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18.あこがれの持ち家 2

 10/16投稿予定だった2/2です。

 申し訳ありません、投稿予約を間違えていました。


「この宿屋も、これでお別れね」

「シェリスはもっと宿に泊まっていたかった?」

「そういう訳ではないわ。最後だと、何となく寂しい気分になるだけよ」


 宿屋で朝食を取っている時、シェリスが哀愁を感じていた。

 まだ家の呪いが解けていないので、昨晩は宿屋で泊まったのだ。


 家の呪いを解くにあたって、今日だけは夜なべする事になりそうだ。

 というのも、家の呪いが復活する瞬間に居合わせなければ、原因が突き止められないからだ。

 家を建て直すという手もあるが、出来るなら今のまま住みたい。

 もちろん、家具を買ったりするのも、呪いを解いた後だ。


 朝食を食べた後、呪われた家に行く。


「シェリス、今晩はこの家で呪いが掛かる瞬間を見ようと思うのですが、一緒に居ますか?」

「うぅ……、呪いとか幽霊とか、そういう怖いのは苦手なの。でも、一緒に居るわ」

「神様でも怖いのは苦手なのですか? ちょっとイメージと違いましたね」

「神といっても、アタシは元人間だから、感性も人間と同じなのよ」


 なるほど、神様にも色々ある様だ。

 それはそれとして、まずは家に掛けられた呪いを解呪しよう。


――【消滅】【消滅】


 これで解呪できたと思うが、念のため、【ステータス】で状態を確認しておこう。


【住居の鑑定結果】

  【名称】 なし

  【等級】 量産品


 ちゃんと解呪できたようだ。

 あとは、呪いが復活する時まで家の中で待とう。


◇◇◇


 夜になり、商店街の喧騒も聞こえなくなった頃、家の中で女の子の泣く声が聞こえてきた。


「しくしく……。せっかくお掃除したのに、荒らされちゃう……。せっかくお掃除したのに、殺されちゃう……」


 これは、呪いの中の1つにあった、女の子の泣く声だ。

 【ステータス】では確認できなかったので、呪いの類ではなく幽霊やお化けだろうか。


「セ、セト! 何か声が聞こえる……」


 シェリスが怖がって左腕にしがみついて来る。

 シェリスの豊満な胸が押し当てられて、左腕が心地よい。


 おっと、それよりも家の状態を確認しないと。


【住居の鑑定結果】

  【名称】 なし

  【等級】 希少品

  【特殊能力】

    ・【不眠】の呪い。

    ・【精神錯乱】の呪い。


 どうやら、女の子の泣く声で呪いが復活する様だ。

 ここでもう一度呪いを解呪してみる。


「しくしく……。せっかくお掃除したのに、荒らされちゃう。せっかくお掃除したのに、殺されちゃう」

「セト、セト! 声が大きくなってきた」


 シェリスが怯えた色を濃くしながら、私の左手をつかむ力を強める。

 家の状態を確認するとまた呪いが復活しているので、再度解除する。


「しくしく……。せっかくお掃除したのに、邪魔されちゃう」


 3回目の声が聞こえた瞬間、少女の幽霊が壁から現れる。

 その幽霊は、包丁を手に持ち、こちらを恨めしそうに睨んでいる。


「ヒッ……!」


 さすがにシェリスは恐怖で限界の様だ。

 しかし、そんなシェリスが隣に居るからか、私は何とか冷静さを保てている。


「しくしく……。泥棒は……死んじゃえ!」


 幽霊はそう言うと、包丁を構えてこちらへ突進してくる。


「シェリス、危ない」


 私はシェリスを抱えて横へ転がり、幽霊の突進から何とか逃れる。


「シェリス、立てますか?」


 シェリスにそう聞くと、シェリスは首を横にフルフルする。

 どうやら、シェリスは緊張の限界を超えてしまった様で、腰が抜けている。

 このままでは拙い。

 動けないシェリスを攻撃されたら終わりだ。

 何とか時間稼ぎが出来ないかと、いくつか魔法を使う。


――【暗闇】


 幽霊が包丁を一振りすると、【暗闇】は霧散してしまった。


――【五感消滅】


 しかし、幽霊は何も気にせずこちらを睨んでいる。

 さすがに幽霊は生物じゃないから効かないか。


――【激痛付与】


 家全体に激痛付与したが、幽霊は痛みを感じない様で、気にせず突進してくる。


「シェリス、体の力を抜いていて!」


 そう叫び、シェリスを抱えてまた床を転がる。

 包丁が私の肩をかすったが、何とか幽霊の突進から逃れられた。


 次の一手として【消滅】の魔法が思い浮かぶが、幽霊を消滅させた場合の消費魔力が分からないので、本当に最終手段だ。

 その他に幽霊に効きそうな魔法は、もう1つしか思い浮かばない。

 今まで使ったことのない魔法だが、上手く効いてくれる事を願う。


――【精神異常】


 すると、幽霊の動きがピタリと止まる。


【精神異常】

