表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/58

23.瘴気の沼 1

 本日投稿分1/3です。


 マリトール市のペスト大流行から2か月ほどが経った日、私とシェリスはいつもの様に魔導ギルドへやって来た。

 もうすっかり顔なじみとなった受付のカルナさんに、何か良い仕事が無いか聞いてみる。


「セトさんとシェリスさん、毎度物資輸送だと飽きて来ませんか? たまには調査団への随伴なんて如何でしょう」


 確かに、魔導ギルド員となってから、物資輸送の依頼ばかりやっている。

 【アイテムボックス】持ち魔法使いは少なく、実質フリーなのは私達だけなので、仕方ない。

 物資輸送の依頼は報酬も良いしね。

 しかし、たまには他の仕事を受けるのも良いのかもしれない。


「調査団というとどのような事をするのですか?」

「冒険者による調査団への随伴ですね。役割としては、冒険者の補佐です。冒険者の中に魔法使は少ないので、たまに魔導ギルドへ随伴員の依頼が来るのです」


 なるほど、一時的に冒険者パーティーに加盟するという事か。

 討伐ではなく調査なので、危険な目に遭う事も少ないだろう。


「なるほど、それでどのような調査の依頼が来ているのでしょうか」

「いま来ている依頼は、瘴気の沼の調査です。王都から徒歩で2日ほどの森に瘴気の沼が発生したため、その周囲の魔物を調査するのが目的です。調査団は、冒険者4人と魔導ギルド員2名の構成になる予定です」


 瘴気の沼とは、瘴気だまりが沼の中で発生したものだという。

 通常の瘴気だまりとは異なり、周囲一帯の動植物を魔物化させたり、強力な魔物を引き寄せたりと、かなり厄介な沼だ。

 通常、瘴気の沼が発生すると付近の魔物を調査し、危険度に応じて対応策を考えるらしい。


「私とシェリスが参加するなら、それだけで魔導ギルド員2人の枠が埋まるという事になりますね」


 シェリスの方を見ると、うなずき返してくる。

 どうやら、シェリスも乗り気の様だ。


「今回調査する瘴気の沼について、今わかっていることを教えて頂けないでしょうか」

「はい。以前は直径200mほどの普通の沼でしたが、ここ数週間の間に瘴気の沼に変化した様です。沼の周囲で動植物が魔物化している事から、瘴気の沼に変化したことは間違いありません」

