戯言シンガー
駅前広場の噴水の前
ギター片手に一人で突っ立つ
渦巻く喧噪 地鳴らす足音
老若男女 人の群れ
先へ向かうだけの人々に
構えたギターを掻き鳴らす
生み出すそれはただの騒音
音楽にもならないただの音
左で弦を雑に押さえ
右のピックで掻き散らす
予行も練習も一切取らず
前触れもなく喉を鳴らす
叫ぶようなただの大声
喚くようなギターの鳴き声
歌にもならない声
音楽にもならない音
詞にもならない言葉
巡り巡る喧騒
雑音
嘲るような視線
迷惑そうな一瞥
誰も聴いちゃあいない歌
誰のために歌うのか
それでも歌うことはやめないけれど
舞台に代える雑踏の空白
拍手に代える止まらない足音
宙に散らばる音の群れ
全く調和しない重奏
放つ言葉に意味はない
散らかす音に意志はない
巡り巡る喧奏
楽音
駅前広場の噴水の前
ギター片手に一人で吼える
誰かの為には歌わない