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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

その全てが……

作者: 赤川ココ
掲載日:2026/06/17

手慰み第数弾であります。

お楽しみいただければ、幸いであります。

 この国の第三王子は、放蕩者と知られているが、それは初恋の君を見つけるために、敢えて流されている話だ。

 老若問わず、未婚既婚問わず女性に近づき、手段を問わずに情報を引き出し、さっさと引き上げる。

 それは、有益な情報か否も問わない。

 ただ、有益な情報が、初恋の君関連ではないが、国を揺るがすものであった場合は、国王陛下に報告しているので、淑女たちからの心象は悪いが、第三王子の所業は大目に見られていた。

 国には黙認されていても、傷をつけられた令嬢を持つ貴族や、痛くもない腹を探られた貴族が増え始めたら、不満は積もって爆発してしまうだろう。

 そうなる前に国王は、第三王子の処遇を王妃や側近と話し合ったのだが、明確に決定する前に、当の王子が動いた。

 長年恋焦がれた初恋の君の正体が、我が国に幾つかある伯爵家の一つの、長女だと判明したのだ。

 それを聞いた殆どの関係者は、安堵した。

 その令嬢を手に入れれば、第三王子も落ち着くだろう。


 ここで安堵出来る奴らは、幸せだと第三王子は思う。

 自分の人生の波乱は、まだまだ序の口だった。

 そう、第三王子には今の人生を一度、最悪な結末で終わらせた記憶がある。

 ある伯爵家を襲撃する勢いで先触れなく訪問し、家で冷遇され痩せ細った初恋の君と、愛を育んだ後に保護し、城に連れ帰った。

 父である国王陛下に伯爵家の疑惑を話して、伯爵を廃位に追い込み、元伯爵令嬢を王子妃にしたが、冷遇された時期が長かったせいか、王子妃はその一年後世を去ってしまった。

 喪失感を残したまま再婚したら、その後妻が昔捨てた令嬢の一人だったらしく、いつの間にか毒物を仕込まれ、すぐに足腰立たなくなった。

 王城の奥に押し込められ、更に病状が悪化した第三王子は、長兄が王位を継ぐ前に息を引き取った、と思ったら、巻き戻っていたのだ。

 丁度、初恋の君を見つけ、国王に報告した頃だ。

 ああ、また、彼女に会える。

 第三王子は、感涙した。

 だが、喜んでばかりはいられない。

 前の人生では、伯爵家の内情を知ろうと時間を費やし、そのせいで、令嬢を弱らせてしまった。

 今回は、そんな失敗はしない。

 第三王子はすぐに準備を整え、伯爵家に突撃した。

 勿論、先触れは出さなかったから、宮仕の伯爵は今回も不在だ。

 屋敷では、突然訪問した王子に驚いたが、執事を筆頭にした使用人一同は、混乱しながらも接客に動いた。

 動揺しつつ、主人の不在を告げる執事に、第三王子は鷹揚に首を振る。

「会いたいのは、御令嬢だ。いるだろう? 社交に出る令嬢の上に、忘れられた令嬢が?」

「? 忘れ? 恐れ入りますが……」

「言い訳はいい。彼女に会わせてくれ。まさか、都合が悪いとは、言わないよな?」

 戸惑って口籠る執事に構わず、第三王子は階段を駆け上がり、令嬢の部屋に押し入った。

「っ?」

 そこにいたメイドが、振り返る。

 その向こうに、愛しい令嬢が横たわっていた。

 駆け寄って抱きしめたい気持ちを押し隠し、第三王子は静かに告げる。

「二人きりにしてくれ」

「っ、何を仰いますかっ」

 驚愕して口を開くメイドを、冷ややかに睨む。

「二人きりで話す事に、何か不都合あるか?」

「不都合しか……」

「黙れ。斬り捨てられたいか?」

 使ったことのない腰の剣に手をかけると、メイドは慌てて頭を下げ、部屋を出て行った。

 扉が閉まると、部屋の中は薄暗くなる。

 昼間だから、カーテンを開ければそれは解決するが、雰囲気も味わいたい王子は、燭台の蝋燭に火をつけた。

 眠っている令嬢に近づき、そっと手を取る。

 前の時と同じく、ひんやりと細い指。

 熱を分けてあげたくて、その指にそっと口づけた。

 ?