  【消費魔力】 50

  ・対象へ特定の精神異常を与える。

  ・対象へ特定の感情や記憶を植え付ける。

  ・対象から特定の感情や記憶を抹消する。

  ・効果時間は永久だが、任意の条件で解除することも可能。


 これは人を精神支配して、自分の意のままに操る事のできる魔法だ。

 本当に、ひとかけらの情も感じられない、卑劣で外道な魔法だ。


 しかし、幽霊には効果があった。

 幽霊から「侵入者を憎む」という感情を抹消したところ、幽霊はその動きを止めたのだ。


「シェリス、もう大丈夫ですよ」


 腕の中で震えているシェリスに、そう声を掛ける。

 シェリスの背中を撫でながら幽霊の方を見ると、幽霊は変貌を遂げていた。


「あの、あなたがこの家の新しいご主人様ですか?」


 そう言ってきたのは、先ほどまで攻撃してきていた少女の幽霊だ。

 しかし、その顔は柔らかな笑顔に変貌している。

 話が通じそうなので、シェリスを落ち着かせつつ話そう。


「ええ、本日からこの家の所有者になりましたセトです」

「私はミルスです。この家で強盗に殺され、その憎しみから幽霊になってしまいました。憎しみから解放して頂き、本当に感謝します」

「ミルスさんには一つ伝えておく事があります。ミルスさんを殺した犯人は捕まり、縛り首の刑に処されました」

「そうですか……。私は行き場のない憎しみを家の所有者にぶつけていたのですね……」


 十分に反省している様だ。

 これはもう成仏しても良いのではなかろうか


「しかし、それも今日までです。もう憎しみにとらわれることはありません。成仏されてはどうでしょうか」

「その、成仏とはどうすれば良いのでしょうか。私としては、この恩に報いるため、この家を守りたいです」


 幽霊は少し困った顔をしつつ、答える。

 普通は恨みを晴らした幽霊は成仏すると思うが、ミルスは少し事情が違うのかもしれない。

 それに、守護霊になりたいと言うのであれば、断る事も無いだろう。


「それでは、今後ともよろしくお願いします。それと、こちらはシェリスで、私と共にここの住人です」

「ア、アタシはシェリスよ。よろしくね」


 シェリスは恐慌から少し回復したのか、なんとか挨拶している。


「セト様、シェリス様、今後ともミルスをよろしくお願いします」


 家の解呪を終えた後、その日はそのまま家の中で寝ることにした。

 緊張の糸が切れたのか、シェリスはその場ですぐ眠ってしまった。


◇◇◇


 翌朝、かすかな喧噪の音に目を覚ます。

 そういえば、昨日は窓を開けたまま寝てしまったのだ。

 シェリスは隣でもぞもぞ動いているので、もう目を覚ましているのだろう。


「シェリス、おはようございます」

「おはよう、セト。なんだか怖い夢を見ていたわ」


 シェリスは幽霊が怖い性格にも関わらず幽霊に襲われたので、夢見が悪かったのかもしれない。


「シェリス様、怖い夢ですか?」

「うん、私たちの買った家に幽霊が住んでいるの。そして、夜になると包丁を持って襲ってくるの」

「そ、それって私の事ですか?!」


 ミルスがそう答えると、シェリスは目を見開き、私にしがみついてくる。


「セ、セト、あの幽霊がまだ居る」

「シェリス落ち着いて下さい。ミルスは幽霊から守護霊に変わったでしょう? ほら、外はもう明るいですよ」

「あ、そ、そうだったわ。ミルス、ごめんね」


 シェリスは何とか落ち着きを取り戻した様だ。

 さて、この家に住み始める前に、シェリスに伝えたい事がある。


「無事に家を買えたことだし、シェリスに一つ言っておきたいことがあります」

「セト、いきなり改まって何なの?」

「シェリス、ただの人間の私ですが、結婚してもらえないでしょうか」

「え、いきなり何……? どうして、こんな嫌われ者の私を……、いいの? 私こんな……、うぅ……」


 シェリスがパニックになりつつあるので、抱きついて背中を撫でる。


「……その、やっぱり人族と神族の結婚はダメですか?」

「ううん、ダメじゃないわ。寿命は違うけど、人族と神族が結婚した例はたくさんあるの。本当に私で……いいの?」

「はい、シェリスだから結婚したいのです。正直に言うと、一目惚れでした」

「もう、ぐすっ……、一生セトを離さないから。もう一生一緒よ!」


 シェリスは泣きそうになりながらも、応えてくれた。

 一目惚れとは、我ながらチョロイ男だとは思うが、それでもずっと一緒に居たいと思っているのは確かだ。


 ホラーシーンという物を書こうと思ったのですが、普通に戦闘シーンになってしまいました。

 やっぱり、文字だけで伝えるというのは難しいですね。

 まあ、そこが楽しい所でもありますが。

 次話は10/23の予定です。

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