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ちび神様の願い事

掲載日:2015/04/10

「ゆきのまち」で予備審査通ったやつです(結局落ちましたが;)

 だいぶ肌寒くなってきた。

 自分の他には誰もいないお社で、少女の姿の神様は、ぶる、っと肩を震わせた。

「そろそろ天にお祈りして、また初雪を降らせんとなあ」

 一人ぽつんと呟いて、ちび神様は小さな白い手を合わせて、静かにお祈りし始めた。

 彼女は、名を「深雪の神」と言う。幼い少女の姿ながら、お社のある寂れた村に雪を降らせる存在だ。簡単なお祈りを終えた深雪の神は、戸のすきまから外の様子をのぞき見た。

 凍る空気にちらちらと、気の早い雪の粒が舞っている。

「降り出した。……そう言やあ、初雪に一番最初に願いをかけると叶うそうやが、そりゃあほんとの話かの」

 一人言をこぼしつつ、少女神はひたいに突き出た角を撫でた。

「叶うもんなら、うちのこん角を無くしてもらいたいもんや。こんなんがあるさかい、うちはおっかながられて、お社の外にもよう出れん」

 淋しげに呟いて、ちび神様は角を撫でながら息をつく。

 彼女は、遠い昔にいっぺんだけ、角を隠してお社の外へ出た事がある。子供たちと仲良くなり、楽しく遊んでいた深雪の神に、意地悪な風が邪魔をした。突然のつむじ風にかぶっていた布が舞い上がり、角が見えてしまったのだ。

 子供たちは、恐れて逃げた。それから彼女は外に出るのが恐くなり、二度と表へ出なくなった。あれから何年が過ぎたろう。この角さえ無かったら、いつでも外へ出られるのに。

 ため息をついた少女の神は、また角へと手をやった。す、と空振りした指先が、なめらかに秀でたひたいを撫でた。

「……え?」

 びっくりしてもう一度おでこを撫でた神様が、勢いよくかがみ込んですすけた鏡を取り出した。白い指でほこりを払って、己の姿をのぞき込む。

 角がない。生まれてからずっと突き立っていたひたいの角は、まるで元から無かったみたいに、綺麗に無くなっていた。

「……初雪や。初雪が望みを叶えてくれたんや……」

 これで外に出られる。子供たちとも、たくさん遊べる。

 白い頬に林檎のように血をのぼせ、深雪の神が思いきりお社を飛び出した。


 お社のある丘を下ったところにある、枯れた野原で子供たちは遊んでいた。

 子供たちは皆空を見上げ『雪や』『雪や』とはしゃいでいた。そのうち、一人の男の子が立ちすくんでいる神に気づき、不思議そうに声をかけた。

「何や? 自分、見慣れん顔やな。どこん子や?」

「あ……ちょい前に、こん村に引っ越して来たんやし……」

 とっさに嘘をつく深雪の神に、子供たちは首をひねった。

「ふうん? そんな話聞いてへんけど」

「まあええわ。自分、名前何ちゅうん?」

「……み、みゆき」

「みゆき、か。深雪の神さんと一緒やな」

 何の気なしに言い当てられて、神様の心臓がはね上がる。どぎまぎする幼い神に、一番きかんきそうな男の子が、笑って手を差し伸べた。

「みゆき、よろしゅうな。今日から一緒に遊ぼうや」

 ぱっ、と顔を輝かせた少女の神が、勢いよくうなずいて、男の子の手を取った。


 ちび神様は、時間を忘れて子供たちと遊び続けた。

 小雪舞う中遊んでいた子供たちが、ふと何かに気づいたように目を上げた。

「あ。雪、止みそうや」

「何や、積もらんのかいな。つまらんのう」

 む、っとくちびるを尖らした女の子が、あれ? と呟いて神様のおでこを指さした。

「何や、みゆきちゃん、知らん間に転んだんかいな。でこ腫れてるで」

 深雪の神が、は、っとしておでこを押さえてかがみ込む。

 雪や。

 雪が止んださかい、お願いが解けてきてしもたんや。

 泣きそうになりながら縮みこむ神様に、子供たちが心配そうにむらがった。

 「どないしたん? 痛むんか?」

「俺ん家、近所やから薬と包帯持ってこか?」

 女の子の白い手が伸びてきて、「傷見せえ」と言いながら少女の姿の神様の手を、そっとのけた。白く突き出た角を見て、ひ、と女の子が息を呑む。

 横からのぞき込んだ男の子が、「あ」と声を上げて角つきの少女を指さした。

「神さんや!」

 男の子の声に、怯えた顔をしていた他の子がきょとん、とした顔をした。男の子は嬉しそうにちび神様を指さして、また声を上げる。

「深雪の神さんや! ぼく、深雪の神さんは角があるって前に聞いた事があるで。名前もおんなじ『みゆき』やし、君は村の神さんやろ? そうやな!」

 呆然と男の子を見やる少女の神をとりまいて、子供たちが楽しそうにはしゃぎ出す。

「そうや、神さんや」

「よう遊びにおいでんさった。お社の中、つまんなかったん?」

「そっか、神さんかあ。どうりでそんなに綺麗な顔しとるわけやで」

「いやあ、すけべえな」

 男の子の肩をどやしてころころと笑った女の子が、ぱんっと両手を打ち合わせた。

「そうや、神さん米こうじの甘酒がお好きやったやろ? 神事には必ず甘酒お供えするもんな。家すぐそこやから、おかんに甘酒作ってもろうてくるわ! 後で皆と一緒においでえな!」

 頬を赤らめてうなずいた神様が、ぽろっと一つ、涙をこぼした。

 ああ、何や。角が悪かった訳やない。

 たったいっぺんの出来事で、しおれてお社にこもってしもうた、うちが悪かったんや。

 だって、こん子供たちは、こんなにも。

 あどけない神が、嬉しさのあまり涙をこぼす。その目じりを、最初に彼女の正体に気づいた少年が、そっと優しくぬぐってくれた。

「神さん、泣くなや」

「あ。神さんが泣いたら、また雪が降ってきたで」

 神様の目じりをぬぐった男の子が、一人納得したようにうなずいた。

「神さん、毎年淋しゅうて泣いとったんやな。それで雪が降ったんや」

 男の子は、にこっと笑って、深雪の神の角を撫でた。

「神さん、これからは嬉し泣きで雪を降らせえや。な?」

 ちび神様は泣きながら笑って、ぼろぼろにかすれた声で「うん」と答えてうなずいた。

 白い雪がはらはらと、ひらひらと空から舞い落ちた。

 まるで祝福の花のように、かすんだ空から舞い落ちた。                                       (了)


短編のストックが底ついたんで、一応これをめどにして、投稿お休みします。

次来るまでに、いっぱい充電しときます。では!

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