22.ペスト大流行 3
本日投稿分の4/4です。
テマニアから乗合馬車に乗り、夕方にはマリトールへ到着した。
ペストで封鎖されているとはいえ、テマニアからマリトールへ物資輸送するため、少ないながらも乗合馬車が通っていた。
歩き旅にならず、本当に助かった。
「セトさん、シェリスさん、お待ちしていました。私は魔導ギルドのマリトール支部で働いている、アリアです」
マリトールへ到着すると、魔導ギルド職員のアリアさんが迎えてくれた。
アリアさんは、背が高くメガネの似合う美人さんだ。
お互いに挨拶をして、本題に入る。
「シェリス、もう日が傾いているけど、今日のうちにペストを殺菌してしまおうと思う。それでも大丈夫かい?」
「アタシは大丈夫よ。馬車の中で寝ていたから、まだまだ元気よ!」
かくいう私も、馬車の中で爆睡してしまった。
他の乗客から、こんな時によく眠れるものだと、少し呆れられていた。
そんな事よりも、【呪殺】の掛け方の相談だ。
マリトール市はなかなか広い都市で、とても1度の【呪殺】では網羅できない。
そこで、マリトール市を半分に分け、それぞれを私とシェリスで分担して【呪殺】する事にした。
「シェリスはマリトール市の南半分を、私が北半分を担当して【呪殺】します。魔法の掛け方は、マリトールの中心地に行き、半円状に【呪殺】を掛けます」
「えっ、病院を回って一人ずつ治療するのでは?」
アリアさんのいう通り、一人ずつ治療する方法も考えた。
しかし、マリトール市には病院からあふれるほどペスト患者が居るので、一人ずつ治療していると時間が掛かりすぎる。
せっかく【呪殺】は範囲魔法なのだから、マリトール市内全部を対象にして1回で済ませたい。
「アリアさん、一人ずつ治療すると時間が掛かりすぎます。この都市全体を対象にして魔法を使う方が速いですよ」
「そ、それもそうね。アハ、アハハ……」
何故か、アリアさんは引きつった笑顔で笑っている。
何がそんなに想定外だったのだろうか。
「アリアさん、私達は作業に取り掛かりますので、宿屋の手配をお願いしても良いでしょうか」
「あっ、ハイ。お気をつけて」
そして、事前の打ち合わせ通り【呪殺】を掛けて回る。
私もシェリスも【呪殺】を5回ずつ使った所で、ようやくマリトール市内全域を網羅できた。
シェリスは平気そうだが、私は魔力欠乏で少しめまいがしている。
「セト、大丈夫?」
「大丈夫だ。魔法の使い過ぎで、少しめまいがしているだけだよ」
「あれ、そういえば、セトは人族なのに5回も【呪殺】を使えるの? しかも、5回使った後で軽いめまいで済んでいるって、どういう事なの?」
普通は、【呪殺】を連続して使えないのだろうか?
そう言われてみれば、テマニアで治療したテレンさんの最大魔力は50だった。
「転生した時、私の魔力は1000だったので、【呪殺】を5回使って丁度魔力が切れた所だと思うよ」
「そんなハズ無いわ。魔力が切れたら、とても立っては居られないハズよ。それに、人族の魔力は多くても200程度のハズなの」
少し気になるので、久々に私の【ステータス】を確認してみる。
【セトのステータス】
【名前】 セト
【性別】 男(人族)
【年齢】 17
【職業】 魔法使い
【体力】 121/121
【魔力】 340/1340
【腕力】 28
【俊敏】 22
【知力】 153
【器用】 31
【状態異常】 魔力欠乏(軽度)
【能力】 【ステータス】Lv10、【暗黒魔法】Lv10、【剣技】Lv1、【転生神の祝福】
【賞罰】 なし
「【ステータス】で見る限り、軽度の魔力欠乏で間違いないね。それと、最大魔力が1340まで増えているので、魔力欠乏が軽度で済んでいるみたいだね」
「うそ。人族でそんな魔力があるなんて。それも短期間で異常に成長しているわね。……まあ、セトはセトだからいいか!」
シェリスの中では納得できたらしい。
それよりも、【転生神の祝福】というのが気になる。
いつの間にこのような能力を覚えたのだろうか。
【転生神の祝福】
・転生神ネフリィに祝福された夫婦へ贈られる能力。
・どんなに離れていても、夫婦の間で会話することができる。
どうやら、転生神ネフリィ様は私たちの結婚を祝福して下さった様だ。
『シェリス、聞こえる?』
『セト、どうしたの? というか何これ。頭の中へ直接声が響いて来るのだけど』
