2.暗黒魔法のちょっと便利な使い方
本日2話目の投稿です。
期待していた暗黒魔法は、善良な一般人が使うとは到底思えない、凶悪で邪悪な魔法だった。
特に暗黒魔法Lv6以降なんて、世界を敵に回しそうなほど酷い。
しかし、与えられたからには何とか有効活用したいと思うのは、何でも活用せざるをえない状況に迫られるSEの職業病だろうか。
こんな魔法でも、人の役に立つ使い方が何かあるはず。
そこで、街へ出発する前に、いくつかの魔法を実験することにした。
まずは、一番被害が少なくなりそうな【暗闇】から検証してみる。
【暗闇】
【消費魔力】 10
・光や音の無い真っ暗な空間を作り出す。
・暗闇の空間は、移動や変形を任意に行える。
・暗闇の効果は暗黒魔法Lvと等しい日数だけ持続されるが、任意に解除することもできる。
これは、迷宮で冒険者パーティーに使い、仲間をバラバラに離別させる、という魔法だな。
さらにいうと、足元を少しだけ見えるように調節しておけば、こちらからは不意打ちし放題だ。
とても卑怯で悪辣な魔法だ。
しかし待ってほしい、光や音が無い空間というのは、光や音を遮る空間という事だ。
――【暗闇】
試しに、【暗闇】を使用し、日差しを遮るように頭上へ展開してみる。
思った通りに日影ができて、とても快適な日傘になった。
そのまま移動すると、【暗闇】の日傘も一緒に移動してきた。
自動追尾機能付きとは、なかなか高性能な魔法じゃないか。
この【暗闇】を頭上へ展開したまま歩けば、厳しい日差しの中でも快適に移動できるに違いない。
◇◇◇
次に、【激痛付与】の魔法を検証しようと思う。
この異世界パールナイトは危険が多いらしいので、何かに襲われた時に役立ちそうな【激痛付与】は早めに確認したい。
【激痛付与】
【消費魔力】 20
・激痛効果を対象に付与し、触れた者へ激しい幻痛を与える。
・激痛効果は直接触れるだけでなく、衣服や防具超しに効果を発揮する。
・効果時間は永久だが、激痛効果を発揮した回数が暗黒魔法Lvに達すると、激痛付与は解除される。
敵の攻撃は防御したはずなのに、激痛に襲われてもがき苦しむ。
そんな、呪いの武器としか思えないものを、即席で量産できる魔法だ。
実に非情で暴力的な魔法だ。
しかし、うまく使えば途轍もなくなく強力な魔法になる……かもしれない。
近くに落ちている木切れを持ち、その先端へ【激痛付与】を付与してみる。
――【激痛付与】
見た目は何も変化していないが、確かな手応えを感じたので、成功したと思う。
木切れを持つ手には痛みが感じられない。
まあ、そうじゃないと使えないよね。
ここから先は痛みが伴いそうだが、何も知らないまま使う訳にもいかないので、覚悟を決める。
木切れの先端を服越しに自分の腕へ軽く当てる。
「がぁぁぁっ・・・、ぐっ・・・、はぁはぁ」
何だ、これ。
はっきり言って痛すぎる。
ナイフで腕を刺されて、そのままグリグリされる様な痛みが10秒ほど襲ってきた。
あまりに痛いので、地面へ倒れてのたうち回ったよ。
確かに、これは凄い効果だ。
ただし、誤って触れると大惨事になるので、使う人を選ぶと思う。
少なくても、確かな武技を持つ人が使わないと、被害の方が大きそうだ。
極めつけに、この激痛付与の魔法は任意解除できないようだ。
枝をここへ放置すると誰かが拾ったときに大惨事だし、持ち歩くにしてもうっかり触ると大惨事だ。
何とか処分する方法を考えてから移動しないと拙いと思う。
◇◇◇
激痛付与された木切れの処分方法をしばらく考えたが、【消滅】で木切れを消滅させる方法が良さそうだ。
【風化】で木切れを朽ち果てさせる方法も考えたが、風化した後の目に見えない木っ端に付与効果が残ると、さらなる大惨事が巻き起こりそうだ。
【消滅】
【消費魔力】 10~
・あらゆる存在を永久的に消滅させる。
・消滅させる対象に制限は無い。
・消滅させる対象の種類により消費魔力が変動し、生命体の場合は消費魔力が特に大きい。
さすが極大暗黒魔法、文句なしに厨二病全開で無慈悲な終末の魔法だ。
膨大な魔力さえあれば、この世界だって消滅できる魔法だね。
この魔法の使い手が、私の他に暗黒神シェリス様だけというのが救いだと思う。
まてよ?
『対象に制限は無い』とあるので、『木切れを消滅させる』ではなく『木切れに付与された【激痛付与】を消滅させる』事もできるのではないか?
