3.スキルを取得しましょう
そういえば、宝石は俺の思考を読んでくるんだよな。
ならわざわざ声に出して話す必要もないか。
『そうですよ! 念話みたいなことが私とあなた様の間ではできちゃうのです!』
『あんまり嬉しくはないな』
『何ていうことを仰るのですか!? そのおかげであなた様だけに秘密のガイドをすることができるというのにひどいですよー』
秘密のガイドねぇ。
なら早速、これから俺がどう行動したらいいのかガイドしてもらおうじゃねーか。
『ならガイドさん、俺はこれからどうすればいいんですか? とりあえず腹が減りました!』
『はい! それならばモンスターを倒して食べましょう! ただ、この辺りのモンスターは強すぎます。転移して弱いモンスターのいる所に行きましょう』
モンスターを食べるだと!?
何かグロそうで嫌なんだが……
『最初は仕方ないんです。私達、まだお金を持っていないですし、自給自足をするしかないんです』
『まあ、そりゃそうだけど』
『そう遠くないうちにお金の工面の方法もお教えしますから、どうかそれまではご辛抱頂けませんか?』
……まあ、仕方ない。
お金がないのは事実だしな。
ただの宝石にそんな期待し過ぎるのも酷だろう。
『ただの宝石と呼ばれるのは何か物みたいで嫌ですねー』
『嫌って言っても宝石は宝石だろ? それにお前には名前がないらしいし、他に呼びようがないじゃないか!?』
『あっ、そういえばそうですよね。でも、さっきあなた様がおっしゃったガイドさんという呼び方でいいんじゃないでしょうか? 私、その呼び方気に入りました!』
……ちょっと皮肉まじりで言った言葉なんだけどな。
まあ、喜んでもらえているのならいいか。
『分かった。これからお前のことはガイドさんと呼ぶことにする』
『ありがとうございます。では今度は私もあなた様のことの呼び方をお伺いしてもよろしいでしょうか? せっかくなので親しみを持ってお名前でお呼びしたいのですが』
俺の名前か?
俺の名前は……
うーん。
あれっ、何だっけ?
思い出せない。
『ああ、そういえばあなた様の名前はなくなってしまったのでした! 気付かなくてごめんなさい!』
名前がなくなった?
もしかして俺に代わって元の世界に行った奴に名前を取られたということか?
うーん、何かそういうのって嫌だな。
まあ、思い出せないものは仕方ないんだけどさ。
どうせ思い出した所で元の世界で暮らすことが出来ない訳だし。
『お詫びに私が名前をつけて差し上げましょうか?』
『ネーミングセンス、あるんだろうな?』
『もちろんです! では今度からあなたの名前は……ソールでどうでしょう?』
ソール……なんか外人っぽい名前な気もするが、悪くはないか。
『ああ、それでいいぞ』
『ありがとうございます! ではソールさん、未熟者な私ではありますが、今後ともよろしくお願い致します!』
なんかしれっと様付けからさん付けに変わっているんだが。
まあ、別にいいけどさ。
『それはそうと、これからどうすればいいんだ? 転移が何だとか言っていたが』
『はい、それはですね。今度は【転移】のスキルを獲得してほしいのです! その他にも色々と取得してほしいスキルがあるのですが、よろしいですか?』
『ああ、構わない』
この世界のスキルのことはこの世界の住人であるガイドに任せた方が良いだろう。
そもそも俺一人じゃ、どういうスキルがあるかさえ分からないしな。
こうして俺は次々とガイドが言う通りにスキルを獲得していくことになった。
最終的に取得したスキルの詳細は以下の通りだ。
取得スキル
観察lv5、偽装lv5、剣技lv1、炎魔法lv5、収納魔法lv5、空間魔法lv5、結界魔法lv5、MP自動回復lv5、吸収、言語理解、魔法の神髄、状態異常無効、即死無効
1000あったスキルポイントはこれで全て使い切った。
ちなみにスキルレベルの最大は5らしい。
スキルポイントを使い果たしただけあって、便利そうなスキルが色々と手に入ったな。
スキルによって使用スキルポイントが違うのは、やはり性能の差なんだろうか?
