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27.ミリア王女の不幸 2

 本日投稿2話目です。

 ローレン様と会談した後、ミリア様の寝室に案内された。


「初めましてミリア様、私はセトと申します」

「アタシはシェリスよ」


 ミリア様に対し、私とシェリスは臣下の礼を取る。


「セトさん、シェリスさん、顔を上げてください」


 ミリア様から許しが得られたので、顔を上げる。

 ミリア様は、私やシェリスより少し年下と思われる少女だ。

 しかし、その顔には疲労の影が刻まれており、長く闘病生活の辛さが伝わって来る。

 見ているだけで痛々しい光景だ。


「ミリア様、早速ですが私たちの責務を遂行させて頂きます」


 そう言いながらミリア様へ、紙切れを渡す。

 そこには『ミリア様のご病気を治して差し上げます。ここは話を合わせて頂けると幸いです』と書かれている。


「そう、私を楽にしてくれるのね」

「はい。明日の朝までには楽になれるかと」

「やっと、この苦しみから解放されるのね」


「ミリア様……、うぅっ……」


 ミリア様の言葉に、室内に居た侍女たちが涙を流す。

 どうやら、ミリア様は皆から慕われているようだ。


 侍女たちが涙を流している間に、仕事を済ませる。

 潜伏感染している人が居るかもしれないので、王城全体を対象に結核菌を殺菌する事にした。


――【呪殺】


「魔法の効果が表れるまでにしばらく時間が掛かります。長くても数時間以内には効果が表れるでしょう」


 そう言った後、シェリスに目配せしてミリア様に【体力回復】の神聖魔法を掛けてもらう。


【神聖魔法】Lv3 【体力回復】

  【消費魔力】 10~

  ・対象の体力を回復する。

  ・消費魔力は対象の消耗度合いに比例する。


 シェリスがミリア様に【体力回復】の魔法を掛けると、すこしばかり顔色が良くなった気がする。

 これで明日の朝には、快方に向かうだろう。


「それでは、私たちはこれにて失礼致します」


 その言葉と共に、私とシェリスはミリア様の寝室を後にした。


 その後、ローレン様に報告し、帰宅した。


◇◇◇


 ミリア様の結核を治療した翌朝、王城へ登城した。

 昨日ローレン様に依頼の完了報告をした際、本日再び登城するように言われたからだ。

 登城すると、そのまま謁見の間まで案内される。


「セトにシェリスよ。儂からの依頼はどうなっておる」


 いきなりの質問に驚いたが、ローレン様を見ると小さくうなずき返してくる。

 どうやら、一芝居することになった様だ。


「陛下からのご依頼は完遂致しました。ミリア様は今頃楽になっていらっしゃるはずです」

「ほう。侍従長よ、それは真か?」

「はい、陛下。ミリア様は現在、穏やかに眠っていらっしゃいます」


 私と侍従長は、病気を治療したとも、安楽死させたとも、どちらとも取れる内容で報告する。

 しかし、依頼内容を知っていれば間違えることは無いだろう。

 それに、ミリア様が快方に向かっている事は、謁見の間へ来るまでに、侍従長から報告を受けているので安心だ。


「なに、セトはミリア様を手に掛けたというのか。いくら依頼とはいえ、これは看過できん。陛下、セトは即刻処断すべきと具申致します」


 私たちの芝居につられ、貴族の中から私を処断しようと声が上がる。

 おそらく、この人がグレンタール卿なのだろう。


「グレンタール卿、なぜ救国英雄であるセトを処断せねばならんのだ? 理由を申してみよ」

「セトはミリア様を安楽死させる依頼を受け、それを実行したと聞いております。どのような理由であれ、王族を手に掛ける事は許されざる行為のはず。これは国家反逆罪ですぞ!」


 グレンタール卿は、私を罠に嵌めたと言わんばかりのにやけ顔で声を荒げる。

 しかし、事情を知らない他の貴族達は、グレンタール卿に対して怪訝な目線を向けている。


「セトよ、それは本当か?」

「私への依頼書には、確かにそういった内容が書かれていました。しかし、不審に思い宰相ローレン様に確認した所、誤った依頼内容だと分かりました。ミリア様におきましては、昨日のうちに結核の治療を完了しております。現在は快方に向かっていると聞いております」


 こちらの発言は全て裏の取れている事実なので、いくら貴族だろうが覆せないだろう。


「儂の方にも、ミリアが快方に向かっていると連絡が来ておる。グレンタール卿よ、セトへの依頼内容が誤っていた事を、何故知っておるのだ?」

「そ、それは……」

「それは、私の部下がお答えします」


 グレンタール卿が言いよどんでいると、宰相ローレン様が国王様に告げる。


「ほう? どういう事だ、申してみよ」

「言う事を聞かなければ兄を鉱山送りにするとグレンタール様から脅され、私は仕方なくセト殿への依頼書を書き換えました……。この罪、如何様な罰でも受ける覚悟であります」


