詳しいことはそいつに聞いてくれ」


 所持金は昼食を基準にすると10万円~15万円程度しか持っていないので、費用の負担はとても助かる。


「はい、王都までお世話になります」


◇◇◇


 それにしても、三国協定まで結ぶとは、異世界人の扱いに慣れている気がする。


「ところで、協定を結ぶほど異世界人が頻繁に現れるのでしょうか?」

「そうだな、この国でも数年に1人程度は現れる。貴重な知識や技術を残してくれる者も居るが、多くは強力な魔物や魔王へ挑んで亡くなっている」


 ……魔王? 挑んで亡くなっている?

 とても気になる話題だ。


「魔王ですか。この世界ではどのような存在でしょうか?」

「魔王とは、知性ある魔物たちの頂点に立つ存在だ。魔物の国の国王、と言うと分かりやすいか。現在の魔王は多くの魔法を使いこなし、習得難易度最高と言われる暗黒魔法もLv7らしいな」


 やはり、魔王は暗黒魔法を使うのか。

 あんな魔法ラインナップを欲しがる魔王とは、絶対に関わりたくないね。

 ただ、この世界で暗黒魔法がどのような扱いか気になるので、聞いてみよう。


「暗黒魔法ですか。この世界では、どのような扱いでしょうか?」

「暗黒魔法はあまり人気のない魔法だな。確か、冒険者ギルドには何人か暗黒魔法使いが居るはずだ。興味があるなら、冒険者ギルドや魔道ギルドに行って聞くといい」


 不人気ではあるが、禁忌指定ではないらしい。

 習得困難という事なので、高Lv魔法の実態が知られていないのかな。

 何にしても、安心して暗黒魔法使いを名乗れるね。


「なるほど。私も暗黒魔法を使うので、王都へ向かうまでの間に、冒険者ギルドと魔導ギルドで話を聞いてみます」

「ああ、それならついでにギルドの詳細も聞いておいてくれ。ギルド支部長には話を通しておくよ」


 もう1つの気になる話題についても、聞いてみよう。


「もう1つ、聞いても良いでしょうか。異世界人の多くが魔物や魔王に挑むのは、何か理由があるのでしょうか?」

「異世界人の多くは強力な転生特典ギフトを所有しているためか、自分たちなら攻略できると思い込むらしい」


 マキシスさんは、あきれた様子で話を続ける。


「成り上がり目的の若者が分不相応な魔物を相手にして敗北したり、異世界人同士のパーティーが魔王の国へ侵攻して玉砕したりと、彼らの無謀な行動は理解に苦しむ」


 その異世界人達は、変なファンタジー小説やゲームに毒され過ぎだと思う。

 現実には、主人公補正やご都合主義的な展開なんて、存在しないのだから。


「そんな彼らを、我々は『無謀な事に挑戦する、勇気ある者』という意味で『勇者』と呼んでいる」


 この世界では、勇者とは自殺志願者の事らしい。

 元の世界では『無謀な事にも挑戦して“勝利する”、勇気ある者』が勇者だと思う。


「それは……私でも理解に苦しむ行動です。頼まれても御免ですね」


 どうやら、無謀な突撃を命令する君主なんて居ないようで安心だ。

 やっぱり、平和に生きるのが一番だね。


 こうして、この世界パールナイトの説明を受けた後、レニス市へ入ることになった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