11.魔導ギルドへの加入
ちょっと長いので3話に分けました。
本日の投稿2/3です。
クランディオギルド長との話は終わったが、あのタイプは諦めが悪く粘着質だ。
ここは、いくつか手を打っておこうと思う。
商業ギルドを出た後、すぐに魔導ギルドへ向かう。
魔導ギルドにも私の事が連絡されていた様で、すぐにギルド長との面会が叶う。
「セト殿、ようこそ。儂は魔導ギルドのギルド長、テリオルだ」
テリオルギルド長は、理知的な顔をした50代の男性だ。
「はじめまして、異世界人のセトです。急な面会にお応え頂き、大変ありがたく思います」
「魔導ギルドの詳細についてはレニスの支部長から話してあると思うが、今日はどの様な用件かな?」
今後の関係を良くするためにも、ここは素直に話そう。
「まずは、所属は魔導ギルドに決めた事をご報告します。また、不躾で申し訳ありませんが、1つお願いを聞いて頂きたく参りました」
「魔導ギルドへの加入は歓迎しよう。お願いとやらについては、内容次第だな」
お願いについては、二つ返事で承諾されるとは思っていない。
なにせ、異世界人とはいえ、所詮は新入りの若造が相手なのだから。
その前に、防諜しておこう。
「その前に、私の魔法の腕をお見せする意味も込めて、防諜してもよろしいでしょうか」
「構わんが、何をするのだ?」
許可を貰えたので、窓と扉を閉め、部屋全体を【暗闇】で覆う。
そのままだと部屋が真っ暗になるので、懐中魔導照明で部屋を照らす。
「この部屋を覆う形で【暗闇】の魔法を使いました。これで部屋内部の様子や話し声は外部に漏れません」
「むう……。確かに外の音は全く聞こえないので、音が漏れることも無いだろう。こんな【暗闇】の使い方は初めて見たな」
テリオルギルド長は少し驚いた様子で答える。
多少なりとも、私に価値を見出してもらえた様で何よりだ。
「お願いの内容についてですが、私の魔導ギルド加入手続きを可能な限り迅速に実施頂けないでしょうか」
「その理由は何だ?」
テリオルギルド長に問われたので、商業ギルドでの脅迫まがいな出来事を答える。
もちろん、【暗黒空間】が【アイテムボックス】によく似た魔法であることも伝える。
「商業ギルド長には早々に諦めてもらうため、いち早く魔導ギルドへの加入を済ませたいのです」
「なるほど、そういう理由なら無下には出来んな。ところで、その【暗黒空間】の魔法を見せてもらっても良いか?」
どうやら、前向きに考えてもらえる様だ。
【暗黒空間】の実演をご所望なので、練習用のショートソードを暗黒空間から出し入れする。
「おお! 本当に【アイテムボックス】そっくりだな。いや、出し入れする時に黒い霧に覆われる所が少し違うか」
そう話すテリオルギルド長は、少し嬉しそうだ。
やっぱり、【アイテムボックス】は便利だよね。
「よし、セト殿の願いを聞き入れよう。なに、入会手続きは儂がやれば10分で終わるので安心するがいい」
「そ、それは恐縮の至りです」
どうやら、魔導ギルドへの加入は何とかなりそうだ。
ギルド加入申請書と市民証をテリオルギルド長に手渡すと、10分もしない内にギルド会員証が出来上がる。
普段は数日分の申請をまとめて処理するが、即座に処理すれば10分程度で終わるらしい。
「本日は、無理なお願いを聞いて頂きありがとうございます」
ギルド会員証を受け取りつつ、お礼を言う。
「いやいや、礼には及ばんよ。あの狸に一泡吹かせられるならお安い御用だ」
どうやら、クランディオギルド長は嫌われ者の様だ。
きっと、他のギルド長に対しても、弱みに付け込む様な駆け引きをしているのだろう。
「それでも、お願いを聞き入れて頂けたこと、感謝します。それと、数日以内に私の使う魔法の詳細を報告書にまとめますので、ご参考に頂ければ幸いです」