 ローレン様の部下が、事情を王様に説明する。

 なるほど、グレンタール卿は分かりやすく腐った貴族だったという事か。

 これはグレンタール卿の助命を乞う必要はなさそうだ。


「お主とグレンタール卿とでは立場が大きく違う。結果としてミリアは助かっているのだ、脅されたのであれば罪には問うまい」

「ははっ、有難きお言葉感謝致します」


 ローレン様の部下については、お咎め無しの様だ。

 大貴族から脅されたのなら、逆らえないよね。


「さて、グレンタール卿よ、何か申したいことはあるか?」

「……いだ。……セトのせいだ。おのれ、オノレ……」


 国王陛下から問われたグレンタール卿は、ブツブツと何かをつぶやいていて、少し様子がおかしい。


「衛兵よ、グレンタール卿をとらえて牢へ入れろ。儂の孫を亡き者にしようとした罪は重い」


 グレンタール卿をとらえようと衛兵が近づくと、グレンタール卿は叫び声を上げる。


「オォォォノォォォレェェェ!!!」


 叫び声をあげた後、グレンタール卿の目の色は赤く変わっていた。


◇◇◇


「なっ、これはまさか魔人化したのか!」


 ローレンさんの叫びを聞き、私とシェリスは国王陛下とグレンタール卿の間に立つ。

 グレンタール卿が魔人化した原因は分からないが、ここは王様を守るべきだ。


「陛下、何とか魔人を足止めします。はやく避難を!」


 国王陛下へ叫び、魔人と向き合う。

 何はともあれ、まずは【ステータス】の確認だ。


【ウォルフ・グレンタールのステータス】

  【名前】 ウォルフ・グレンタール

  【性別】 男(魔人)

  【年齢】 43

  【体力】 352/352

  【魔力】 310/310

  【腕力】 55

  【俊敏】 32

  【知力】 43

  【器用】 26

  【状態異常】 異常なし

  【能力】 【ステータス】Lv3、【火炎魔法】Lv5、【魔人の生命力】、【自爆】


【魔人の生命力】

  ・物理攻撃への耐性が大幅に向上する。

  ・10秒ごとに体力を回復する。

  ・あらゆる状態異常を受け付けない。


【自爆】

  【消費魔力】 100

  ・自身の体力が1割を下回ると発動できる。

  ・自身の命と引き換えに、大爆発を発生させる。


 【魔人の生命力】と【自爆】の特殊能力が厄介だ。

 それに、王城内で【火炎魔法】なんて使われたら、大火事になってしまう。

 この3つにさえ何とかなれば、謁見室内の衛兵でも討伐できるだろう。


「王よ、シネ」


 魔人はそう言うと、1メートルほどの火球を国王陛下に向けて放つ。

 こんな所で火炎魔法なんて使えば、大火事になる。


――【消滅】


 私は、魔人の放つ火球を迅速に打ち消して行く。


――【火球】【火球】【火球】

――【消滅】【消滅】【消滅】


 これではイタチごっこだ。

 近衛兵たちも魔人に切りかかるものの、有効打は与えられていない。

 やはり、まず【魔人の生命力】の能力を消し去るべきだろう。

 しかし、そうすると【自爆】が残ってしまう。

 私の魔力では、どちらか一方しか消す事が出来ない。


 ひたすら【火球】を打ち消していると、魔人が近衛兵を蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされた近衛兵は何とか生きているものの、戦闘不能の状態だ。

 元は人族だが、魔人になった事で身体能力も急上昇したらしい。


『セト、アタシに出来る事はないの?』


 焦っているタイミングで、シェリスから念話が届く。

 ここは少し落ち着こう。

 ……そうだ、もしかするとシェリスもアレができるかも。


『シェリス、この魔人は【魔人の生命力】と【自爆】の能力を持っているけど、どちらか【消滅】で消せない?』

『あ、うん、やってみるわ』


 シェリスと念話で話している間も、魔人の魔法を打ち消し続ける。


『セト、【自爆】は消せたと思うわ。【魔人の生命力】の方は、私じゃ無理みたい』


 やっぱりシェリスは最高の嫁だ!

 【ステータス】で見ると、確かに【自爆】の能力が消えている。

 これで【魔人の生命力】を消失させれば、魔人の討伐が楽になる。


――【消滅】


 これで【魔人の生命力】を消滅させる事が出来た。

 シェリスが【魔人の生命力】を消滅できなかったのは、能力の詳細が分からず、イメージできなかったのだろう。

 私が成功したのは、【ステータス】の能力に助けられた形だ。


『シェリスありがとう、うまくいったよ。今なら状態異常が効くから、ありったけの魔法を使おう』

『わかったわ!』


 私とシェリスが【五感消失】や【精神異常】で状態異常を付与すると、魔人の動きが鈍って行く。


「近衛兵のみなさん、魔人を弱体化させました。いまなら有効打を与えられるはずです」


 そう叫ぶと、近衛兵達は一斉に槍を魔人に突き刺す。


「ウッギャァァアァァ……!」


 魔人は絶叫した後、動かなくなった。

 どうやら、討伐に成功した様だ。


「国王陛下、魔人は打ち取られました。もう安全です」


 国王陛下にそう伝えた後、元居た位置に戻る。


「うむ、ご苦労であった」


 結局、国王陛下は椅子に座ったまま動じなかった。

 この程度の危機であれば、逃げる必要もないという事か。

 なかなか肝の座った国王陛下だ。


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