少年神様と引き出しの中の王国
初投稿。よろしくお願いします。
あるところに、小さな小さな世界がありました。
その世界の神様は一人の少年。
彼は小さな世界を作り出した張本人でした。
神様の一番大切な仕事は、世界の見回りをすることです。
小さな世界の見回りは、簡単なことではありません。
小さくてもそれは「世界」なのですから、地震や洪水や戦争だって起こります。
優しい神様は、みんなのために毎日見回りをしていました。
けれど、最近の神様は、新たな物語を作り出すのに毎日大忙し。
世界の見回りだって、面倒くさいから後回し。
いつの間にか、いくつかの町が消えていましたが、神様は全く気づきませんでした
ある日、神様が机の引き出しをあけると、そこに見たことのない国を見つけました。
そこの国は荒れ放題。
畑の作物は枯れ、家畜はやせ細り、おまけに一部の人は道具のように扱われてます。
それを見た神様はとても怒りました。
「この国は悪がたくさんある!」
神様を知らない国民達は、とても怯えました。
すると、この国で一番立派な建物から、この国で一番立派な服を着た人が出てきました。
「私の国民を怯えさせるお前は何者だ?」
「僕は神様だ。おまえこそ誰だ?」
「私は王様だ。この国で一番えらい王様だ」
それを聞いた神様は怒りました。
「この世界で一番えらいのは神様である僕だ。
だからこの国で一番えらいのも僕だ」
しかし王様は聞く耳を持ちません。
神様はさっきよりももっと怒りました。
「この国には悪がたくさんある。だから直さなきゃいけない」
「それが神様の仕事か。
ならば神様は必要ない。悪は私が正している」
王様のことを信用できない神様は言いました。
「悪をただしているのなら、なんで人が道具のように使われてるんだ?」
「奴隷は善だ。国民たちも喜んでいる」
神様は国民たちに言いました。
「奴隷は悪いことだ。今すぐやめなくてはならない」
それを聞いた国民は言いました。
「奴隷は善です。奴隷のおかげで私たちは楽になります」
神様は王様の所へ戻りました。
「どうだい?奴隷は善だったろう?」
納得のいかない神様は王様に言いました。
「確かに国民は善だと言っていた。
では、なんで、家畜は痩せ細っているんだ?」
「作物ができないからだ」
「なんで作物は枯れているんだ?」
「それは仕方ないことだ。天が雨を降らせないのだから」
神様は反論できませんでした。
雨が降らない原因は、彼が雨の調整を怠っていたからなのです。
神様は王様と話すのをあきらめて、また新しい物語を作る作業を始めようとしました。
すると、そんな神様に話しかけようとする人たちがいます。
「神様、私たちの話を聞いてください。
私たちは奴隷です。私たちは人間なのに道具として扱われます。
国民の権利ももらえません。私たちを助けてください」
神様はその話を聞き入れることにしました。
神様にとって一つの国を滅ぼすのは簡単なことです。
今回は引き出しを揺らすだけでいいのです。
その地震で一瞬にして、お城は壊れ、家は倒れ、あちこちに火事が起こりました。
王様も建物の下敷きになって死にました。
神様は自分のした仕事に満足して、引き出しをしめました。
さて、神様の立ち去った国はどうなったでしょうか。
奴隷たちは協力して、国王のいない新たな国を作ろうとしました。
しかし、ルールがないため、人々は何を規範にすればいいかわかりません。
その上みんなを養うための作物や家畜もも足りません。
人々は不安と空腹のため、殺し合いを始めました。
でも神様はそんなこと知りません。
なぜなら彼は今日も新しい物語を作るのに忙しいのですから。