「瘴気の沼になった原因は分かっているのでしょうか」

「はっきりとは分かっていません。ただ、これほど大きな瘴気の沼が突然現れる事はまず無いため、何者かが裏で手を引いていると思われています」


 それこそ、魔王やその手下が関与していても不思議では無さそうだ。

 瘴気の沼に手を焼いている間に攻め込まれると、対応できなくなる恐れがある。

 そう考えると、早めに対処した方が良い。


「なるほど、あまり先延ばししない方が良さそうですね」


 シェリスに聞きたい事が無いなら、この依頼を受けようと思う。


「シェリスは何か聞きたい事ある?」

「ううん、聞きたいことは全部セトが聞いてくれたわ」

「それなら、この依頼を受けようか」

「そうしましょ」


 こうして、私とシェリスは瘴気の沼の調査依頼を受けることになった。


◇◇◇


 瘴気の沼の調査依頼を受けた翌朝、調査団の面々は冒険者ギルドへ集合した。


「おいおい、兄ちゃんと嬢ちゃん。これは馬車旅とは違うんだ、水や食料位は買っておけや」


 手ぶらな私達を見て、いかつい顔の冒険者が注意してくる。

 少々口調は荒いが、なかなか面倒見は良さそうだ。


「私達の水と食料なら大丈夫です。【暗黒空間】に入れているので心配ご無用です」


 そう言って、食料を【暗黒空間】から出し入れする。


「お、おう……。【アイテムボックス】持ちか、それはすまんかった」


 今回は野営をする事になるが、シェリスの【マイルーム】内で寝れば良いので、いつも通り水と食料だけ買い込むだけで準備完了だ。

 もちろん、二人一緒に寝られる様に【マイルーム】内のベッドはダブルベッドに入れ替えている。


「自己紹介がまだでしたね、私はセトと申します。【暗黒魔法】と護身程度の剣が使えます」

「アタシはシェリス。【暗黒魔法】、【神聖魔法】、【空間魔法】を使えるわ」

「あたいはルナ、弓使いよ。短い間だけどよろしく」


 弓使いのルナさんは、燃えるような赤髪をポニーテールでまとめた、背の高い美人さんだ。

 年齢は私やシェリスと同年代だ。


「僕は剣使いのジンタです。こう見えても中堅のCランクですよ」


 ジンタさんは青く短いツンツン髪の好青年だ。

 ジンタさんの年は20歳前後だが、その年でCランクというのは、なかなか才能豊かだと思う。


「俺はトルテだ。剣と槍を使う。魔物退治なら任せとけ」


 トルテさんは、先ほど注意してきた厳つい顔の冒険者だ。

 年は20代後半だろう。

 いかつい顔のおかげで誤解されそうだが、言動の内容からすると、なかなか面倒見が良さそうだ。


「ワシは火魔法使いのダーヴじゃ。お主らの背中はワシが守るので安心しておけ」


 ダーヴさんはやや痩せた体つきの初老の男性だ。

 また、ダーヴさんはこの冒険者パーティーのリーダーだ。

 1人だけ年齢がかけ離れているのは、他の冒険者の師匠という立場だろうか。


「ねえねえ、シェリス、あたいの野営道具を【アイテムボックス】に入れてくれない?」


 【空間魔法】を使えると聞いたルナさんが、シェリスに荷物運びをお願いしている。


「もちろん、いいわよ。あ、そうだ、アタシがルナさんの荷物を運ぶから、セトは男性陣の荷物を運んでよ」

「うん、そうしようか」


 シェリスの提案を受け、男性陣の荷物を預かる事にした。


「荷物が軽くなった所で、そろそろ出発するかの」


 ダーヴさんの一言で、調査団は出発となった。


◇◇◇


 瘴気の沼へ行く間、冒険者と交流を深めるために世間話をすることにした。

 シェリスはルナさんと仲良くおしゃべりしているので、私はジンタさんに話しかける。


「ジンタさん達は、いつも同じパーティーを組んでいるのでしょうか」

「そうですね。僕らは、だいたい同じパーティーで行動しています」

「ジンタさん達は、普段は魔物狩りを中心に活動されているのでしょうか?」


 以前、クルテン市に行くときの護衛は、魔物との戦闘しか頭になかった。

 冒険者全員がバトルジャンキーとは思っていないが、このパーティーにそういった人が居ると、調査活動に支障が出そうだ。


「いえ、普段は護衛や調査、採取が多いですよ。魔物との戦闘は極力避け、安全に依頼を遂行するのが僕らのスタイルです」

「それは安心です。以前に、魔物狩りの事しか頭にない冒険者が護衛について、本当に酷い目に会いました」

「オーガキング殺しの逸話ですね。あの件については、本当に申し訳なかった」


 そう言いながら、ジンタさんが頭を下げる。


「ジ、ジンタさん、頭を上げてください。あの件はジンタさんが悪い訳ではありませんので……」


 そういうと、ジンタさんは頭を上げる。


「そう言ってもらえると助かります。正直言うと、今回セトさん達に来てもらえるとは思いませんでした。冒険者に対して、相当な不信感を抱いていると思いましたので……。ちなみに、あの2人は【アイテムボックス】持ちを危険に晒した事で、冒険者ギルドから除名処分になりました」


 少し辛らつだが、その方が2人のためにも良いと思う。

 あの2人は、あの程度の腕で魔物に突撃していると、いつか大けがするのは目に見えているからね。


◇◇◇


 王都を出発して3日目の朝、瘴気の沼のある森の入口へたどり付いた。


「今日と明日で、この森に居る魔物の数や種類を調査すれば、依頼は完遂じゃ。みんな、心して挑むんじゃぞ」


 ダーヴさんの掛け声に全員がうなずき、調査を開始する。

 まずは、森に入って1時間ほどの場所にある瘴気の沼へ行き、状態を確かめる。


 瘴気の沼は直径200mほどの大きな沼で、水は暗く澱んでいる。

 また、瘴気の沼の周囲には異臭が漂っている。


「ここが瘴気の沼ですか。正直に言うと、気分が悪くなるので、あまり長くは居たくないですね」

「間違っても、この水を飲もうとは思わない事じゃ。水を飲んだだけでも死んでゾンビになる事もあるからのう」


 ダーヴさんの忠告はごもっともだが、こんな匂いの酷い水を飲むのは勘弁だ。


 その後は、沼を中心として円形に歩いて回り、魔物の発生状況を調査して行く。

 途中で猪型や熊型の魔物と何回か出会ったものの、冒険者達の活躍で危なげなく討伐できている。


「【激痛付与】の効果はすげぇな。こんな楽に魔物を倒せるのは初めてだぜ」


 トルテさんの言う通り、前衛の2人には【激痛付与】の魔法を掛けている。

 確かに【激痛付与】のおかげで魔物討伐が楽になるのだろうが、ほぼ無傷で倒せるのは冒険者達の腕が良いおかげだろう。

 素人の私が見ただけでも、冒険者達の動きが良いと分かるからね。


「今の所は、周囲の動物が魔物化しただけの様じゃ。このままなら、そんな大きな問題にならずに済みそうじゃな」

「これ以上の問題というのは、何が考えられるのでしょうか?」


 ふと遠くを見ると、大きな鳥の様なシルエットが見えたので、不穏に思いダーヴさんに確認する。


「瘴気の沼は、強力な魔物を引き寄せる事があるのじゃ。特にAランク以上の魔物が居たりすると、早く対処せんと国に大きな損害が出るのう」

「なるほど。ちなみにですが、レッドドラゴンは何ランクなのでしょうか」

「レッドドラゴンは、Sランクの中でも最上位の危険極まりない魔物じゃが……それがどうかしたか?」

「ダーヴさん、あれ……レッドドラゴンですよね?」


 遠くに見える不穏なシルエットを指差して、ダーヴさんに確認する。


「なっ、全員退避! レッドドラゴンが迫っておる。物陰へ退避するのじゃ!」


 やはり、不穏な影はレッドドラゴンだった様だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