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29.武器の新調 1

 本日投稿1話目です。


 とある日の昼食時、私はずっと考えていた事をシェリスに聞いてみる。


「シェリスも何か護身用の武器を持った方が良いと思うけど、どう?」

「そうね、いつもセトと一緒にいる訳じゃないし、アタシも何か武器を使える様になりたいわ」


 どうやら、シェリスも乗り気の様だ。


「それなら、この前倒したレッドドラゴンの牙があるから、それで何か武器を作ってもらおうか」

「それいいわね。確か、ドラゴンの牙って武器の素材としては最高級品でしょう? それならセトとアタシでお揃いのショートソードを作らない?」

「うーん、お揃いの武器というのには惹かれるけど、私にはネフリィ様から頂いたショートソードがあるからね。私はロングソードでシェリスがショートソードというのはダメかな」

「ううん、ダメじゃないわ。それで行きましょう」


 その前に、一つ困った事がある。

 レッドドラゴンの牙を素材にするのは良いけど、鍛冶師の知り合いなんて居ない。


「ねえシェリス、レッドドラゴンの牙を加工できそうな鍛冶師にあてはある?」

「アタシの知り合いには居ないけど、アクアリーナに聞けばきっと知っていると思うわ」


 そう言われてみれば、アクアリーナさんは生産ギルドの本部勤めだ。

 腕の良い鍛冶師の一人位は知っていてもおかしくない。


「それじゃ、ご飯を食べ終わったらアクアリーナさんの所に行こうか」

「そうしましょう!」


◇◇◇


「こんにちは、アクアリーナさん」

「アクアリーナ、ちょっと聞きたいことがあって来たよ」

「あら、シェリスさんとセトさん、いらっしゃい。今日はお仕事が忙しいの。遊びに行くなら、日が傾いてからになるわ」


 ちょくちょく遊びに来ていたので、今日もそうだと間違われてしまった様だ。

 しかし、今日は仕事の依頼だ。


「アクアリーナさん、今日は仕事の依頼なのです。レッドドラゴンの牙を加工できる鍛冶屋を紹介してもらえませんか?」

「あ、例のドラゴンの素材を使うのね。うらやましいわ、私も一度でいいからドラゴンの素材を扱ってみたいわ」

「あれ? 冒険者ギルドからレッドドラゴンの素材が流れてきていると思っていましたが、違いましたか」

「それが違うのよ。セトさんの倒したドラゴンの素材は、全部冒険者ギルドの中で捌かれて、こっちに回ってこなかったわ」


 それはご愁傷様だ。

 生産ギルドでは、ギルド員の紹介だけで終わったらしい。


「ねえセト、セトの持っている素材をアクアリーナさんに譲れないかな」

「うん、鱗が余りそうなので、それをアクアリーナさんに譲ろうか」

「うん、それが良いと思うわ」


 シェリスも良いと言っているので、アクアリーナさんに鱗を譲る事にした。


「アクアリーナさん、そういう事なので、レッドドラゴンの鱗を扱ってみませんか? 鱗の量が多かったので、私達だけでは使い切れないと思っていた所です」


 私がそう言うと、アクアリーナさんは目を輝かせる。


「い、いいの? 本当にいいの? やった、これで特級魔法薬を作れるわ!」


 どうやら、レッドドラゴンの鱗は特級魔法薬の材料らしい。

 ひとまず5枚ほど売却する事にした。

 まだまだ大量にあるので、足りなくなったらまた売りに来るという事になった。


 素材の売却について一段落したので、本来の目的に戻ろう。


「ところで、鍛冶屋の紹介については、出来そうですか?」

「それなら、クルテン市のトウシュさん宛てに紹介状を書きましょう。トウシュさんは、ドラゴンの素材を使わせればこの国一番の腕前ですよ」


 やはり、ここに来て正解だった様だ。

 早速、トウシュさんへの紹介状を書いてもらう事にする。


