2.ステータスを管理しましょう
「元の世界に戻れないのはこの際どうでもいい。それよりこの世界でどうやって生きればいいのかが問題だ」
「そうですよね。まず食料を確保しないといけなさそうです」
「ああ。でもどうやって食料を確保すればいいんだ……? お金なんて持ってきていないし」
今の俺は無一文なんだよな。
格好も普段着姿のままだし。
何の道具も持っていないに等しい。
そんな状態で何ができるというんだろうか。
正直詰んでるだろ、この状況。
「大丈夫ですよ。私が何とかできるよう精一杯サポートをして差し上げますから。この世界のスペシャリストである私がね!」
どこがスペシャリストなんだか。
こんな薄暗い洞窟でただ寂しく光っているこの宝石のさ。
「さ、寂しいことと今の私が宝石なのは事実ですけど、知識に自信があるのは紛れもない事実ですから!」
「本当か?」
「ほ、本当ですとも! これからそれを証明してみせますから! あなた様に充実した異世界ライフを提供することでね!」
俺に充実した異世界ライフを提供だと?
一体どうやって?
「この世界でどういう事をすればいいのか、何から何まで私が案内します。あなた様はその通りに行動していただくだけでも大丈夫です」
「それって……お前の言う通りに行動しろってことだよな? ただの操り人形になれってか?」
「そんなことはありません。あくまで私はガイド。あなた様がやりたいことをサポートするだけです。ですから私がいう事は命令ではなくただの助言です。気に食わないのなら逆らっていただいても構いませんよ」
ふーん。
それなら結構良さそうだな。
生き方を縛られる訳ではなく、あくまでヒントをくれるということか。
「ただ、その為に一つお願いしたいことがあります」
「ん? 何だ?」
「私を【吸収】してくれませんか?」
吸収しろだと?
訳が分からない。
食べ物や飲み物ならまだ分かるが、宝石を吸収……?
「あ、そういえばあなた様は異世界からいらっしゃったのでしたね。知らないのも無理はありませんか」
「話がよく分からないんだが」
「すいません。私がお願いしたのは、あなた様に【吸収】のスキルを取得してもらって、それを使って私を取り込んでほしいということです」
スキル……?
ゲームで聞いたことはあるけど、そういう類の能力なのか?
やっぱりよく分からないな。
「住んでいた世界が違いますから、よくお分かりになりませんか。いいでしょう。ではまず、ステータスと頭の中で念じてみて下さい。そうすれば何となく分かると思います」
ステータス……?
ますますゲームに出てきそうな言葉が出てくるな。
悩んでばかりいても混乱するばかりだし、ここは言う通りにしてみるか。
では念じてみよう。
ムムム……
_______
ヒューマン lv1
HP 10/10
MP 3/ 3
攻撃力 3
防御力 2
魔法攻撃力 1
魔法防御力 2
素早さ 2
スキル なし
スキルポイント 1000
_______
あ、本当にステータスが見えた。
というか、俺、弱っ!?
何となく分かっていたけどさ。
戦ったこともないし、運動部でもなかったから体力もないからな。
でもこうやって弱さが数値化されると悲しくなってくるよな……
こんな貧弱な俺がこの世界で果たしてやっていけるんだろうか?
何かとても生きていける気がしないんだが。
ゲームみたいに魔物とかに遭遇した瞬間、俺、詰むからな。
武器とかもないから戦いようもないしさ。
「色々と心配になるのも分かります。でも私がついていれば大丈夫ですから、ご安心下さい!]
なんでそんなに自信満々にそう言えるのか理解できない。
俺が自分の貧弱なステータスを見てからだから尚更だ。
「本当に大丈夫なのか?」
「ええ、もちろんです。ですが、私が精一杯サポートするためにはあなた様と一緒にいないといけません。ですからあなた様を宿主にさせてください!」
「宿主ってどういう事だ?」
「今の私はこの宝石に宿っています。ですが私は元々は生物でして、その精神体にあたります。ですから宝石自体を吸収していただければ、私はあなた様を宿主にして生きていくことができるのです」
おいおい、それって俺に寄生するってことか!?
乗っ取られたりしないだろうな?
「そのような心配は不要です。あなた様が望むなら、後々私をあなた様から分離して、具現化させる方法もお教えしますから」
「そんな事ができるのか?」
「ええ。もしあなた様が本当の私に会いたいというならば、会えるようにご案内だってして差し上げます! まあ当分先の事になるとは思いますが……」
宝石の本当の姿か……。
あんまり興味ないな。
まあ、でもこの言い方からすると俺に寄生して乗っ取ろうとかそういう変な考えはなさそうだ。
別に俺一人じゃどうすればいいのか分からないし、宝石に頼ってみるのもアリかもしれないな。
「分かった。とりあえず一回宝石を吸収すればいいんだな? そのやり方を教えてくれ」
「ありがとうございます。では、まず【吸収】取得と頭の中で念じて下さい。するとスキル取得の選択ができますから」
念じるだけでいいのか?
とりあえずやってみるか。
ふんっ!
{スキル【吸収】を取得しますか?}
{スキルポイント100を消費します。}
あっ、天の声が聞こえてきた。
どうやら本当にただ念じるだけで良かったらしい。
「声が聞こえましたか? そうしたら取得したいという意思を念じて伝えて下さい」
取得したいと念じるだけでいいんだな。
ふんっ!
{スキル【吸収】を取得しました。}
本当に取得できたみたいだ。
結構簡単なんだな。
「スキルを取得できたみたいですね。では今度は私に手を当てて吸収するイメージをして下さい」
吸収するイメージ?
よく分からないが、とりあえずやってみるか。
俺は宝石に手を当てる。
宝石はひんやりと冷えきっていて、冷たい。
こんなにおしゃべりする宝石でも、やはり物は物なんだなと実感するわ。
ちなみに宝石は取り外せるのかと思ったが、全く微動だにしなかった。
「私はこの場所に封印されているので、この場から身動きがとれないですし、取り外すこともできないようになっているのです」
「持ち運ぶことができないという訳か」
「その通りです! ですからわざわざあなた様に吸収してもらうように頼んでいるのです。お手数かけてすいません」
「いや、別にそんな謝らなくてもいいよ。とにかく、吸収すればいいんだな?」
「はい、お願いします」
俺は改めて宝石に手を当てる。
そして吸収するイメージを何となくしてみると……
ズブッ!
ズブッ……?
その音に違和感を覚えた俺は手を見てみる。
するとそこには、俺の手に宝石がめりこんでいく様子が見えた……。
吸収って本当に体の中に吸収されるのか!?
グロすぎるだろ。
見ないようにしよう……。
しばらく目を背けてから手を再び見ると、宝石はもう見当たらなかった。
吸収が終わったということなんだろうか?
『ピンポーン! その通りです! おめでとうございますー!』
頭の中にギンギンと伝わってくる宝石の声。
あまりにうるさくて頭が痛くなる。
「おい、もう少し静かにしろ!」
『ううっ……ごめんなさい。嬉しくてつい……』
「全く。なんでそんなに嬉しいんだか」
『だって、これで久しぶりに外の世界に出られるんですもの! そりゃ嬉しくてたまらないですよー!』
相変わらずうるさい宝石。
……ああ、もうコイツ何言っても聞かなそうだな。
俺の中に入り込んでいるから今すぐ追い出すということも出来なさそうだしさ。
我慢するしかないか……。