24.瘴気の沼 2
本日投稿分2/3です。
物陰に隠れたものの、既に私達はレッドドラゴンから認識されていた様だ。
レッドドラゴンは私たちのすぐ近くへ着地し、大きく咆えた。
「ギャオォォォーン」
レッドドラゴンは大きく咆えた後、横なぎの【ファイアブレス】を放ってくる。
これは拙い。
いくら物陰に隠れていようとも、このままでは丸焦げになってしまう。
――【消滅】
何とか【消滅】で【ファイアブレス】を打ち消した。
とはいえ、【消滅】は物理攻撃には効かないので、このまま隠れていてもジリ貧だ。
「みなさん、今のうちに逃げましょう!」
そう声を掛けてみたものの、冒険者の4人は地面にへたり込んでいる。
あまりの恐怖に腰が抜けたのだろうか。
「レッドドラゴンに見つかった……もうお終いよ」
ルナさんが真っ青な顔で呟く。
ルナさんを見る限り、レッドドラゴンに襲われるという事は、死刑宣告を受けたも同然らしい。
このまま殺されるのを待つのか?
いや、出来る限り生き延びられる様に、あがきたい。
シェリスの方を見ると、鋭い目でレッドドラゴンを見定めている。
さすが女神様、冒険者とは胆力が大違いだ。
「シェリス、私はレッドドラゴンを足止めしてみるよ。他の冒険者達を頼んだ」
「分かったわ。セト、気を付けてね」
まずは、レッドドラゴンの能力を確認しよう。
【レッドドラゴンのステータス】
【体力】 751/751
【魔力】 345/370
【腕力】 70
【俊敏】 50
【知力】 45
【器用】 12
【状態異常】 異常なし
【能力】 【飛行】、【ファイアブレス】、【サンダーブレス】、【精霊魔法】Lv8、【王者の咆哮】
【賞罰】 なし
この中で厄介なのが【王者の咆哮】だ。
【王者の咆哮】
・自身のあらゆる状態異常を解消する。
・精神の弱い者を立ちすくませる。
・王者の咆哮は、どんな状態異常でも止めることができない。
冒険者がへたり込んだのは、【王者の咆哮】の効果もあるらしい。
私に効果が無かったのは、転生前のSE時代に精神が鍛えられたからだろうか。
無理を言う顧客と、金にならない仕事は断れという上司、顧客のいう事にNoと答えるなという営業、そういった人達から板挟みにされるなんて日常茶飯事だった。
おかげさまで、どんな時も考えることを止めない精神力は付いたね。
余計な事を考えていると、レッドドラゴンが【サンダーブレス】を放ってくる。
もちろん【消滅】で打ち消すことを忘れない。
このままでは、シェリス達がレッドドラゴンの攻撃に巻き込まれてしまう。
何とかして、レッドドラゴンの意識をシェリス達から逸らし、引き離す必要があるだろう。
そこで、横へ異動しつつ【暗闇】の魔法をレッドドラゴンへ放つ。
【暗闇】はレッドドラゴンの頭部を包み込み、一時的に視覚と聴覚を奪う。
「ギャオォォォーン」
レッドドラゴンによる【王者の咆哮】で、【暗闇】はあっけなくかき消された。
しかし、こちらへ注意を向けることができた様だ。
次は【五感消失】でレッドドラゴンの平衡感覚を奪う。
『ズシーン』と音を鳴らしつつ、レッドドラゴンはその場で転倒する。
「ギャオォォォーン」
しかし、すぐさま【王者の咆哮】で、レッドドラゴンは体勢を立て直す。
【王者の咆哮】、チート過ぎだろ!
私は逃げ回りながら、レッドドラゴンへ状態異常の魔法を使い続ける。
しかし、すぐに回復されてしまうので、時間稼ぎにしかならない。
そうやって時間を稼いでいると、シェリスから【転生神の祝福】による念話が届く。
『セト、冒険者達は何とか動けるようになったわ』
『それは良かった。こっちはあまり良くない。レッドドラゴンの特殊能力【王者の咆哮】で、魔法の効果が打ち消されてしまうんだ』
『それなら、先に【王者の咆哮】を無効化すればいいじゃない?』
シェリスが軽い感じで返してくる。
【王者の咆哮】を無効化だって?