「そういえば、セト殿の【暗黒魔法】Lvはいくつなのだ?」
おっと、【暗黒魔法】の習得Lvを伝えていなかったので、ここで伝えようと思う
「私の習得している【暗黒魔法】はLv10です」
――パサッ
テリオルギルド長は、書類を手から落としたことにも気づかないまま、顔を驚愕に染めて固まった。
◇◇◇
テリオルギルド長が再起動するのを待った後、ギルド長室から退室する。
魔導ギルドの出口へ歩いていると、受付が騒々しい事に気づく。
私には関係ないと思うが、気になるので様子を見に行く。
「だから、なんでコレじゃダメなんだって聞いてるんだ!」
「ですから、先ほどもご説明した通り規則で決まっていまして……」
「規則がどうのは関係ねぇ、冒険者ギルドの会員証じゃダメな理由は何かって聞いてんだよ!」
どうやら、冒険者が受付嬢へ理不尽な言いがかりをしている様だ。
「ちょっとあなた、さっきから理不尽なことばかり言って迷惑だわ。受付を待ってる人もいるからもう諦めて帰ってもらえない?」
冒険者の後ろで順番待ちしている小柄な少女が口を挟む。
待ちきれなかったのだろう。
「うるせぇ、女は引っ込んでろ!」
そう言って、冒険者が少女を乱暴に突き飛ばす。
「おっと」
突き飛ばされた少女は態勢を崩して倒れ込みそうなので、受け止めに入る。
「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
そう言って、受け止めた少女の顔を覗き込む。
少女は、深い蒼色の瞳を持ち、整った顔をしている。
淡い青紫のロングヘアをまとめたポニーテールが、とても似合っている。
……おっと、少し見惚れてしまった。
「……あ、はい。もう大丈夫です」
少女は少し間を開けて返事をした後、立ち上がる。
「どうもありがとう。アタシはシェリスよ」
「私は異世界人のセトです。お怪我が無くて安心しました」
ん? シェリス?
名前が気になるので、【ステータス】を確認させてもらおう。
【シェリスのステータス】
【名前】 シェリス
【性別】 女(神族)
【年齢】 382
【職業】 暗黒神
【体力】 1023/1023
【魔力】 2715/2715
【腕力】 102
【俊敏】 118
【知力】 98
【器用】 65
【状態異常】 異常なし
【能力】 【空間魔法】Lv7、【神聖魔法】Lv8、【暗黒魔法】Lv10
【賞罰】 なし
どう見ても暗黒神シェリス様だった。
◇◇◇
何故、暗黒神シェリス様がこんな所に居るのだろう?
暗黒神シェリス様の手を引き、部屋の隅まで連れて行く。
「シェリス様、何故こんな所へ居らっしゃるのですか?」
「え? シェ、シェリス様って何の事?」
他人に聞こえない様に小声で聞くと、暗黒神シェリス様は動揺しながら、隠し通そうとする。
「【ステータス】を見ると、シェリス様の職業が暗黒神になっていますよ」
「あ、そっか。アタシは【ステータス】を使えないから気づかなかったわ」
もう一度【ステータス】を確認すると、職業が魔法使いに変わっている。
種族や年齢も相応に変わっている。
まあ、【ステータス】Lv9を持つ人は居ないと思うけど、これで少しは安心だ。
「アタシの事はシェリスでいいわ。それで、ここに居る理由だけど、セトに会うために来たのよ」
神様を呼び捨てはかなり気が引けるが、お許しがでたので従おう。
それにしても、私に会うため?
「シェリスと私は初対面だと思いますが何故でしょうか」
「え、だってあの時一緒に居たいって言ってくれたじゃない。あれは嘘だったの?」
シェリスは少し泣きそうな顔をしながら、訴えて来る。
あの時?
