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7.収納魔法は便利なんです

「そ、ソールさん、どうしたんですか、これ? 何が起こったんですか!?」



 それは俺も聞きたい位だよ。

 でもメフィナに俺がやったんじゃないとか言っても理解してくれないだろうな。

 メフィナから見たら俺がやったことに間違いない訳だし。


 おい、ガイド。

 お前がやったことなんだからお前が責任持って説明しろよ!



『………………』



 だんまりかよ。

 先ほどまであれだけやかましかったというのにさ。

 ったく、しょうがねえなあ。

 適当にそれらしく言うしかないか。



「実は元々俺、剣の修行をしていたことがあってな。それでこういう早業みたいなことが出来るようになったんだ」

「そうなんですか、すごいですね。一体どれ位修行されていたんですか?」

「えっと、あまり正確には覚えていないけど三年は経っていたかな」

「三年ですか。私よりもお若いそうのに素晴らしいです」



 そ、そんな尊敬するような目で見られても困るんですけど。

 俺、実際には修行なんてしていないんだからさ。

 全く辛い思いなんてしていないんだからさ。

 だから、そんな目で見るのは止めて、な?


 そんな思いも伝わる訳ないか。

 ……話題をそらすしかないな。



「とりあえずせっかく綺麗に切り分けてあるんだし、イノシシの肉を食べないか? お腹空いているんだろ?」

「あっ、お気遣いありがとうございます。では、お言葉に甘えていただきます」



 メフィナはイノシシの肉の一切れをぱくりと食べる。



「お、美味しい。絶妙な焼き加減です」

「そうなのか。どれどれ、俺も一口」



 俺も肉を一切れ食べてみた。

 うん、確かに見事な焼き加減だ。


 メフィナはイノシシの肉をよほど気に入ったらしく、夢中で肉を頬張る。

 相当お腹が空いていたんだろうな、この食べっぷりは。

 肉を食べては手持ちの水筒で水を飲み、また肉へと食らいつく。


 ……これ、わざわざ肉を解体しなくても良かったんじゃないか?

 肉を切り分けなくてもそのままかぶりつきそうな勢いだぞ。

 まあとにかく、気に入ってくれたようで何よりだ。



 しばらくメフィナがイノシシをだいぶ食べ終えた所で俺に話しかけてきた。



「ソールさん、お願いがあるのですが、いいですか?」

「えっ、いきなりなんだ?」

「勝手なお願いで申し訳ないのですが、どうか私を町まで送って頂けないでしょうか? 私、また魔物に襲われても逃げ切れる自信がなくて……それに先程の魔法でMPが切れてしまったんです」

「それは大変だな」

「お礼は出来る限り何でもしますから、どうかお願いできないでしょうか」



 メフィナは真剣な表情で俺を見つめてくる。

 口にイノシシの肉切れがくっついているけど……。


 なんかほっとけないんだよな、メフィナって。

 真面目でいい子なんだけど、どこか抜けているというか。

 それにこんな真剣に頼まれたら、断れるものも断れないだろ。

 となると、もちろん答えは決まっている。




「ああ、構わないぞ。せっかくの縁だしな」

「ありがとうございます。えっと、お礼は何がいいでしょうか? 私、あまりお金は持っていないんですけど……」

「別にお礼なんていらないよ。町まで案内してくれればそれで十分だからさ」

「ええっ!? でもそれじゃソールさんに申し訳ないです。何かはお礼させて下さい」

「そう言われてもなぁ……」



 何かメフィナにしてほしいこと。

 うーん、なんだろう?

 本当に町まで案内してくれれば十分なんだけどな。


 あっ、良い事思いついたぞ!

 せっかく見知らぬ土地へ来たんだ。

 なら俺が知らない美味い食べ物とかあるんじゃないか!?