『どうやら、私達がネフリィ様の祝福を受け、贈られた能力みたいだね。どんなに離れていても、夫婦の間で会話ができるよ』
『それは嬉しいわ! ネフリィ様が私たちの結婚を認めて下さった証よね!』
気になる能力の確認も終えたので、アリアさんに予約してもらった宿屋でゆっくり休むことにした。
もちろん、銭湯でしっかり体を洗うのも忘れていない。
ただ、食料の調達に難があるとの事なので、食事は自前で用意することになった。
王都出発前に買い込んでおいて助かった。
◇◇◇
翌朝、魔導ギルドへ行くと、アリアさんが待ち構えていた。
昨日施術した【呪殺】の結果が気になるので、聞いてみようと思う。
「おはようございますアリアさん。昨日のペスト対策は上手く効いたでしょうか」
「セトさん、シェリスさん、おはようございます。昨日の魔法の効果は上々ですよ! 市内の全域で、ペスト患者が快方に向かったと連絡が入っています」
どうやら、私とシェリスで行ったペストの殺菌は上手く効いてくれた様だ。
「という事は、ペスト患者は全員助かりそうですか」
そう聞くと、アリアさんは少し申し訳なさそうな顔をしながら答える。
「残念ながら全員とはいきませんでした。ペストによる体力の消耗が激しい患者さんは、亡くなっています。しかし、そういった手遅れの患者さんを除けば全員助かりそうです」
全員は助けられなかったのか。
最初から分かっていた事ではあるが、少々悔しい。
「そうですか、全員は助けられませんでしたか……」
「あまり思いつめないで。セトのおかげで大多数の患者が助かったのよ。セトは胸を張ってもいいわ」
少し気を落としていると、シェリスが慰めてくれる。
シェリスは本当に良い嫁だな。
今回は助けられない人も出たが、【呪殺】で感染症を治す場合、患者の体力が失われてからでは手遅れと言う事が分かった。
今後は、シェリスの神聖魔法も併用して治療する事にしよう。
「シェリス、ありがとう。今後は感染症の患者を治す時、シェリスの神聖魔法も併用してもらっても良い?」
「ええ、もちろんよ。神聖魔法の【体力回復】を使えば、病気で失われた体力も回復できるわ」
「お二人とも、仲が良いのは分かりますが、これから色々と説明してもらいますからね」
それから1週間、新たなペスト患者は発生せず、マリトール市とテマニアの封鎖は解除された。
しかし、封鎖が解除されるまでの間、魔導ギルドや現地の医者の質問攻めに遭い、ゆっくり休む暇も無かった。
◇◇◇
王都へ戻って3日後、王城へ呼び出された。
マリトール市をペストから救った事で、私とシェリスへ褒賞が渡されるとの事だ。
「セト、アタシ緊張してきたわ」
「私も緊張しているよ。本来のシェリスは人族の王様より偉いのだから、礼さえ守れば大丈夫……だと思う」
「でも、今は人族として暮らしているのよ。王様に会うなんて、ネフリィ様に会うより緊張するわ」
シェリスの一言で、転生神ネフリィ様に会った時を思い出す。
少し勘違いはあったけど、思慮深く良い神様だ。
そんな事を思っていると、いくぶん緊張が和らいだ。
そうしている間に、褒賞の授与式が始まる。
「魔法使いセト、前へ」
「はっ」
「魔法使いセト、マリトール市の市民をペストから守った事、大儀であった。褒賞として、救国英雄の称号を授ける」
「はっ、ありがたく頂戴致します」
そう言いうと、マントとバッジを手渡される。
事前に打ち合わせた通り、その場でマントとバッジを付け、一礼して引き下がる。
シェリスも同様に、救国英雄の称号を受けた。
救国英雄の称号は、貴族でこそないものの、貴族に準じた扱いを受けられる。
また、年金として毎年金貨50枚を支給されるので、贅沢しなければ一生食うに困る事は無さそうだ。
当初は、命を危険に晒してまでペスト撲滅に助力した事から、貴族への取り立ても検討されたらしい。
しかし、1度の功績で貴族になった例は過去に無く、保留されたらしい。
とはいえ、貴族になりたかった訳でもないので、有難く頂戴することにした。
これで、生活費を気にする必要が無くなり、より一層平和に暮らして行けそうだ。
ペストに関して少しは調査しましたが、もしかしたら誤っている部分があるかもしれません。
そこは物語補正ということで流して頂けると幸いです。
次回は10/30に投稿予定です。




