光の勇者と闇の令嬢
とある令嬢が馬車を降りる。
「あれは……アイリス嬢じゃなくて?」
「あらまぁ、辛気臭いこと」
令嬢が歩くだけで陰口を言われる。
こんなのもう、慣れっこですわ。
わたしは何時から嫌われてしまったのだろうか。
少なくとも、生まれた時既に嫌われていた気がする。
わたくしは“妾の子として”生まれたのだから。
♡♤♢♧
十数年前。
公爵である父は平民との間に子を作った。
それがわたし。
私の顔は父にだったから、初めは公爵家の娘だと…妾の子ではないと庇ってもらっていた。
けれど、数年たつと父は急に妾の子だと公言した。
『俺を父と呼ぶな』
それが最後に父とかわした言葉。
交わした、は少し違うかしら。私は一言も発してない。
…それから父は…いや、公爵様はわたしを見なくなった。
世間はわたしを嫌い、血の繋がっている家族ですら私を遠ざける。
なんて可哀想な令嬢なのだろう。
「まあそんなアイリス嬢より……」
「光の勇者様よね〜!」
とある令嬢二人の会話が耳に入る。
本人に聞こえているのに続けるのね…
いや、聞こえるように話してるのかも。
そして“光の勇者”という単語に身体が少し反応する。
「ホンット真逆ですわね…」
「当たり前じゃない。まあ唯一揃っているところとしていえば…見た目ね」
「黒髪赤目……。勇者様だとイケメンなのになぜアイリス嬢だと下品なのでしょう…」
「ぷっ、アイリスに品がないからに決まっておられてよ」
「それもそうですわね。あ〜、両方金にでも染めてしまえばいいのに」
「その通りね」
黒髪赤目の光の勇者。
黒髪赤目の闇の令嬢。
そう揃えて名付けられたわたしたち。
「勇者様の仮面をとった姿を1度でいいから拝みたいですわ…!」
「バカね。勇者様はまず私たちの前に現れなくてよ」
仮面。
勇者が戦場に駆けつける時は必ず仮面をつけている。
じゃあなぜ赤目という噂が広まったのか。
それは数ヶ月前に偶然仮面が取れたから。
勇者にしてはうっかりだと世間で囁かれたのをよく覚えている。
黒髪赤目は、わたしの見た目と同じだった。
だからこそ、わたしと勇者は対比として「闇の令嬢」「光の勇者」と呼ばれるようになった。
もちろん、前者が今のわたし…アイリスだ。




