19.結婚式
本日投稿分の1/4です。
家を購入して10日が経ち、家具の購入と掃除を一通り終えた。
新居の準備が一段落したので、魔導ギルドへ住所転移の報告へ行く事にした。
「カルナさん、引っ越しが終わったので、住所転移の手続きをお願いします」
「あ! セトさん、シェリスさん、こんにちは。ようやく引っ越しが終わったのですね」
受付嬢のカルナさんに声を掛け、住所変更の手続きをしてもらう。
「ところで、セトさんとシェリスさんの結婚式はまだ行わないのですか?」
手続きしている間、カルナさんが話しかけて来る。
「この世界の事に疎いので教えて頂きたいのですが、婚約してすぐ結婚式を挙げるものなのですか?」
「そういえば、セトさんは異世界人でしたね。この世界では、婚約してすぐ結婚する人が多いですね。早い人なんて、婚約して1週間後には結婚式をしますよ」
元の世界でも、婚約してすぐ結婚する人も居るが、それはあくまで市役所での手続きの話だ。
とてもじゃないけど、1週間で結婚式の準備ができるとは思えない。
「あの、結婚式の準備って大変ではありませんか? とても1週間で準備できるとは思えませんが……」
「知人縁者への招待ができるなら、結婚式の準備なんて2~3日で終わりますよ。教会に行って予約を取るだけですからね」
「その、披露宴の準備等はしなくても良いのですか?」
「披露宴はしない人も多いです。披露宴をする場合も、飲食店の貸し切りを予約するだけでしょ?」
どうやら一般人の結婚式では、あまり派手な披露宴はしない様だ。
やるとしても、飲食店を貸し切りにして、歓談する程度らしい。
そうであるなら、急げば1週間で準備できるね。
もちろん、貴族や王族は、派手なパレードや披露宴をするらしいけど、平民には関係ない話だ。
「シェリスは早く結婚式を挙げたいですか?」
「もう、聞かなくても分かっているでしょ。アタシは今すぐでも結婚したいわ!」
「それなら、この後準備しに行きますか」
「やったぁ! セト大好き!」
住所転移の手続きが終わった後、結婚式の準備をする事になった。
◇◇◇
「シェリス、結婚式はどの教会で挙げたいですか?」
「そうね、アタシとセトに縁の深い、ネフリィ様なんてどうかしら」
「それが良いですね。あの慈悲深い転生神ネフリィ様なら、きっと祝福して頂けますね。それでは、ネフリィ様の教会を探しましょう」
そう言って、地図を見ながら付近にネフリィ様の教会がないか探す。
「あ、シェリスの教会を見つけました」
「もう、セトったら余計な物を見つけないでよ。アタシ、最近まで引き籠っていたから、教会が何やっているかも知らないわ」
シェリスは自分の教会を放置しているらしい。
まあ、天罰を司る暗黒神シェリス様と書いてあるので、あまり力を振るわない方が良いのは確かだ。
それよりも、ネフリィ様の教会だ。
家の近辺には、転生神ネフリィ様と慈愛神サラシャ様の教会がある。
「シェリス、家の近くにネフリィ様の教会があるので、ここで式を挙げましょう。ついでに付近のアマツ屋を貸し切って、宴会するのはどうでしょうか」
「あ、それいいわね。アマツ屋の料理は美味しいと評判だから、アタシ、一度行ってみたかったのよね」
「あとは付近の貸衣装屋で採寸してもらいましょう」
まずは転生神ネフリィ様の教会へ行き、日程を確かめる。
最短で1週間後の午前が空いていると言われたため、その時間を予約する。
その際、お布施として金貨5枚を手渡すのも忘れない。
相当高額なのだが、結婚式場として人気らしいので、仕方ない。
まあ、ネフリィ様にはお世話になっているので、そのお礼も込めて寄付しよう。
次に、アマツ屋で貸し切りの予約をする。
もちろん、料理はフルコースでお願いした。
そして最後に、貸衣装屋での採寸だ。
「ねえセト、この色はどうかしら」
シェリスは色々なドレスに目を奪われている。