「セトさんとシェリスさん、紹介状ができました。紹介料は大銀貨1枚です」

「アクアリーナさん、ありがとうございます。早速、明日からクルテン市へ向かう事にします」

「ありがとね、アクアリーナ。お礼に今度何かおごるわ」

「いえいえ、こちらこそドラゴンの鱗を売ってもらってありがとう。帰ってきたら、また遊びましょう!」


◇◇◇


 クルテン市行きの馬車に乗って3日目の昼過ぎ、する事が無く昼寝をしていると、馬車が急に停止した。

 魔物でも出現したのだろうか。

 弱い魔物なら私達でも倒せるので、御者に聞いてみる事にしよう。


「魔物でも出ましたか?」

「目の前に倒木が横たわっていて、先に進めないのさ。あんた魔法使いだろ、何とか出来ないか?」


 御者の男は、馬車の前方を指差しながら、そう答えた。

 ふむ。

 確かに、大木が道を塞ぐように倒れている。


「なるほど、これは通れないですね。何とかして来ましょう」


 御者にはそう伝え、馬車内の客人にも事情を説明して馬車から出る。

 貴族になったのだから、こういった事は使用人に任せるべきだろうが、貴族になったばかりで任せるべき使用人が居ない。

 馬車の客は一般人ばかりなので、私が何とかする事にした。


 この倒木を除去する方法として、【暗黒空間】内に倒木を格納するのも手だ。

 しかし、ここは今まで使ったことのない【風化】を使ってみようと思う。


【風化】

  【消費魔力】 20

  ・対象が非生物場合、対象の物体を経年劣化させる。

  ・対象が生物の場合、対象を老化させる。

  ・対象を永久変化させる魔法であり、解除はできない。


 対象物を一瞬で風化させ、ボロボロにさせるための魔法だ。

 生物を対象にした場合も、なかなか酷い結果になる。

 とても悲哀を感じる、無常な魔法だ。


 この魔法を使って、倒木をボロボロに風化させてみようと思う。


――【風化】


 すると、倒木は思っても見ない変化を見せる。


 まず、一瞬で倒木が苔に覆われた。

 そして、上の方から徐々に朽ちて形を崩してゆく。

 最後に、倒木は完全に朽ちて土と化した。

 まるで、倒木が朽ち果てて行く様子を早回しで見ているかの様だ。


 試しに、道の脇に生えている草の芽に対して【風化】を使ってみる。

 すると、一瞬で草が成長し、その後すぐに草はしおれて、枯れ果てた。


 どうやら【風化】の魔法は、物体に流れる時間を早める魔法の様だ。

 その結果として、物体は風化してしまうのだろう。


「おーい、どうだ? うまくいきそうか?」


 【風化】魔法の検証をしていると、御者から催促が来た。

 そういえば、倒木の除去をしている最中だった。


「はい、もうすぐ通れるようになりますよ」


 そう返事をしながら、【暗黒空間】内に格納しておいたスコップを取り出す。

 そして、倒木だった土を道の脇に移動させた。

 これで、馬車が通れるはずだ。


「これで馬車が通れると思いますよ」


 それから馬車旅を再開し、特にトラブルなくクルテン市へ到着した。


◇◇◇


 クルテン市へ到着したのは、王都を出て4日後の昼過ぎだった。

 宿を予約して、その日のうちにトウシュさんの工房へ行く事にした。


 トウシュさんの工房は赤いレンガ作りの個人工房で、いかにも鍛冶屋ですといった風体だ。


「すみません、トウシュさんはいらっしゃいますか?」

「ねえセト、ここには誰も居ないと思うわ」


 シェリスの言う通り、ここには人の気配が無い。

 入口で何度か叫んでいると、近くを歩いていた老婆が声を掛けて来た。


「なんじゃ、お前たちはトウシュの知り合いかい?」

「いいえ、知り合いではありません。武器を作ってもらおうかと王都から来ました」

「ほう、はるばる王都からおいでなすったか。トウシュなら、近くの酒場で飲んだくれとるぞ」


