1.異世界へご招待です
目が覚める。
そして辺りを見渡す。
周囲は洞窟みたいになっていて、だいぶ暗い。
所々に光を放っているキノコみたいなものが生えているので、それで何とか物の形が分かる感じだ。
……って何だよここ?
こんな所に来た覚えなんてないぞ。
確か俺はテストで赤点をとったことで出された大量の宿題を家で片付けようとして、でも途中で疲れて寝てしまったはずだ。
つまり家の中にいたはず。
だからなんでこんな洞窟みたいな所にいるのか意味が分からない。
誰か説明してくれー。
「はいはーい。誰か私を呼びましたかー? あっ、もしかしてあなたは―――私の話相手になってくれるお方ですか!?」
へ?
何で言葉に出してないのに返事が返ってくるんだ?
意味が分からない。
そもそもこの声、どこから聞こえるのだろうか。
人の姿は見当たらなそうだが。
かなり怪しい奴には違いないが、今この状況に関して何か知っているかもしれない。
ちょっと声の出処を探ってみるか。
「おーい、どこにいるんだー?」
「こっちですよーこっちこっち」
声のする方へ少しずつ近づいていく俺。
地面が暗くてよく見えないから途中でつまづきそうになる。
でも何とか進んで、ついに声の出処を探し当てることができた。
「これが―――お前なのか?」
「ピンポーン! そうです! これが私なのですよー!」
やけにハイテンションな話し声。
その声は目の前にある赤色に煌めく宝石から聞こえてくるのだった。
あまりの輝きに思わず見とれてしまいそうだ。
……ってそうじゃない。
なんで宝石が話しているんだよ!?
意味分からねえぞ!?
「な、なんで宝石が話せるんだよ!?」
「むー!? 宝石だって話すときは話しますよ! ……っていうのは冗談ですけど」
「冗談? ということはお前は宝石じゃないのか?」
「宝石ではありませんでしたよ。まあ色々あってこのような姿になってしまいました。これでも元々はあなたと同様、生き物だったんですよ」
「生き物ね。なんか変な表現するもんだな」
「別に変じゃないですよー! あっ、ちなみに私がこうなった理由というのは聞かないで下さいね。乙女の心を傷つけるのは殿方が行うことではないですよ?」
誰が乙女だ、誰が。
宝石なんだから性別も何もないだろ。
……と言った所で、聞いても答えてくれないことには変わりないだろうな。
仕方ないからもう一つの気になることを聞いておくか。
「その事はいい。それより、この場所の事を教えてくれないか?」
「あっ、そうですよね。あなた様は召喚されたばかりですし、この場所のことを知らないのも無理ないですよねー」
「召喚された……それってどういう事だ?」
「実はですね。あなたをここに呼び出したのは私なんです」
えっ!?
この宝石が俺を召喚しただと……?
ゲームでしか聞いたことのない”召喚”という表現。
まさかとは思うが……
「今いる場所って、地球じゃないのか?」
「チキュウ……? 何かの食べ物の名前ですか? 美味しいんですか!?」
いや、もし美味い物だとしてもお前は食べられないだろ……
それはともかく、この宝石は地球を知らない。
つまり、俺は地球ではない場所、異世界に召喚されたことになりそうだ。
まあこの宝石が世間知らずなだけなのも否定はできないけど。
「あー、何て失礼なこと考えているんです!? 私、世間知らずじゃないですよ!? むしろ誰よりも詳しいんですから!」
宝石がか?
何か信じられないなぁ……
だって宝石だぞ。
綺麗ではあるが、所詮はただの物だろ。
動くことも出来なさそうだしさ。
「そ、そうなんですよ……私、この姿になってからずっと動けずにここにいることになってしまって……寂しかったんです」
まあ、ずっとひたすらこの洞窟の中にいたら寂しいだろうな。
というか気が狂いそうになるだろ。
何かできる訳でもあるまいし。
「だからつい、私の話し相手になってくれそうな人を召喚してしまいました。そんな選ばれし者、それがあなたなのです!」
……ハァ?
つまり、こいつの話し相手になるためだけに俺はここに呼び出されたのか?
何か納得いかないんだけど。
「たったそれだけの事で俺は呼び出されたのか?」」
「たったそれだけの事なんかじゃないですよ! 私にとっては一大事なんですから!」
「……とにかくさ、今の状況を詳しく教えてくれるよな? この世界の事とか色々とさ」
「もちろんです! ただプライベートすぎる質問はご勘弁下さいね!」
誰が宝石のプライベートなんて気にするもんか。
……とにかく、分からないことを色々と聞いていくことにしよう。
宝石は言うだけあって、俺の質問にしっかりと答えてきた。
それもとても長ったらしくな。
俺が一を聞くと十の言葉が返ってきたしさ。
……それだけ聞くと、とてもタメになると思われそうだな。
でも実際は返ってきた十のうち九はいらない情報なので聞き辛いことこの上ない。
どんなだけおしゃべりなんだよ、この宝石。
はぁ……本当、厄介だな。
とにかく長い宝石の話から得た情報を整理してみよう。
・俺を召喚したのは話し相手が欲しかったから
・元の世界には俺の代わりとなる人間が生活しているらしい
(俺が行ったことは全てその人間がやったことと人々に刷り込まれているそうだ)
・そのためもし俺が再び元の世界に戻っても、元の生活に戻ることはできない
・宝石に名前はない。
・この世界はニールカンダという
・今いる場所はとあるダンジョンの最下層
まとめるとこんな感じか。
本当、滅茶苦茶だよな。
「お前、本当、とんでもないことをしてくれたよな」
「ううっ……すいません……」
消え入りそうな声で謝ってくる宝石。
といっても所詮宝石だから表情なんてなく、見た目に全く変化はない訳だが。
色々と言いたいことはあるが、こんな宝石に何言っても意味ないよな。
それに元の世界に戻れないということは、もうあの厄介な勉強をしなくても良いということでもある。
そう考えるとこの状況も悪くはないか。
そんな感じに意外と悪くないと思い始めたその時だった。
グ~~~
俺の腹の虫が鳴ったのは。
「あ、お腹が空いたんですね」
「う……うるさい! 悪かったな!」
というか、こうなったのも全部この宝石のせいだからな。
起きてから何も食ってないというのに長々と話しやがってさ。
「何か食い物でもないのか? ここ、お前の住処なんだろ?」
「えっと……誠に申し訳ないのですが。私、ここから動けないもので。それはつまり―――」
「ああ、分かった分かった! それ以上はいいから!」
はぁ。
何ただの宝石なんかに期待しているんだ、俺。
宝石が食べ物なんて食う訳ないじゃないか。
となると、自力で何とか食料を確保しないといけない訳か。
この見知らぬ世界でさ。
一体どうすればいいっていうんだ。
お先真っ暗すぎるんですけど……