でもそれにしては炎魔法lv5に5ポイントしか使わなかったのに、剣技lv1には10ポイントも使ったんだよな。
普通レベル低い方がポイントとか使わないと思うんだけど。
『性能もありますが、一番影響するのは才能ですねー。才能があるスキルは少ないポイントでスキルを取得できますが、もちろん逆もあります』
『そうなのか。そういえばちょっと気づいたんだが、俺の魔法に使うスキルポイントが少なすぎる気がするんだが、それも才能なのか?』
『はい、その通りですよ! ソールさんは私を取り込みました。その影響でソールさんの何かが大きく変わったのです! 詳細はご自身で確かめてみて下さい!』
何かが大きく変わった?
別に何も変わったようには感じなかったんだけどな。
まあ頭の中に直接ガイドの声が聞こえるようにはなったけどさ。
とにかく、自分のステータスを見てみるか。
_______
ソール【ヒューマン】 lv1
HP 10/10
MP 3/ 3
攻撃力 3
防御力 2
魔法攻撃力 9999
魔法防御力 2
素早さ 2
スキル
観察lv5、偽装lv5、剣技lv1、炎魔法lv5、収納魔法lv5、空間魔法lv5、結界魔法lv5、MP自動回復lv5
特殊スキル
吸収、言語理解、魔法の神髄、状態異常無効、即死無効
スキルポイント 0
_______
はい?
なんか魔法攻撃力がおかしなことになっているんだが……
さっきまで魔法攻撃力は1だったよな。
なんで9999になっているんだ?
表示が壊れたか?
『いえ、ソールさんのステータスの表記はそれで正常ですよ』
『正常……ということは、本当に俺の魔法攻撃力は9999なのか?』
『はい、その通りです! 私の宝石って魔力の塊でしたから、それを吸収したソールさんの魔力は限界値に達し、そして魔法の才能も大きく開花したのです!』
へ、へぇ……
そうなんですか。
とても恐ろしいことがあの一瞬の間に起きたんですね。
何かとても信じられないわ……
『ちなみに私、ガイドするだけじゃなくて、一部の能力をソールさんの代わりに使用することもできるのですよ!』
『ほう。例えばどういうものを使えるんだ?』
『例えば【偽装】ですね。他の人からステータスを見られても目立たないように私が設定しておきます。もちろんソールさんがご自身の情報を確認されるときには影響を受けませんからご安心を!』
そうなのか。
それは結構助かるかもな。
ステータスを偽装する能力があっても、どう偽装すれば不自然じゃないのかとかは俺じゃよく分からないからな。
そこはこの世界で生きてきたであろうガイドに任せた方が良さそうだ。
『後は【空間魔法】を使って転移させてあげることもできますよ!』
『そ、そうなのか? ということは魔法全般任せてしまっていいということか?』
『残念ながら私が使ってあげられるのはそれだけです。他の魔法はご自身でお願いします……』
あ、そうですか……
魔法を全部代わりに使ってくれたら何もしなくてよくて楽だったのにな。
そんなに甘くはなかったか。
『でも威力の調整はこちらでしておきますので、魔法の暴発の心配はしなくてもいいですよー』
『威力の調整?』
『はい! もしそれをしないとソールさんの魔力があまりに強大すぎて軽く町一つ滅んじゃいますからね……』
『町が滅ぶ……?』
『そうなのです。ですからそこは私が責任を持ってしっかりと適切な威力にさせていただくということです!』
あっ、うん。
そうしてくれると助かるわ。
俺、罪人になんてなりたくないしさ。
魔法の威力調節なんてどうやるのかさっぱり分からないし。
それどころか魔法の使い方自体分からないんだけど。
『魔法の使い方は実戦でお教えしますからご心配なく!』
『実戦で? それで大丈夫なのか?』
『はい! 弱い魔物がいる所に転移させていただきますのでそこまで怯える必要はないですよ! では早速転移してもよろしいですか?』
は、早えーよ!?
まだ心の準備ってもんが……
『3、2、1……はい、三秒経ちました! もう大丈夫ですよね?』
『……容赦ねえな、お前。まあ、もう大丈夫だ。腹も減ったことだし、早く何か食べたいしな』
『分かりました。では早速転移しますよ……じっとしていて下さいね』
俺はその場でじっと待っていることにした。
すると体がフワッと浮き上がったと思ったら、次の瞬間には全然違う景色が目の前に広がっていた!
……転移なんて本当にできるんだな。
全く違う場所に来ちまったよ。