4話 心痛。
4話 心痛。
「……アダム」
「はっ、なんでございましょう、この上なく尊き主よ」
「……もう、俺を褒めるな。命令だ」
「何をおっしゃいます! 尊き主は、事実、この上なく――」
そこで、俺は、彼女を抱きしめた。
本気を伝えるにはこれしかないと思った。
「しゅ、主上様っ?!」
「頼む。命令ではなく、お願いだから……やめてくれ」
「……」
「己の『薄っぺらな惨めさ』を、これ以上、思い知りたくない」
「……主……上様……」
そこで、俺は、彼女から手を放す。
「俺は、お前からの賛辞を受けるに値する男じゃない。本当はヒーローでも神でもない。王を名乗る資格すらない」
俺の想いを受けて、アダムは膝から崩れ落ちる。
そして、親をなくした子供みたいな顔で俺を見て、
「……どう……なさったのですか……?」
弱弱しい疑問符。
その顔はキツいな。
…………。
……。
……ああ、やっぱり、『本音』は表に出せねぇ。
俺は俺でなければいけない。
どんな時でも。
「もちろん冗談だ、アダム。あんまり、お前が褒めるから、ちょっとからかっただけだ」
「……」
「行こうぜ、アダム。心配するな、俺は俺だ。……これまでどおり、この先も、ずっと」
そう言って、俺は『ピエロの仮面』をかぶりなおす。
ボロボロになった仮面は今にも壊れそうで……
……陳腐な見栄を張り続ける空虚な虚像だけが、
俺の本質的な惨めさを、これでもかとえぐり続ける。
俺は、アダムには見せないように、奥歯をかみしめた。
噛みしめすぎて血が流れたので、見つからないように、ソっと袖で拭う。
そうやって、これまで通り、これからも……俺は生きていくのだろう。
「主上様!」
「あん? どうした、アダム」
アダムの唇が小さく震えた。
けれど涙はこぼれない。
瞳の奥に張り詰めたものが見える。
「あなた様は、絶望の底に沈んでいた私を救ってくださった。世界中から忌み嫌われた私に、あなた様だけが、手を差しのべてくれた。心から、お慕い申し上げております。あなた様の強さはもちろん……弱さも……全部……」
「はは、良いジョークだぜ。弱さは罪だ。愛しちゃいけねぇ」
そう言って、綺麗におどけてみせた。
きっと、うまく笑えている。
いつもどおり。
ちゃんとピエロが出来ているはず。
『……せんおにいちゃん……たすけて』
『ユズ』の声が、俺の脳をかきむしる。
本当は、ずっと聞こえていた声。
ずっと聞こえないふりをし続けた声。
耳の奥で、何度も、反響する。
弱さは罪だ。
罪人は尊くない。
魂の奥が、チリっと熱く焦げた。