 その後、老婆からトウシュさんの居る酒場を教えてもらった。

 その時、老婆にいくばくかの謝礼を渡すと、とても驚かれた。

 貴族なのだから、助けてもらったらお礼を渡すのは当然ですと言うと、さらに驚かれた。

 まあ、見た目は平民そのものなので、貴族と聞いたら驚くよね。


 老婆から教えてもらった酒場に行くと、トウシュさんは一人で酔いつぶれていた。


「すいません、トウシュさん、仕事を頼みたいのですが……」


 そう言うと、トウシュさんは気怠そうに顔を上げ、こちらを見る。


「俺は今、仕事する気分じゃねぇんだ。ほっといてくれ」

「そうは言われても、私たちは王都の生産ギルドから紹介されて来たのです。何とか剣を作ってもらえないでしょうか」


 そう言いながら、トウシュさんに紹介状を渡す。


「ふん、金貨100枚くれたら、剣を作ってやろうじゃないか」


 トウシュさんは、紹介状を見もせずに、金貨100枚を要求してくる。

 金貨100枚とはまた大金を要求されたものだが、それでレッドドラゴンの牙が剣になるなら、支払う価値はあるだろう。


「わかりました。これでよろしいでしょうか」


 そう言いながら、トウシュさんの前に白金貨1枚を置く。

 白金貨1枚は金貨100枚と同じ価値だ。

 すると、トウシュさんが大きく目を見開き、驚いている。


「なっ、お前ら一体何者だ」

「その紹介状に書いてあると思いますが、私はセト・イツクシマ男爵と言います」

「アタシはセトの妻で、シェリス・イツクシマよ」


 自己紹介すると、トウシュさんの顔がみるみる青くなっていった。

 そして、自己紹介が終わった頃、トウシュさんは土下座をしていた。


「も、申し訳ありませんでした! なにとぞ、なにとぞご寛大な処置をお願いします」


 横柄な態度を謝っているのだろうか、それとも金貨100枚を吹っ掛けた事だろうか。

 どちらにしろそんなに気にしていないし、土下座されたままでは話が進まないので、頭を上げてもらおう。


「トウシュさん、頭を上げてください。まずはお話を聞きましょう」


 そう言うと、トウシュさんは椅子に座り直して、話を始めた。


「セト様、シェリス様、本当にすまん……本当に申し訳ありませんでした。実は、魔粉という鍛冶に使う材料が手に入らず、仕事が出来ないのです」


 魔粉と言うのは、魔石や安定剤から合成される、魔剣の材料との話だ。

 普段はクルテン市でも出回っているが、数か月前に起きた物流混乱の影響で、今は手に入らないらしい。

 トウシュさんの話によれば、王都なら間違いなく手に入るらしい。


「その魔粉を手に入れる事ができれば、剣を作ってもらえますか?」

「どんな様な剣が欲しいん……どの様な剣をご所望でしょうか」

「レッドドラゴンの牙からショートソードとロングソードを1本ずつ作って欲しいのです。ちなみに、レッドドラゴンの牙は、こちらで用意してあります」

「それであれば、ドラゴンの鱗から作られる龍鱗粉も必要だ……になります。それらを入手頂ければ、金貨10枚で請け負いましょう」


 どうやら、魔粉に加えて龍鱗粉も不足しているらしい。

 それにしても、貴族だと知れるとトウシュさんの態度が180度変わったな。

 これが普通なのだろうけど、何となく落ち着かないな。

 まあ、人前では我慢しよう。


「わかりました。それらを集めてくれば、剣を作って頂けるのですね?」

「はい、セト様。私は工房でお待ちしておりますので、そちらへお持ちください」


 話がまとまったので、その日は宿屋に戻ることにした。


 ちょっと1話の長さが長くなってしまいました。

 読みにくかったら申し訳ありません。

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