「メフィナ。俺、この辺りに来るのは初めてでよく分からないんだ。だからさ、町についたらメフィナお勧めの食べ物を食わせてくれないか?」

「えっ、そんな事でいいんですか?」

「別にそんな事じゃないだろ。それとも何か不満か?」

「い、いえ、ソールさんが良ければいいんです。ではとっておきの食べ物を町に着いたらご用意しますね」



 メフィナもこの条件で納得したようだ。

 メフィナって義理堅い性格なのな。

 そんなに気にしなくてもいいのに。



「そういえばソールさんはどこにお住まいなのですか? 変わった服装をしていらっしゃいますけれど」



 あっ、そういえば俺、日本に住んでいた時の普段着を着ているんだった。

 そりゃ異世界の人から見たら変な服装に見えてしまうよな。

 果たしてどう説明したものか。



『ソールさん、住まいは辺境の町グスタン、服装はファッションの街ピーラカンダで買ったことにしておきましょう。そうすると大体この世界の人に自然と受け入れられます』



 へぇ……

 そういう町があるのか。

 こういったうまい言い訳を考えてくれるのはさすがは俺のガイドさんだな。

 さっきの解体のときの言い訳を考えてくれなかったのは気に入らないけどさ。



『その時はついつい調子のってしまった後だったので、言い訳を考える余裕がなかったんですよー。でもソールさんの言い訳、素晴らしかったです! 助かりました!』



 わざと言わなかったくせに。

 まあ、もう終わった事は気にしても仕方ないな。



 俺はガイドにアドバイスされた通りの説明をメフィナにすることにした。



『ソールさん、グスタンに住んでいるんですか! グスタンにはソールさんみたいな凄腕剣士がたくさんいるのですか?』

『いや、俺、凄腕剣士なんかじゃないから。それにグスタンは普通の町だぞ。ちょっと俺が変わっていただけだ』

『そうなんですか。グスタン出身の方にお会いするのは初めてだったのでつい余計な事を聞いてしまってすいません』

『いや、誰だって気になることだろうし、気にしなくていいさ』



 メフィナは納得した様子だった。

 やはりガイドの説明であればこの世界の人を納得させることができるらしい。


 こんなに素直なメフィナをだますのは辛いな。

 でも本当の事を言っても余計に混乱させるだけだからなぁ……

 当たり障りなく接するのがベストだっていうのは分かっているんだけど。



『関係が深くて信頼できる人に対しては正直に話してもいいですけれど、無暗に本当の事は話さない方がいいですよ。変な噂が独り歩きしかねないですから』



 うん、そうだよな。

 これでいいんだよな。

 ありがとう、ガイドさん。



 何はともあれ、当面の目標が定まった俺は、メフィナと共に町を目指すことにした。

 あっ、ちなみに食べきれなかったイノシシはもちろん収納させて頂きました。



 そういえば俺が収納している様子を見たメフィナはとても驚いていたな。

 後からガイドに聞いた話によれば、どうやら収納魔法を取得するのは商人位だとのこと。

 メフィナ含め、大抵の人は異空間収納袋みたいなものを持っており、そこに物を詰め込むのだという。

 だからわざわざ収納魔法を取得する必要はないらしい。


 ガイドさん、これってどういう事だよ。

 そんな便利な物があるなら収納魔法なんていらなかったんじゃないか?



『収納袋の存在はもちろん分かっています。ですが、それでもなお。収納魔法を取得する意味は大きいのです』

『そうなのか? 例えばどういう理由があるんだ?』

『理由は主に三つあります。まず一つが、収納魔法自体あまり大したスキルだと思われないこと。これって結構大きいです。人前で使っても何の問題にもならない訳ですからね』



 確かに人前で使えるのは大きいよな。

 荷物にならずに収納できる魔法なんてチートだと思っていたが、元々それに近い道具があるから大した能力だと思われないのか。

 この世界の住人って恵まれているんだなあ。



『二つ目としては、収納魔法の異空間では時間が経過しないことです。それによって新鮮な食事を収納しておいて、いつでも新鮮なうちに食べることが出来ます。収納袋では普通に時間が経過するので、こんなことはできません』



 確かに。

 食べ物をストックしておいて、いつでも新鮮に食べることができるなんて凄すぎるよな。



『そして最後の三つ目。それは収納できる量が桁違いに多いことです』

『ほう。どれ位の差があるんだ?』

『そうですね。収納袋は最上級の者でも先程のイノシシ十頭入れるのが限界でしょう。一方で収納魔法であれば、lv1でもイノシシ十頭程は入ります。ましてやソールさんのスキルレベルは最大の5。イノシシ数十万頭入れても余裕でしょう』



 イノシシ数十万頭が余裕で入るってどんだけ広いんだよ、その空間。

 つまりは何かを片っ端から入れても収納しきれなくなる方が珍しいってことか。

 とんでもない能力じゃねえか。



『そうなんです。ですから収納袋という物があっても、わざわざソールさんに収納魔法を取得して頂いたのです。ご理解頂けましたか?』

『ああ、よく分かったよ、ありがとう』

『いえいえ、ご理解頂ければそれで良いのです。では早く先に進みましょう! 町に行ったら素材を換金して色々な事が出来るようになりますから!』



 そうだよな。

 今採取している物を売れば金になるんだもんな。


 異世界の町。

 どんな人が住んでいるのか、どんな道具が売っているのか楽しみだ。

 

 こうして俺は期待に胸を膨らませつつ、メフィナと共に町に向かうことにした。

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