あっ!
「ま、まさか、転生神ネフリィ様との会話の中で思っていた『うらやましい、一緒に引きこもりたい』の事ですか?」
「それよ! 今まで私と一緒に居たいなんて言われたこと一度もなかったから、嬉しかったのに……。ダメ?」
シェリスは、上目遣いにそう言ってくる。
あんな戯言を聞いて押しかけて来るとは、思わず抱きしめたくなるほど可愛い。
しかし、残念な事に私は宿屋住まいだ。
「ダメではありませんが、私は宿屋住まいなのです」
「それじゃ、アタシもその宿屋に泊まるわ!」
結局、シェリスは付いてくる事になった。
◇◇◇
一度、宿屋ハッケイに戻り、シェリスの宿泊手続きを行う。
空き部屋は個室しかないらしく、1泊夕食付きで銀貨5枚だった。
「ねえ、セト。その、アタシこの世界のお金……持ってないの。払ってもらえると嬉しいわ」
ダメだこの女神様、自活能力が無いぞ!
いや、さすがは引きこもり女神様と言うべきか……。
「わかりました。ただ私も懐事情が厳しいので、無理な買い物はしないで下さいね」
「う……。分かったわ」
これは、本当に早く仕事しないと、財布の中がピンチだ。
◇◇◇
宿屋ハッケイでシェリスの宿泊手続きを終えた後、一度宿屋から出る。
検閲事務所へ行き、ギルド会員証を呈示するためだ。
それと合わせて、クランディオギルド長の対策もしておこう。
移住の受付に着くと、今日もヒスカリアさんが座っている。
「お、セトか。さっそく女連とはやるね。と思ったらシェリスか」
今日のヒスカリアさんは、とても機嫌が良さそうだ。
昨日は久しぶりに旦那さんに会えたからね。
「お知り合いでしたか」
「知り合いというか、ついさっきアタイが移住の手続きをしたばかりだ」
「そういう事でしたか」
シェリスの方を見ると、うなずいてくる。
「それでセトは何か困った事でも起きたのか?」
「ええ、1つ困っている事がありまして。その前に、魔導ギルドへ加入しましたので、確認をお願いします」
「あいよ」
ギルドの会員証を呈示すると、ヒスカリアさんは素早く書類を書き上げる。
やっぱり、この人は仕事が速いな。
ヒスカリアさんが書類を書き終えたタイミングで、商業ギルドで起きた脅迫事件を話す。
「――といった事があり、とても迷惑しています。ただ、他のギルド長やレオナルフさんにはとても親切にして頂いていますので、何とかしてこの国で生きて行こうと思います」
旦那さんを持ち上げつつ、国外逃亡の可能性をほのめかす。
「あのクソ狸が、異世界人にまで手を出す気かよ。セト、その件は今すぐ王家へ報告するから安心しろ」
「はい、ありがとうございます」
思った以上にヒスカリアさんが怒っている。
クランディオギルド長は、ここでも嫌われ者の様だ。
王家に報告が行くとなれば、クランディオギルド長は私の相手をする暇も無くなるだろう。
これで、しばらく安心して暮らせそうだ。
ヒスカリアさんが忙しく動き始めたので、丁寧にお礼を言って去ることにする。
帰り道の途中、報告書を書くための道具が無い事に気づいたので、文房具屋へ寄って紙とペンを購入する。
文房具屋で買い物をしている間、シェリスが外で何かしていたみたいだが、何だろう?
「シェリス、私が買い物している間に何かありましたか?」
「あ、うん。ちょっとした嫌がらせ……かな? まあ、セトは気にしなくて良いよ」
そんな話をしながら、宿屋ハッケイへ帰る。
シェリスが気にしなくても良いと言うなら、大丈夫だろう。
いまのこの世界に、シェリスをどうにかできる人なんて居ないだろうし。
それ以降は、特に何も起こらず、安らかに就寝できた。