9.侵入者対策はバッチリです
本当に開いちまったよ。
まあわざわざガイドが俺に嘘をつくとは思えなかったけどさ。
それより気になるのは、ここって抜け道なのに、そこを通る為に大きな音を出してしまってもいいのか?
めっちゃ響くと思うんだが。
『あっ、その事については大丈夫ですよ。この周辺には実は防音結界が張られているので、聞こえる範囲はさほど広くありません』
『そうなのか。さすがは俺のガイドさん! そんな対策を施した抜け道を用意してしまうなんてさ!』
『フフ、それほどでもないですよー! ……って、わ、私が作ったんじゃないですから! ほ、本当デスヨ!?』
ふっ、このガイドチョロいな。
この反応からして、ガイドが昔抜け道を作ったことは間違いなさそうだ。
面白そうだからもう少し聞いてみるか。
『違うと言うならお前は抜け道を作った奴とどういう関係なんだよ? まさか全くの無関係という訳ではないだろ?』
『そ、そうですね。実は私、その方の友人だったんです』
『へぇ……』
『な、何ですかその声は!? ほ、本当に、本当なんですからね!?』
ガイドが焦るなんて珍しいから何か面白いな。
まあ、あんまりいじりすぎるのも可哀想だし、ひとまずはこれ位にしてやるか。
俺は抜け道を進んでいく。
道はなだらかな下り坂になっている。
多分地下通路みたいなものなんだろうな、ここって。
中は洞窟状になっていて暗いのだが、所々にホタルみたいな明かりがあるので何となく道は分かる。
道に沿って等間隔に色とりどりの明かりが置かれているので、神秘的にも見えるな。
『なかなかセンスの良い通路だな。さすがはガイドさん!』
『えへへーそれほどでもないですよー! ……って、作ったのは私じゃないですからね!?』
『はいはい、分かっているよ。友人が作ったんだろ?』
『そ、そうですよ! 私の自慢の友人でした!』
また引っかかったよ、このガイド。
こんな簡単に騙せる奴にガイドを任せて大丈夫なのか?
ちょっと不安になってくるな。
もっとしっかりしてほしいものだ。
通路をしばらく歩いていくと、ちょっとした部屋みたいな空間たどり着いた。
本棚、机や椅子など色々な家具が置かれている。
机には紙が散乱しており、床にまで紙がぶちまけられている。
この様子を見るに、ガイドさんって片付けられない人だったんだろうな。
『わ、悪かったですね! 私だって片付けようと思えば片付けられますよ! ただ面倒なだけで……』
『そんな事は分かってるよ。俺だってそうだしさ。それより、この紙には何が書いてあるんだ?』
俺は近くに落ちていた紙を拾い上げる。
そこには炎のマークや図形などが描かれていて、暗号みたいな文字も書かれている。
【言語理解】のスキルは取得しているはずなのだが、この紙の内容は読めない。
どうしてなんだろう?
『読めないのも無理ないですね。なぜならここに書いてあるのは私が作った暗号文字ですから!』
『おっ、これはガイドさんが作ったのか? 友人ではなくて?』
『……うっ、そ、そうです。私が作りました』
何かガイドさんが誤魔化すのを諦めかけている気がするのは気のせいか?
まあ別にどうでもいいんだけど。
それより暗号文字でわざわざ書くなんて変わっているな。
そんなに読まれたくないことが書いてあるんだろうか?
『読まれたくないことが書いてあるというのは否定しません。魔法に関する機密事項を書いていたりしますので』
魔法に関する機密事項?
この床に散乱している紙に書いてある内容が?
そんなんじゃ機密事項なんてすぐに漏れてしまいそうな気がするんだけど。
『わ、悪かったですね、管理がガサツで! でもここは今まで誰にも入られたことがないですから、これでも大丈夫なのですよ!』
『誰にも入られてない? どうしてそんな事が分かるんだ?』
『実は私が作ったとっておきの場所には欠かさず探知魔法をかけています。ですから誰かが侵入したらすぐに分かるのです!』
探知魔法、そんなものがかけてあるのか。
だとしたら俺がここに入ったことで、ガイドさんに何か知らせがいったんだろうか?
『もちろんきていますよ。ですけど侵入しているのは私自身みたいなものですから、気にしません』
『まあ、そうなるよな』
『それに万が一侵入者に気付いた所で今の私には自分の肉体がありません。気付いても侵入者を追い払うことはできませんよ』
気付いても追い払えない、か。
侵入者を追い払う体がなければそりゃそうなるよな。
自分の秘密基地的な所を見知らぬ誰かに荒らされるのを見て見ぬふりをすることになるのか、ガイドさんは。
それって辛いだろうな……
『優しいんですね、ソールさんは』
『いや、誰が聞いても辛いことは分かるだろ。もしそうなったら俺が代わりに追い払う手伝いをしてやってもいいぞ?』
『まあ、ありがとうございます! でも心配は恐らく無用でしょう。もし侵入されても金目の物はないですし、私の抜け道に侵入するメリットはないはずです。中に置いてきた紙の内容もそう簡単には解読できないでしょうからね!』
心配はない、か。
そこまで言い切る位だからよほど綿密な侵入対策をしているんだろうな。
俺にはさっぱり分からない方法でさ。
ガイド本人が大丈夫って言っているんだから、俺がこれ以上心配するだけ無駄だろう。
それにしても生活感のある部屋だな。
まるでつい先ほどまで誰かが住んでいたみたいだ。
机の上の紙にホコリがそれほどかぶっている訳ではなさそうだしさ。
ガイドによればここには誰も侵入者が来ていないということだった。
それはつまり、ガイドさんがつい先ほどまでこの部屋で暮らしていたという事か!?
『つい先ほどというのは言い過ぎですけど、でも恐らく一ヶ月前には私はここに住んでいましたねー』
『一ヶ月前に住んでいた? ガイドさんが?』
『ええ、そうですよ。あの時の私はまさか今こうやって殿方と一心同体になって行動しているなんて想像もしていなかったでしょうねー!』
一心同体……?
いや、同体かもしれないけど一心ではないだろ。
明らかに俺とガイドさんは違うし。
『もー、照れなくてもいいんですよ、ソールさん? ……っていうのは冗談として、確かに今はそうですよね。いつか本当に一心同体に行動できるほど仲良くなれるように私、頑張りますね!』
いつかは一心同体か。
まあ長い付き合いになりそうだし、いつかはそうなるかもしれないな。
当分先の事にはなりそうだけど。