「シェリス、結婚式なら純白のドレスが一番だと思いますよ」
「え、どうして?」
「純白のドレスは『無垢』を現していて、無垢のままお嫁に行きますよという意味が込められているのです」
「そうだったのね。それなら、この純白のドレスにするわ」
貸衣装屋での採寸も問題なく終えた。
残るは知人縁者への連絡だ。
といっても、この世界に来てまだ日が浅いので、親しい知人はほとんど居ない。
結局、防衛隊のレオナルフさん、その妻のヒスカリアさん、御者のダリウスさん、ギルド長のテリオルさん、ギルド受付のカルナさん、シェリスの友人アクアリーナさんの6名に案内を出すことにした。
結婚の案内を出しに行くと、揃って『知人にぜひ参加したいという人がいるのだけど良い?』と聞かれた。
多くの人に祝福して貰えるのは嬉しい限りなので、そこはOKと答えておく。
◇◇◇
結婚式の当日、会場には50名ほどが集まっている。
おかしい、呼んだのは6名のはずが、50名に膨れ上がっている。
アマツ屋に入りきらなかったらどうしよう。
そんなことを考えているうちに、式は進んで行く。
「新郎セト、あなたはシェリスを妻とし、一生愛する事を転生神ネフリィ様に誓いますか」
「誓います」
「新婦シェリス、あなたはセトを夫とし、一生愛する事を転生神ネフリィ様に誓いますか」
「誓います」
「それでは両名、誓いの口づけを」
そして、シェリスと向き合う。
純白のドレスに身を包んだシェリスは、これまで見た中で一番きれいだ。
「シェリス、きれいですよ。幸せにしますからね」
そう言って、シェリスと口づけを交わす。
「ここに、一組の夫婦が誕生しました。みな、盛大に拍手を」
神父さんの掛け声とともに、教会内で盛大な拍手が鳴る。
シェリスを見ると、今にも泣き出しそうだ。
そんなシェリスの手をしっかり握り、エスコートして教会から出る。
◇◇◇
結婚式が終わった後、大変な目に遭った。
宴会の予定人数が大幅に超えてしまったので、アマツ屋に無理を言って席を空けてもらう事になった。
幸い、他に予約している人が居なかったため、その日は店全体を貸し切りにして、宴会することにした。
もちろん、追加料金は自腹で支払った。
この世界には、ご祝儀と言う風習は無いらしい。
「あなたがオーガキング殺しですね、オーガキングを倒した時の事を、詳しくお話頂けないでしょうか……」
「実は、私は△△商会の支配人をやっておりまして、ぜひとも懇意にして頂きたく……」
「初めまして、私は魔導ギルドに所属している××と言いまして、ぜひLv10の魔法をご披露頂けないかと……」
式に出席した人全員を宴会へ招待したのは良いものの、そのうち半数以上は私達との縁が目当ての様だった。
どうやら、オーガキング殺しを一目見たいという冒険者、【アイテムボックス】持ちと知り合いになりたい商人、Lv10魔法使いと知り合いになりたい魔導ギルド員が詰めかけた様だ。
そういった方々の相手をするのは、本当に大変だった。
どうも、これらの人々は、カルナさん、アクアリーナさん、ダリウスさんの差し金らしい。
あとで聞いてみると、これでも厳選したと言われた。
まあ、知人が増えるのは有難い事だから良しとしよう。
◇◇◇
予想以上に疲労宴だった宴会が終わり、家に帰った頃はもう日が沈んでいた。
今日は疲れたので早めに寝ようかと寝室に入ると、シェリスが待っていた。
「ねえセト、アタシ達はもう夫婦になったのよね?」
「はい、もう夫婦ですね」
「それなら、もう他人行儀な口調は止めて欲しい、かな」
「私はこれが普通の口調です……。でも、シェリスと話す時は、もっと砕けた口調にしましょう。いや、しよう」
「シェリス」
「なぁに、セト」
「愛しているよ、シェリス」
そう言いながら、シェリスへ口づけをし、ベッドへ押し倒す。
「あぅん、むぅぅ……」
それからゆっくりと、時には激しく、シェリスと愛し合った。