 前の人生では、ここまで細くなかった。

 まさか、自分が巻き戻ったように、伯爵家の誰かも巻き戻り、令嬢の衰えを早めているのか?

 第三王子は、恐る恐る起きる気配のない令嬢の、白い頬に触れてみた。

 指や手と同じく、ひんやりと冷たく、骨張っている。

 いや、骨張っているというより、これは……。

 王子はここでようやく、灯りで令嬢を照らした。

 そこには、可愛らしい寝巻き姿の、骸骨が横たわっていた。


 けったいな悲鳴を上げ、第三王子は伯爵家を飛び出したと、王室に報告があった直後、当の王子が執務室に飛び込んできた。

 令嬢を好いていたのは、本当だったらしい。

 国王は、第三王子が涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、腕にしっかりと抱え込んでいる骸骨を見ながら、呑気に思った。

 そんな父の心境に気づかず、三男は涙ながらに叫ぶ。

「あの伯爵はっ。人間ではありませんっ。じ、実の娘をっ。こんなほ、骨になるまでっ、放置していたんですっ」

「うむ」

 色々と、突っ込みたい言い分だがそれは我慢し、国王は静かに頷いた。

「その件は、後ほど調査するが、第三王子」

「はい」

 声を詰まらせながら返事する三男を、国王は追い詰める。

「伯爵家に、先触れなく向かったのは、何故だ?」

 これは、前の人生でも問うた。

 息子の答えは、同じだった。

「っ。先触れを出したら、伯爵はこの令嬢の存在を、隠すでしょう。それでは、令嬢は助かりませんっ」

 いや、結局、お前が令嬢の死期を早めたんだが。


 国王は、二つの人生の記憶がある。

 一つは、今と同じ人生を全うした記憶で、もう一つは、全く違う世界で生き、寿命で逝った記憶だ。

 前々世は、その道では有名な柔道選手で、引退後は整体院を開いて生計を立てていた。

 当時の患者には、様々な業種の者がいたのだが、特に顔見知りだった二人が、意外に近くに生まれ変わっていたのを知ったのは、転生して六年後、側近候補たちとの顔合わせの場だった。

