13.魔導ギルドでの初仕事 1
1~2話程度にするつもりが、4話になってしまいました。
という事で、1時間毎に計4話投稿します。
魔道ギルドへ加入した翌日、私はとある問題に直面していた。
「シェリス、困った事があります」
「何かあったの?」
「このまま何もしなければ、1週間で生活費が尽きてしまいます」
「え、何でそんなに切羽詰まっているの?」
シェリスが凄く軽い感じで聞き返してくる。
さすが、元引きこもりの暗黒神様、原因の半分が自分にある事を理解できていない様だ。
「元からあまり余裕が無かった上に、扶養者が一人増えたので、財布が厳しいです」
「うっ、それは出て行けって事……?」
シェリスは、捨てられた子犬の様に目を潤ませながら聞いてくる。
さすがに、私はそんなに鬼じゃない。
「さすがに、そんな事は言いませんよ。ただ、仕事を手伝って欲しいかな、と思います」
「あ、そういう事ね。アタシに出来る事なら手伝うわ!」
何とか、仕事を手伝ってもらえる様だ。
まずは、【暗黒魔法】の詳細を報告書にまとめ、魔導ギルドへ提出しようと思う。
私の使える能力を魔導ギルドへ伝えないと、仕事を斡旋してもらう時に職員が困るからね。
その後、シェリスに手伝ってもらい、【暗黒魔法】の報告書を半日で仕上げた。
シェリスは【暗黒魔法】の熟練者だけあって、【ステータス】の表示よりも随分と詳しく使い方を知っていた。
ただ、【暗黒空間】が【アイテムボックス】の代わりになる事には、気づかなかったらしい。
「【暗黒空間】が【アイテムボックス】に間違われた話を聞いて不思議に思っていたけど、そんな使い方は気づかなかったわ……」
どうも、シェリスは【アイテムボックス】が使いたくて【空間魔法】を自力習得したらしく、落ち込んでしまった。
シェリスが落ち込む所なんて見ていられないので、その日の午前はシェリスを慰めるために費やした。
◇◇◇
午後になってシェリスが落ち着いたので、報告書を提出するために魔導ギルドへ行く事にする。
「ようこそセトさん。昨日は慌ただしくて挨拶もできず申し訳ありませんでした。私は受付のカルナと申します」
「いえ、こちらも急ぎの用があり、ご挨拶しないまま出て行った事、申し訳ありませんでした」
昨日は、シェリスと商業ギルド対策の事で、私にも余裕が無かった。
これはお互い様だね。
「あら、急用でしたか。ところで、本日はどの様なご用件でしょうか」
「私の使う【暗黒魔法】について、報告書にまとめましたので提出に来ました」
「それでしたら、まずはギルド長へ報告する様に指示されております。すぐにご案内しますね」
そう言われ、そのままギルド長室へ通される。
ギルド長へ報告している間、シェリスは魔導ギルドへの加入手続きをするらしい。
ギルド長室へ入ると、テリオルギルド長が機嫌良さそうに待っていた。
「セト殿、【暗黒魔法】の報告書についてだが、これまで記録に無いLv10能力ということで、研究部門で扱いたいと思っている。 もちろん、研究部門への貢献として報奨金を出すつもりだが、構わないかな?」
「はい、もちろんです」
報告書の重要性について詳しく聞いた所、前代未聞のLv10能力について書かれているため、どの国も欲しがる重要資料との事だ。
報奨金についても、かなり高額になると予想でき、期待して良いそうだ。
ただ、審査に1週間以上掛かるため、報奨金の支払いまで少し時間が掛かると言われる。
「了解しました。報奨金を頂けるまでの間、何か依頼を受けようかと思いますので、斡旋部門にも情報を開示して頂けると助かります」
「斡旋部門については、この報告書の複写を持たせるので、心配しなくていいぞ」
「なるほど、それならば安心です。報告書の扱いについてはギルド長へお任せしますので、よろしくお願いします」
報告書の扱いが決まったので、お礼を言った後、ギルド長室から退室する。
◇◇◇
ギルド長室を出た後、何か依頼を受けようと思い、受付へ行く。
受付へ近づくと、妙に受付が騒がしいことに気づく。
また誰かが暴れているのかと思っていると、受付嬢のカルナさんが声を掛けて来る。
「あ! セトさん、お待ちしていました」
どうやら、私に何か用があるみたいだ。
「カルナさん、何かありましたか」
「はい。【アイテムボックス】持ちへの緊急依頼が2つ同時に来ているのですが、どちらか一方を受けて頂けないでしょうか」
