50話 くるしんでね、せんおにいちゃん。
50話 くるしんでね、せんおにいちゃん。
バチャルは暗闇の底で、自分と同じように『成仏できずに漂っている悪霊』の気配を見つけ出す。
発見した悪霊のまがまがしさは、『バチャルが抱えている闇』をも大幅に超えていた。
信じられないぐらいの悪鬼羅刹。
そのシルエットは、まるで『聖なる死神をも喰らい尽くしてしまいそうな山姥』のよう……
『《【《【――そこの常軌を逸した悪霊よ、ワタシを使え。ワタシの仮面は……キサマのウツワになれる。質量を取り戻し、この世界に顕現せよ――】》】》』
膨らんだ『自身の憎悪』を媒体にして、バチャルは……『悪霊』を召喚する。
これは『自身を生贄に奉げ、より上位の個体を召喚する』という仮面種の固有特技。
「――ぷはぁあああ!!」
第2アルファの巨大霊廟に出現した一人の女。
制服をきた美少女。
ケバすぎない、けど派手すぎる、そんな女子。
短いスカートで、髪はショートボブ。
トゲトゲしい瞳は、世界を憎んでいるよう。
右手には、血がしたたるデスサイズを携え、宙に浮かぶ第三の手が重そうな刃を根本から支えている。
『顔の右半分だけを隠した仮面』は『聖なる死』よりもなお漆黒で、
凶悪に呪われているのが見てとれた。
「はぁ……はぁ……」
その女は、深呼吸をしてから、ジトリと世界を見渡して、
「私は、『ユウゴ』に殺されて……それで……」
『死に際の記憶』はハッキリしている。
日本で、セフレだった極悪ヤンキー『蝉原勇吾』に殺された。
そのことだけは確実に憶えている。
死んで以降の記憶は酷くおぼろげ。
まるで夢みたいに。
『違う世界に転生して、幼くして死んだ』……そんなような気がするが、その記憶が、夢か現実かはっきりしない。
『……せんおにいちゃん……たすけて……』
誰かに『救いを求めた』ような……そんな、かすかな記憶が、ちらつく中、
――彼女の頭の中に、『仮面』の声が響く。
(私は仮面邪神バチャル。貴様の器となった者だ)
「この声、どこから……」
(貴様の心に直接話しかけている。私は貴様の仮面として、貴様と一つになっているのだ。愛する男に裏切られ、世界を憎んでいる悪女……第1アルファ人『クズノハユズ』よ。貴様に力をくれてやるから、どうか、私の無念を晴らしてくれ……)
「……愛する男? ふざけんな。ユウゴのことは利用していただけだ。ヤンキーの総長ってポジションは使い道が一杯あったからね。でも……ユウゴの野郎……急に、意味不明な理由でキレて殺してきやがった。『ミカンをイジメたコト』がどうとか言っていたけど、ミカンのことは、ユウゴには関係ないだろ、クソが……あー、マジでムカつく」
『ミカン』は、ユズの一学年下で、中学時代、ユズがとことんイジメていた女。
貧乏で、筋ジストロフィーを患っていたが、努力家で、勉強もスポーツも懸命に頑張っており、周囲からの人気も高かった。
それが、とにかく気に食わなかった。
だから、ぐちゃぐちゃにしてやった。




