7話 偉大過ぎる神。
7話 偉大過ぎる神。
「――地下の訓練室に向かうぞ」
そう告げられ、私はすぐに立ち上がった。
背筋を伸ばし、猊下の一歩後ろを保つようにして歩き出す。
講義の間の重厚な扉が静かに開くと、外の廊下は、淡く澄んだ光に満ちていた。
天井は高く、白い石で組まれたアーチが規則正しく連なっている。
壁面には細かな刻印が彫り込まれており、そこを流れる魔力が、見えない呼吸のようにほのかに脈打っていた。
魔導灯の光は柔らかく、金色がかった温度を帯びていて、磨き上げられた床石に静かに反射している。
神帝城の内部は、どこを歩いても荘厳さで満ちている。
人の気配はあるのに、汚らわしい雑音がない。
まるで城そのものが、外界から切り離された一つの装置の内部みたいだった。
猊下の小さな背中を追いながら、私は長い廊下を歩く。
やがて、地下へと続く大階段が見えてきた。
その道すがらでも、猊下の講釈は終わらない。
「偉大なる神は……『光そのもの』である。わかるか、ミカンよ」
「は……はい、まあ」
「光そのものが王であり神である……このロジックを説明するのは極めて難しい。不可能ではない。しかし、時間と言葉が足らん。この世界に存在する言語ごときで、セン様の全てを語り尽くそうなどと、それはエゴにもならん。わかるな?」
「……も、もちろんでございます」
……また始まった。
私は内心でため息をつく。
しつこい。
よくもまあ、これだけ途切れずに称賛の言葉が湧いてくるものだ。
同じ意味の言葉を、違う角度から延々と並べ続けているだけなのに、猊下は一切飽きた様子を見せない。
むしろ、語れば語るほど、恍惚とした表情になっていく。
……正直、気持ち悪い。
そんなことを考えながら、階段の前まで来た、そのときだった。
下から、一人の男が階段を上がってきた。
その姿を見た瞬間――
「セン様ぁ?!!」
猊下の声が、突然弾けた。
さっきまで悠然と歩いていた小柄な背が、ぴしりと直立する。
次の瞬間には、床に届きそうなほど深く頭を下げ、両手を揃えた最敬礼の姿勢を取っていた。
その瞬間、猊下の姿が変わった。
ほんの一瞬、空気がゆらぐ。
さっきまで目の前にいたのは、深い皺を刻んだ小柄な老婆だったはずだ。
だが、次の瞬間には、その姿が消えていた。
そこに立っていたのは、マリーゴールドの艶やかな髪を揺らす、ハツラツとした美少女。
背筋は真っすぐに伸び、肌には一切の老いがなく、瞳は星みたいに澄んでいる。
年齢にして、十代後半――せいぜい二十前後にしか見えない。
ほんの一瞬前まで老婆だったとは、とても信じられないほど、完全な変貌だった。
『全身に魔力を巡らせることで肉体を一時的に若返らせる』というのは珍しいことではないが、ここまで完璧な変貌は初めて見た。
……私は思わず、階段の方へ視線を向ける。
――そこに立っていた男が、誰なのか。
もう、考えるまでもなかった。
本来であれば、パメラノ猊下の変貌ぶりに驚くべきなのだろうが、そんな余裕はなかった。
もっといえば、私も、猊下と同じく、即座に最敬礼すべきだったのだろうが……できなかった。
「な……ぁ……っ」
圧倒されてしまい、震えることしかできなかったのだ。
目の前に現れた男……『センエース神帝陛下』が纏っている覇気が、尋常ではなかったから。
陛下の後ろについている『美人従者』も凄まじいが……主は本当に別格。