なるほど、それなら私を探す理由も分かる。
【暗黒空間】が【アイテムボックス】の代わりになる事は、もう伝えてあるからね。
受付が騒がしかったのも、他の【アイテムボックス】持ちギルド員を探しているのが原因の様だ。
「緊急依頼との事ですが、まずは依頼内容を教えて下さい」
カルナさんの説明では、王都からクルテン市への緊急輸送依頼が2件同時に発生したらしい。
クルテン市は、王都から馬車で4日ほど離れた場所にあり、鍛冶の盛んな都市だ。
そのクルテン市と王都を結ぶ街道で、魔物が頻繁に出現するようになり、現在は交易が途絶えた状態との事だ。
生産ギルドと商業ギルドが大被害を受けていて、それぞれのギルドから緊急依頼が来ているそうだ。
昨日、生産ギルドで【空間魔法】について質問されたのも、この緊急事態が関係しているのだろう。
「このような依頼は、頻繁にあるのでしょうか」
「いえ、今回の様に交易が途絶えた場合のみの依頼です。そもそも【アイテムボックス】持ちが少ない上に緊急依頼とあっては、報酬が高額でも引き受けられない事が多いのです」
報酬は金貨20枚で、旅費は依頼主が負担するそうだ。
また、護衛として冒険者が随伴するらしく、道中の安全は確保される様だ。
確かに、依頼の内容からすると、破格の待遇と言って良いと思う。
受付のソファでくつろいでいるシェリスにも、意見を聞いてみよう。
「シェリスはこの依頼をどう思いますか?」
「アタシ? アタシはセトに付いていくわ」
シェリスから、何とも嬉しい言葉が返って来る。
「カルナさん、シェリスが随伴しても良いでしょうか」
「はい、随伴は1名までなら依頼主が旅費を負担するそうです。シェリスさんの会員証は明日の朝までに作れるので、共同で受注という事にしておきましょうか」
「ええ、それでお願いします」
ここは自腹を切らずに済んで、非常に助かった。
もし、シェリスの旅費を出すとなったら、借金する運命だった。
「それでセトさん、生産ギルドと商業ギルドのどちらにしますか?」
「生産ギルドの依頼を受ける事にします」
生産ギルド長には、緊急時に力になると約束したからね。
それに、商業ギルド長とはいささか揉めたので、しばらく商業ギルドの依頼は受けたくない。
「それでは、手続きをしておきますね。今後につきましては、明日の朝に生産ギルドで指示を受けて下さい。それと、シェリスさんの会員証の受け取りも忘れないで下さいね」
「わかりました」
これで、当面の生活資金は安心だ。
後は、しっかりと依頼をこなすだけだ。
◇◇◇
クルテン市への輸送依頼を受け付けた後、旅の準備をしようと思い市場へ出かける。
「シェリス、クルテン市へ行く旅の準備として、昼食の食材を買おうと思います」
「どうしてなの? 旅に必要なものは全部生産ギルドが用意するでしょ?」
私も最初はそう思ったけど、レニス市から王都への馬車旅を思い出し、確認したら想像した通りだった。
「生産ギルドの用意する昼食は、全部携帯保存食なのです。嫌なら持参して良いと言われたので、パンやおかずを【暗黒空間】に入れておいて、昼食にしようかと思いました」
「保存食は食べた事無いけど、セトが嫌がるならよっぽど不味いのでしょうね……」
「不味い訳では無いですが、1食ですぐ飽きると言えば伝わるでしょうか」
「それなら、お弁当を買うのに賛成!」
さすがに弁当は売っていなかったが、パン、スープ、串焼きやフルーツといった、すぐ食べられる食材を中心に買う。
【暗黒空間】に入れておけば、作り立てを味わえるので、今から楽しみだ。
「そういえば、魔物に襲われると野宿になるかもしれないので、シェリスの毛布とかも買っておきましょうか」
「あ、それは不要よ。【マイルーム】の中にベッドがあるの。野宿する時は【マイルーム】に入ってベッドで寝るわ」
シェリスが自慢げに言ってくる。
みんな野宿している間、シェリスだけがベッドで安眠できるとか、うらやましい!
……私も空間魔法を覚えようかと、少し本気で考えてしまう。
この話を聞いて、宿に泊まらず【マイルーム】で過ごせば良いのではと思った。
しかし、シェリスに聞いてみた所、街中には安心して【マイルーム】を使える場所が無いので、それは最後の手段だと言われてしまう。
最後の手段なら仕方ないね。
結局、食材に加えて、野営で使う鍋や食器を購入し、宿屋ハッケイへ帰った。