そんな事……できるかもしれない。
――【消滅】
レッドドラゴンの持つ【王者の咆哮】の能力を【消滅】させる。
【消滅】を使った瞬間、軽い眩暈に襲われる。
おそらく、生物を対象にしたので、消費魔力が大きかったのだろう。
しかし、魔法は発動してくれた。
――【五感消失】
再度、レッドドラゴンから平衡感覚を奪うと、レッドドラゴンはよろめき、転倒する。
「キュオォォォーン」
レッドドラゴンは咆哮を上げるが、先ほどまでの迫力はない。
しかも、転倒したまま起き上がれない。
どうやらシェリスの案が上手く行き、【王者の咆哮】を封じる事ができた様だ。
【消滅】による能力消滅は、状態異常ではなく恒久的な変化なので、【王者の咆哮】にも効いたという事だろう。
しかし消費魔力が大きすぎるため、これは最後の手段だな。
【暗黒魔法】による状態異常が効くのなら、この戦いはこちらに分がある。
しかし、いくらこちらが有利だといっても、油断できる相手ではない。
――【五感消失】【五感消失】
まずは、レッドドラゴンの視覚と聴覚を奪う。
それからレッドドラゴンへ切りかかろうと近づく。
しかし、レッドドラゴンは、口を大きく開けて私に噛みついて来る。
これには驚かされたが、何とか避けることが出来た。
レッドドラゴンは勘で動いているのだろう。
動作がワンテンポ遅れているので、私でも何とか反応することができる。
――【五感消失】【五感消失】
レッドドラゴンから嗅覚、触覚を奪う。
レッドドラゴンは感覚を奪われる度に動きが鈍くなって行き、ついには私が近づいても反応できなくなった。
私は久遠のショートソードを抜き、ドラゴンの首へ切りつける。
2度ほど切り付けると、ドラゴンの頭が胴体から離れた。
今さらだけど、やっぱり久遠のショートソードの性能は良すぎだと思う。
『シェリス、さっきは助言ありがとう。シェリスのおかげで、何とかレッドドラゴンを倒せたよ』
『それは良かったわ。アタシはこっちで待っているからね』
最後に、レッドドラゴンの死体を【暗黒空間】へ格納して、シェリス達の元へ向かった。
◇◇◇
シェリス達の所へ戻ると、全員ほっとした顔で迎えてくれる。
「セト、よく無事で帰ってくれました。それで、レッドドラゴンはどこに行きました?」
ジンタさんが真っ先に声を掛けて来る。
「レッドドラゴンなら倒してきました。死体はちゃんと回収してありますよ」
そう言いながら、レッドドラゴンの頭を【暗黒空間】から取り出す。
「えっ?!」
「本当か?!」
「何だと?!」
「何じゃと?!」
冒険者が全員揃って驚く。
シェリスから話を聞いていないのだろうか。
シェリスの方を見ると、目を逸らされた。
「も、もっとレッドドラゴンの死体をよく見せてくれんかの……」
ダーヴさんのリクエストに応えて、レッドドラゴンの胴体部も出す。
「確かに、これはレッドドラゴンの死体じゃ。それも、かなり綺麗じゃ。セトよ、1人でどうやって倒したのじゃ?」
「どう、と言われましても、魔法でレッドドラゴンを弱らせて、トドメに首を落としました」
「簡単に言ってくれるのう。まあ、余計な詮索はしないでおこうかの」
いやまあ、言うほど簡単ではなかった。
しかし、それ以外にどう説明すれば納得してもらえるのだろう。
余計な詮索はされない様なので、ここは黙っておこう。
「それよりも、少し早いですが今日はもう終わりにしませんか。レッドドラゴンと遭遇したことで、私だけでなく全員お疲れの様ですので」
「そうじゃのう。疲れた時に無理しても、良い結果は出ないものじゃ。今日はもう野営にするかの」
ダーヴさんと相談した結果、森を出て野営する事になった。
森を出る間、少し気になっている事をダーヴさんに尋ねる。
「ダーヴさん、瘴気の沼はどうやって浄化するのかご存じですか?」
「ああ、知っとるぞ。小さな沼なら神聖魔法の【浄化】で浄化するがの、ここの様な大きな沼は、埋め立てるのじゃ」
瘴気の沼は埋め立ててしばらくすると、瘴気が消えるそうだ。
しかし、埋め立てには非常に多くの労力が必要になるため、大きな危険が無い限り放置されるとの事だ。
「もしよろしければ、私の魔法で瘴気の沼を浄化してから帰りませんか。またドラゴンが引き寄せられても困りますからね」
「そんな事ができるのか? 冒険者ギルドからの依頼では、ワシらの一存で対処してよしと言われておる。埋め立てが出来るなら万々歳じゃのう」
ダーヴさんの許しが得られたので、明日は瘴気の沼を浄化して帰る事にしよう。
レッドドラゴン戦でセトは何とか倒せていますが、普通に戦うと冒頭のファイアブレスで部隊が壊滅します。