『木切れに付与された【激痛付与】』を対象に【消滅】を使おう。
――【消滅】
付与した時と同様、見た目は何も変化していないが、確かな手応えを感じる。
覚悟を決めて、木切れの先端を服越しに自分の腕へ軽く当てる……が何も起こらない。
成功だ。
検証として、【暗闇】魔法で作った日傘を消滅させてみると、消費魔力10で日傘は消滅した。
しかし、付近に居た昆虫を消滅させると、昆虫の消滅に成功したものの、消費魔力は250に跳ね上がった。
消費魔力の基準がはっきりしないが、魔法を打ち消すなら低コストのようだ。
さすが極大暗黒魔法、色々と使い道が多そうだ。
何かに呪われた人が居たら、この魔法で解除してあげようと思う。
さて、暗黒魔法の使い勝手が少し分かったので、そろそろ街へ移動しよう。
◇◇◇
丘の上から街道を見た時は気づかなかったが、実際の街道は曲がったり障害物が多かったりと、かなり見通しが悪い。
ここは異世界。
何が起こるか分からないので、街道を歩くだけでも注意しながら進んで行く。
そうして進んでいるうち、木陰で寝ている野犬が見えてきた。
元の世界でよく見る犬そのものなので、おそらく普通の動物だろう。
できるだけ戦闘は避けてやり過ごそうと思うが、念のためショートソードは装備しておく。
戦闘の経験なんて皆無だが、もし襲われた時の事を考えると何も持たないよりマシだろう。
「グルル……」
野犬へ近づくと、起き上がり威嚇してくる。
別に危害を加える気はなかったけど、ここを通らないと街に着けない。
野犬1匹なら何とかなると思い、仕方なく戦うことにする。
「グルラァァ!」
鬼の形相をした犬が突進してくる。
正直、超怖い。
何とかなると思った自分が恨めしい。
しかし、このままだと拙いので何とか奮起する。
「ふんっ」
手に持っているショートソードを横なぎに払う。
「ガウッ」
しかし、野犬は慣れた動作のバックステップで回避する。
落ち着け。
私は一般人だから、野犬相手とはいえ、そうそう攻撃が通じるはずがない。
野犬相手でも慎重に対処しなければ負ける!
「ふんっ、はっ」
野犬は果敢に噛みついてくるが、ショートソードで何とか牽制しつつ、隙を伺う。
「はあッ!」
少し気合を入れた横なぎを繰り出すと、野犬はバックステップで後退する。
チャンスだ!
――【暗闇】
野犬の頭をすっぽり覆う様に【暗闇】を放つ。
日傘を作った時と同様、【暗闇】は野犬の頭を自動追尾してくれる。
「グギャァァ!」
野犬が混乱して突撃してくる。
しかし、これは読めている!
すかさず、サイドステップでかわし、街道の先へ全力で避難だ!
50mほど離れた所で振り返り、野犬が追って来ない事を確認する。
「――はぁ、はぁ、何とかなったな」
魔獣でもないただの野犬に逃亡とは情けない気もするけど、別に冒険者になりたい訳じゃない。
元の世界だって、狂犬に遭遇したら普通は逃げるだろ?
野犬とは十分距離が取れたので、【暗闇】を解除してみる。
野犬は周囲をキョロキョロしてこちらを見つけたが、襲ってくる気配は無い。
あの木陰に近づかなければ襲われない様だ。
それにしても、【暗闇】はなかなか有能だな。
冒険者が使えば魔獣相手で有利に戦えそうだが、そういった荒事は専門職に任せようと思う。
いくら転生特典を授かったとはいえ、元SEの一般人がいきなり冒険者になれるとは思えない。
何より、平和でのんびりした生活を送りたいしね。
さあ、街まであと少しだ!
◇◇◇
街の入口へ到着したところで、圧倒的な迫力の通行門とそれに連なる立派な城壁が目に入る。
まさに、城砦都市だね。
街へ入るには通行門で検閲を受ける必要があるようで、行列の最後に並ぶ。
前に居る人々の会話が聞こえるが、普通に理解できる。
どう聞いても日本語としか思えないのは、転生時に何か能力を授かっているのだろう。
そうこうしているうちに、私の番が回ってきた。
「旅人か。とりあえず、目的と身分証の提示を」
転生神ネフリィ様の身分証で通過できるか少し心配だが、大丈夫だと思いたい。
全身甲冑の騎士が護衛するほど厳重な警戒しているし、もし「身分証は無くしました」なんて言い訳しようものなら、犯罪者や密偵と判断されて、即取調室へ連行だと思う。
「異世界から職探しの旅に来ました。身分証はこちらです」
元の世界なら、こんなこと話したら頭おかしいと思われるよね。
でも、いずれ分かる事なので、下手に隠すよりも正直に行こう。
「た、隊長! 大変です、今すぐ来てください!」
想像した以上に検閲官が大慌てしながら、奥の方へ走って行った。
◇◇◇
検閲官の慌てぶりを見て、付近で待機していた全身甲冑の騎士達が迅速に行動する。
あっという間に、私は包囲されてしまった。
さらに、通行門の封鎖も始まっている。
少しは疑われると思ったが、まさかこんな大騒動になるとは……
まさか、ここでは異世界人は最悪な敵対者として扱われているとか?
最悪の場合、暗黒魔法を駆使すれば逃げられると思うが、そんな事をすると悪の魔法使いフラグが建築されてしまうので、ここはおとなしくしよう。
……それから数分後。
検閲官は、隊長らしき筋骨隆々な壮年騎士を連れて戻ってきた。
「この水晶玉に、お前の身分証を触れさせてみろ」
隊長らしき壮年騎士が、水晶玉を差し出しつつ命令してくる。
嘘発見器や真贋鑑定道具だろうか?
何が起こるか少し興味があるので、転生神ネフリィ様の身分証を水晶玉へ押し当ててみる。
すると、水晶玉が虹色に光りはじめる。
「虹色はネフリィ様の祝福か。ということは、この身分証は本物でこの者は異世界人だ。お前たち、警戒を解除していいぞ」
隊長の命令により、騎士達は私を開放してくれる。
あの水晶玉は神様の祝福を判別できる道具のようだ。
おかげで、身分証と異世界から来た事を信じてもらえたようだ。
戦闘シーンの描写は難しいですね。
どうやったら、皆さんのような躍動感あふれる描写が書けるのでしょうか。
2016/9/21 タイトルが少しおかしかったのを修正しました。