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25/58

25.瘴気の沼 3

 本日投稿分3/3です。


 翌朝、瘴気の沼を浄化するため、瘴気の沼の縁までやって来た。


「それでセトよ、どうやって沼を浄化するつもりじゃ?」


 ダーヴさんが、そう問いただす。

 今回、瘴気の沼を浄化する方法として2つの案を考えていた。


 1つ目は、【暗黒空間】へ大量の土砂を格納し、瘴気の沼へ持っていく方法だ。

 しかし、この方法では時間と手間が掛かりすぎるので、今すぐには実施できない。


 2つ目の方法は、用途が無く困っていた魔法を活用する方法だ。


「暗黒魔法の【荒廃】を使います」

「【荒廃】じゃと? 名前からすると土地を荒らす魔法に聞こえるが、瘴気の沼に使って効果があるのかの?」

「それは、見てからのお楽しみです」


 瘴気の沼を砂地に変化させるイメージで、【荒廃】の魔法を使う。


――【荒廃】


 『ズズズン』と大きな地響きが鳴る。

 地響きと共に、眼前の沼が砂地に変化して行く。

 瘴気の沼に漂っていた異臭も、合わせて消え失せる。


「これで、瘴気の沼は無くなったと思います」


 そう言いながら冒険者達の方へ振り向くと、全員口を開けて放心している。


「な、ななな、何じゃこりゃあぁぁぁ!!」


 トルテさんが急に叫び出した。

 やはり、瑞々しい沼を砂地に変えるのは、拙かっただろうか。


「申し訳ありません。やはり、沼を砂地に変えるのは拙かったでしょうか」

「いや、そうじゃねぇ。一体どんな魔法を使ったら、瘴気の沼を一瞬で砂地に変えられるんだ」

「暗黒魔法の【荒廃】を使いました。この魔法は、広範囲の土地を砂や岩からなる荒地に変化させる魔法です。効果は見ての通りですね」

「ホントに、セトやシェリスと居たら驚く事ばかりだわ。あたいの中で常識が崩れていってしまうよ」


 ルナさんも呆れた様子だ。

 そこは、私もシェリスも元は別世界の住人だから、常識が通用しないのは大目に見て欲しい。


 それからは、瘴気の沼が完全に浄化されたこと、および周囲に魔物が居ない事を確認し、調査を終えた。


◇◇◇


 2日かけて王都へ戻り、瘴気の沼についての顛末を報告しに冒険者ギルドへ行った。

 そのとき、ギルド内は大混乱になっていた。


「一体何が起きているのでしょうか」


 ギルド内で唯一冷静に受付へ座っている受付嬢に聞いてみる。


「お騒がせして申し訳ありません。瘴気の沼付近にレッドドラゴンが出現したと報告があり、現在はその対応に追われているのです」


 おそらく、私が倒したレッドドラゴンの事だろう。

 これは早めに報告をした方が良いと思い、ダーヴさんの方を見る。

 ダーヴさんはうなずき、瘴気の沼での出来事を受付嬢へ報告し始める。

 もちろん、レッドドラゴンを倒したことも含めて報告している。


「報告内容はわかりました。レッドドラゴンについて、何か証拠になるような物はお持ちでしょうか」

「大丈夫じゃ。セトの【暗黒空間】に入れて持って帰っておる。気になるなら見てみるかのう?」

「後で見せていただく事になると思います。まずはギルド長へ報告して参りますので、しばらくお待ち頂けないでしょうか」


 受付嬢からそう言われ、しばらく待つことになった。

 すると、ギルド長が受付に現れた。


「おお、お主らがセト殿とシェリス嬢か。私は冒険者ギルド長のアレクサラだ」

「初めまして、魔導ギルド員のセトです」

「初めまして、同じく魔導ギルド員のシェリスよ」

「レッドドラゴンの死体を持ち帰ったとの事だが、今から見せてもらえないだろうか」


 アレクサラさんと挨拶をした後、レッドドラゴンの死体を検分してもらうことになった。

 冒険者ギルドの解体場へ行き、レッドドラゴンの死体を【暗黒空間】から取り出す。


「おお、本当にレッドドラゴンだ。こんなきれいな状態のドラゴンなんて見たことが無い! おお、これは凄いな、まだ血が固まっていない……」


 アレクサラさんは目の色を変えて観察している。

 珍しい魔物なのは分かるが、話を進めて欲しい。


「あの、アレクサラさん、今ギルド内で対応に追われているレッドドラゴンは、これという事で合っているでしょうか」

「ああ、これは失礼。セト殿の言う通り、これはギルド内で対応中のレッドドラゴンに間違いない。すぐに安全宣言を出すことにしよう」

「それは良かったです」

「ところでセト殿、このレッドドラゴンの死体について、冒険者ギルドへ売っては貰えないだろうか。ドラゴンの死体は、貴重な素材の宝庫なのだ」


 そう言われても、私の一存では決められない。