 王宮の下っ端の伯爵の息子と、近くの教会の神官見習いで、どちらも自分と同年で、前世の記憶持ちと言う共通点もあって、すぐに打ち解けた。

 神官見習い以外の二人が世帯を持ち、子を授かった時、伯爵家では重大な問題が起こった。

 生まれた伯爵令嬢は、生まれつき心臓に疾患を抱えていたのだ。

 今のこの世界は、医学が発達していない。

 整体術すら、知られていなかったほどで、それを広めた国王は、歴代の国王より評価されていた。

「……手順を踏むのが、歴史を進める上では大事だが、そうも言っていられませんね」

 幸い、神官となった男が前世で医師で、唯一神に伺いを立てつつ、医療の促進に暗躍してくれるようになったが、令嬢がその治療を受ける事は、出来なかった。

 その原因が、何故か五体満足の骸骨を抱えて、言い訳している自分の三男坊だ。

 伯爵令嬢と一度だけ会った三男坊は、前の人生で強行手段に出た。

 理由は、伯爵家の長女の代わりに、健康な次女との縁談を進めたせいだろう。

 先触れを出して令嬢に会いに行っても、待っているのは次女の方で、それにやきもきしての犯行だった。

 そう、どう考えても、犯罪だ。

 伯爵が王宮で働いている時間帯に、先触れなく伯爵家に突撃し、使用人たちを脅して長女の部屋に入り、二人きりになった。

 馬鹿息子が虫の息の伯爵令嬢を抱き抱えて戻ったのを見た時、国王はその場で絞め技を掛けて、そのまま息の根を止めてやりたい気持ちを、総力かけて抑えこんだ。

「銃が欲しい」

 射的の名手だった伯爵が、こそっと呟くのをかろうじて聞き流し、国王としての威厳を保ちながら、伯爵令嬢を三男から引き離した。

 が、無理強いされた少女は、助からなかった。

 伯爵は、ぶち切れた。

 神官も、ぶち切れた。

 国王は、出遅れ、その後始末に回る羽目になった。

 前の人生で、第三王子の足腰が立たなくなったのは、王子妃の悪意ではないが、共犯ではある。

 主犯は、神官だ。

 使ったのは、国では合法だが、分量を間違うと脳に損傷を与え、そのまま服用を続けると、死に至る麻薬の一種だ。

 それを、令嬢を引き離した直後は侍従が、無事婚姻後は王子妃となった、伯爵家の次女が、王子の口にする物全てに盛った。

 伯爵家は、長女の仇を討てたが、罪の意識に耐えきれず、やがて領地を返上して、平民となった。

 神官も、神殿に引きこもってしまい、国の医療促進が滞り始めた。

 国王自身も、後悔と憤りを覚えていたが、一国の王として逃げるわけにもいかず、長男に王位を譲った後も元王妃に看取られて息を引き取るまで、王を支え続けた。

 と思ったら、生き返った。

 前回と同じ人生で、伯爵家の長女の病状を知った頃だ。

 つまり、元凶も既に生まれていた。

「生まれていなかったら、堕胎薬を盛ったんだが」

「出来ないことを口にするな。お前が戦士生命を絶った原因、他選手のクズ発言だっただろ?」

 記憶をすり合わせた時、ぽつりと漏らした国王に、伯爵は苦笑した。

 そして、妥協案を口にする。

「娘と王子を会わせないようにするしか、方法はなさそうだ」

 だが、何の強制力か、王子は令嬢を知ってしまった。

「いや、それに関しては、我々が巻き戻ったのと、同じ現象が起きた可能性がある」

 あってほしくない可能性だ。

「もし、前の人生の記憶があるなら、既に初恋の君の正体も分かっている。そうなると……」

「娘の身代わりに、執事を寝台に押し込んで置くか」

「いつ突撃するか、分からないだろうが。お前の家、使用人も少ないだろ? 日々の作業が止まる」

「なら、しばらくオレに、休みをくれ」

「早まるなっ。もし、あの馬鹿が気づかなかったら、どうするっ?」

 真面目に意見を出し合う貴族と王族に、今まで黙っていた神官が、静かに切り出した。

「実は先日、神殿の獣神の像の前で、面白いものを拾ったんです。その報告も兼ねて、本日は、一つの試みを提案に参りました」


 そう、今涙ながらに第三王子が抱きしめるそれは、骨格標本だ。

 いや、本当に、懐かしい。

 本物なら、ここまで原形を止めたまま、持って来れなかっただろう。

 神官の話では、記憶が残ったまま巻き戻ったと分かった時、獣神像の前で祈っていたら、これが何処からか落ちて来たらしい。

 おあつらえ向きに、若い女性を模した、樹脂製の骨格標本だ。

 これを抱えて、白昼堂々と走って帰った王子は、乱心を理由に、蟄居の後、改心次第の対処とした。

 伯爵家の長女は、前の人生より早く発達した医学によって、少しずつ出来る事が増えたと聞く。

 まだまだ、やり足りないが、そう何度もやり直しはないだろうから、次代の活躍に期待しよう。





 

ドアマットヒロインに見せかけて……と、言う奴です。

骨格標本は、兎の養い子の力作の一つです。


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