 同行したシェリスや4人の冒険者に聞いてみるべきだろう。


「私は買い取ってもらって良いと思いますが、みなさんどうでしょう」

「それはセト1人で倒したので、セトの物じゃ。自分で決めなされ」


 ダーヴさんから分け前はいらないと言われる。


「本当に、このレッドドラゴンは、私が貰って良いのでしょうか」

「ワシらは腰を抜かしとっただけじゃからのう。全部セトの物になるのが道理というものじゃ」

「俺たちゃ命が助かっただけでも、めっけもんなんだ。そのドラゴンはいらねぇよ」

「僕らは討伐に参加した訳じゃないから、全部セトが持って行ってよ」

「あたいはもう死ぬかと思ったよ。セトとシェリスが居てくれて、本当に助かった。もうそれだけで十分さ」


 ダーヴさん、トルテさん、ジンタさん、ルナさんがそれぞれ同意してくれる。


「じゃあシェリス、売っても良いかな」

「売るのは良いんだけど、魔導ギルドへのお土産に魔石だけでも残してもらった方が良いんじゃない?」

「そうだね。それなら鱗、皮、牙も残してもらって、私とシェリスの武具を作ってもらおうか」

「うん、それが良いと思うわ」


 シェリスの同意も得られたので、一部の素材を残して冒険者ギルドへ売却する事にした。


「アレクサラさん、鱗、皮、牙、それと魔石を残して、その他は冒険者ギルドへ売却する事にします。解体費用は、売却代金から差し引いておいて下さい」

「分かった。正直に言うと全部売って欲しいが、セト殿達に使い道があるなら無理は言うまい」


 レッドドラゴンの素材は、ざっと白金貨20枚前後、金貨にして2,000枚前後になるとの事だ。

 代金は1週間後に取りに来る事にした。


 ようやく、これで瘴気の沼の依頼が完了だ。


◇◇◇


 瘴気の沼から帰った翌日、王城へ登城せよとの連絡が来た。

 シェリスと共に王城へ行くと、宰相の執務室へ通される。


「セトとシェリス、よく来てくれた。私は宰相のローレンだ」


 ローレン様はやや痩せ型の体形で、精悍な顔つきをもつ初老の男性だ。


「早速本題に入らせて頂こう。ここ2ヶ月ほどで王国の危機が3度も訪れておる。オーガキングの出現、ペストの流行、そして瘴気の沼だ。セトとシェリスは記憶に新しいだろう?」

「はい。不本意ながら、いずれも解決に関わっています」

「ええ。どれもセトが解決した事件ね」

「これらは通常、何らかの前兆があるはずだ。しかし、今回はいずれも何の前触れもなく急に発生している。つまり、これら3件は人為的に発生したと王家は考えておる」


 わざわざ私達を呼び出して説明をしているのだから、何か意図があるのだろう。

 まさかとは思うが、私たちを疑っているのだろうか。

 だとすると、完全な考え違いだが、誤解は解消すべきだろう。


「もしや、私たちが事件の発生に手を貸している、と疑われているのでしょうか」

「正直に言うと、名声を得るために国家の危機を演出したのではないか、と疑う者も居る。しかし、我々は何の証拠もなく君たちを疑う事はしない。むしろ王国の危機を救ってくれた事に感謝している」

「それでは、本日呼ばれた理由と言うのは?」

「これらの事件の情報が欲しいのだ。人為的に起こされたと仮定して、なにか気づくことが無いか思い返してみて欲しい」


 1件目のオーガキングの出現については、報告していない情報がある。


「1件目のオーガキングについてですが、戦闘中に『魔王を倒して神になる』といった言葉を発していました。誰かがオーガキングをそそのかした可能性が高いと思います」

「オーガキングをそそのかす存在ということは、犯人は魔族の可能性があるな」


 2件目と3件目については、そもそも報告に値する内容が少ない。

 しかし、ペストの件については不自然な点がある。


「2件目と3件目については、追加の情報はありません。しかし、ペストの流行については、人為的に発生させたとすると不自然に思う所があります」

「ほう、どういった所だ?」

「犯人が人間であると仮定すると、ペストという致死性の高い病原菌を扱うのは不自然です。そんな事をすると、犯人側にも犠牲者がでてしまいます」

「やはり、犯人は人間ではなく魔族である可能性が濃厚か」

「そう思います」


 その後、いくつか情報交換を行ったが、犯人が魔族であるという状況証拠以外に有益な情報は出なかった。


 そして帰り際に、混乱を避けるためこの件については極秘にしてくれと頼まれた。

 もちろん快諾した。


 今回はなかなか難産でした。

 次話は11/6に投稿する予定です。

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